【親子問題】示談金を親が払うべきか|払う場合の条件
本記事は2026年9月時点の法令に基づいて作成しています。薬物に関する法律は近年改正が続いているため、具体的な対応を決める際は最新の情報をご確認ください。
子どもの部屋で見慣れない粉や植物片を見つけた、本人が使ったことを認めた。こうした場面で多くの親御さんが迷うのが「警察に通報すべきなのか」という点です。通報すれば逮捕されるかもしれず、しなければ使用が続くかもしれません。本記事では、親に通報の義務があるのかという法律上の位置づけを整理したうえで、通報する・しないを考えるための材料と、窓口ごとに起きることを順に解説します。
親に通報する義務はあるのか
まず前提として、家族が違法薬物の使用に気づいたからといって、警察に届け出なければ処罰されるという法律はありません。刑事訴訟法239条1項は「何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる」と定めており、一般の人にとって告発は「できる」ものです。告発が義務とされているのは、職務上犯罪を知った公務員(同条2項)に限られます。
子が20歳未満の場合は、少年法6条1項に「家庭裁判所の審判に付すべき少年を発見した者は、これを家庭裁判所に通告しなければならない」という規定があります。条文上は「しなければならない」という書き方ですが、罰則は定められていません。この規定を理由に、通告しなかった保護者が処罰されることはないと考えてよいでしょう。
つまり、通報するかどうかは、法律上は親御さんが判断してよい事柄です。ただし「通報しない」ことと「事実を隠すために何かをする」ことは別の問題として扱われます。
通報しない場合でも避けておきたい行動
子を守りたい気持ちから、見つけた薬物を捨てたり、警察からの問い合わせに事実と違う説明をしたりすると、親自身が法的な問題を抱えるおそれがあります。
| 行動 | 問題になりうる点 |
|---|---|
| 見つけた薬物を捨てる・隠す | 証拠隠滅罪(刑法104条)に当たる可能性があります。 |
| 薬物を自分で保管しておく | 親自身が所持を疑われるおそれがあります。 |
| 捜査中の子をかくまう・逃がす | 犯人蔵匿・隠避罪(刑法103条)に当たる可能性があります。 |
| 事情を知りながら使用の資金を渡し続ける | 法的評価とは別に、使用を続けやすい環境を支えることになりかねません。 |
刑法105条には、親族が犯人の利益のために証拠隠滅や犯人蔵匿をした場合に「その刑を免除することができる」という特例があります。ただし、これは裁判所の判断で免除できるという規定であり、必ず免除されるわけではありません。家族の特例の範囲については家族をかくまった|犯人蔵匿罪と親族の特例で詳しく解説しています。
大阪府警察は、子どもの薬物使用に関する相談への回答として、薬物を発見した場合は触らずに110番するよう呼びかけています。通報するかどうかを決めかねている段階でも、見つけた物には手を触れず、そのままの状態で専門家に相談するのが無難です。同じ家に薬物があった場合の家族の立場については現場に薬物があった場合|同席していただけでも問われるかもご参照ください。
判断の前に確かめておきたい3つのこと
物の種類や子の年齢によって、法律上の扱いも適切な相談先も大きく変わります。
何を使っているのか
| 種類 | 主な例 | 法律上の扱い |
|---|---|---|
| 違法薬物 | 覚醒剤、大麻、MDMA、コカインなど | 所持・使用などが処罰の対象です。 |
| 危険ドラッグ | 指定薬物を含む製品 | 医薬品医療機器等法により、所持・使用なども規制されています。 |
| 市販薬・処方薬の過量服薬 | 風邪薬、鎮咳薬、睡眠薬など | 自分で使うこと自体は、通常犯罪にはなりません。 |
2024年12月の法改正により、大麻は「使用」も処罰の対象となりました(大麻の「使用」も処罰対象になった|2024年12月施行の改正の要点)。一方、市販薬の過量服薬(オーバードーズ)は、刑事手続ではなく健康と安全の問題として医療機関や相談機関につなぐことが中心になります。
