【親子問題】寮付きの仕事に就くことは、子の独立の一歩になる?
本記事は、2026年11月時点の法令(2023年4月施行の改正民法を含む)をもとにした一般的な解説です。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的な対応はご相談のうえでご判断ください。
親が亡くなったとき、葬儀の手配や住まいの片付けは子が担うものと考えられがちです。けれども実際には、長く疎遠になっていた、心身の不調で手続を進める力がない、親に借金があって相続放棄を考えているなど、子の側にそれを担えない事情があることは珍しくありません。
また、親の側から「自分が亡くなった後、ひきこもりの子には葬儀も片付けもできないだろう」と心配するご相談も寄せられます。この記事では、子が葬儀や遺品整理をできない場合に法律上どう扱われるのか、誰に任せられるのか、親が生前に何を準備できるのかを、順を追って整理します。
子が葬儀や遺品整理を担えない事情はさまざま
- 何十年も連絡を取っておらず、今さら関わりたくない。
- ひきこもりや病気があり、役所や葬儀社とのやり取りができない。
- 遠方に住んでいて、仕事を長く休むこともできない。
- 親に借金があるかもしれず、遺品に触れてよいのか分からない。
- 親との間に暴力などの経緯があり、親族とも顔を合わせたくない。
どの事情であっても、子が葬儀や遺品整理を担えないこと自体を責める必要はありません。大切なのは、担わない場合に何が起き、どこに注意すべきかを知っておくことです。以下では「いま親が亡くなり、子として対応を迫られている場合」を中心に説明し、後半で「親として生前に備えたい場合」を取り上げます。
子に葬儀を行う法律上の義務はあるのか
子だからといって、親の葬儀を必ず行わなければならないと定めた法律の規定は見当たりません。葬儀をどう行うかは、基本的には遺族や関係者の話し合いに委ねられています。
遺体の埋葬や火葬を行う人がいない場合や、誰が行うのか分からない場合については、墓地、埋葬等に関する法律9条により、死亡地の市町村長が行うこととされています。つまり、子が遺体の引き取りを断ったとしても、火葬が行われないまま放置されるわけではありません。亡くなった方が生活保護を受けていた場合には、葬祭扶助が関わることもあります。
死亡届は誰が出すのか
死亡届の届出義務者は、戸籍法87条で、同居の親族、その他の同居者、家主・地主や建物・土地の管理人の順に定められています。同居していない子は、届出をする「ことができる」立場ではありますが、義務者には含まれていません。
ただし、注意したい点もあります。弁護士ドットコムには、死亡届がなかなか出されず、相続放棄の申述に必要な戸籍がそろわないまま期限が迫って不安になったという相談が複数寄せられています。届出をするかどうかは、相続放棄の準備とあわせて考えておくとよいでしょう。なお、死亡届を出したことだけで相続を承認したとみなされるわけではありません。
葬儀費用は誰が負担するのか
葬儀費用の負担者を直接定めた規定はなく、相続人どうしの話し合いで決めるのが基本です。話し合いがまとまらない場合について、葬儀を主宰した人(いわゆる喪主)が負担すべきものとした裁判例もあります。子が葬儀を行わないと決めた場合、子が当然に費用を請求されるとは限らない一方、親族が立て替えた費用をめぐって話し合いが必要になることもあります。
遺品整理と相続放棄の関係
遺品整理で最も気をつけたいのが、相続放棄との関係です。親の遺品は、価値の大小にかかわらず相続財産にあたります。相続放棄をする前に相続財産を「処分」すると、民法921条1号により相続を承認したものとみなされ(法定単純承認)、相続放棄が認められなくなるおそれがあります。相続放棄は、原則として自分が相続人になったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所に申述する必要があります(民法915条1項)。
問題になりやすい行為となりにくい行為
| 行為 | 一般的な考え方 |
|---|---|
| 親の預金を引き出して自分のために使う | 処分にあたるおそれが高い |
| 貴金属・車など価値のある品を売る、持ち帰る | 処分にあたるおそれがある |
| 業者に依頼して家財を一括で廃棄する | 処分にあたると評価されるおそれがある |
| 社会的に相当な範囲の葬儀費用を遺産から支払う | 処分にあたらないとした裁判例がある |
| 写真や手紙など経済的価値の乏しい品を形見として受け取る | 問題になりにくいとされることが多い |
| 腐りやすい食品を捨てるなど、傷みを防ぐための行為 | 保存行為として認められている |
判断が分かれる場面も多く、「少しだけなら大丈夫だろう」と自己判断で進めることはおすすめできません。相続放棄を考えている場合は、遺品に手を付ける前に、何をしてよいかを確認しておくと安心です。
