【風俗トラブル】示談金の領収書・受領書をどう作るか|後日の否認に備える

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

示談金を渡した後、あるいは受け取った後になって、「そんなお金は受け取っていない」「あれは別の名目で渡されたお金だ」と食い違いが生じることがあります。金額や条件をきちんと書面にしていても、支払いそのものの記録が薄いと、後から説明する手立てが残りません。

 領収書や受領書は、その説明の手立てにあたる書面です。ただし、買い物の際に受け取る領収書とは事情が違います。示談金の場合は、金額と日付だけでは足りず、そのお金が何の名目で、どの合意に基づいて動いたのかまで残しておかないと、後日の食い違いには働きにくくなります。

 この記事では、示談金の領収書・受領書に何をどう書くのかを、後になって起きやすい否認の型から逆算して整理します。支払う側・受け取る側のどちらの立場からも読めるようにまとめました。

この記事で扱うこと・扱わないこと

 先に範囲をはっきりさせておきます。次の点は別の主題として扱っていません。

  • 示談書そのものに入れる条項の設計や、清算条項の効力の及ぶ範囲。
  • 現金で渡すか振込にするかという支払方法の選び方と、書類をいつまで手元に置くかという保管の話。
  • 分割払いの条件設計、期限の利益喪失の定め方、公正証書にするかどうかの判断。
  • 署名と記名押印の違いなど、書面の成立そのものをめぐる形式論。
  • 請求された金額が妥当かどうかという評価。


 この記事で扱うのは、お金が実際に動いた場面で作られる一枚の書面です。その一枚に何が書かれていれば後日の食い違いに耐えられるのか、逆に何が抜けていると説明が難しくなるのかを見ていきます。

領収書・受領書・受取証書は何が違うのか

 最初に、呼び名の整理をしておきます。

表題の違いで効力が変わるわけではない

 「領収書」「受領書」「受取書」「預り証」など、実務ではさまざまな表題が使われます。ただ、表題そのもので効力が決まるわけではありません。金銭を受け取った事実を証明するために作られ、支払った側に渡される書面であれば、表題がどれであっても同じ役割を持ちます。

 民法は、この種の書面を受取証書と呼んでいます。日常語としての「領収書」と、法律上の「受取証書」は、指しているものがほぼ重なると考えて差し支えありません。以下では読みやすさのため「領収書」と書きますが、表題が「受領書」でも同じことが当てはまります。

後からお願いするものではなく、引換えに求められるもの

 民法486条1項は、弁済をする者は弁済と引換えに受取証書の交付を請求することができる、と定めています。「引換えに」という部分が要点で、支払いを済ませてから頭を下げて頼むのではなく、渡すのと同時に出してもらうことを求められる、という位置づけです。

 この違いは実際の場面で効いてきます。支払いが終わった後に頼む形になると、相手が応じるかどうかは相手の気分次第になりがちです。あらかじめ「その場で受け取りの書面をいただきます」と伝えておくほうが、話が進みやすくなります。

紙でなければならないわけではない

 同条2項では、紙の受取証書の交付に代えて、その内容を記録した電磁的記録の提供を請求することもできるとされています。令和3年に加えられた規定です。ただし、受け取る側に不相当な負担をかける場合は除かれます。

 実務上は、対面で渡す場面では紙、遠方でやり取りする場面ではデータという使い分けが自然です。データで受け取る場合は、後から差し替えられていないかを説明できるよう、送られてきたメールごと残しておくと扱いやすくなります。

後日に起きやすい食い違いの型

 領収書に何を書くべきかは、「どんな否認があり得るか」から考えると整理しやすくなります。示談金をめぐって後から出てきやすい言い分と、それに対して働きやすい記載を並べると次のようになります。

食い違いの型後から出てくる言い分効きやすい記載
受領の否認そのお金は受け取っていない受領した旨の文言・日付・受領者の署名
名目の食い違いあれは貸したお金の返済だ/別件のお金だ但し書きでの名目と対象の特定
金額の食い違い受け取ったのはもっと少ない額だ金額の表記と改ざんを防ぐ書き方
充当先の食い違いそのお金は別の債務に充てたどの債務のどの部分に充てるかの明示
受領権限の食い違い本人は受け取っていない受領した者の立場と権限の表示
作成者の食い違いその書面は自分が作ったものではない署名押印(詳細は別稿)