子は何歳か
| 子の年齢 | 手続の概要 |
|---|---|
| 14歳未満 | 刑事責任を問われず、児童相談所による対応が中心になります。 |
| 14歳以上18歳未満 | 少年事件として、原則すべて家庭裁判所に送られます。 |
| 18歳・19歳 | 特定少年として家庭裁判所に送られますが、事件によっては成人と同様の裁判になる場合があります。 |
| 20歳以上 | 成人の刑事手続となり、親が手続に関与できる場面は限られます。 |
少年事件は、罰を与えることよりも立ち直りを目的とした手続です。一方で、成人した子については親に法的な監督の権限がなく、本人の同意がなければ治療にもつなげにくいのが実情です。成人した子に対して親ができることの範囲は【親子問題】成人した子の問題に親が介入できる法的な範囲で整理しています。
いま危険が差し迫っているか
錯乱して暴れている、刃物を持ち出した、意識がもうろうとしているといった場面では、通報すべきかどうかを考える前に、家族の身の安全と子の命を守ることを優先してください。暴力の危険があれば110番、意識や呼吸に異常があれば119番です。この場面での110番は薬物の告発というより、目の前の危険への対応と考えてよいでしょう。警察を呼ぶ判断の目安は【親子問題】110番を呼ぶ判断基準|その場で何を伝えるかで解説しています。
なお、精神保健福祉法22条は、精神障害またはその疑いのある人について、誰でも都道府県知事に診察と保護を申請できると定めています。薬物の影響で自分や他人を傷つけるおそれがある場合には、医療につなぐ道もあります。
相談先ごとに起きること
相談先によって、話した内容がその後どう扱われるかは異なります。
| 相談先 | 主な役割 | 捜査との関係 |
|---|---|---|
| 警察(110番・警察署) | 犯罪の捜査、少年相談 | 捜査機関のため、相談をきっかけに捜査が始まる可能性があります。 |
| 麻薬取締部の相談電話 | 薬物に関する相談 | 麻薬取締官は捜査権限を持つため、警察と同様に考えておく必要があります。 |
| 精神保健福祉センター・保健所 | 依存症の相談、家族教室 | 東京都立精神保健福祉センターは、相談によって警察に通報されることはないと明示しています。 |
| 依存症の専門医療機関 | 診断と治療 | 対応は医療機関ごとに異なるため、受診前の確認が望まれます。 |
| 弁護士 | 法的な見通しの整理、手続での援助 | 弁護士には守秘義務があり、依頼者の同意なく捜査機関に伝えることはありません。 |
警察に「相談だけ」をするつもりでも、刑事訴訟法189条2項により、警察は犯罪があると考えるときは捜査を行う立場にあります。相談の段階で子の氏名や使用の事実を具体的に伝えれば、捜査につながる可能性は十分にあると考えておいたほうがよいでしょう。
医療機関についても注意が必要です。最高裁は、医師が治療の過程で患者の尿から覚醒剤の反応を確認して警察に通報した事案で、この通報は守秘義務に反しないと判断しています(最高裁平成17年7月19日決定)。受診をためらう必要はありませんが、通報の方針については事前に確認しておくと安心です。
弁護士に相談した内容がどのように扱われるかについては、【親子問題】相談内容は子に伝わるのか|守秘義務と連絡の取り方もあわせてご覧ください。相談先全体の使い分けは【親子問題】親子の問題はどこに相談すればよいのか|警察・行政・弁護士の役割分担で整理しています。
通報を選ぶ場合・選ばない場合に考えておくこと
通報を検討したほうがよい場面
- 家族に対する暴力や、刃物などを使った危険な行動があります。
- 売買や受け渡しなど、自分で使う以外の関与がうかがわれます。
- 自宅に相当量の薬物や、小分けの袋・計量器などが置かれています。
- 背後に反社会的な集団や、闇バイトのような勧誘の影があります。
- 治療や相談を勧めても拒み続け、心身の状態が悪くなっています。
