結婚をやめたい|婚約の解消で慰謝料を払わずに済む「正当な理由」とは

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

 結婚の準備を進めながら、「この人と結婚してよいのだろうか」と迷いが生じることは、決して珍しいことではありません。ただ、そこで気になるのが「今さらやめたら慰謝料を請求されるのではないか」という不安です。

 婚約の解消で慰謝料の支払義務が生じるかどうかは、**「正当な理由があるかどうか」**で大きく変わります。もっとも、この「正当な理由」は、理由の名前だけで決まるものではありません。

 この記事では、婚約を解消したいと考えている方に向けて、正当な理由がどのように判断されるのか、そして支払いをめぐるトラブルを避けるためにどう進めればよいのかを整理します。男女どちらの立場でも考え方は同じです。

婚約は「やめられるが、責任が残ることはある」約束

 婚約とは、将来結婚することを内容とする当事者間の約束(婚姻の予約)で、法的には契約の一種と理解されています。

 ただし、契約だからといって結婚そのものを強制されることはありません。誰と結婚するかは本人の自由に委ねられるべき事柄であり、裁判所が「約束どおり結婚せよ」と命じることはできないと考えられているからです。

 そのため、婚約を解消したいと思ったときに問題になるのは、**「やめられるかどうか」ではなく「やめたことについて金銭的な責任を負うかどうか」**です。正当な理由がないまま一方的に解消した場合には、相手が受けた精神的苦痛や実際に生じた出費について、損害賠償(慰謝料など)の対象になり得ます。

「婚約破棄」と「婚約解消」の違い

 実務上、次のように使い分けられることがあります。

用語内容
婚約破棄一方の意思だけで婚約をやめること
婚約解消双方が話し合い、合意のうえでやめること

 法律上の効果が明確に区別されているわけではありませんが、合意によって解消できた場合は、後から慰謝料をめぐって争いになりにくいという違いがあります。この点は、後ほど改めて触れます。

「正当な理由」は理由の名前だけでは決まらない

 インターネット上では「正当な理由の一覧」がよく紹介されています。しかし実際の判断は、一覧に載っている言葉と一致するかどうかではなく、次の3つの層で検討されます。

1. その事情が本当にあったといえるか
 相手の不貞や暴力を理由に挙げても、相手が否定すれば、事実があったこと自体が争点になります。

2. 客観的に裏づけられるか
 記録が何も残っていない場合、当事者の言い分が食い違ったまま平行線になりがちです。

3. 結婚生活を続けることが難しいといえる程度に達しているか
 同じ「価値観の違い」でも、話し合いで調整できる範囲にとどまるのか、人生設計の根本にかかわるのかで評価は変わります。

 つまり、正当な理由とは「重大さ」と「裏づけ」がそろってはじめて意味を持つ概念だとお考えください。理由の名前が同じでも、結論が分かれることは珍しくありません。

正当な理由として評価されやすい事情

 裁判例や実務では、次のような事情は正当な理由として評価されやすいと整理されています。

  • 相手の不貞行為(婚約期間中に他の相手と肉体関係を持った)
  • 暴力、精神的な攻撃、重大な侮辱
  • 重大な事実を隠していたこと(多額の借金、経歴の偽り、既婚であること、重大な犯罪歴など)
  • 経済状況の著しい悪化(結婚生活の見通しが立たなくなる程度のもの)
  • 音信不通など、婚約者としての関係を放棄したといえる行動
  • 相手方の親族から著しい侮辱や嫌がらせを受け、関係の継続が困難になった場合

 いずれも「あるかないか」ではなく「程度」と「経緯」が見られます。たとえば借金でも、金額や返済の見込み、隠していたのか正直に話していたのかによって評価は変わり得ます。

「相手に落ち度がある」場合の証拠

 正当な理由を主張するのであれば、それを裏づける資料を手元に整理しておくことが役立ちます。メッセージのやり取り、写真、診断書、通院や相談の記録、督促状などが典型です。

 ただし、相手のスマートフォンを無断で操作する、録音・録画機器を仕掛けるといった方法は避けてください。証拠として扱ってもらえない可能性があるうえ、自分自身が責任を問われるおそれがあります。

正当な理由とは認められにくい事情

 一方で、次のような理由は、それだけでは正当な理由になりにくいと考えられています。

  • 単なる心変わり(気持ちが冷めた、他に好きな人ができた)
  • 結婚への漠然とした不安、いわゆるマリッジブルー
  • 性格や価値観の違い(ただし程度によります。後述)
  • 親の反対(反対そのものは当事者の責任を左右しません)
  • 容姿や体型の変化
  • 出身地、国籍、民族、信仰などを理由とするもの

 最後の類型については、正当な理由と認められないだけでなく、賠償額を高める事情として評価された裁判例もあります。理由の伝え方も含め、慎重な対応が必要な領域です。

「性格の不一致」は結論が分かれやすい

 性格や価値観の違いは、多くの解説で「正当な理由になりにくい」と説明されます。もっとも、子どもを持つかどうか、働き方、金銭感覚、親族との関わり方など、生活の土台にかかわる相違が具体的に示せる場合には、評価が変わる余地もあります。

