示談金の水準をどう判断するか|提示額を検証する4つの視点
本記事は、2026年10月時点の刑法(2023年改正後の不同意性交等罪・不同意わいせつ罪の規定を含む)と刑事手続の一般的な考え方に基づいて解説しています。個別の事案での見通しは、事実関係や残っている記録の状況によって変わります。
風俗店を利用した後、女性や店から「本番をされた」と告げられることがあります。身に覚えがない側からすると、密室での出来事を「していない」とどう示せばよいのか見当がつかず、相手のペースで話を進められてしまいがちです。
この記事では、本番行為をしていないのに「した」と言われた場面について、何が判断の材料になるのか、否定するために今から残しておけるもの、否定の妨げになりやすい言動を順に整理します。本番行為があった前提での示談の進め方や、同意の有無が争点になる場面は、別の記事で扱っています。
「していない」ことを自分で証明する仕組みにはなっていない
刑事手続で犯罪にあたる事実を立証するのは検察官であり、疑いをかけられた側が「何もなかった」ことを証明する仕組みにはなっていません。店から金銭を請求される場面でも、請求する側が、請求の根拠となる事実を示す必要があるのが原則です。
とはいえ、実際に問題になるのは、ホテルや個室で二人きりだった時間の出来事です。行為中の映像や録音が残っていることはまずなく、双方の説明と、その前後に残った記録とを照らし合わせて判断されることになります。
そのため、ここでいう「否定する」とは、相手の言い分を裏づける材料が乏しいことと、自分の説明が最初から一貫していることを、記録の形で示していく作業だと考えるのが現実的です。証明の役割が相手側にあるからといって、何もせずに待てばよいわけではなく、自分の側の記録を整えておくことが、後の判断に影響します。
何が「した・していない」の判断材料になるのか
女性側の申告の中身と、申告に至るまでの経緯
女性側の申告がいつ、誰に対して、どのような内容でされたのかは、重要な材料の一つです。サービスの直後に店へ連絡したのか、時間が経ってから言い出したのか、その場で警察を呼んだのか、医療機関で検査を受けたのかといった点が確かめられます。
申告の内容が具体的か、話すたびに変わっていないかも見られます。こちらで把握できるのは相手の発言の一部にとどまりますが、いつ、誰から、何と言われたのかを、言われた言葉のまま書き留めておくことには意味があります。
身体に残るものと検査の結果
女性側が医療機関で検査を受けた場合、体内から精液や男性のDNAが検出されたかどうかが問題になることがあります。店から「DNA鑑定をする」「検査に行く」と告げられるのも、この点に関わる場面です。
ただし、検査の結果は一方向にだけ働くものではありません。検出されなかったとしても、避妊具の使用や射精の有無によって説明がつくと評価されることがありますし、体の表面に付着していた場合には、本番以外のサービスの過程でついたものとの区別が問題になります。検査の結果だけで結論が決まるとは限らない点は、知っておいてよいでしょう。
その場の前後に残った記録
入室と退室の時刻、予約の内容とコース、料金の支払い記録、店のスタッフが部屋に来た時刻とそのときの発言、その後のLINEやショートメッセージ、着信履歴などは、出来事の流れを外側から裏づける材料になります。サービスの時間配分や、女性が申告したとされる時点と店に連絡が入った時点のずれなどが、後から意味を持つこともあります。
ホテルの入退室記録や防犯カメラの映像は、一定の期間で消去されることがあります。ご自身でホテルに問い合わせるよりも、必要に応じて弁護士を通じて保全の方法を検討するほうが無難です。
あなた自身の説明
最初に何と言ったか、その後も同じ説明を続けているかは、説明の信用性を左右します。警察官から「一部でも入ったのか」と問われ、動揺して「もしかしたら」と答えたことがきっかけで、そのまま逮捕に至ったと伝えられる例もあります。覚えていないことは覚えていない、していないことはしていないと、推測を交えずに区別して伝えることが大切です。
説明が途中で変わった場合にどう評価されるかは、供述が途中で変わると不利になる理由|変遷の評価で解説しています。
| 判断材料 | 否定の方向に働きうる例 | 注意しておきたい点 |
|---|---|---|
| 女性側の申告の経緯 | 申告が遅い、内容が話すたびに変わる | 申告が遅れた理由が別に説明される場合もある |
| 検査の結果 | 体内から精液やDNAが検出されない | 避妊具の使用などで説明されることがある |
| 前後の記録 | 時刻や流れが申告の内容と合わない | ホテル等の記録は一定期間で消去されることがある |
| 自分の説明 | 最初から一貫しており、具体的である | 推測で答えると後から修正しにくい |
「本番ではない行為」でも問題が残る場面
否定するにあたっては、何をしていないのかを正確に区切っておく必要があります。2023年の刑法改正により、不同意性交等罪の対象となる「性交等」には、性交のほか、口腔性交や、膣・肛門に陰茎以外の身体の一部や物を挿入する行為でわいせつなものも含まれるようになりました。法定刑は5年以上の有期拘禁刑で、未遂も処罰の対象です。
風俗店のサービスには、もともと同意のうえで行われる接触が含まれています。しかし、女性が拒んだ行為や、店の定めるサービスの範囲を超える行為については、本番行為に当たらなくても、不同意性交等罪や不同意わいせつ罪が問題にされることがあります。「本番はしていない」という説明が事実であっても、別の行為について相手が何を主張しているのかは、確認しておく必要があります。