 この表の右側が、そのまま記載事項の設計図になります。裏を返せば、日付と金額しか書かれていない領収書は、六つのうち一つ目の型にしか働きにくいということです。

記載の組み立て方

 順に見ていきます。

日付は「受け取った日」

 書面を作った日と、実際に金銭を受け取った日がずれることがあります。分割の途中や、後日まとめて書面を整える場合です。ずれる可能性があるなら、受領日と作成日を分けて書いておくと、後から時系列を説明しやすくなります。

宛名は正式な表記で

 宛名は、支払った人が誰かを示す欄です。略称や通称ではなく、示談書に記載されているものと同じ表記にそろえます。会社が支払う場合は法人名を省略せずに書きます。名前をそろえておくと、示談書と領収書が同じ件の書面であることが分かりやすくなります。

金額は書き換えにくい形で

 金額は、頭に記号や「金」の字を、末尾に区切りの記号や「也」を付けて、後から桁を足せない形にするのが一般的です。三桁ごとに区切りを入れるのも同じ趣旨です。細かい作法に見えますが、金額の食い違いという型に直接効く部分です。

受領者の表示と署名

 受け取った人の氏名と、必要に応じて住所を記載します。押印まで求めるかは事案によりますが、少なくとも自筆の署名があるかどうかで、後から「自分は作っていない」と言われたときの説明のしやすさが変わります。書面の成立をめぐる細かい論点は別稿に譲りますが、その場で完成させておくという点だけは共通します。

但し書きが働くところ

 記載事項の中で、示談金の領収書に固有の意味を持つのが但し書きです。

「示談金として」だけでは特定として弱い

 但し書きに「示談金として」とだけ書かれていると、どの件のどの合意に基づくお金なのかが分かりません。当事者間に別のやり取りがあった場合、後から名目を言い換えられる余地が残ります。

 特定の手がかりになるのは、いつ取り交わした合意に基づくものかです。示談書の作成日を但し書きに入れておけば、その一枚がどの書面と結びついているかが読み取れます。示談書に番号や表題が付いているなら、それも添えると分かりやすくなります。

全額なのか、一部なのか

 合意した金額の全部を渡したのか、その一部なのかは、但し書きに書き分けます。分割であれば何回目にあたるのかも記載します。ここが抜けると、後から「あれは全額だと聞いていた」「いや内金だ」という食い違いが生まれます。

終わりの合意まで書き込むかどうか

 但し書きに「本件に関し今後一切請求しない」といった趣旨の文言を入れるよう求められることがあります。金銭の受領を証明する書面に、争いの終わりまで書き込む形です。

 支払う側から見れば心強く映りますが、受け取る側から見ると、書面の性質が変わる点に注意が必要です。領収書は本来、渡した・受け取ったという事実を残す書面であり、争いの終わり方を定める役割は示談書が担っています。求められた文言をその場で判断せず、示談書の側で何を取り決めたのかと突き合わせてから決めるほうが安全です。逆に、示談書を作らずに領収書だけで済ませようとすると、この一枚に過大な役割を負わせることになります。

一部だけ渡すとき・分割で渡すとき

 支払いを何回かに分ける場合は、記録の作り方が変わります。

回ごとにその場で作る

 まとめて最後に一枚作るのではなく、渡すたびに一枚ずつ作るのが基本です。後からまとめて作ろうとすると、途中の回について記憶と記録が食い違ったり、相手の協力が得られなくなったりします。

どの債務に充てるかを示しておく

 同じ相手との間に複数の金銭のやり取りがある場合、渡したお金がどれに充てられるかが問題になります。民法488条1項は、弁済をする者が給付の時に充当すべき債務を指定することができると定めており、同条3項でその指定は相手方への意思表示によってするとされています。

