ホストクラブの売掛|客が負う支払義務の限界

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

ホストクラブやキャバクラの「売掛」は、その場で支払わずに後日まとめて払う約束、いわゆるツケのことです。近年は女性客の売掛が社会問題として報じられていますが、ご相談をお寄せいただくのは本人だけではありません。交際相手や知人の売掛について「代わりに払ってほしい」と求められた男性の方から、ご連絡をいただくこともあります。

 この記事は、売掛の踏み倒し方を説明するものではありません。売掛は後払いの約束ですから、原則として支払義務があります。ただし、その義務には輪郭があります。誰に対して負っているのか、いくらまでか、いつまでか、どこまで他人に及ぶのか。この4本の線を知っておくと、「言われた金額をそのまま払うしかない」という思い込みから距離を取れます。

 ホストクラブを軸に説明しますが、キャバクラ・ガールズバー・コンカフェ・女性用風俗など、ツケや後払いを扱う店では基本的な考え方は共通します。

売掛は「ツケ」だが、法律上は一つの形ではない

 売掛と一口に言っても、中身は同じではありません。実務でよく見るのは、次の3つの形です。どの形かによって、請求してくる相手も、争える中身も変わります。

お金の流れ請求してくる側
① 飲食代の後払い店が代金の受取りを待っている状態店(法人・経営者)
② 担当者による立替担当者が客の飲食代を先に店へ払った状態担当者個人
③ 借用書への書き換え①②を「貸したことにする」約束に直した状態書面上の貸主


 ③は、民法上「準消費貸借」(民法588条)と呼ばれる契約です。実際には現金を手渡していなくても、それまでの債務を貸金の形に置き換える合意で、以後は貸したお金として扱われます。この置き換えが行われているかどうかは、後で述べるとおり上限金利のルールにも影響します

請求してくる相手によって、争える中身が変わる

 ①であれば、争点は「そのメニューを本当に注文したか」「その金額が正しいか」という飲食代そのものの中身です。②であれば、担当者が本当に立て替えたのか、いくら立て替えたのかが問題になります。③であれば、その書面をどういう経緯で書いたのかが問題になります。

 「売掛」という一語でまとめてしまうと、この違いが見えなくなります。請求書や督促の文面を読むときは、まず「誰が、どの立場で請求しているのか」を確かめるところから始めてください。

まず押さえたい原則――そのうえで4本の線を引く

 繰り返しになりますが、売掛は原則として支払義務のある債務です。「飛べば(連絡を絶てば)終わる」というものではなく、放置すれば訴訟を起こされ、判決を得られれば給与や預金の差押えに進むこともあります。最初から支払う意思がないまま注文していた場合には、詐欺罪(刑法246条1項)が問題になる余地もあります。

 そのうえで、支払義務には次の4本の線があります。以下、順番に見ていきます。

  1. 線① 誰に対する債務か
  2. 線② いくらまでか
  3. 線③ いつまでか
  4. 線④ 誰にまで及ぶか


線① 誰に対する債務か|請求してきた相手を確かめる


店・担当者・回収業者は立場が違う

 店から請求が来ているのに担当者個人へ払った、あるいはその逆、という取り違えは実際に起きます。相手を間違えると「まだ受け取っていない」と言われ、二重に払わされる危険があります。振込でも現金でも、誰に対する支払いなのかを書面で残しておくことが確実な自衛策です。

「債権を譲り受けた」と言われたときの確認

 途中から見知らぬ第三者が「売掛を譲り受けたので払え」と連絡してくることがあります。債権の譲渡を債務者に主張するには、譲り渡した側からの通知か、債務者本人の承諾が必要です(民法467条1項)。担当者からではなく譲受人を名乗る側から一方的に連絡が来ているだけの状態であれば、その点を確認してかまいません。

 また、報酬目的で他人の債権の取立てを業として行うことは弁護士法72条が禁じています。回収を請け負った第三者が「譲り受けた形」を取るのは、この規制を意識してのことがあります。説明に不自然さを感じたら、支払う前に確認してください。

線② いくらまでか|金額に上限をかける4つのルール


発生したことを説明する責任は、請求する側にある

 「いくらの売掛がある」と主張する側が、その発生と金額を裏づける必要があります。伝票、サイン、注文の履歴、やり取りの記録などです。金額に心当たりがない、注文していないボトルが計上されている、酔って判断できない状態で入れられた注文が含まれている、といった事情があるなら、その部分は争う余地があります

 「全部払わなくてよい」という主張は通りにくい一方で、「この部分は違う」という主張は現実的です。争点は多くの場合、ゼロか全額かではなく、いくらかです。

遅れた分の上乗せには上限がある

 支払いが遅れると遅延損害金が発生します。特に約束がなければ法定利率(現在は年3%。民法404条・419条1項)で計算します。約束がある場合でも、店と客との契約は消費者契約にあたるのが通常ですから、年14.6%を超える部分は無効です(消費者契約法9条1項2号)。「日歩いくら」「1日あたり何%」といった条件を示されたときは、年利に直して確かめてください。

