【男女トラブル】元恋人に貸したお金は、少額訴訟で請求できる?

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

この記事は、2026年5月21日に全面施行された改正民事訴訟法(民事裁判手続のデジタル化)を踏まえた内容です。個別の事情によって結論が変わることがあるため、具体的な判断は専門家にご確認ください。


交際中に貸したお金が、別れた後も返ってこない。催促しても返事がない、あるいは「少しずつ返す」と言ったきり止まっている。そうした場面で、裁判所の手続の一つとして名前が挙がるのが「少額訴訟」です。

 少額訴訟は、60万円以下のお金の支払いを求める場合に使える簡易裁判所の手続で、原則として1回の期日で審理を終えます。元恋人に貸したお金の請求にも使える場面は多い一方で、相手の住所が分からない、貸したのか渡したのかで争いになりそう、といった事情があると、思うように進まないこともあります。

 この記事では、元恋人に貸したお金を少額訴訟で請求するための条件、交際相手とのお金で争点になりやすい点、手続の流れと事前に考えておきたい点を整理します。

少額訴訟とはどのような手続か

少額訴訟は、民事訴訟法に定められた特別な訴訟手続です。通常の裁判では期日を何度も重ね、判決まで半年以上かかることも珍しくありませんが、少額訴訟では最初の期日に双方の言い分と証拠を確認し、その日のうちに判決が言い渡されるのが基本です。主な特徴は次のとおりです。

項目内容
対象60万円以下の金銭の支払いを求める請求(民事訴訟法368条1項)
利用回数同じ簡易裁判所で年10回まで(民事訴訟規則223条)
審理原則として1回の期日で終える(同法370条)
証拠その場ですぐに調べられるものに限られる(同法371条)
反訴できない(同法369条)
判決分割払いや支払猶予を定めることがある(同法375条)
不服申立て控訴はできず、同じ簡易裁判所への異議申立てのみ(同法377条・378条)


 60万円以下かどうかは元本で判断するのが原則で、あわせて求める利息や遅延損害金は計算に含めません(同法9条2項)。

元恋人に貸したお金で少額訴訟を使うための条件


請求する元本が60万円以下であること

貸した総額が60万円を超える場合、少額訴訟はそのままでは使えません。一部だけを切り出して60万円以下で請求する方法も考えられますが、残りの部分を後から請求できるかどうかに影響が出るおそれがあります。金額が大きい場合は、通常訴訟や支払督促も含めて手段を比べたうえで決めるのが無難です。

相手の現住所が分かっていること

訴状は裁判所から相手に送られるため、送り先となる住所が必要です。別れた後に相手が引っ越していて行き先が分からない場合、少額訴訟は進めにくくなります。住所が分からず「公示送達」という方法でしか呼出しができないときは、少額訴訟ではなく通常の手続で審理されることになります(同法373条3項3号)。

 連絡が取れなくなった相手との清算については、【男女トラブル】相手が話し合いに応じない|連絡が取れないまま清算する方法でも触れています。

1回の期日で出せる証拠がそろっていること

少額訴訟では、期日当日に取り調べられる証拠しか使えません。証人も、当日に法廷へ連れて来られる人に限られます。後から金融機関に記録を取り寄せる、時間をかけて証人を探す、といった進め方には向いていないため、提出する資料は申立ての段階で手元にそろえておく必要があります。

交際相手とのお金で争点になりやすい「貸したのか、渡したのか」

元恋人に対する請求で争いになりやすいのは、お金を渡したことそのものよりも、それが「返す約束のある貸し付け」だったかどうかです。貸したお金の返還を求める側は、お金を渡した事実に加えて、返してもらう約束があったことを示す必要があります。交際中のお金のやり取りは、プレゼントや生活費の負担と区別がつきにくく、相手から「もらったものだと思っていた」と反論されることも少なくありません。

 弁護士ドットコムの法律相談にも、借用書を作らずに元交際相手へお金を貸したところ、相手が自分の認めた額しか返さないと言い、手元のメモは証拠にならないと主張されたという相談や、数年前に書かせた借用書について相手から時効だと言われたという相談が寄せられています。

 借用書がない場合でも、次のような資料を組み合わせることで、貸し付けだったことを示せる場合があります。

  • 振込の記録や、出金と手渡しの時期が合う通帳の記録。
  • 「来月返す」「給料が入ったら返す」といったLINEやメールのやり取り。
  • 相手が一部を返したことが分かる入金の記録。
  • 別れた後に返済を求めた際、相手が借りたことを認めたやり取り。
  • お金を渡した理由(家賃の滞納、借金の返済など)が分かるメッセージ。


 自分の手書きのメモだけでは、相手が否定した場合に十分とはいえないことがあります。相手が貸し付けを強く否定しそうなときは、通常訴訟に移ることも見込んで準備しておく必要があります。借用書がない場合の考え方は、恋人・元恋人に貸したお金が返ってこない|借用書なしでも回収できる?で詳しく解説しています。

少額訴訟の流れ


  1. 相手の住所地、または貸主の住所地を管轄する簡易裁判所に訴状を提出します。
  2. 請求額に応じた手数料を納めます。
  3. 裁判所から期日の連絡があり、相手には訴状が送られます。
  4. 期日に双方が出席し、裁判官が言い分と証拠を確認します。
  5. 話し合いがまとまれば和解となり、まとまらなければ原則としてその日のうちに判決が言い渡されます。


 訴状の書式は裁判所のウェブサイトで公開されており、簡易裁判所の窓口で手続の案内を受けることもできます。2026年5月21日からは訴状のオンライン提出が可能になり、手数料は原則としてペイジーなどによる電子納付に変わりました。それまで別に納めていた郵便切手代も、手数料に一本化されています。

