既婚者が風俗トラブル|家庭への影響を抑える秘匿の実務
風俗店を利用したあと、「本番をされた」「同意していないのに触られた」と言われ、身に覚えのない請求や連絡を受ける——。実際にはそうしたご相談も一定数あります。
ただ、この場面でもっとも多い失敗は、うそをつかれることそのものよりも、身に覚えがないまま、その場を収めようとして取った行動が、あとから「認めた」と評価されてしまうことです。
ここでは、性風俗の利用でわいせつ・本番行為を疑われ、事実を争う立場に立ったときに、何をどの順番で考えればよいのかを整理します。
1.まず「やっていない」の中身を切り分ける
同じ「やっていません」でも、法的には少なくとも三つの型に分かれます。ここを混ぜたまま動くと、主張が途中で揺れて信用されにくくなります。
| 型 | 主張の中身 | 主な争点 |
|---|---|---|
| ①事実自体がない | その行為をしていない・別人である | 行為の有無、犯人性 |
| ②行為はあったが評価が違う | 同意があった、サービスの範囲内だと理解していた | 「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」だったか、こちらの認識 |
| ③記憶があいまい | 飲酒などで経過をはっきり覚えていない | 供述の一貫性、客観的な経過 |
②は「冤罪」という言葉でくくられがちですが、争点は行為の有無ではなく同意や認識であり、立て方がまったく異なります。
もっとも危険なのは、②や③の事案を①のつもりで押し通してしまうことです。途中で説明が変われば、変わったこと自体が不利に働きます。「自分はどの型なのか」を、最初に正直に整理しておくことが出発点になります。
2.疑いは二つの入口から来る——そして両者はつながっている
風俗トラブルで身に覚えのない嫌疑がかかるとき、入口は大きく二つです。
- (A)その場・後日の金銭要求……店やキャストから「規約違反だ」「示談金を払え」と求められる、私的な請求のルート
- (B)捜査機関……被害届や通報を受けて、警察から呼び出しがかかる、あるいは逮捕されるルート
多くの方は(A)から入ります。そして、ここが分かれ目です。(A)でとった対応は、(B)でそのまま資料になります。
- とっさに「すみません」と口にした
- その場で現金を渡した、振り込んだ
- 内容をよく読まずに示談書・誓約書に署名した
これらは、それ自体が有罪を決めるものではありません。しかし、あとから「身に覚えがない」と説明したときに、なぜ謝り、なぜ払ったのかを説明しなければならない立場に立たされます。事実を争うつもりがあるなら、その場を早く終わらせるための支払いや署名は、原則として避けるべきです。
3.最初の対応で決まりやすいこと
事実を争う事案では、初期の言動が後々まで影響します。
反射的に謝らない。ただし相手を犯人扱いもしない。
「とりあえず謝る」のは、争う立場では不利に働くおそれがあります。一方で、感情的に相手を責める、うそつきだと決めつけるといった対応も、当時の状況を冷静に説明できない人という印象につながりかねません。否定は静かに、事実の範囲でが基本です。
あいまいなことは、あいまいなまま話す。
記憶が確かでない部分を、つじつま合わせで埋めないでください。後日そこが崩れると、確かな部分の信用まで落ちます。
記録を消さない。
店とのやり取り、予約履歴、通話履歴、位置情報、決済記録。不利に見えるものも含めて残してください。削除は復元されうるうえ、罪証隠滅のおそれとして身柄拘束の判断(刑事訴訟法199条2項ただし書、刑事訴訟規則143条の3)にも響きます。
その場を離れる前後の事実をメモする。
入退室の時刻、部屋番号、同席者やスタッフの有無、防犯カメラのありそうな場所、移動経路、金銭を要求された時刻と文言。時間が経つほど再現できなくなります。
一人で交渉しない。
相手が店の場合、窓口を一本化するだけで話の性質が変わります。
4.「否認」と「示談」は、原則として同時に走らせにくい
不起訴には主に三つの類型があります。
| 類型 | 内容 | 主な打ち手 |
|---|---|---|
| 嫌疑なし | 犯罪の疑いが認められない | 事実を争う |
| 嫌疑不十分 | 立証に足りる証拠がない | 事実を争う |
| 起訴猶予(刑事訴訟法248条) | 犯罪の証拠はあるが訴追を要しない | 示談・被害弁償・情状 |