 つまり、渡すときに「これは示談書に基づく第2回分として」と伝え、その旨を但し書きに残しておけば、後から別の債務に振り替えられたと主張されにくくなります。逆に何も述べずに渡すと、受け取る側が充当先を指定できる場面が生じます。なお、遅延損害金や費用がある場合の充てられる順序には別の決まりがあり、そちらは別稿で扱います。

代理人が受け取る場合

 双方に弁護士が入っている場合、示談金は相手方代理人の預り金口座に振り込む流れになることが少なくありません。この場合の領収書は、受け取った代理人の名義で作られるのが通常です。

 確認しておきたいのは、その人に受け取る権限があるかどうかです。代理人として受領する旨が書面に表れていれば、後から「本人には届いていない」と言われたときの説明がしやすくなります。相手が個人ではなく法人で、担当者が受け取る場合も同じ考え方です。名刺を渡されただけの相手に現金を渡す形は避けたほうがよく、権限に不安があるなら、本人名義の口座への振込に切り替えるほうが記録として安定します。

振込のときも領収書は要るのか

 振込であれば、いつ・いくら・どの口座に入ったかは金融機関の記録に残ります。この点だけを見れば、領収書がなくても支払いの事実は説明できます。

 ただし、振込の記録に残らないものがあります。そのお金が何の名目だったのかです。振込明細に残るのは名義と金額と日付であって、示談金なのか貸したお金なのかは書かれていません。当事者間にお金のやり取りが一度しかなければ問題になりにくいのですが、複数のやり取りがあった事案では、ここが後から争点になります。

 対応としては、示談書のなかに受領した旨や振込先を書き込んでおく方法、振込の後に受領の書面をもらう方法があります。どちらを選ぶにせよ、名目が残る形になっているかを一度確かめておくとよいでしょう。

収入印紙は必要か

 領収書を作る側から質問が出やすいのが印紙です。

 金銭の受取書は印紙税の課税文書に当たりますが、損害賠償金は売上代金には当たらないという整理がされており、示談金の受取書は売上代金以外の受取書の区分で扱われるのが通常です。この区分では、記載金額が一定額に満たない場合は課税されず、それを超える場合も定額で足ります。

 さらに、営業に関しない金銭の受取書は非課税とされています。営業とは、営利を目的として同種の行為を繰り返し行うことを指し、会社などの営利法人や商人の行為はこれに当たる一方、商人でない個人の行為は当たらないとされています。個人間の示談金であれば、この点から課税されない場合が多いということです。

 もっとも、示談金という名目でも実質が商品代金の弁償にあたると読める場合など、別の区分になる可能性もあります。判断に迷う場合は税務署や税理士に確認しておくと安全です。なお、印紙を貼る義務は書面を作った側にあり、貼られていないことが書面の効力そのものを左右するわけではありません。相手の書面に印紙がないという理由で受け取りを拒む必要はない、ということです。

受け取る側から見たとき

 ここまでは支払う側の視点が中心でしたが、受け取る側にも備えるべきことがあります。

控えを残す

 領収書を渡すと、支払った側には支払いの証拠が残る一方、受け取った側の手元には何も残りません。同じものを2通作って1通を保管する、渡す前に写しを取っておくといった形で、控えを残しておきます。

文言をそのまま受け入れない

 支払う側があらかじめ用意した領収書に署名だけを求められることがあります。但し書きの文言が、こちらの認識と合っているかは確かめてから署名します。特に、金額の位置づけ(全額か一部か)と、争いの終わりに関する文言は読み飛ばさないほうがよい部分です。

受け取った日と入金日のずれ

 振込の場合、送金した日と着金した日がずれることがあります。領収書の日付をどちらに合わせるかは、着金を確認してから作成するのが分かりやすい進め方です。着金前に日付だけ先に入れた書面を渡すと、その後に入金がなかったときに困ることになります。