売買や受け渡しに関わっている場合、子が加害者として重い責任を負う立場に置かれていることもあれば、周囲の人物に利用されていることもあります。闇バイトとの関わりが疑われる場合は【親向け】子どもが闇バイトに関わっているかもしれない|兆候と最初の対応も参考になります。
通報した場合に起こりうること
違法薬物の事件は、証拠隠滅のおそれがあるとして逮捕・勾留されることが少なくありません(覚醒剤事件はなぜ勾留・保釈が厳しいのか|起訴前からの保釈準備)。少年の場合は、家庭裁判所に送られた後、少年鑑別所に収容される観護措置がとられることもあります。親としては、通報の時点でこうした身柄の拘束が起こりうることを受け止めておく必要があります。
一方で、手続に入ることが立ち直りのきっかけになる場合もあります。少年事件では、家庭環境や治療の受け皿を整えることが処分の判断材料になりますし、成人の場合も、治療や回復プログラムへの参加は情状として考慮されることがあります(ダルク・依存症治療への参加|情状としてどう評価されるか)。なお、親が通報しても本人の自首にはなりませんが、捜査機関に発覚する前に本人が自ら出頭した場合には、自首が成立して刑が減軽されることがあります(刑法42条1項。自分から出頭すべきか|自首の成否と実務上の意味)。
通報しない場合に残る課題
通報しないという選択は、問題を解決したことを意味するわけではありません。依存が進めば使用をやめることはますます難しくなり、別の場所で職務質問を受けて検挙されることもあります。入手のための金銭を家族に求めるようになったり、入手先との関係が深まったりするおそれもあります。通報しないのであれば、少なくとも依存症の相談機関や医療につなぐ道筋は並行して考えておきたいところです。
親だけで抱え込まないために
依存症の家族支援に取り組む特定非営利活動法人ASKは、家族が薬物を「やめさせる」ことはできないが、やめるための手助けはできると説明しています。親御さん自身が家族教室や家族会につながり、知識と支えを得ることも大切な一歩です。
当事務所では、ひきこもりや家庭内暴力、金銭の要求などの親子問題について、弁護士が親御さんの代理人となり、民間の自立支援カウンセラーとチームを組んで対応しています。子の住まい探しや仕事探し、日々の生活を支える役割をカウンセラーが担い、親と子のそれぞれが自立していくことを目指す取り組みです。薬物の問題は、こうした親子関係の問題と重なって表れることもあります。また、子が20歳未満で事件になった場合には、子本人の付添人・弁護人としての活動もお受けしています。家族として手続にどう関わるかは家族としてできること|身元引受・治療・監督体制の組み立てで解説しています。
よくあるご質問
子の名前を出さずに警察へ相談することはできますか
一般的な相談として、名前を伏せて問い合わせること自体は可能です。ただし、話の内容から人物が特定できる場合や、警察が犯罪の疑いがあると判断した場合には、捜査が始まる可能性があります。どこまで話すかを決めかねている場合は、先に弁護士に相談して見通しを整理しておくと安心です。
見つけた薬物をすでに捨ててしまいました
あわてて捨ててしまうことは珍しくありません。重要なのは、それ以上ご自身の判断で行動を重ねないことです。その後の対応によって評価が変わることもあるため、早めに弁護士へ経緯を伝え、どう動くべきかを相談してください。
弁護士に相談すると、警察に伝わりますか
弁護士には法律上の守秘義務があるため、ご相談の内容が本人の同意なく捜査機関に伝わることはありません。通報するかどうかを決める前の段階でも、安心してご相談いただけます。
通報するか・しないかの二択だけで考えると、判断は非常に重くなります。物の種類、子の年齢、危険の有無を整理し、相談先ごとに起きることを知ったうえで選ぶことが、親子双方にとって後悔の少ない道につながります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


