調書に署名・押印を求められた|訂正を求める権利

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

取調べの終わりに、取調官が一枚の書面を示して「内容に間違いがなければ、ここに名前を書いて指で印を押してください」と求めてくることがあります。自分が話した内容をまとめたはずの書面です。ところが読み進めると、どこか自分の言い方とは違う。けれども言い出しにくく、早く終わらせたい気持ちもあって、そのまま署名してしまう。こうした経過をたどる方は少なくありません。

 署名・押印については「拒否できる」という説明がよく知られています。ただ、実際の場面でまず検討したいのは、その手前にある「直してもらう」という段階です。法律は、署名を求める前に内容を確認させ、違うところがあれば申し出る機会を与えることを捜査機関に求めています。

 この記事では、調書に署名・押印を求められたときに使える訂正の求め方と、訂正に応じてもらえない場合の署名押印拒否について整理します。疑いをかけられている方だけでなく、被害を訴える立場や、参考人として話を聞かれる立場の方にも関わる話です。

まず確認したいのは「何の書面に署名を求められているのか」


供述調書は取調官がまとめた文章


 供述調書は、取調べで話した内容をもとに、取調官が書面にまとめたものです。刑事訴訟法198条3項は、被疑者の供述を調書に録取することができると定めています。

 ここで押さえておきたいのは、供述調書が録音の書き起こしでも、一問一答の記録でもないという点です。多くの場合、「私は〇月〇日、〇〇へ行きました」というように、本人が語っているかたちの文章に整理されます。話した順序も言い回しも、まとめる過程で変わります。事実と違う記載が生まれるのは、取調官に悪意がある場面に限りません。要約という作業そのものに、もともとそうした余地があります。

署名を求められる書面は一種類ではない


 取調べの前後には、供述調書以外にも署名を求められる書面があります。性質が異なるため、いま示されているのがどれなのかを確かめておくと、判断がしやすくなります。

書面の名前作られる場面性質
供述調書取調べで話した内容をまとめる後の手続で証拠として扱われ得る
弁解録取書逮捕された直後などに言い分を聞かれる認否についての最初の記録になりやすい
上申書・供述書自分で文章を書いて提出する取調官がまとめるのではなく本人が書いた文章
取調べ状況報告書取調べの開始・終了の時刻などを記録する話した中身を認めるものではない
実況見分調書の立会人欄現場で状況を確認したとき立ち会った事実と指示説明の記録


 このうち取調べ状況報告書は、取調べが何時から何時まで行われたかを記録する書面で、供述の中身を認めるものではありません。供述調書への署名を控える場合でも、この書面まで一律に断らなければならないわけではありません。もっとも、記載された時刻が実際と食い違っていれば、その点は申し出ることになります。

署名・押印の前に「訂正を求める権利」がある


閲覧・読み聞かせと増減変更の申立て


 刑事訴訟法198条4項は、調書を本人に閲覧させるか読み聞かせて誤りがないかどうかを問うこと、そして本人が増減変更の申立てをしたときは、その供述を調書に記載しなければならないことを定めています。

 「増減変更の申立て」という言葉は耳慣れませんが、記載を増やす・減らす・変えるよう求めることです。実務では単に「訂正を求める」と表現されます。署名を求められる場面は、この確認の手続を経た後に来るのが本来の順序です。

「必ず書き直してもらえる」と書かれているわけではない


 この条文について、「捜査官は必ず訂正しなければならない」と説明されることがあります。ただ、条文の言葉は「その供述を調書に記載しなければならない」です。申し出た内容を記録に残す義務を定めたもので、元の記載を消して書き直すことまで一律に保証する文言にはなっていません。

 実際の扱いも一通りではありません。該当箇所を書き直したうえで訂正部分に押印を求められることもあれば、末尾に「〇〇の部分は誤りで、正しくは〇〇である」という形で書き加えられることもあります。どちらであっても、申し出た内容が書面のどこにどう残ったのかを、自分の目で確認しておきたいところです。口頭で「わかりました」と言われただけで、書面には何も残っていない、という事態は避けたいものです。

被害者・参考人として話を聞かれる場合も同じ


 これらの規定は、疑いをかけられている人だけのものではありません。刑事訴訟法223条2項は、被疑者以外の人から話を聞く場合にも198条3項から5項までを準用しています。被害を届け出た方も、目撃者として呼ばれた方も、調書の内容を確認し、違うところがあれば訂正を求め、納得できなければ署名押印を控えることができます。

 なお、198条2項が定める「供述をしなくてもよい旨の告知」は準用されていません。参考人に対してこの告知が法律上義務づけられているわけではない、ということです。もっとも、自分に不利益な供述を強要されないという憲法38条1項の保障は、立場を問わず及びます。

どこを直してもらうか|見落としやすい5つの箇所


1.自分が体験したことと、聞いた話・推測の区別


 「〇〇だったと思います」「人から聞きました」という趣旨で話したことが、断定の形で書かれていないかを確認します。自分が見た・自分がした事実と、人づてに知ったことや後から推測したことでは、証拠としての意味がまったく違います。

