家族に危害を加えると言った|脅迫罪の「親族」の範囲

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

言い争いのなかで「お前の家族に危害を加えるぞ」といった言葉を口にしてしまい、あとから脅迫罪という言葉を目にして不安になっている。あるいは、相手の親や子どもを引き合いに出した自分の発言が、どこまで問題になるのかを知りたい。そうしたご相談をいただくことがあります。

 刑法222条は、本人に向けた害悪の告知だけでなく、その「親族」に向けた害悪の告知も同じように扱う構造になっています。ここで手がかりになるのが、日常語の「家族」と、条文でいう「親族」が重なりながらも一致しないという点です。内縁のパートナーや交際相手は条文上の親族ではありませんし、逆に、日ごろ家族とは考えていない遠い縁者が範囲に入っていることもあります。

 この記事では、脅迫罪の対象となる「親族」がどの範囲で決まるのか、親等の数え方、日常の感覚とずれやすい場面、親族に当たらない人を挙げた場合に何が問題になるのかを、告げた側の立場から整理します。

「家族に危害を加える」と告げたときに問題になる条文


刑法222条は二段構えになっている


 脅迫罪は刑法222条に定められており、1項が本人に対する害悪の告知、2項が親族に対する害悪の告知を対象としています。

 1項は、生命、身体、自由、名誉または財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した場合を対象とします。2項は、親族の生命、身体、自由、名誉または財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した場合も、前項と同様とすると定めています。

 法定刑はいずれも2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です。未遂を処罰する規定は置かれていません。害悪の対象となる法益は生命・身体・自由・名誉・財産の5つに限られており、この5つ以外の不利益を告げても、条文上は222条の枠に入りません。

「告げた相手」と「害を向けた相手」は別の人になる


 2項の特徴は、登場人物が2人になる点です。言葉を告げられた人(脅されたとされる人)と、その言葉のなかで危害の対象として挙げられた人が別々に存在します。

 このとき親族関係は、告げられた人を起点として判断されます。たとえば「お前の父親を痛い目に遭わせる」と告げた場合、父親は告げられた本人の1親等の血族ですから2項の範囲に入ります。一方で「お前の交際相手の母親を痛い目に遭わせる」と告げた場合、交際相手の母親は告げられた本人の親族ではないため、条文の文言だけをたどれば2項の枠から外れることになります。

 どちらから見た親族なのかを取り違えると結論が反対になるため、まずこの起点を確認しておく必要があります。

条文の「親族」は民法725条の範囲で考えられている


 刑法222条2項は「親族」の定義を置いていません。通説は、民法725条の定める親族の範囲によると解しています。具体的には次の3つです。

・6親等内の血族
・配偶者
・3親等内の姻族

 血族は血のつながりのある人で、養子縁組による法定血族も含みます。姻族は、自分の配偶者の血族と、自分の血族の配偶者を指します。配偶者本人は親族ですが、姻族ではありません。

区分条文上の範囲よくある例
血族6親等内父母、子、祖父母、孫、兄弟姉妹、おじ・おば、甥・姪、いとこ など
配偶者婚姻している相手夫、妻
姻族3親等内配偶者の父母、配偶者の兄弟姉妹、配偶者の甥・姪、兄弟姉妹の配偶者 など


 この範囲は、日常語の「家族」よりも広い部分と狭い部分の両方を持っています。同居しているかどうか、日ごろ行き来があるかどうかは、条文上の範囲を決める要素にはなっていません。

親等はどのように数えるのか


 親等の数え方は民法726条に定めがあります。直系の親族は、その間の世代数で数えます。傍系の親族は、いったん共通の祖先までさかのぼり、そこから相手まで下るまでの世代数で数えます。系図の上で線をたどり、その本数を数えるとイメージしやすいかもしれません。

 血族の場合、代表的なものは次のとおりです。

関係親等
父母、子1親等
祖父母、孫、兄弟姉妹2親等
曽祖父母、ひ孫、おじ・おば、甥・姪3親等
いとこ4親等
はとこ(またいとこ)6親等


 いとこは4親等、はとこは6親等ですから、いずれも6親等内の血族に含まれます。ふだん「家族」とは呼ばない間柄でも、条文の範囲には入っているということです。

 姻族の場合、3親等までが範囲となります。

関係親等
配偶者の父母、配偶者の連れ子1親等
配偶者の兄弟姉妹、兄弟姉妹の配偶者、配偶者の祖父母2親等
配偶者の甥・姪、おじ・おばの配偶者3親等
配偶者のいとこ4親等(範囲外)


