立ちんぼ・SNS個人売春でのトラブル|客が問われ得る罪と対処
「被害届を出す」と言われた瞬間に、頭が真っ白になったという方は少なくありません。風俗店の利用中や利用後にトラブルになり、その場で、あるいは後日の電話で、この一言を告げられる。多くのご相談は、そこから始まります。
ただ、この言葉は、誰の口から出たのかによって意味がかなり変わります。店のスタッフが言ったのか、キャスト本人が言ったのか。そして実際に警察の窓口で届け出るのは誰なのか。ここが整理されないまま、金額の話や謝罪の話だけが先に進んでしまうことがあります。
この記事では、被害届が出る場合と出ない場合で、実際に何が分かれるのかを、制度の側から整理します。相手の判断を予測して安心するための記事ではなく、自分がいまどの位置にいるのかを見誤らないための記事です。
この記事の前提と範囲
はじめに、扱う範囲をはっきりさせておきます。
- 成人同士のケースを前提にしています。相手が18歳未満である可能性がある場合は、まったく別の枠組みで考える必要があります
- すでに逮捕されている場合、警察から呼び出しを受けている場合は、記事を読むより先に個別にご相談ください
- 本番行為や無断撮影を勧める趣旨の記事ではありません
- 「被害届を出させない方法」「取り下げてもらう方法」といった交渉の進め方は、この記事では扱いません。ここでは判断の構造だけを整理します
「被害届を出す」と言っているのは誰か
最初に確認したいのは、その言葉を発したのが誰かということです。実務上、次の三通りがあります。
- 店のスタッフや店長が言っている
- キャスト本人が言っている
- 店の代理人、あるいはキャストの代理人を名乗る人が言っている
同じ「被害届を出す」でも、この三つは意味が違います。一つ目は、店が方針として述べているか、あるいは交渉の場で圧力として述べている場合があります。二つ目は、本人の意思がそのまま表れている可能性が高い言葉です。三つ目は、その人が本当に代理人なのか、誰の代理人なのかによって位置づけが変わります。
そして、このうちのどれであっても、警察の窓口で実際にどう扱われるかは、制度の側で決まっています。次にその仕組みを見ていきます。
被害届は誰が出すものなのか
被害届・告訴・告発・通報は別のもの
まず、よく混ざる四つを分けておきます。
| 種類 | 誰ができるか | 根拠 | 性質 |
|---|---|---|---|
| 通報・相談 | 誰でも | ─ | 事実を警察に伝える行為。形式は決まっていない |
| 被害届 | 犯罪による被害の届出をする者 | 犯罪捜査規範61条1項 | 被害の事実を申告するもの。処罰を求める意思表示は含まない |
| 告訴 | 犯罪により害を被った者ほか | 刑事訴訟法230条ほか | 被害の申告に加え、処罰を求める意思表示を含む |
| 告発 | 何人でも | 刑事訴訟法239条1項 | 第三者が犯罪事実を申告し、処罰を求めるもの |
違いのひとつは、その後の手続にあります。告訴・告発を受けた事件については、警察は書類と証拠物を検察官に送付しなければならないと定められています(刑事訴訟法242条)。被害届には、これに対応する規定がありません。この点で、告訴のほうが手続上重い扱いを受けやすいと説明されます。
被害届の様式には「届出人」と「被害者」の欄が分かれている
ここが、意外と知られていない部分です。
被害届の様式は、犯罪捜査規範の別記様式第6号として定められています。この様式には、届出人の欄と、被害者の欄が別々に設けられています。そのうえで、様式の注意書きには、届出人と被害者が異なるときは、両者の関係と、本人が届出をしない理由を記入することとされています。
つまり、被害届を窓口に持っていく人が、必ずしも被害者本人とは限りません。ただし、「被害者」の欄に書かれるのは、その犯罪によって害を被った人です。
本番行為が問題になる場面で、「被害者」は誰か
本番行為をめぐって問題になるのは、不同意性交等罪や不同意わいせつ罪です。これらは、個人の性的な自由を守るための規定です。したがって、ここでいう被害者はキャスト個人であって、店ではありません。
店が被害者の欄に入るのは、店自身の権利が侵害された場合です。たとえば店の備品を壊した、スタッフに暴行を加えた、料金を払わずに立ち去ったといった事情があれば、それは店を被害者とする別の話になります。
では、店には何ができるのか。整理すると次のようになります。
- 警察に通報する(誰でもできます)
- 告発をする(刑事訴訟法239条1項。第三者でも可能です)
- キャスト本人に届出を促す、警察署に付き添う