借用書に書き換えると、上限のルールが入れ替わる

 ここが見落とされやすい点です。消費者契約法の14.6%という上限は、お金の貸し借りには適用されません(消費者契約法11条2項)。飲食代の後払いのままなら14.6%が上限になりますが、借用書を書いて貸金の形に置き換えると、代わりに利息制限法が適用され、元本額に応じて上限が年20%前後まで上がる余地が生まれます。

 つまり、「分割にしてあげるから借用書を書いて」という提案は、客にとって必ずしも有利な話ではありません。書く前に、利息や遅延損害金の条件がどう変わるのかを確かめておく必要があります。

 なお、貸す側が反復継続して貸付けを行っていれば貸金業の登録が必要になり、無登録での貸金業には重い罰則が定められています(貸金業法11条1項、47条2号)。さらに、年109.5%を超える利息の約束をした場合には、その貸借契約自体が無効となります(貸金業法42条1項)。

度を越えた条件は、そもそも効力が認められないことがある

 金額の水準、決め方の経緯、断りにくい状況の作られ方などを総合して、著しく不当と評価されれば、公序良俗違反として無効となる余地があります(民法90条)。脅されて署名した、勘違いさせられて署名したという事情があれば、取消しを主張できる場合もあります(民法96条)。

 もっとも、「この額なら無効」と言える一律の基準はありません。事情の積み上げ方で結論が変わりますので、書面や記録をお持ちのうえでご相談ください。

線③ いつまでか|5年と「承認」という落とし穴

 売掛の返済を求める権利は、原則として5年で消滅時効にかかります(民法166条1項1号)。店からの請求でも担当者個人からの請求でも、この点は変わりません。インターネット上には「飲食代のツケは1年」「個人からの借金は10年」といった記述も残っていますが、これらは2020年4月1日より前の民法についての説明です。

 注意したいのは、時効の期間が途中でリセットされる仕組みがあることです。債務者がその債務の存在を認める行為をすると、そこから期間が数え直しになります(民法152条1項)。次のような行動が「認めた」と評価されることがあります。

  • 請求された金額のうち、ごく一部だけを支払う。
  • 「必ず払います」「〇月までに返します」と書面やメッセージで伝える。
  • 分割払いの申入れをする、あるいは分割の合意書に署名する。
  • 支払いを待ってほしいと頼み、猶予を認めてもらう。


 時効を主張できる可能性がある状況で、その場をしのぐつもりでこうした対応をすると、かえって不利になります。古い請求が突然来た場合には、返事をする前に期間を確認するほうが安全です。

線④ 誰にまで及ぶか|家族・交際相手・知人への波及

 ここからは、男性の読者の方が当事者になりやすい場面です。「彼女の売掛を払ってほしい」「親御さんに連絡する」「保証人になってくれ」と言われたとき、どこまでが自分の義務なのかという問題です。

口約束の保証は効力を生じない

 まず、売掛は本人の債務であって、家族や交際相手が当然に支払義務を負うことはありません。「親なら払うのが当然」「彼氏なんだから責任がある」といった説明には、法的な裏づけがありません。

 保証人になった場合は別ですが、保証契約は書面でしなければ効力を生じません(民法446条2項。電磁的記録による場合を含みます。同条3項)。店内で口頭で「自分が払います」と言っただけであれば、それだけで保証人としての義務が生じるものではありません。

 もっとも、その場でメモや誓約書に署名した、メッセージで支払いを約束したという場合には、書面性が認められる余地があります。その場で署名や送信をしないことが、後の負担を大きく左右します。

代わりに払う前に決めておきたい4点

 義務がないとしても、事情によっては代わりに払う判断もあり得ます。第三者が代わりに弁済すること自体は法律上可能ですが(民法474条1項)、正当な利益を持たない第三者は、本人の意思に反して支払うことはできません(同条2項)。本人に無断で払ってしまい、後から「頼んでいない」と言われる事態を避けるためにも、支払う前に次の点をはっきりさせておいてください。

  1. 本人が支払いを了解しているか(できれば本人からの依頼をメッセージ等で残す)。
  2. その金額で終わりなのか。追加の請求が残っていないか。
  3. 自分が払うのは贈与か、立替えか。立替えなら本人にいつどう返してもらうのか。
  4. 支払いと引換えに、店側から領収書と「残債務がない」旨の書面を受け取れるか。


 3点目を曖昧にしたまま渡すと、後から本人との間で「あれはくれたはずだ」「いや貸しただけだ」という別のトラブルになります。頼まれて払ったのか、頼まれずに払ったのかで、返してもらえる範囲も変わります。