示談は、基本的に事実があったことを前提に、謝罪と賠償で解決する手続です。したがって、事実を争う事案で早々に示談へ動くと、否認の信用性を自ら損ないかねません。逆に、争う方針を選ぶなら、目指す先は起訴猶予ではなく嫌疑なし・嫌疑不十分の側になります。
ここで注意したいのは、「争うと決めたら示談の道は一切ないのか」といえば、そう単純でもないという点です。刑事上は事実を争いつつ、店との民事上のトラブルは別の枠組みで整理する、という設計があり得ます。ただし、この切り分けは書面の文言ひとつで意味が変わります。自己判断ではなく、方針を固める段階で相談されることをおすすめします。
5.風俗事案で「していないこと」の証明が難しい理由
争う側にとって、この分野には構造的な難しさがあります。
- 密室性……サービスは個室やホテルで行われ、第三者の目がない
- 匿名性……相手は源氏名で、日常的なやり取りの履歴が残らない
- 単発性……関係の経緯を示す周辺事情が乏しい
- 客観証拠の向き……室内から採取される資料、防犯カメラ映像、診断書などは、接触や性交があったことを裏づけることはあっても、同意があったことまでは示しにくい
つまり、集まりやすい客観証拠は、行為の存在を争う場面では働いても、同意の有無が争点になる②の型では、必ずしもこちら側に有利には働きません。この非対称性は、あらかじめ知っておく価値があります。
そのうえで、積める材料はあります。入店・退店の時刻、決済や交通の記録、店との通話やメッセージ、スタッフの介在、そして金銭の要求がどの時点でどういう文言で出てきたかという経緯です。要求の経緯が不自然であれば、それ自体が検討材料になります。
ただし、「相手がうそをついている」という主張を前面に立てるのは慎重であるべきです。認識のずれや記憶違いと、意図的な虚偽の申告は別の問題です。断定的な決めつけは、かえって説明の信頼性を損なうおそれがあります。
6.反撃を考えるのは、自分の処分が固まってから
事実無根の申告に対しては、虚偽告訴罪(刑法172条/3月以上10年以下の拘禁刑)や、金銭要求の態様によっては恐喝罪(同249条/10年以下の拘禁刑)が問題になり得ます。
もっとも、これらの成立には高いハードルがあり、「自分が無実だから相手は虚偽告訴だ」と直ちに言えるものではありません。しかも、自分がまだ被疑者の立場にあるうちに反撃を先行させると、争点が増え、防御が薄まることがあります。
順序としては、まず自分の刑事処分を確定させる。反撃を検討するのはその後、と考えるのが現実的です。
7.不起訴の「その後」まで見据える
事実を争って不起訴になった場合、それで終わりにしないでいただきたい実務があります。
検察官は、不起訴処分をしたとき、被疑者から請求があれば速やかにその旨を告げなければならないとされています(刑事訴訟法259条)。これに基づいて交付されるのが不起訴処分告知書です。請求しなければ発行されません。
さらに重要なのは、この書面には不起訴の理由(嫌疑なし・嫌疑不十分・起訴猶予)が当然には記載されないことです。理由の記載は法律上の義務ではなく、実務上も区分が書かれないのが基本とされています。そのため、必要があるときは弁護人を通じて記載を求めることになります。
なぜこれが効くのか。勤務先の懲戒が問題になる場面や、民事で損害賠償を請求された場面では、「起訴猶予」と「嫌疑不十分」ではまったく意味が違うからです。事実を争ってきた方にとっては、ここまでが一連の対応になります。
8.避けたい対応/今からできること
避けたいこと
- その場で謝る、現金を渡す、内容を確認せず署名する
- データや履歴を削除する
- 相手やお店に直接連絡して事情を問い詰める、謝罪する
- 呼び出しを無視する、着信を拒否したまま放置する
- SNSや掲示板で経緯を書く
- 記憶にない部分を推測で埋めて話す
今からできること
- 時系列を書き出す(あいまいな部分は「あいまい」と明記する)
- 記録・履歴を保全する(不利に見えるものも含めて)
- 連絡の窓口を一本化する
- 自分の主張が①〜③のどの型なのかを整理する
- 処分が決まる前の段階で相談する
おわりに
身に覚えのない疑いをかけられたとき、多くの方が最初に望むのは「早く終わらせること」です。しかし事実を争う事案では、早く終わらせようとした行動そのものが、後になって一番の壁になります。
黙って耐えるのでも、感情的に反発するのでもなく、事実を、事実の範囲で、一貫して説明し続けること。そのための準備を、処分が決まる前の段階で整えておくことが、結果を分けます。
どの型の事案なのか、いま何を残し、何をしてはいけないのか。判断に迷う段階でご相談いただければ、方針を一緒に整理できます。