大家や管理会社から片付けを求められたとき
親が賃貸住宅で亡くなった場合、大家や管理会社、保証会社から、早期の明渡しや清掃費用の支払いを求められることがあります。気が動転してその場で「払います」「片付けます」と答えてしまい、後から相続放棄との関係で悩むという相談もみられます。
相続放棄を考えている場合は、まず「相続放棄を検討している」と伝え、支払いや残置物の処分についての返事は保留しておくのが無難です。一方、子が賃貸借契約の連帯保証人になっていた場合は、保証人としての責任は相続とは別に残るため、相続放棄をしても支払いを免れないことがあります。
相続放棄をした後の管理の責任
2023年4月施行の改正民法により、相続放棄をした人が相続財産を保存する義務を負うのは、放棄の時点でその財産を「現に占有している」場合に限られることが明確になりました(民法940条1項)。長く別居していた子が、親の住まいの管理まで当然に求められるわけではありません。ただし、親と同居していた子は占有していると評価されることがあり、注意が必要です。相続人全員が放棄した場合には、利害関係人などの申立てにより、家庭裁判所が相続財産清算人を選ぶ流れになります。
子ができないとき、誰に任せられるのか
- ほかの相続人や親族に、葬儀や片付けを引き受けてもらう。
- 遺品整理業者や葬儀社に、作業そのものを依頼する。
- 弁護士に、相続放棄の手続や、大家・親族・債権者とのやり取りを任せる。
- 引き取り手がいない場合は、自治体が火葬などを行う。
相続を承認する前提であれば、業者に依頼して片付けを進めることに大きな問題はありません。反対に、相続放棄を考えている段階で業者に家財の処分を依頼すると、前述の「処分」にあたるおそれがあるため、順序を確認してから動くことが大切です。
関係が悪化している親族と直接やり取りすることがつらい場合には、弁護士が窓口となることで、連絡の負担を減らせることがあります。疎遠になった親との関係そのものについては、【親子問題】子と縁を切りたい|法律上できることとできないことでも解説しています。
親の側で生前にできる備え
ひきこもりや病気のある子、長く疎遠になっている子がいる場合、親が元気なうちに準備しておくことで、子の負担を大きく減らせることがあります。
- 遺言書を作り、遺言執行者を指定しておく。
- 葬儀や届出、住まいの明渡しを第三者に任せる死後事務委任契約を結んでおく。
- 葬儀の内容や費用の準備について、希望を書面に残しておく。
- 預貯金や借入れなど、財産と負債の一覧を残しておく。
- 親が亡くなった後の子の生活の見通しを、支援者と話し合っておく。
死後事務委任契約で決めておけること
死後事務委任契約は、亡くなった後の葬儀や火葬、役所への届出、医療費の精算、住まいの明渡しや遺品の整理などを、生前に第三者へ委ねておく契約です。委任契約は本人の死亡で終わるのが原則ですが、死亡後の事務を任せる合意は有効とした最高裁判例(最判平成4年9月22日)があり、実務でも広く使われています。
ただし、財産を誰に引き継ぐかは遺言で定める事柄であり、死後事務委任契約だけですべてが完結するわけではありません。また、子が相続人であることに変わりはないため、契約の内容によっては、後で子との間で行き違いが生じることもあります。遺言と組み合わせ、子にもあらかじめ伝えられる範囲で伝えておくとよいでしょう。
親亡き後の子の暮らし全体については、【親子問題】親亡き後問題|子の生活をどう設計しておくかと【親子問題】親が亡くなった後に子が孤立する|備えとして何ができるかもあわせてご覧ください。
「何もしなくてよい」と伝えておく意味
子が葬儀や片付けを担えないことに、子自身が負い目を感じている場合もあります。親が生前に第三者へ任せる手配を済ませ、「あなたは何もしなくてよい」と伝えておくことは、法律上の備えであると同時に、子の気持ちの負担を軽くすることにもつながります。
当事務所がお手伝いできること
当事務所では、ひきこもりや家庭内暴力、金銭の要求など、成人した子をめぐる親御さんのご相談をお受けしています。親が亡くなった後に子が対応を迫られている場面では、相続放棄の手続や、大家・親族・債権者とのやり取りの窓口を担うことができます。親の側からのご相談では、子の状況に合わせて、遺言や死後事務委任契約など、どのような備えが考えられるかを一緒に整理します。
親子の問題の取り組み方については、【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。
葬儀や遺品整理を子が担えないことは、それ自体が問題なのではなく、担わない場合に何が起きるかを知らないまま動いてしまうことが、後の負担につながりやすいといえます。親が亡くなった直後でも、まだ元気なうちでも、早めに状況を整理しておくことで選べる手段が増えます。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


