「認める調書」を作られないために|風俗トラブルの取調べ対応の注意点

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

 風俗店での本番・盗撮などをめぐるトラブルは、店舗との示談交渉だけで終わるとは限りません。被害届が出されるなどして警察の捜査が始まると、「取調べ」を受け、そこで供述調書が作られることになります。

 この供述調書、いわゆる「調書」は、後の刑事手続で重要な証拠になります。とりわけ、事実と違う内容やニュアンスのまま「認める調書」が一度でき上がってしまうと、後から覆すのは簡単ではありません。

 この記事では、風俗トラブルで取調べを受けることになった方に向けて、供述調書とはどういうものか、そして不利な「認める調書」を作られないために知っておきたい注意点を、利用者(客側)の立場から整理して解説します。

そもそも「調書(供述調書)」とは何か

 取調べの場で、取調官があなたから聞き取った内容をまとめた書面が供述調書です。一般に「調書」と呼ばれるのは、この供述調書を指すことが多いといえます。

調書は「自分が話したそのままの言葉」ではない

 まず押さえておきたいのは、供述調書はあなたが話した言葉をそのまま文字にしたものではないという点です。取調官が聞き取った内容を、取調官の言葉で要約・整理して文章にします。

 そのため、実際に話したニュアンスと、でき上がった文章のニュアンスがずれてしまうことがあります。たとえば「はっきりとは覚えていないが、たぶんそうだったと思う」と話したことが、調書上は「〜しました」と断定的な表現に整理されてしまう、といった具合です。

身上調書と事件調書

 供述調書には、大きく分けて次の2種類があります。

  • 身上調書……氏名・家族構成・職歴・前科の有無など、あなた自身の身の上に関する内容を記載したもの。事件の中身は書かれません。
  • 事件調書……事件の具体的な内容や、そのときの状況・認識などを記載したもの。「認める調書」として問題になるのは、主にこちらです。

 

調書は刑事手続で証拠になる

 供述調書は、起訴されて刑事裁判になったときに、検察官から証拠として提出されることがあります。署名・押印がなされた調書は、その内容があなたの供述として扱われる可能性があるということです。

 だからこそ、内容が事実と合っているか、ニュアンスが不正確になっていないかを、その場でしっかり確認することが重要になります。

「示談書」と「調書」は別物

 風俗トラブルでは、現場で店員から示談書や誓約書へのサインを求められることがあります。これは店舗側(民事上のトラブル相手)が用意する書面で、警察が作る供述調書とはまったく別のものです。

 どちらも「認めてサインする」という点は共通しているため混同されがちですが、示談書は店舗との民事的な精算に関する書面、供述調書は刑事手続で証拠となりうる書面、という違いがあります。それぞれ対応の考え方が異なる点に注意してください。

なぜ風俗トラブルで「認める調書」が問題になりやすいのか

 風俗トラブルが刑事事件になる典型は、本番行為をめぐる不同意性交等罪や、盗撮をめぐる撮影罪などです。

 これらの事件では、有罪かどうか、あるいは処分の重さを左右する事情が、微妙な事実認定にかかっていることが少なくありません。たとえば次のような点です。

  • 相手の同意があったといえるか(同意の有無)
  • 撮影や行為について、どこまで認識・意図があったか(故意の有無・程度)
  • 行為が実際に行われたのか、未遂にとどまったのか

 こうした点は、「やった/やっていない」という単純な二択で割り切れないことが多いものです。ところが、取調べで動揺したまま曖昧に答え、その内容が調書上で断定的に整理されてしまうと、本来争える余地があった事実まで「認めた」ことにされかねません。

 風俗トラブルにおいて調書の内容が特に重く響くのは、こうした背景があるためです。

取調べで知っておきたい3つの基本的な権利

 取調べに臨むうえで、まず知っておきたい権利が3つあります。いずれも法律で認められたものです。

1. 黙秘権がある

 自分の意思に反して供述を強いられることはありません。これは憲法38条1項で保障された権利で、刑事訴訟法198条2項でも、取調べにあたって「供述を拒むことができる」旨を告げなければならないとされています。

 答えたくないことについては、答えないという選択ができます。特に事実関係を争う可能性がある場合には、どこまで話すかを慎重に考える必要があります。

2. 供述調書に署名・押印をする義務はない

 でき上がった供述調書に署名・押印するかどうかは、あなたの判断に委ねられています。刑事訴訟法198条5項でも、調書に誤りがないと申し立てたときに署名押印を求めることができるとされる一方、これを拒んだ場合はこの限りでない、とされています。
 つまり、内容に納得できない調書に署名・押印をしないという対応は、法律上認められた選択肢です。

3. 調書の訂正を求めることができる

 読み聞かせや閲覧の際に、事実と違う部分やニュアンスが正確でない部分があれば、その場で訂正を申し立てることができます。訂正に応じてもらえない場合には、署名・押印を控えるという判断もあり得ます。

「認める調書」を作られないための具体的な注意点

 以上を踏まえ、実際の取調べで意識しておきたいポイントを整理します。

事実・ニュアンスと違う調書に、その場で署名・押印しない

 調書は読み聞かせや閲覧の機会があります。少しでも事実と違う点、ニュアンスが強すぎる・弱すぎると感じる点があれば、訂正を求めましょう。訂正されないまま署名・押印を迫られたときは、いったん控えて、後で弁護士に相談する方が安全です。