- 届出人としてキャストに代わって届け出る(この場合、様式上は本人が届け出ない理由を記入することになります)
言い換えると、店は「本人に代わって被害を訴える」ことはできても、本人の意思と切り離して不同意性交等罪の被害者になることはできません。「店が被害届を出す」という言い方が正確でないのは、このためです。
「風俗のトラブルだから警察は取り合わない」とは限らない
インターネット上には、この種のトラブルでは警察が積極的に動かない、という趣旨の説明も見られます。ただ、制度の側の記述はそうなっていません。
犯罪捜査規範61条1項は、犯罪による被害の届出をする者があったときは、その事件が管轄区域のものかどうかを問わず、これを受理しなければならないと定めています。さらに警察庁は、令和6年3月22日付けの通達(丙刑企発第35号「迅速・確実な被害の届出の受理等について」)で、被害の届出に対しては、その内容が明白な虚偽または著しく合理性を欠くものである場合を除き、即時受理することとしています。
実際の窓口対応が事案ごとに異なることは否定できません。ただ、「風俗の話だから受理されないだろう」という見通しを前提に行動するのは、根拠の薄い賭けになります。
キャストの判断を左右する事情
届出をするかどうかを最終的に決めるのは、多くの場合キャスト本人です。その判断には、次のような事情が影響し得ます。両方向あることを、あわせて見てください。
- 届け出れば、事情聴取に応じ、供述調書の作成に立ち会うことになります。事案によっては、その後の手続でさらに説明を求められることもあります
- 氏名や連絡先が捜査機関に残ります。仕事の内容を家族や周囲に知られたくないという事情がある場合、これは小さくない負担です
- 一方で、届け出なければ何も残らないという不安もあります。同じ相手が再び来店する可能性、他のキャストに同じことが起きる可能性が意識されることもあります
- 店との関係も影響します。店が届出を勧める場合もあれば、営業への影響を理由に消極的な場合もあります
- 時間の経過とともに気持ちが変わることもあります。直後は届け出るつもりがなかったのに、後日届け出るという流れも、逆の流れも実際にあります
ここで強調しておきたいのは、これらの事情から「だから届出は出ないだろう」と読み取ることはできないということです。負担が大きいことは、届出をしない理由にも、しっかり処罰を求める理由にもなり得ます。相手の心理を推測して待つという対応は、根拠を欠いています。
店の判断を左右する事情
店の側にも、店なりの事情があります。客側から見えにくい部分なので、整理しておきます。
- 警察が関わることは、店の営業にとって負担になり得ます。この点は、届出に消極的に働く事情です
- キャストが出勤できなくなること、他のキャストの不安が広がることは、店にとっての損失です。この点は、厳格な対応に傾く事情になります
- 金銭の回収を優先する場合、刑事手続よりも当事者間の話し合いを選ぶことがあります
- 顧問弁護士がついている店では、その場で長時間引き止めない、その場で現金を受け取らないといった助言がなされていることがあります。穏やかにその場を離れられたことが、話が終わったことを意味するとは限りません
そして重要なのは、店の判断は、客の利益のために働くものではないという当たり前の点です。店が「被害届は出さない」と言ったとしても、それは店の方針の表明にとどまります。前章で見たとおり、不同意性交等罪の被害者はキャスト個人ですから、店の約束が本人の意思を拘束するわけではありません。
被害届が出るかどうかで、変わること・変わらないこと
ここが、この記事の中心です。
| 確認したいこと | 被害届の有無との関係 |
|---|---|
| 警察が事実を把握する時期と、最初に持つ情報の量 | 変わりやすい |
| 事情聴取や資料の提出を求められる時期 | 変わりやすい |
| 捜査が組織的に動き出すきっかけ | 変わりやすい |
| 不同意性交等罪・不同意わいせつ罪・性的姿態等撮影罪が非親告罪であること | 変わらない |
| 被害届以外の端緒があり得ること | 変わらない |
| 民事の損害賠償請求権が別に存在すること | 変わらない |
| 被害届に法律上の「取下げ」の制度がないこと | 変わらない |
非親告罪であることの意味
これらの罪は、告訴がなければ起訴できないという類型(親告罪)ではありません。したがって、被害届や告訴がないという理由だけで、捜査や起訴ができなくなるわけではありません。
