請求額を下げる交渉材料|何を示すと動くのか
メンズエステを利用した際にスマートフォンで録音していたことを店側に知られ、「盗聴は犯罪だ」として金銭を求められている、というご相談を受けることがあります。反対に、料金や施術の内容で言い分が食い違ったときに備えて、やり取りを残しておきたいと考えて相談に来られる方もいらっしゃいます。
インターネット上には、会話の当事者が自分の会話を録る行為は「秘密録音」であって「盗聴」とは違い、これを直接処罰する法律は見当たらない、という説明が並んでいます。この説明そのものが誤りというわけではありません。ただ、店が用意した一室という場所で録るときには、その一言だけでは片づかない部分が残ります。
この記事では、メンズエステの場面に絞って、秘密録音と盗聴がどこで分かれるのか、録音という行為そのものと、その周辺にある行動とで問題のされ方がどう違うのかを整理します。録音したものを後で証拠としてどう扱うか、どう残しておくかという実務は、別の記事で扱っています。
この記事で扱う範囲
はじめに、どこまでを扱うのかをはっきりさせておきます。
- 成人同士のやり取りを前提としています。相手が18歳未満である場合は、まったく別の枠組みで考える必要があります。
- 店のルールに反する行為をお勧めする趣旨の記事ではありません。
- 音声の録音を扱い、写真や動画の撮影は扱いません。撮影には別の法律が関わります。
- すでに警察から連絡が来ている場合や、逮捕・呼び出しがある場合は、記事ではなく個別のご相談でお考えください。
金額が妥当かどうか、支払う義務があるのかどうかという点は、この記事の中心ではありません。そちらは店からの請求を扱った記事に譲ります。
「盗聴」という言葉が指しているもの
トラブルの現場では、「盗聴」という言葉がかなり広い意味で使われます。店側が「盗聴された」と言うとき、その内容は、法律の議論で使われる「盗聴」とずれていることが少なくありません。まず、録り方によって性質が変わることを押さえておくと、話の整理がしやすくなります。
| 録り方 | 自分がその会話に加わっているか | 問題にされやすい点 |
|---|---|---|
| 自分が話している場面を、相手に告げずに録る | 加わっている | 録る行為そのものよりも、店の規約や、その場所への立ち入り方 |
| 席を外している間も、機器を置いたまま録り続ける | 加わっていない時間がある | 自分が加わっていない会話まで残ってしまう点 |
| 他人同士の通信を機器で受け取る | 加わっていない | 通信の秘密に関する規定に触れる場面がある |
日常の言葉としての「盗聴」との距離
日常の言葉では、相手に断らずに録ること全般が「盗聴」と呼ばれます。一方、法律の議論で盗聴として問題にされてきたのは、自分が加わっていない他人の会話や通信を、第三者の立場で聞き取る場面です。電話回線に機器をつないで通話の内容を受け取るような行為には、電波法や有線電気通信法に規定が置かれています。
メンズエステの施術室で、自分と相手の会話を自分のスマートフォンで録る場合、話しているのは自分自身です。第三者が他人の会話を盗み聞きする場面とは、出発点が異なります。
店が「盗聴」と言うときに指していること
店やセラピストが「盗聴行為だ」と言うとき、多くの場合その根拠は刑罰法規ではなく、店の利用規約や、入店時に説明された禁止事項です。規約に「録音・撮影の禁止」と書かれていること自体は珍しくありません。ただ、規約に反したという話と、犯罪にあたるという話は、別の層にあります。この二つが混ざったまま金額の話に進んでしまうと、何について支払うのかが分からないまま話がまとまってしまいます。
分かれ目は「自分がその会話に加わっているか」
秘密録音と盗聴を分ける目安としてよく挙げられるのが、録られている会話に自分が加わっているかどうかです。ここが変わると、同じ端末で録っていても、後から受ける評価が変わってきます。
自分が話している場面を録る場合
自分が参加している会話を、相手に告げずに録る形です。過去には、後日の証拠にするために相手との会話を録音した事案について、相手の同意がなくても違法とはいえないと述べた最高裁の判断もあります。もっとも、これは刑事事件で証拠として取り調べてよいかが争われた場面の判断で、どのような録り方でも問題がないと述べたものではありません。
席を外している間も録り続けた場合
メンズエステでは、着替えやシャワーなどで一時的に部屋を離れる場面があります。録音を開始したまま部屋を出ると、自分がその場にいない時間の音声まで残ります。相手が別の客や店に電話をしていれば、その会話も入ります。自分が加わっていない会話が含まれてくると、当事者の録音という説明がそのまま当てはまらなくなり、性質としては先ほどの表の二段目や三段目に近づいていきます。
