【親子問題】浪費が止まらない子|保佐・補助を検討する場面
この記事は、2026年10月時点の民法・借地借家法などの法令と、国税庁の公表資料にもとづいて書いています。成年後見制度を見直す「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)は2026年6月に成立・公布されましたが、成年後見に関する部分は公布から2年6か月以内に施行される予定で、現時点では現行の制度が適用されます。
「母が施設に入ったのに、弟が実家に住んだまま働かず、母の通帳も手放そうとしない」。親子の問題のご相談では、きょうだいの方からこうした声を伺うことがあります。一方で、施設に入った親御さんご本人から「家に残した息子のことが気がかりで、出ていってほしいとは言い出せない」と打ち明けられることもあります。
親が施設に入った後の実家については、売却の手順や成年後見、相続の手続が一般に紹介されています。それ自体は誤りではありませんが、子が実家に住み続けているという事情が加わると、誰が退去を求められるのか、親の判断能力によって手順がどう変わるのか、親が亡くなった後に何が起きるのかといった点が見えにくくなります。
この記事では、親が施設に入った後も成人した子が実家に住み続けている場面に絞り、子が住んでいる法的な根拠、退去を求められる人と進める順序、親が亡くなった後の扱いを整理します。子を家から出ていかせる手続そのものは【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しで、同居中に親が要介護になった段階の問題は【親子問題】親が要介護になったとき、同居の子の生活はどうなるのかで扱っています。
施設に入っても、実家の持ち主は親のまま
子が住んでいる根拠は、多くの場合「使用貸借」
親名義の家に成人した子が家賃を払わずに住んでいる場合、法律上は、親が子に無償で家を貸している「使用貸借」と整理されることが多くあります(民法593条)。使用貸借は口約束や暗黙の了解でも成り立つため、契約書がないことは珍しくありません。
子が固定資産税や光熱費の一部を負担していても、それが家を使うことの対価といえる特別な事情がなければ、使用貸借にとどまると判断されるのが通常です(最高裁昭和41年10月27日判決)。なお、使用貸借では、家を使ううえで通常かかる費用は借りている側の子が負担するものとされています(民法595条1項)。
施設に入っただけでは、子の使用は終わらない
親が施設に入って実家に住まなくなっても、それだけで使用貸借が終わるわけではありません。民法が定める使用貸借の終了原因は、期間の満了や借主の死亡などであり(民法597条)、貸主である親が家を離れたことは含まれていません。
期間も目的も決めずに住まわせていた場合、貸主はいつでも契約を解除できます(民法598条2項)。「仕事が見つかるまで」といった目的を決めていた場合でも、その目的に従って使うのに足りる期間が過ぎれば解除が可能です(同条1項)。退去を求めるには、所有者である親の側から解除の意思を示すことが出発点になります。
子が住み続けることで生じやすい問題
施設の費用を実家から捻出しにくくなる
施設の入居金や月々の利用料を、実家の売却や賃貸で賄おうと考えるご家庭は少なくありません。しかし、子が住んでいる家は明け渡しの見通しが立たないため、売却や賃貸の話が進みにくくなります。親の年金や預貯金だけで施設の費用を払い続けられるのか、早い段階で見積もっておくことが大切です。
親の年金や預貯金が子の生活費に回る
親が実家を離れると、通帳やキャッシュカードを実家にいる子が預かる形になりやすく、親の財産と子の生活費の境目があいまいになります。親の年金で生活が成り立っている場合の考え方は【親子問題】親の年金で生活している子|年金が止まった後の設計で、無断で引き出された場合の対応は【親子問題】親の預貯金を勝手に引き出された|刑事と民事の分かれ道で解説しています。
相続後の税の特例に影響することがある
相続した空き家を売ったときに譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例は、親が要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所していた場合でも、一定の要件を満たせば使えます。ただし、入所してから亡くなる直前まで、その家が親以外の人の居住に使われていないことが要件の一つとされています(国税庁タックスアンサーNo.3306)。子が住み続けていると、この特例の対象にならない可能性があります。具体的な適用の可否は税理士にご確認ください。
退去を求められるのは誰か|親の判断能力で分かれる
親に判断能力がある場合
親ご本人が、所有者として使用貸借を解除し、退去を求めることになります。施設にいる親が子と直接やり取りするのは心身の負担が大きいため、親の代理人として弁護士が通知を送り、以後の窓口を引き受ける方法があります。親の意思を書面で残しておくと、後になって「親は出ていけとは言っていない」という争いを避けやすくなります。
親の判断能力が低下している場合
認知症などで判断能力が低下していると、親自身が解除の意思を示すことが難しくなります。この場合は、家庭裁判所に成年後見等の開始を申し立て、選ばれた後見人等が親に代わって判断する形になります。
後見人が親の居住用の建物について売却、賃貸、賃貸借の解除などの処分をするには、家庭裁判所の許可が必要です(民法859条の3)。施設に入所中でも、戻る可能性のある自宅はこの居住用の建物として扱われるのが一般的です。また、実家に住む子が後見人の候補になる場合、親の利益と子の利益がぶつかるため、家庭裁判所が弁護士などの専門職を選ぶこともあります。
きょうだいが代わりに退去を求めることはできない