もらえなかったとき・なくしたとき

 その場で受け取れなかった場合でも、打てる手はあります。

書面で求める

 口頭で頼んで応じてもらえないときは、いつ・いくらを・どの名目で渡したのかを書いたうえで、受領の書面を求める旨をメールなどの形に残しておきます。相手が応じなくても、こちらから求めた事実と、支払いの内容についてのこちらの認識が記録に残ります。

紛失したときの再発行

 なくしてしまった場合は、再発行を求めることになります。このとき、同じ体裁の書面がもう1通存在することになるため、二重に支払いがあったかのように見えることがあります。再発行であることが分かる記載を入れてもらうか、いつの分の再発行かを明記してもらうと、後の混乱を避けられます。

受け取りを拒まれる場合

 相手が受け取り自体を拒む、連絡が取れないといった事情があるときは、支払いの方法そのものを組み替える必要が出てきます。この場面は個別性が高く、進め方の判断には専門家の関与が向いています。

よくあるご質問


手書きとパソコン作成のどちらがよいですか

 どちらでも構いません。書式が決まっているわけではなく、市販の用紙でも、パソコンで作って印刷したものでも同じように扱えます。ただ、パソコンで作る場合も、受領者の氏名は自筆で署名してもらうほうが、後から作成者を争われたときの説明がしやすくなります。

押印のない領収書でも意味がありますか

 押印がないことだけを理由に無意味になるわけではありません。署名があれば、誰が作った書面かを示す手がかりになります。もっとも、押印があるほうが説明しやすい場面もあるため、その場で押せるなら押してもらうに越したことはありません。

相手が住所を知られたくないと言っています

 受領者の住所の記載は必須ではありません。氏名と署名があれば書面としては足ります。事情に応じて、記載する範囲を相手と相談して決めることになります。

示談書に「受領した」と書けば領収書は不要ですか

 示談書の中に、その場で金銭を受け取った旨を書き込む方法はあります。書面が1通で済むという利点がある一方、示談書の作成と支払いが同じ日でなければ使えません。日をあらためて支払う場合や分割の場合は、別に受領の書面を作ることになります。

弁護士に相談する意味

 領収書は、一枚ものの短い書面です。ただ、これまで見てきたとおり、そこに何を書くかは示談書に何を書いたかと結びついており、切り離して考えると抜けが生じます。

 弁護士に依頼した場合、示談書の作成から支払いの受け渡し、受領書面の取り交わしまでを一続きの手続として組み立てることになります。代理人が窓口となることで、支払いの場に本人が同席しなくても進められる、相手と直接連絡を取らずに済むといった副次的な効果もあります。金額の交渉が終わった後の実行の場面こそ、後日の紛争の芽が残りやすいところです。

まとめ


  1. 領収書・受領書・受取証書は表題が違っても役割は同じで、民法上は受取証書と呼ばれる。
  2. 受取証書は、支払いの後に頼むものではなく、支払いと引換えに求められる(民法486条1項)。
  3. 紙のほかに、電磁的記録での提供を求めることもできる(同条2項)。
  4. 何を書くかは、後日どのような否認があり得るかから逆算して決めると整理しやすい。
  5. 日付と金額だけでは、名目や充当先をめぐる食い違いには働きにくい。
  6. 但し書きには、いつの合意に基づくものか、全額か一部か、分割の何回目かを書き込む。
  7. 複数の債務がある場合は、渡すときに充てる先を示しておく(民法488条1項・3項)。
  8. 代理人が受け取る場合は、その立場と権限が書面に表れているかを確かめる。
  9. 振込でも、名目までは記録に残らないという点は変わらない。
  10. 受け取る側は控えを残し、用意された文言をそのまま受け入れない。


ご相談について

 示談金の受け渡しは、条件がまとまった後の最後の場面にあたりますが、ここでの記録の残し方が、後から蒸し返しが起きたときの説明のしやすさを左右します。書面の文言に迷う場合や、相手から示された書面に署名してよいか判断がつかない場合は、署名する前にご相談ください。

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルや金銭の受け渡しをめぐるご相談を承っています。池袋・新橋の事務所でお話を伺いますので、お困りの際はお気軽にお問い合わせください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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