取立ての方法にも限界がある


場面問題になり得るルール
支払わせる目的で客を威圧し、困らせる風営法22条の2第1号(53条に罰則)
返済のために風俗店等で稼ぐよう要求する風営法22条の2第2号、職業安定法63条2号ほか
料金を偽って説明する、恋愛関係を材料に困惑させる風営法18条の3(指示・営業停止等の行政処分)
危害を加えると告げて金銭を要求する刑法249条(恐喝)、222条(脅迫)
無理やり書面に署名させる刑法223条(強要)
帰らせない、自宅等から退去を求めても帰らない刑法220条(監禁)、130条後段(不退去)


 2025年6月28日に施行された改正風営法では、料金の支払等をさせる目的で客を威迫して困惑させる行為が禁じられ、罰則も設けられました。ここでいう「料金の支払等」には、支払いに充てるために借り入れたお金の返済まで含まれます。また、威迫だけでなく誘惑して、性風俗店での就労などによって返済資金を作るよう求める行為も対象とされています。改正内容の全体像は、別のコラム「【2025年6月施行】改正風営法で何が変わったか|色恋営業と売掛金の規制」で解説しています。

ルール違反があっても、支払義務が自動的に消えるわけではない

 ここは誤解の多いところです。風営法や条例は、営業を取り締まるためのルールです。店側にこれらの違反があったとしても、それだけで客の支払義務が当然に消えるという仕組みにはなっていません

 ただし、意味がないわけではありません。違反があるという事実は、警察が動く根拠になりますし、民事の場面でも「不当な圧力のもとで合意させられた」という主張を支える材料になります。刑事の問題と民事の支払いは別の線路を走っている、と考えておくと整理しやすくなります。

助けるつもりが、自分の立場を逆転させないために

 交際相手や知人の売掛を何とかしようとして、かえって自分が責任を問われる側に回る例があります。特に注意していただきたいのが、次の2つです。

 1つは、返済資金を作るために働き口を紹介することです。性風俗店で働くよう紹介・あっせんする行為は、店が適法に営業しているかどうかにかかわらず、職業安定法63条2号の「公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的」での職業紹介等にあたり得ます。同条の法定刑は1年以上10年以下の拘禁刑または20万円以上300万円以下の罰金で、決して軽いものではありません。売春に関わる形になれば、売春防止法の問題にもなります。

 もう1つは、取立て側との交渉に同行して強い言動をとることです。相手の非を責めるつもりでも、危害を加えるかのような言動をすれば、こちらが脅迫や恐喝を問われかねません。感情的なやり取りになりそうな場面ほど、当事者同士で直接会うことを避け、代理人を通す形にしたほうが安全です。

請求を受けたときにやっておくこと


  1. 請求の書面、伝票、レシート、メッセージのやり取りを、消さずにそのまま保存する。
  2. 請求してきた相手の氏名・立場(店か担当者か第三者か)と、請求額の内訳を書き出す。
  3. 利用した日付と金額を、記憶にある範囲で時系列に並べる。
  4. その場で署名・押印・送金をしない。「確認してから返答します」と伝えて持ち帰る。
  5. 連絡窓口を一つに絞り、自宅や職場への連絡は控えるよう文書で申し入れる。
  6. 訴状や支払督促が届いたら放置しない(支払督促は受け取ってから2週間以内に異議を出せます)。


 公的な相談先としては、契約や請求の内容については消費者ホットライン「188」、危険を感じる言動があるときは警察相談専用電話「#9110」があります。法的な手続の案内は法テラス(0570-078374)で受けられます。なお、厚生労働省が案内している「#8778」(女性相談支援センター)は女性からの相談を受ける窓口ですので、本人が女性である場合には、この番号を伝えてあげるとよいでしょう。

 当事務所でも売掛や高額請求のご相談をお受けしています。弁護士が窓口になれば、直接のやり取りを止めたうえで請求内容の当否を精査し、必要に応じて減額や分割の交渉を進めることができます。ご家族や勤務先に知られたくないというご事情にも配慮します。

まとめ


  1. 売掛は後払いの約束であり、原則として支払義務があります。放置すれば訴訟や差押えに進むことがあります。
  2. まず「誰が、どの立場で請求しているのか」を確かめてください。店・担当者個人・譲受人を名乗る第三者では争える中身が異なります。
  3. 金額の発生を裏づける責任は請求する側にあります。争点はゼロか全額かではなく、いくらかであることが多いです。
  4. 遅延損害金は、飲食代の後払いのままなら年14.6%が上限です。借用書で貸金に置き換えると上限のルールが入れ替わります。
  5. 支払いを求める権利は原則5年で時効にかかりますが、一部弁済や支払いの約束をすると期間が数え直しになります。
  6. 家族・交際相手に当然の支払義務はありません。保証は書面がなければ効力を生じず、代わりに払うなら贈与か立替えかを先に決めてください。
  7. 返済のために働き口を紹介する行為は、紹介した側が重い刑事責任を問われ得ます。


 売掛の問題は、金額そのものよりも「家族や職場に知られたくない」という気持ちにつけ込まれる形で長引くことが少なくありません。請求の内容に納得できないまま支払いを重ねてしまう前に、書面と記録をお持ちのうえでご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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