曖昧な言葉・推測で答えない

 「たぶん」「〜だったと思う」といった推測交じりの言葉は、調書上で断定的な表現に整理されてしまうことがあります。記憶が定かでないことは「覚えていない」と正確に伝えることが大切です。記憶にない事実を、その場の雰囲気で埋めてしまわないよう注意してください。

誘導や「約束」に流されない

 取調べでは、早く終わらせたい気持ちや、その場の圧力から、意図せず事実と違う供述をしてしまうことがあります。

 過去の裁判例では、「認めれば不起訴にする」といった約束を用いた取調べや、黙秘権を告げずに行った取調べなど、任意性を欠く取調べで得られた自白は証拠として使えないと判断されたものもあります(自白の任意性。憲法38条2項、刑事訴訟法319条1項)。とはいえ、後からその主張が認められるとは限りません。まずは、誘導や約束に流されて安易に認めてしまわないことが肝心です。

取調べで言われたこと・答えたことを記録しておく

 在宅で取調べを受けた場合は、取調べが終わった後に、いつ・どのような質問をされ、どう答えたかをできる範囲でメモに残しておきましょう。逮捕・勾留されている場合は「被疑者ノート」を活用し、接見の際に弁護士へ正確に伝えることが役立ちます。

任意(在宅)と逮捕・勾留とで対応は変わる

 取調べには、逮捕・勾留されていない状態で受ける「任意の取調べ」と、逮捕・勾留された状態で受ける取調べがあります。

任意(在宅)の取調べの場合

 逮捕・勾留されていなければ、取調べに応じる法律上の義務はなく、日時の変更を求めることも可能です。取調べの途中でも、自分の意思で退席することができます。弁護士に依頼していれば、取調べの前に方針を相談したり、当日近くで待機してもらって随時アドバイスを受けたりすることもできます。

 ただし、正当な理由なく出頭を拒み続けると、逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断され、状況によっては逮捕につながることもあります。無視し続けるのではなく、適切に対応することが大切です。

逮捕・勾留されている場合

 逮捕・勾留されている場合は、取調べに応じる義務があるとされ、日時を自由に変えることは基本的にできません。それでも、取調室で何を話すか、黙秘するかどうかはあなたの自由です。弁護士との接見(面会)は保障されているため、早い段階で弁護士に相談し、対応方針を固めておくことが重要になります。

風俗トラブルで問題になりやすい罪と、調書の意味

 参考として、風俗トラブルで問題になりやすい主な罪を挙げておきます。刑罰は、2025年6月1日から懲役・禁錮が「拘禁刑」に一本化された後の呼称で記載しています。

  • 不同意性交等罪(刑法177条)……同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態で性交等をした場合などに問われ、法定刑は5年以上の有期拘禁刑とされています。同意の有無が争点になりやすく、調書の内容が結論を大きく左右し得ます。
  • 撮影罪(性的姿態等撮影処罰法/2023年7月施行)……人の性的な部位などを同意なく撮影する行為が対象で、法定刑は3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金とされています。撮影の認識や意図が問題になり得ます。

 いずれの罪も、「同意があったか」「どこまで認識していたか」といった点が処分を左右します。だからこそ、その点に関する供述をまとめた調書の内容が重要になるのです。

不安なときは、早めに弁護士へ相談を

 取調べを一人で受けることに不安を感じたり、事実関係に争いがある(同意があった、盗撮はしていない等)と考えていたりする場合は、取調べを受ける前の段階で弁護士に相談しておくことをおすすめします。弁護士に依頼すれば、次のような対応が可能です。

  • 取調べ前に、黙秘するかどうか・どこまで話すかといった方針を一緒に整理する
  • 在宅事件では、取調べに同行し、必要に応じてアドバイスを行う
  • 調書への署名・押印の判断について助言する
  • 店舗や相手方との示談交渉、刑事事件化の回避に向けた活動を行う

 弁護士法人若井綜合法律事務所は、東京・池袋(東池袋)と新橋に拠点を置き、風俗店でのトラブルを利用者(客側)の立場からサポートしています。刑事事件にすると迫られている方、高額な金銭を請求されている方のご相談にも、秘密を厳守して対応します。取調べへの対応でお悩みの際は、できるだけ早い段階でご相談ください。

まとめ

  • 供述調書(調書)は、あなたの言葉そのままではなく、取調官が要約して作る書面で、刑事手続の証拠になり得る。
  • 風俗トラブルでは、同意の有無や故意の程度といった微妙な事実が結論を左右するため、「認める調書」の影響が特に大きい。
  • 黙秘権、署名・押印を拒む権利、訂正を求める権利がある。事実やニュアンスと違う調書に、その場で安易に署名・押印しないことが重要。
  • 曖昧な推測で答えず、記憶にないことは「覚えていない」と正確に伝える。誘導や約束に流されない。
  • 争いがある事件では、取調べの前に弁護士へ相談しておくことで、不利な調書を作られるリスクを抑えやすくなる。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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