 姻族については、数え方を誤りやすい組み合わせがいくつかあります。夫の親と妻の親は、互いに姻族ではありません。兄の妻と弟の妻のように、血族の配偶者どうしの関係も姻族ではないとされています。姻族の配偶者や姻族の血族まで、際限なく広がっていくわけではないということです。

日常の「家族」と条文の「親族」がずれやすい場面


 ご相談の場面で判断が分かれやすいのは、次のような関係です。

内縁・事実婚・婚約者・同棲している相手


 婚姻の届出をしていない内縁関係や事実婚のパートナー、婚約者、同棲している交際相手は、民法725条の親族には含まれません。生活の実態としては家族そのものであっても、条文の親族という枠には入らないという整理です。

 この点について、内縁関係や法律上の手続を終えていない養親子関係にある人も親族に含めるべきだとする学説もありますが、少数説にとどまるとされています。

離婚した後、配偶者が亡くなった後


 離婚をすると、相手は配偶者ではなくなります。あわせて、姻族関係も離婚によって終了します(民法728条1項)。元配偶者の父母や兄弟姉妹は、離婚後は姻族ではなくなるということです。

 配偶者が亡くなった場合は扱いが異なります。死別によって姻族関係が当然に終わるわけではなく、生存している配偶者が姻族関係を終了させる意思表示をしたときに終了するとされています(同条2項)。届出をしていなければ、配偶者の父母などとの姻族関係は続いていることになります。

養子縁組をした場合、配偶者の連れ子


 養子と養親およびその血族との間には、養子縁組の日から血族間におけるのと同一の親族関係が生じます(民法727条)。血のつながりがなくても、条文上は血族として扱われるということです。離縁をした場合には、この親族関係は終了します(同法729条)。

 配偶者の連れ子は、配偶者から見て1親等の血族ですから、自分から見ると1親等の姻族になります。養子縁組をしていれば、あわせて1親等の血族としての関係も生じます。

認知していない子


 婚姻していない相手との間の子について、認知の手続がとられていない段階では、法律上の父子関係が生じていません。この場合、条文上の血族としては扱われないことになると考えられます。事実上の親子として生活していても、届出の有無で結論が変わりうる場面です。

「家族」とだけ述べた場合


 特定の人を名指しせず「家族に危害を加える」とだけ述べた場合、誰を指しているのかは前後のやりとりから判断されることになります。同居している配偶者や子を指していると読める文脈であれば、2項の範囲に入る人が対象として挙げられたと評価される場合があります。言い方が曖昧であれば当然に範囲外になる、という関係にはありません。

親族に当たらない人を挙げた場合は問題にならないのか


 交際相手や友人など、親族に当たらない人を挙げた場合、刑法222条の文言からは外れます。もっとも、そこで話が終わるとは限りません。次の3つの見方があります。

本人自身への害悪の告知と読める場合


 親族以外の人に対する加害であっても、それが間接的に本人または親族の生命・身体・自由・名誉・財産を害する危険を持つ関係にあるときは、脅迫罪を構成しうると学説上は考えられています。言葉の一部だけを取り出すのではなく、やりとり全体のなかでどのような害悪が告げられたと読めるのかが問われることになります。

要求とセットになっている場合


 危害を告げるだけでなく、金銭の支払いや何らかの行為を求めていた場合には、別の条文が問題になります。対象となる範囲は条文ごとに異なります。

条文対象となる害悪の向け先法定刑
脅迫罪(222条)本人またはその親族2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金
強要罪(223条)本人またはその親族3年以下の拘禁刑
恐喝罪(249条)条文上の限定なし10年以下の拘禁刑


 強要罪も2項で「親族」と定めており、脅迫罪と同じ限定がかかっています。一方、財物の交付を求める恐喝罪には、害悪を向ける相手についての条文上の限定がありません。親族に当たらない人を挙げた場合でも、金銭の要求を伴っていれば恐喝の問題として扱われることがあるということです。

別の法律の枠組みが用いられる場合


 交際関係にある相手や配偶者との間の出来事については、ストーカー行為等の規制等に関する法律や、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律といった枠組みが用いられることもあります。これらは刑法222条とは対象の定め方が異なっており、同じ言動でも別の手続が進む場合があります。