機器を置いて後から回収する形をとった場合
部屋のどこかに機器を置いておき、後日回収するような形になると、自分が加わっていない会話を集める目的だったと受け取られやすくなります。手元の端末をポケットに入れたまま会話を録る場合と、機器を残置する場合とでは、外から見たときの意味合いが違います。この違いは、後で店やセラピストから責任を問われる場面でも、警察に相談が持ち込まれた場面でも、判断の材料になります。
録音そのものを直接処罰する規定は見当たらない
自分が加わっている会話を、相手に告げずに録る行為について、その行為だけを取り出して処罰する規定は、現在の法律の中に見当たりません。この点は、多くの解説が述べているとおりです。
「罰金」という言葉が使われる場面
店から「盗聴は犯罪だから罰金を払え」と言われることがあります。罰金は、裁判所が刑罰として言い渡し、国に納めるものです。店と客の間で交わされる金銭は、名前が「罰金」であっても、その性質は契約や損害の賠償をめぐる話になります。店が用いる「罰金」という語の位置づけについては、別の記事で詳しく扱っています。
犯罪にあたらないことと、何も起きないことは別
「犯罪ではない」という説明は、そこで話が終わるという意味ではありません。実際のご相談で問題になるのは、その後に来る金銭の請求であったり、家族や勤務先に伝えると言われる場面であったりします。犯罪にあたるかどうかという一点だけで押し返そうとすると、かえって話が長引くことがあります。
問題にされやすいのは、録音の「周辺」にある行動
録音そのものよりも、その前後にある行動のほうが、法的な問題として取り上げられやすい面があります。
立ち入りの目的
建物や部屋の管理をしている人の意思に反する立ち入りは、住居侵入等(刑法130条)の問題として扱われることがあります。録音を禁じている店の一室に、はじめから録るつもりで入った場合には、この点を指摘する見解があります。一方で、部屋に入ってから思い立って端末の録音を始めたにすぎない場合には、同じようには評価しにくいとする整理もあります。断定的に語られることの多い論点ですが、立ち入った時点で何を考えていたかという、外からは見えにくい事情に左右されます。
機器を持ち込む、仕掛ける
録音のための機器をあらかじめ用意して持ち込んだ場合や、部屋に仕掛けた場合は、その準備自体が「はじめから録るつもりだった」ことを示す材料として受け取られます。手元の端末で録る場合と比べて、説明が難しくなる方向に働きます。
備品に手を加える
機器を隠すために枕やクッションに切れ目を入れるなど、店の物に手を加えれば、器物損壊等(刑法261条)の問題が別に生じます。録音を巡る話とは切り離して、そこだけで責任を問われる余地があります。
メンズエステの部屋は、誰が管理している場所か
メンズエステは、利用の形によって、部屋を管理している人が変わります。誰の管理する場所で録ったのかは、先ほどの立ち入りの話と直結します。
| 利用の形 | 部屋を管理しているのは誰か | 録音が問題にされる筋道 |
|---|---|---|
| 店の施術室で受ける | 店側 | 店の規約と、立ち入りの目的の両方が出てくる |
| マンションの一室で受ける | 部屋を借りている店側 | 店の規約に加えて、建物の使い方をめぐる話が絡むことがある |
| 自宅やホテルに来てもらう | 自分、またはホテル側 | 店との契約や、相手の受け止めが中心になる |
店の一室で受ける場合
店が用意した部屋に入って施術を受ける形では、その部屋を管理しているのは店側です。録音を禁じている店であれば、規約違反と立ち入りの目的の二つが同時に持ち出されやすい構図になります。メンズエステでは、看板を出さずマンションの一室で営まれている店も少なくありません。届出の有無によって何が変わるのかは、別の記事で整理しています。
自宅やホテルに来てもらう場合
派遣を受けて自宅やホテルで施術を受ける形では、部屋を管理しているのは自分自身か、ホテル側です。店が部屋の管理者として立ち入りの問題を持ち出す筋道は取りにくくなります。もっとも、これは録ってよいという意味ではなく、規約に反したという主張や、相手が不快に感じたという主張はそのまま残ります。
お金の請求は、犯罪かどうかとは別の筋道で来る
実際のご相談で中心になるのは、犯罪にあたるかどうかよりも、請求された金額の話です。請求は、次の二つの筋道のどちらか、または両方で組み立てられます。
規約に反したという主張
利用規約や入店時の説明で録音が禁じられていた場合、店側は、約束に反したことによる損害の賠償(民法415条)という形を取ることがあります。規約に金額が書かれていることもありますが、書かれている金額がそのまま通るとは限りません。