親の家に住むきょうだいに出ていってほしいと考えても、所有者ではないきょうだいには、自分の名前で退去を求める権利がありません。きょうだいができるのは、親の意思を確認して代理人を立てる手伝いや、後見等の申立てを行うことです。きょうだいが相談者となる場合の進め方は【親子問題】きょうだいが相談者になる場合|親が動けないときをご覧ください。
| 親の状態 | 退去を求める人 | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 判断能力がある | 親本人(弁護士を代理人に立てることも可能) | 親の意思を書面で残す。施設にいる親の負担を減らす |
| 判断能力が低下している | 家庭裁判所が選んだ後見人等 | 居住用の建物の処分には家庭裁判所の許可が必要 |
| 親が亡くなった | 相続人(遺産分割の結果による) | 遺産分割までは住み続けられると推認されることがある |
退去までの順序と、子の生活の受け皿
話し合いから明渡請求までの流れ
退去を求める場面では、いきなり裁判に進むのではなく、次の順序で段階を踏むのが一般的です。
- 親の意思(または後見人等の判断)を確認し、退去を求める方針を決める。
- 期限に余裕を持たせて、使用貸借を解除する旨と退去の期限を書面で通知する。
- 話し合いがまとまらなければ、家庭裁判所の調停などで協議を続ける。
- それでも応じない場合は、建物明渡請求訴訟を起こす。
- 判決などが確定しても退去しない場合は、強制執行の手続をとる。
子が留守の間に鍵を替える、荷物を運び出すといった方法は、自力救済として違法と評価されるおそれがあります。この点は【親子問題】鍵を替える・締め出すことの可否|自力救済の限界で詳しく解説しています。
出ていった後の生活を同時に設計する
長く実家で暮らしてきた子は、退去後の住まいや収入の当てがないことが少なくありません。行き先が決まらないまま退去だけを求めると、話し合いが止まりやすくなります。退去の手続と並行して、住まい・収入・公的な手続の3点を準備しておくことが、結果として退去を円滑にします。
具体的な段取りは【親子問題】子を家から独立させる具体的な手順で、生活保護を検討する場面は【親子問題】ひきこもりの子に生活保護は使えるのか|世帯分離の考え方で取り上げています。
親が亡くなった後の扱い
遺産分割が終わるまでは住み続けられると推認される
使用貸借は借主の死亡で終わりますが(民法597条3項)、貸主である親が亡くなっても当然には終わりません。さらに最高裁は、相続人の一人が親の許しを得て親と同居してきた場合、特段の事情がない限り、遺産分割で家の帰属が決まるまでは無償で住まわせる合意があったと推認されると判断しています(最高裁平成8年12月17日判決)。
そのため、親の死後に他のきょうだいがすぐに退去を求めても、遺産分割が終わるまでは難しいことがあります。親が施設に入った後から子だけが住んでいた場合にこの推認がどこまで及ぶかは、同居の経緯などによって判断が分かれ得ます。
親が元気なうちに決めておけること
親に判断能力があるうちであれば、遺言で実家の行き先を決めておく、退去の時期について家族で合意し書面にしておくといった備えができます。資産・住まい・支援者の3点からの考え方は【親子問題】親亡き後問題|子の生活をどう設計しておくかで紹介しています。
よくあるご質問
施設にいる親が「出ていかなくてよい」と言っている場合、きょうだいはどうすればよいですか
親に判断能力がある限り、実家をどう使うかを決めるのは所有者である親です。きょうだいが親の意思に反して退去を求めることはできません。施設の費用や親の財産管理に不安がある場合は、その点を親と共有し、財産の管理方法を見直すところから話し合うのが現実的です。
子が「長年介護してきたのだから住む権利がある」と言っています
介護をしてきたことは、それだけで家に住み続ける権利の根拠にはなりません。ただし、相続人である子が親の財産の維持や増加に特別の貢献をした場合には、相続の際に寄与分として考慮される余地があります(民法904条の2)。住む権利の問題と相続での評価の問題は、分けて考える必要があります。
家賃をもらう形に切り替えれば、問題は解決しますか
家賃を受け取ると、使用貸借ではなく賃貸借となり、借地借家法が適用されます。賃貸借では、貸主から契約を終わらせるのに正当な事由が求められるため(借地借家法28条)、かえって退去を求めにくくなることがあります。後見人等が親に代わって賃貸する場合には家庭裁判所の許可も必要になるため、切り替える前に慎重な検討が欠かせません。
まとめ
- 親名義の実家に子が無償で住んでいる場合、多くは使用貸借と整理される(民法593条)。
- 固定資産税などを子が負担していても、それだけでは賃貸借にならないのが通常である(最高裁昭和41年10月27日判決)。
- 親が施設に入っただけでは使用貸借は終わらず、退去には親の側からの解除が必要となる(民法597条・598条)。
- 親の判断能力が低下している場合は後見人等が判断し、居住用の建物の処分には家庭裁判所の許可が必要となる(民法859条の3)。
- 所有者ではないきょうだいは、自分の名前で退去を求めることはできない。
- 子が住み続けていると、相続後の空き家の譲渡所得の特例が使えない可能性がある(国税庁タックスアンサーNo.3306)。
- 親の死後は、遺産分割まで同居の相続人が住み続けられると推認されることがある(最高裁平成8年12月17日判決)。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、親が施設に入った後の実家をめぐる問題を含め、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。弁護士が親御さんの代理人として子との窓口を引き受け、提携する自立支援カウンセラーが子の住まい探しや仕事探し、生活の立て直しを支える形で、親と子それぞれの生活が成り立つ道筋を一緒に考えます。
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