2.程度や量を表す言葉


 「強く」「激しく」「何度も」「かなり」といった言葉は、書面の印象を大きく左右します。一度なのか複数回なのか、触れたのか掴んだのか、押したのか突き飛ばしたのか。こうした語の選び方が、後の評価に直結することがあります。

3.時間・回数・金額などの数字


 記憶がはっきりしない数字が、断定的に書かれていないかを見ます。曖昧なものは、曖昧なまま書いてもらってかまいません。「覚えていません」「おおよそ〇時ごろだと思いますが、はっきりしません」という記載は、不正確な断定よりも誠実であり、後で他の資料と食い違いが生じたときにも守りになります。

4.「〜と思っていました」という心の中の記載


 自分が何を認識し、何を意図していたかという記載は、成立し得る罪や責任の重さに関わる部分です。「〇〇になるとわかっていました」「〇〇するつもりでした」という一文が、話した覚えのないまま入っていないかを確認してください。事実関係の記載以上に注意を要する箇所です。

5.締めくくりの一文と謝罪の言葉


 調書の末尾には、「以上のとおり間違いありません」「深く反省しています」といった包括的な一文が置かれることがあります。個々の記載に異議がなくても、この一文が全体をまとめて認める意味を持つことがあります。事実関係を争いたい場合や、反省の言葉を述べた覚えがない場合には、その部分についても申し出てよいところです。

訂正に応じてもらえないときの選択肢


署名・押印を断ることはできる


 刑事訴訟法198条5項は、本人が誤りのないことを申し立てたときに署名押印を求めることができるとしたうえで、ただし書で、これを拒んだ場合はこの限りでないと定めています。署名押印は義務ではなく、断ることが法律上認められています。内容に納得できないまま署名する必要はありません。

「押印だけ断る」は意味を持ちにくい


 ここは誤解されやすい点です。刑事訴訟法321条1項と322条1項は、供述を録取した書面が証拠として扱われるための入口の要件を、「署名若しくは押印のあるもの」と定めています。署名と押印の両方ではなく、どちらか一方があれば、この入口の要件は満たされます。

 したがって、「印は押さないが名前は書く」という対応は、この観点では断ったことになりません。控えるのであれば、署名も押印もしないという整理になります。

断った場合に起きること


 まず、その場ですんなり終わることは多くありません。理由を繰り返し尋ねられたり、「内容が正しいなら書けるはずだ」「言い分が裁判官に伝わらなくなる」と言われたりすることがあります。理由を説明する義務はありませんが、黙っているのが難しければ、「弁護士に相談してから判断したい」と伝える方法もあります。

 次に、断ったからといって、話した内容がなかったことになるわけではありません。取調べの経過は捜査報告書などの形で記録され、取調官が後に証言することもあります。防犯カメラの映像や通信の履歴といった客観的な資料は、調書とは別に残ります。「署名しなければ消える」と考えるのは正確ではありません。

 そして、断ることが有利に働くかどうかは事案によります。法律上の権利である以上、拒んだこと自体を理由に刑を重くする仕組みはありません。一方で、身柄拘束の必要性や処分の判断は、供述の経過を含むさまざまな事情を踏まえて行われます。「断れば安全」「署名すれば終わり」といった単純な図式では捉えにくい部分です。だからこそ、方針は事案ごとに検討する必要があります。

取調べが必ず録音・録画されているわけではない


 「やり取りは全部録画されているのだから、書面の文言にこだわらなくてもよいのでは」と考える方もいます。しかし、録音・録画が法律上義務づけられている範囲は限られています。

 刑事訴訟法301条の2が対象としているのは、死刑または無期の拘禁刑に当たる罪の事件、短期1年以上の有期拘禁刑に当たる罪であって故意の犯罪行為により被害者を死亡させた事件、そして検察官が自ら捜査する事件です。しかも、逮捕または勾留されている被疑者の取調べに限られます。

 警察庁が令和7年3月21日付けで発出し、同年4月1日から実施している通達も、この枠組みを前提としています。加えて、知的障害・発達障害・精神障害などがある被疑者の取調べについては、必要に応じて録音・録画を実施するよう努めるものとされ、それ以外の場合は、個別の事案ごとに必要性を判断して実施できるという整理になっています。

 つまり、多くの事件では、取調室でのやり取りを後から再現できる記録は残りません。残るのは、取調官がまとめた調書の文言です。だからこそ、その場で内容を確かめ、違うところを申し出ておくことに意味があります。

署名してしまった後にできること


取り消して白紙に戻す手続きはない


 いったん署名した調書について、後から取り消して存在しなかったことにする手続きは用意されていません。署名の前に閲覧や読み聞かせの機会があった以上、内容を確認したうえで署名したものとして扱われるためです。「事実と違う内容に署名してしまった」と後から述べても、そのまま受け入れられるとは限りません。