 一方で、「結婚したくなくなった」という気持ちの説明にとどまる場合は、正当な理由としては弱いと見られやすい傾向にあります。

責任を負うのは「切り出した側」とは限らない

 ここが、婚約解消でもっとも誤解されやすい点です。

 婚約の解消について責任を負うのは、形式的に別れ話を切り出した人ではなく、実質的にその原因を作った人だと考えられています。相手に不貞や暴力といった重大な落ち度があり、それが原因で結婚を続けられなくなったのであれば、自分から解消を申し入れたとしても、慰謝料の支払義務が否定される場合があります。

 さらに、事情によっては、解消を申し入れた側が相手に対して慰謝料を請求できる余地もあります。「自分から言い出したのだから払うしかない」と考えて、相手の言い値に応じてしまうのは早計です。

正当な理由が乏しいときは「破棄」ではなく「合意解消」を目指す

 自分の理由が正当なものとはいえないかもしれない——そう感じたときに、無理に「正当性」を主張し続けると、かえって対立が深まることがあります。

 現実的な選択肢は、一方的に打ち切るのではなく、話し合いによる合意解消に持ち込むことです。双方が納得して白紙に戻す形であれば、後から慰謝料をめぐって争いになる可能性を下げられます。

 合意ができた場合は、内容を書面に残しておくことをおすすめします。盛り込んでおきたい主な項目は次のとおりです。

  • 婚約を合意により解消したこと
  • 金銭の清算(支払う場合は金額・支払方法・期限)
  • 清算条項(本件に関し、互いに他に債権債務がないことの確認)
  • 必要に応じて、口外禁止や連絡方法についての取り決め

 とくに清算条項は、後日の追加請求を防ぐうえで重要です。分割払いを取り決める場合には、公正証書にしておく方法もあります。

 なお、金額の話は、その場の勢いで決めない方が安全です。一度「払う」と約束すると、後から撤回するのは容易ではありません。

進め方で結果が変わる|押さえておきたい5つのこと

1. 嘘の理由を伝えない
 後から本当の理由が判明すると、相手の不信感が増し、交渉が難航しやすくなります。伝え方を工夫することと、事実を偽ることは別です。

2. 一方的な通告や音信不通を避ける
 連絡を絶つ、ブロックするといった対応は、相手の被害感情を強め、紛争化を招きやすくなります。話し合いの場を設けたうえで伝える方が、結果的に穏当に収まりやすいといえます。

3. 経緯を記録に残す
 いつ、どのような理由で解消を申し入れ、相手がどう応じたのか。後から事実関係が争われたときに、時系列の記録は役立ちます。

4. その場で金額に応じない
 感情的な場面で提示された金額が、法的な支払義務と一致しているとは限りません。いったん持ち帰る姿勢が大切です。

5. 相手の親族を含めた対応を想定しておく
 婚約は当事者だけの問題にとどまらないことが多く、両家の間で話がこじれるケースもあります。誰と、どの順番で話すかを考えておくと、混乱を避けやすくなります。

慰謝料とは別に問題になるお金

 慰謝料が発生しない場合でも、すでに支出された費用の清算は別の問題として残ります。

  • 結婚式場や新婚旅行のキャンセル料
  • 新居の契約にかかった費用、家具・家電の購入費
  • 結納金や婚約指輪の取り扱い

 このうち結納金や婚約指輪は、結婚を前提として渡された金銭・物として、原則的に返還が問題になると考えられています。ただし、解消の原因を作った側が返還を求めることは制限され得るなど、事情によって結論が変わります。
 また、妊娠が関係している場合は、婚約解消の理由とは別の問題として、認知や養育費の検討が必要になります。婚約を解消したかどうかにかかわらず、法律上の父子関係が認められれば扶養の義務は生じます。

相手から高額な請求を受けたときは

 婚約解消を伝えたことをきっかけに、相場を大きく超える金額を求められたり、勤務先や親族に知らせると告げられたりすることがあります。

 請求すること自体は権利の行使として認められる場面もありますが、要求の仕方が社会通念上の範囲を超えると、別の法的問題を生じさせることがあります。どこまでが正当な請求で、どこからが行き過ぎなのかの線引きは微妙で、自己判断は避けた方が安全です。

 いずれにせよ、請求された金額がそのまま支払義務の金額になるわけではありません。金額の妥当性は、婚約が成立していたといえるか、解消に正当な理由があったといえるか、実際にどのような損害が生じたのかを踏まえて検討することになります。

まとめ

  • 婚約は解消できるが、正当な理由がない一方的な解消では金銭的な責任が生じ得る
  • 「正当な理由」は理由の名前ではなく、事実・裏づけ・重大さの3点で判断される
  • 責任を負うのは切り出した側ではなく、実質的に原因を作った側
  • 理由が弱いと感じるときは、一方的な破棄より合意解消を目指す方が結果的に負担が小さい
  • 合意内容は清算条項を含めて書面に残す
  • 慰謝料と、実費・結納金・妊娠に関する問題は、それぞれ別の枠組みで検討する

 迷ったまま結婚に進むこと自体が望ましいとは限りません。立ち止まる判断が無責任なのではなく、進め方を誤ることが紛争につながるというのが実務の実感です。

 当事務所では、男女間のトラブルについてのご相談をお受けしています。婚約を解消したいがどう伝えればよいか分からない、相手から高額な請求を受けている、といった段階でも構いません。事実関係を整理したうえで、見通しをお伝えします。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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