相手が親族に当たると思っていなかった場合


 犯罪が成立するには、原則として、条文に書かれた事実を認識していたことが必要とされています。222条2項でいえば、危害の対象として挙げた人が告げた相手の親族にあたるという事情の認識が問題になると考えられます。

 もっとも実際の場面では、「お前の家族」「お前の親」といった呼び方で述べていることが多く、その場合には親族に向けた言葉として述べたと受け取られやすくなります。親等の細かい数字まで意識していなかったという説明が、そのまま結論を左右するとは限りません。関係性をどう認識していたかは、やりとりの経緯や普段の付き合いの有無などから検討されることになります。

言ってしまった後に気をつけたいこと


 感情的な場面での発言について、あとから振り返って心配になっている場合、次の点を整理しておくと状況の見通しが立てやすくなります。

・そのときのやり取りの記録(メッセージ、通話履歴、日時、同席していた人)を、削除せずそのまま保存しておく
・弁明や釈明のつもりであっても、相手や名前を挙げた家族に自分から重ねて連絡しない
・何をどこまで述べたのか、記憶が新しいうちに時系列でメモにしておく
・警察から連絡があった場合は、日時と担当部署を控えたうえで対応を検討する
・示談の申し入れや金銭のやり取りを、当事者どうしで先に進めない

 相手方に直接連絡を取る行動は、事態を落ち着かせるつもりであっても、別の問題として受け取られることがあります。窓口を一本化しておくほうが、結果として整理しやすい場合が多いといえます。

手続の流れと処分の見通し


 脅迫罪は親告罪ではないため、被害を受けたとされる人の告訴がなくても捜査や起訴が行われる可能性があります。公訴時効は3年です(刑事訴訟法250条2項6号)。

 なお、団体もしくは多衆の威力を示して、または数人共同して脅迫が行われた場合や、凶器を示して行われた場合には、暴力行為等処罰に関する法律1条により3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金となることがあります。同じ言葉でも、その場の人数や状況によって適用される条文が変わりうるということです。

 処分の見通しを考えるうえでは、発言の内容と経緯、それまでの関係、繰り返しの有無、当事者間の話し合いの状況などが検討材料になります。名前を挙げられた家族がいる事案では、告げられた本人だけでなく、その家族の受け止めも問題になる場合があります。誰との間で、どのような形で話し合いを進めるのかは、事案ごとに検討する必要があります。

よくあるご質問


同居していない親族でも対象になりますか


 民法725条の範囲は、同居しているかどうかで区切られていません。別居している親や、長年会っていないきょうだいであっても、6親等内の血族であれば条文上の範囲に含まれます。

相手が実際には怖がっていなかった場合はどうなりますか


 脅迫罪は、告げられた人が現実に恐怖を感じたことまでは必要とされていないと解されています。一般的に見て怖いと感じられる内容の害悪が告げられたかどうかが判断の対象になります。もっとも、そのときの状況や関係性は、告げられた内容をどう評価するかという場面で考慮されます。

家族どうしの言い争いでも脅迫罪の問題になりますか


 刑法には、家族の間だからという理由で成立しないとする規定は置かれていません。財産に関する一部の犯罪については親族間の特例がありますが、脅迫罪はその対象に含まれていません。家族の間の出来事であっても、条文の要件を満たせば問題になりうるということです。

まとめ


 刑法222条2項の「親族」は、通説上、民法725条の範囲、すなわち6親等内の血族・配偶者・3親等内の姻族で考えられています。この範囲は、同居や日ごろの付き合いとは切り離されて決まるため、日常語の「家族」とは重ならない部分が出てきます。

 いとこやはとこのように、家族とは呼ばない間柄でも範囲に入ることがある一方、内縁のパートナーや婚約者、交際相手は含まれません。離婚や死別、養子縁組や離縁、認知の有無によっても、条文上の関係は変わります。そして、親族に当たらない人を挙げた場合でも、やりとり全体の読み方や、金銭の要求を伴っていたかどうかによって、別の条文が問題になることがあります。

 ご自身の発言がどう扱われるのかは、言葉そのものだけでなく、経緯や状況を含めて検討する必要があります。判断に迷う場合は、記録をそのまま残したうえで、早い段階で弁護士にご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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