同時に、この点は逆向きにも働きます。届出が出ていない状態でも手続が動くことがある一方、届出が出た後に本人の気持ちが変わったとしても、それだけで手続が止まるとは限らない、ということです。
被害届以外の端緒
被害届は、警察が事実を知るきっかけの一つにすぎません。第三者が通報することもありますし、店に対する行政や警察の対応の過程で客の存在が明らかになることもあります。別の事件の捜査の中で判明することもあります。
「本人が届け出なければ何も起きない」という前提は、この点でも成り立ちません。
被害届には「取下げ」の規定がない
告訴については、公訴の提起があるまで取り消すことができると定められています(刑事訴訟法237条1項)。これに対して、被害届の取下げについては、法律上の規定がありません。実務上、取下書が提出されることはありますが、それは法律が用意した制度ではなく、運用上の扱いです。
そのため、「取り下げてもらえば終わる」という説明は、正確ではありません。処分を判断する際の材料の一つにはなり得ますが、それ自体が手続を終わらせる効果を持つものではないという整理になります。
民事の請求は別に残る
刑事手続がどう進むかと、金銭の賠償を求められるかどうかは、別の話です。被害届が出されなかったとしても、損害賠償の請求が行われる可能性は残ります。逆に、刑事手続が終わったことが、民事の請求が消えたことを意味するわけでもありません。
「出す・出さない」が金銭と結びつくとき
実際のご相談で多いのは、被害届の話が金額の話とセットで出てくるパターンです。「今日中に払えば届け出ない」といった言い方がされることがあります。
ここで押さえていただきたいのは、次の三点です。
- 金額の当否と、届出をするかどうかは、本来別の判断です。二つを一つの取引にまとめて示されているときは、いったん切り離して考える必要があります
- 「届け出ない」という約束には限界があります。前章のとおり、届出以外の端緒があり、被害届の取下げに法律上の制度がなく、罪は非親告罪です。約束が実現しても、手続が起きないという保証にはなりません
- 届出をしないことと引き換えに金銭を求める言い方は、状況によっては別の法的問題を生じさせることがあります。ただしそれは、直ちに「支払う必要がない」という結論を意味するものでもありません。落ち度の有無、支払義務の有無、金額の相当性は、それぞれ別に検討することになります
なお、逆方向についても触れておきます。客側からキャスト本人に直接連絡を取り、届出をしないよう求めることは、避けたほうがよい行動です。証拠に影響を与えようとしたと受け取られる材料になり得ますし、連絡そのものが別の問題として評価される可能性もあります。
相談の前に整理しておきたい4つのこと
最後に、状況を把握するための整理項目を挙げます。
- 誰が何を言ったのか。店のスタッフか、キャスト本人か、代理人を名乗る人か。日時と、可能な範囲での発言内容
- 何がいつどこであったのか。記憶があいまいな部分は、あいまいなまま「あいまいだ」と書くことが大切です。埋めた記憶は、後で自分を苦しめます
- 手元にある書面や記録。示された書面の写真、着信履歴、メッセージのやり取り。消したり作り直したりしないでください
- 期限のついた連絡が来ていないか。日付が指定された書面や、警察からの連絡は、優先して確認すべき事項です
まとめ
- 「被害届を出す」と言っているのが誰かによって、その言葉の意味は変わります
- 本番行為が問題になる場面での被害者はキャスト個人であり、店ではありません。店にできるのは通報・告発・付き添い・届出人としての届出です
- 被害届の様式は、届出人の欄と被害者の欄が分かれており、本人以外が届け出る場合はその理由を記入することとされています
- 被害届の受理については、犯罪捜査規範61条1項と警察庁の通達で、即時受理が原則とされています
- 届出の有無で変わるのは、主に警察が事実を把握する時期と情報の量です
- 罪が非親告罪であること、届出以外の端緒があること、民事の請求が別に残ること、被害届に法律上の取下げ制度がないことは、届出の有無では変わりません
- 金額の話と届出の話は、いったん切り離して考える必要があります
早く動けば必ず良い結果になる、と申し上げるつもりはありません。ただ、相手の判断を推測して待っている間に、選べる手段は静かに減っていきます。いま自分がどの位置にいるのかを正確に把握することが、最初にできることだと考えています。
当事務所では、風俗店の利用に関するトラブルについて、ご相談を受け付けています。誰にも言えずに抱えている段階でも構いません。事実関係を整理するところからお手伝いします。