 貸したお金の返済は、特に取り決めがなければ貸主の住所で行うのが民法上の原則(民法484条1項)とされているため、相手の住所地だけでなく、貸主の住所地の簡易裁判所に訴えを起こせる場合があります。期日には裁判官のほかに司法委員が同席し、分割払いなどの和解を勧められることもあります。

少額訴訟を選ぶ前に考えておきたいこと


相手が通常訴訟への移行を求めることがある

相手は、最初の期日で言い分を述べる前であれば、通常の訴訟手続で審理するよう求めることができます(同法373条1項)。相手が貸し付けを否定し、交際中の事情を詳しく争ってくる場合は、1回の期日で終わるとは限りません。裁判所の判断で通常の手続に移ることもあります。

分割払いの判決になることがある

裁判所は、相手の資力などを考慮して、判決の言渡しから3年を超えない範囲で、分割払いや支払時期の猶予を定めることがあります。分割の約束どおりに払えば遅延損害金の支払いを免除する、という内容になることもあります。一括での返済を望んでいても、そのとおりの判決になるとは限りません。

判決が出ても、相手が払わないことがある

判決は支払いを命じるものですが、相手が自分から払わない場合は、強制執行を申し立てて預貯金や給料などを差し押さえることになります。少額訴訟の判決などについては、簡易裁判所で預貯金などを差し押さえられる「少額訴訟債権執行」という手続も用意されています。ただし、差し押さえるには相手の財産の所在がある程度分かっている必要があり、相手に財産がなければ回収は難しくなります。

時効が近づいていないか

個人間の貸し借りの返還請求権は、2020年4月1日以降の貸し付けであれば、権利を行使できることを知った時から5年、行使できる時から10年で時効にかかるのが原則です。返済期限を決めていればその期限が一つの基準になり、期限を決めていない場合は数え方がやや複雑になります。相手が一部を返したり、借りていることを認めたりすると、時効が改めて進み直すこともあります。古い貸し付けがある場合は、男女トラブルの時効早見表|請求の種類別に何年で消えるかも参考にしてください。

期日で相手と顔を合わせること

少額訴訟の期日は、円卓を囲んで当事者が向かい合う形で進むことが多く、本人が手続をする場合は元恋人と直接やり取りすることになります。別れ方によっては、それ自体が大きな負担になることがあります。弁護士に依頼すれば、代理人として期日に出席してもらうことができます。

少額訴訟以外の選択肢


手段特徴向いている場面
内容証明郵便による請求請求した事実と日付を残せるが、それ自体に強制力はないまず正式な形で返済を求めたいとき
支払督促書類審査のみで、裁判所に出向く必要がない。相手が異議を出すと通常訴訟に移る相手が借りたこと自体は認めているとき
民事調停簡易裁判所で話し合いによる解決を目指す分割などの条件を話し合いで決めたいとき
少額訴訟60万円以下の請求で、原則1回の期日で終わる証拠がそろい、争いが少なそうなとき
通常訴訟金額の制限がなく、期日を重ねて審理する金額が大きいとき、貸し付けかどうかを強く争われそうなとき


 支払督促は相手の住所地の簡易裁判所に申し立てる必要があり、異議が出れば、相手の住所地を基準とする裁判所で通常訴訟として審理される点にも注意が必要です。

自分で返済を求めるときに避けたい行動

返してもらえない状態が続くと、強い言葉で催促したくなることもあります。しかし、元交際相手とのやり取りでは、催促の方法によってはこちらが責任を問われるおそれがあります。

  • 相手の勤務先や家族に借金の事実を伝えたり、連絡を繰り返したりすること。
  • 自宅に押しかけたり、待ち伏せしたりすること。
  • 「払わなければSNSに書く」など、不利益をほのめかして支払いを迫ること。
  • 返事がないのに、短い間隔でメッセージや電話を続けること。


 正当な請求であっても、伝え方によっては名誉毀損や脅迫、恐喝などが問題になることがあり、交際が終わった相手への連絡の仕方によってはストーカーと受け取られる場面もあります。詳しくは【刑事事件】元交際相手に荷物やお金の清算で連絡したい|正当な用件でもストーカーと言われる場面で解説しています。

弁護士に相談する意味

少額訴訟は本人でも利用しやすいよう設計された手続ですが、元恋人とのお金の問題では、貸し付けかどうかの争い、相手の住所、判決後の回収まで見通しておく必要があります。弁護士に相談すれば、手元の資料で貸し付けを示せるか、少額訴訟・通常訴訟・支払督促のどれを選ぶかを、事案に即して検討できます。

 また、弁護士が代理人として請求することで、相手と直接連絡を取らずに済み、訴訟の前に交渉で返済の合意がまとまることもあります。相手の住所が分からない場合も、弁護士が法律に基づく手続で調査できることがあります。一方で、請求額が小さい場合は弁護士費用とのバランスも考える必要があるため、費用の見通しも含めてご相談ください。

 当事務所のサービス内容は、【男女トラブル】弁護士が交際関係の解消時のトラブルに介入するサービス|金銭の清算・画像の削除・ストーカー・脅迫まで全国対応でご案内しています。

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 元恋人に貸したお金は、請求額が60万円以下で、相手の住所と貸し付けを示す資料がそろっていれば、少額訴訟で請求できる場面があります。一方で、相手の出方や資力によっては通常訴訟への移行や回収の難しさに直面することもあるため、手続を選ぶ前に見通しを立てておくことが大切です。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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