それでも取り得る手はある


 もっとも、何もできないわけではありません。実務では、次のような対応が検討されます。

  • 次の取調べの機会に、前回の調書の誤りを説明し、その内容を新たな調書に残してもらう
  • 弁護人から検察官に対し、調書の内容が事実と異なる旨の書面を提出する
  • 調書の記載と食い違う客観的な資料を集めて示す
  • 起訴された場合に、その調書の任意性や信用性を公判で争う


 最後の点について、刑事訴訟法322条1項ただし書は、自分に不利益な事実を認める内容の書面について、任意にされたものでない疑いがあると認めるときは証拠にできないと定めています。ただし、この主張が通るためには、そう言えるだけの具体的な事情を示す必要があります。

「前と言うことが違う」という負担は残る


 説明を変えること自体が禁じられているわけではありませんが、途中で供述が変わったという経過は記録に残ります。なぜ最初にそう述べたのか、なぜ変えたのかを説明できなければ、変更後の話まで信用されにくくなることがあります。署名の前に整えておくほうが負担が小さいのは、このためです。

立場によって考え方は変わる


疑いをかけられている立場


 事実関係を争っている場合、調書は後の判断を大きく左右します。訂正を求めるのか、署名を控えるのか、そもそも話す範囲をどうするのかは、事案の見通しと結びついた判断です。取調べの前に弁護士と方針を決めておきたい場面です。

被害を届け出た立場


 被害を届け出た方の調書も、後の手続で重要な資料になります。相手方の言い分と食い違う部分は必ず検討されるため、記憶があいまいなところを断定的に書かれてしまうと、かえって全体の信用性を疑われることがあります。実際より強い表現で書かれている場合も同じです。見たまま、記憶しているままに直してもらうことが、結果として自分を守ることにつながります。

事件と直接の関わりがない参考人


 「自分は関係がないから」と流し読みで署名してしまう例が見られます。しかし参考人の調書も証拠として扱われますし、話を聞かれるうちに立場が変わっていくこともあります。内容の確認は、立場にかかわらず必要です。

その場で避けたい対応


  • 読まずに、あるいは目を通したふりで署名する
  • 読み聞かせだけで済ませ、書面そのものを見ないまま署名する
  • 「後で直せるから」と言われて署名する
  • 記憶にないことを「たぶんそうだったと思います」で埋める
  • 早く終わらせたい一心で、違うと感じた記載をそのままにする
  • その場で押し問答になり、感情的なやり取りに発展させる


署名を求められた場面で使える言い方


 言葉が出てこない場面に備えて、いくつか用意しておくと落ち着いて対応できます。

  1. 読み聞かせだけでなく、自分の目で読ませてください。
  2. 〇〇と書かれている部分は、私が話した内容と違います。直してください。
  3. その点は記憶がはっきりしないので、「覚えていない」と書いてください。
  4. 直していただけないのであれば、署名と押印は控えます。
  5. 弁護士に相談してから返事をしたいので、いったん時間をください。


 逮捕・勾留されていない在宅の事件であれば、刑事訴訟法198条1項ただし書により、取調べの途中で退去することもできます。署名を求められた時点で判断がつかないときは、いったん中断して相談するという選択肢があります。

弁護士に相談するタイミング


 最も望ましいのは、取調べを受ける前の段階です。どのような書面が作られるのか、どこに注意すべきかを事前に把握しておくだけで、その場での対応は変わります。

 在宅の事件では、弁護士が警察署まで同行し、取調べの前後で打ち合わせを行う対応も可能です。取調室に同席することは現行法上認められていませんが、署名を求められた段階でいったん中断し、外で相談したうえで返事をすることはできます。

 逮捕・勾留されている場合は、接見を通じて方針を確認します。まだ弁護士がついていない段階でも、当番弁護士の派遣を申し出る方法や、要件を満たせば被疑者国選弁護人の選任を求める方法があります。

 当事務所では初回のご相談を無料でお受けしており、ご相談の受付は24時間対応しています。出頭への同行は全国で対応が可能です(移動にかかる費用は別途となります)。夜間・早朝についても、状況により対応できる場合があります。

まとめ


 調書に署名・押印を求められたときの選択肢は、「署名する」か「拒否する」かの二つではありません。その手前に、内容を確認し、違うところを直してもらうという段階があります。

 刑事訴訟法は、調書を閲覧させるか読み聞かせて誤りがないかを問うこと、申し出があればその内容を調書に記載することを定めています(198条4項)。そのうえで、署名押印を断ることも認めています(198条5項)。この二つは、被疑者だけでなく、被害を届け出た方や参考人として話を聞かれる方にも及びます(223条2項)。

 多くの事件で、取調室でのやり取りを後から再現できる記録は残りません。目の前の書面が、そのまま記録として残ります。読むのに時間がかかっても、その場で直してもらうことをためらわないでください。判断に迷うときは、署名の前に弁護士にご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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