サービスの最中に体が触れただけなのに「入った」と言われたという相談もあります。このような場面では、挿入があったかどうかに加えて、挿入しようとする意図があったかどうかも争点になり得ます。罪名ごとの整理は【風俗トラブル】不同意性交等罪と言われた|風俗の場面で罪名が出たときの整理をご覧ください。
否定するために、今日から残しておくもの
- その日の出来事を時系列で書き出し、作成した日付が分かる形で保存します。入室と退室の時刻、サービスの流れ、相手が何と言ったかを、記憶が新しいうちに残します。
- 店や女性から届いたLINE、ショートメッセージ、留守番電話、着信履歴は削除せずに保存します。スクリーンショットは、日時と送信者が写る形で残します。
- 予約時の画面、支払いの記録、領収書など、利用の内容が分かるものを手元にまとめます。
- その場の会話を録音していた場合は、編集せずに元のデータのまま保存します。
- 免許証を撮影された、念書や誓約書に署名したといった事情があれば、その内容と、相手が控えを持っているかどうかを書き留めておきます。
トラブルになった後の会話を、当事者の一人として録音しておくことは、後から証拠として検討できる余地があります。一方で、サービス中の録音は店の規約で禁止されていることが多く、それ自体が別の請求のきっかけになる場合もあります。録音の扱いは録音はどこまで証拠になるか|風俗トラブルでの残し方と【風俗トラブル】店内での録音は証拠になるのか|秘密録音と盗聴の境界(風俗の場面)で詳しく解説しています。
否定の妨げになりやすい言動
- 問われた内容に、推測や曖昧な言葉で答えること。
- 事実と異なる内容の謝罪文、念書、誓約書に署名すること。
- 身分証を持った状態で、行為を認める内容を話す動画の撮影に応じること。
- 店の事務所など、相手が指定する場所へ一人で出向くこと。
- 女性本人に直接連絡して、事実を確かめようとすること。
- 受け取ったメッセージや通話の記録を削除すること。
- 警察から連絡を受けた後、準備をしないまま詳しい説明を始めること。
迷惑をかけたことへの謝罪と、相手の主張する事実を認めることは別のものです。その場を収めるための言葉が、後から「認めた」記録として扱われることがあるため、書面への署名や動画の撮影には慎重になる必要があります。すでに署名してしまった場合でも、その書面の効力をどう評価するかは、作成された状況によって検討の余地があります。
女性本人への直接の連絡は、事実を確かめるつもりでも、捜査の場面では、被害を訴える人への働きかけと受け止められるおそれがあります。メッセージの削除も、内容によっては証拠を隠そうとしたと見られかねません。すでにご自身で店や女性とやり取りをしてしまった方は、【風俗トラブル】弁護士に頼む前に自分で連絡してしまった|その後の交渉への影響もあわせてご覧ください。
警察から事情を聞かれる段階では、黙秘権があり、作成された調書の内容に誤りがあれば訂正を求めることができます。取調べへの備えは、「認める調書」を作られないために|風俗トラブルの取調べ対応の注意点と風俗事件の取調べで聞かれること|供述が争点に直結する項目で整理しています。
否定することと、示談で終えることは両立し得る
していないと考えていても、示談による解決を選ぶ方は少なくありません。密室での出来事は見通しが立てにくく、不同意性交等罪の法定刑が重いことから、起訴された場合の影響を避けたいと考えるのは自然なことです。
もっとも、示談に応じることは、相手の主張する事実を認めることと同じではありません。合意書に「事実関係を認めるものではない」旨の文言を入れたうえで、解決金を支払う形をとることもあります。反対に、相手方の主張をそのまま認める内容の書面にしてしまうと、後に刑事手続が始まった場合などに不利に扱われるおそれがあります。
否定の姿勢を保つのか、どの段階で合意を目指すのかは、残っている証拠の状況と、仕事や家族への影響を踏まえて決めることになります。考え方は無実でも示談すべき?否認と示談のジレンマで解説しています。当事務所が扱った例として、【解決事例】デリヘル(自宅利用)での本番トラブル|不同意性交等罪を否認し300万円請求を40万円に減額、不起訴も獲得した事例や、【解決事例】メンズエステでの本番行為強要トラブル|身に覚えのない請求を争い65万円で解決した事例もご参照ください。
弁護士に相談する時期
店や女性からの連絡が始まった段階、「警察に行く」と告げられた段階、警察から連絡が来た段階のいずれでも、ご相談いただけます。弁護士が窓口になれば、相手方とのやり取りをご本人が直接しなくて済むほか、どの記録をどう残すかの判断や、捜査機関への対応の準備を並行して進められます。
被害届が出る前の時間の使い方は【風俗トラブル】店から「警察に行く」と言われた翌日にすること|被害届が出る前の時間、被害届が受理された後の流れは【風俗トラブル】被害届が受理されたと言われた|その後の流れと呼び出しまでの期間で解説しています。
関連する解説記事
- やっていないのに本番・わいせつを疑われた|冤罪事件の戦い方
- 「同意があった」を証明できるか|風俗トラブルの証拠と限界
- 不同意性交等罪とは?風俗の本番トラブルで問題になる点を弁護士が解説
- 調書に署名・押印を求められた|訂正を求める権利
- 【風俗トラブル】終了後にキャストが泣き出した|その直後に客がしてはいけないこと
「本番はしていない」という説明を支えるのは、言葉の強さではなく、最初から変わらない説明と、その前後に残った記録です。相手の言い分に慌てて合わせる前に、まずは手元に何が残っているかを確かめるところから始めてください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