気持ちを害されたという主張
セラピスト個人の側から、自分の会話を無断で残されたことによる損害の賠償(民法709条)という形で求められることもあります。この場合、請求している相手が店なのか個人なのかで、話の進め方が変わります。誰に対して何を支払うのかがはっきりしないまま金額だけが動くと、後で同じ件をもう一度持ち出される余地が残ります。金額の考え方や、支払う前に確かめておきたい点は、別の記事で扱っています。
「証拠になるのか」は、違法かどうかとは別の問い
録音が適法かどうかという問いと、その録音が後で使えるかという問いは、層が違います。民事の裁判で、録音は文書に準ずるものとして扱われます(民事訴訟法231条)。録り方に問題があったからといって、そのことだけで一律に取り調べてもらえなくなるわけではありませんし、逆に、適法に録れていれば言い分がそのまま通るわけでもありません。
録った場面によって意味がどう変わるか、どう残しておくと後で使いやすいかという点は、録音の残し方を扱った記事に譲ります。
録音を知られた場面で、その場で決めないほうがよいこと
施術の後に録音を知られ、事務所や別室で話をすることになった、というご相談は少なくありません。その場面で急いで決めてしまうと、後から動かしにくくなる事柄があります。
- 金額をその場で口にすること。話し合いの出発点として扱われることがあります。
- 用意された書面に、内容を読まないまま署名すること。
- 端末を渡したうえで、中身を自由に見てもらうこと。録音以外の情報も含まれています。
- その場でデータを消すこと。後で経過を説明する材料まで失われます。
- 免許証など、身分を示すものを撮影されることに、流れで応じること。
- 連絡先を伝える範囲を、その場の勢いで広げること。
持ち帰って考えたいと伝えることは、それ自体が失礼な対応ではありません。囲まれた状態でのやり取りや、その場での示談の申し出への向き合い方は、別の記事で扱っています。
よくあるご質問
ご相談の際によくいただく質問を挙げます。
規約に「盗聴禁止」と書かれていました。それだけで犯罪になるのでしょうか
規約は店と客の間の約束であって、犯罪の有無を決めるものではありません。規約に書かれていることは、約束に反したという主張の根拠にはなりますが、それがそのまま刑罰につながるわけではありません。両者は分けて考えることになります。
自分が録音されている側になることはありますか
あり得ます。店側が受付や電話のやり取りを記録していることもありますし、トラブルになった後の話し合いが録られていることもあります。話し合いの場では、自分の発言も同じ重さで残ると考えておくほうが安全です。
スマートフォンの録音アプリと、専用の機器とで扱いは変わりますか
行為そのものを処罰する規定がない点は共通です。ただ、専用の機器を用意して持ち込んだという事情は、はじめから録るつもりであったことを示す材料として受け取られやすく、立ち入りの目的が問題にされる場面では説明が難しくなります。
まとめ
- 日常語の「盗聴」と、法律が問題にしてきた場面には距離があり、店側が「盗聴」と呼ぶものの多くは規約違反を指しています。
- 分かれ目は、録られている会話に自分が加わっているかどうかにあります。
- 席を外している間も録り続けた場合や、機器を置いて回収する形をとった場合は、当事者の録音という説明が当てはまりにくくなります。
- 自分が加わっている会話を告げずに録る行為そのものを直接処罰する規定は、見当たりません。
- 問題にされやすいのは、立ち入りの目的や、機器の持ち込み、備品への加工といった録音の周辺にある行動です(刑法130条、刑法261条)。
- 店の一室か、自宅やホテルかによって、部屋を管理している人が変わり、持ち出される筋道も変わります。
- 金銭の請求は、規約に反したという主張(民法415条)や、相手が害されたという主張(民法709条)として組み立てられ、犯罪の有無とは別の筋道で進みます。
- 録音が適法かどうかと、後で証拠として使えるかどうかは、別の問いです(民事訴訟法231条)。
録音をめぐるトラブルでお困りの方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、風俗店やメンズエステの利用をめぐるトラブルに関するご相談を、池袋と新橋の事務所でお受けしています。録音を知られて金銭を求められている方も、これから何が起きるのかを知っておきたいという方も、状況を伺ったうえで、取り得る対応を一緒に整理します。
その場で結論を出さずに持ち帰った段階でご相談いただくほうが、選べる選択肢は多く残ります。すでに何かに署名した後であっても、内容次第でできることはありますので、まずはお手元の資料をお持ちのうえでご連絡ください。


