【解決事例】「トイチ」の利息を請求された|弁護士の介入により脅迫行為を遮断した事例
「兄から、親の生活費として毎月まとまった額を出すよう言われています。扶養義務があるのだから断れない、と言われました」。「長年疎遠だった親族が突然訪ねてきて、家族なのだから助けるのが当然だと繰り返します」。親族からの金銭要求について、このようなご相談が寄せられます。
扶養義務という言葉には、民法に根拠があります。直系血族と兄弟姉妹は互いに扶養をする義務がある、という説明そのものは誤りではありません。ただ、そこから「相手が口にした金額を、言われたとおりに払わなければならない」という結論が出てくるわけではありません。義務が「あるかどうか」と、「誰が」「どの順序で」「いくら」負担するのかは、法律上は別々の問題です。世間の説明は、この区別を飛ばして義務の有無だけを伝えていることが少なくありません。
この記事では、親族から金銭を求められている側の立場から、扶養義務が届く範囲と届かない範囲、金額が決まる仕組み、支払いを決める前に整理しておきたいことを扱います。要求の仕方が法律上の線を越える場面にも触れますが、親族間の財産犯に関する刑法上の特例そのものと刑事手続の詳細は別の記事に譲ります。
この記事で想定している場面
次のようなご相談を念頭に置いています。
- 親や兄弟姉妹から、生活費や医療費の援助を繰り返し求められている。
- 親を引き取っている兄弟姉妹から、介護費用の分担を一方的な金額で求められている。
- 長く連絡のなかった親族が、扶養義務を理由に金銭を求めてきた。
- 親族の借金や保証について、家族なのだから肩代わりすべきだと言われている。
- 福祉事務所から、親族の扶養に関する照会の書面が届いた。
いずれも、要求する側が「扶養義務」という言葉を根拠に持ち出している点が共通しています。
「扶養義務がある」と「言われた額を払う」は別の話
扶養義務をめぐる話がこじれやすいのは、性質の異なる三つの問いが一つにまとめて語られるためです。
義務を負うのは誰か
民法は、扶養義務を負う人の範囲を条文で区切っています。配偶者については同居・協力・扶助の義務が定められ(民法752条)、直系血族及び兄弟姉妹は互いに扶養をする義務があるとされています(民法877条1項)。それ以外の親族については、家庭裁判所が特別の事情があると認めて審判をしたときにはじめて義務が生じる仕組みです(同条2項)。
| 関係 | 扶養義務の根拠 | 義務が生じる仕組み |
|---|---|---|
| 配偶者 | 民法752条 | 婚姻関係があれば当然に生じる |
| 親・子・祖父母・孫などの直系血族 | 民法877条1項 | 続柄があれば当然に生じる |
| 兄弟姉妹 | 民法877条1項 | 続柄があれば当然に生じる |
| おじ・おば・甥・姪・配偶者の父母など3親等内の親族 | 民法877条2項 | 特別の事情があるときに家庭裁判所の審判で生じる |
| いとこなど、それより遠い親族 | 規定なし | 扶養義務の規定は及ばない |
親族の範囲そのものは、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族と定められています(民法725条)。親族に当たることと、扶養義務を負うことは同じではありません。いとこは4親等の血族ですので親族ではありますが、877条が扶養義務を負わせる範囲には入りません。
「家族なんだから」という言葉の位置づけ
直系血族及び同居の親族は互いに扶け合わなければならない、という条文もあります(民法730条)。ただ、この規定については、具体的な金額の支払いを直接根拠づけるものとは考えられていないという整理が一般的です。実際、扶養の内容を決める場面で用いられるのは877条以下の規定です。「家族なんだから」という言葉は、それ自体が支払義務の根拠になるものではありません。
三つの問いを分けて考える
民法は、義務の有無を定める877条とは別に、扶養をすべき者の順序について協議が調わないときは家庭裁判所が定めるとし(民法878条)、扶養の程度または方法について協議が調わないときは、扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して家庭裁判所が定めるとしています(民法879条)。義務があることは、金額が決まっていることを意味しません。順序と金額は、協議か、家庭裁判所の手続で決まる建て付けになっています。
扶養義務には二つの強さがある
条文の上では同じ「扶養」でも、家庭裁判所の実務では、関係に応じて求められる水準が分けて考えられています。
自分と同じ水準まで支える関係
夫婦の間の扶養と、親が未成熟の子に対して負う扶養は、相手の生活を自分の生活の一部として支える性質のものとされ、生活保持義務と呼ばれています。婚姻費用や養育費がこれに当たり、自分に余裕がないことが直ちに支払いを免れる理由にはならないと説明されます。
余力の範囲で援助する関係
これに対し、成人した子が親に対して負う扶養や、兄弟姉妹の間の扶養は、生活扶助義務と呼ばれます。自分と家族の生活を維持したうえで、なお余力がある範囲で援助するという位置づけです。親族からの金銭要求の多くは、こちらの類型に入ります。自分の生活を切り崩してまで応じることが前提とされている義務ではない、という点が出発点になります。
余力の有無は、額面の収入だけで決まるものではありません。手取りの収入、住居費、扶養している家族の人数と年齢、教育費、自身の債務の返済、健康状態や就労の見通しといった生活の実情が考慮されます。「あなたは収入があるはずだ」と言われた場合も、判断材料は年収の数字だけではありません。
金額と方法は誰が決めるのか
扶養の程度や方法は、まず当事者の協議で決めるのが原則です。協議が調わないとき、または協議をすることができないときに、家庭裁判所の手続に進みます。
当事者の協議が先に来る
協議は、金額だけを決める場ではありません。金銭の援助にするのか、住まいを提供するのか、期間をどうするのか、他に扶養義務を負う人がいる場合にどう分担するのか。扶養の方法には幅があり、毎月の送金だけが選択肢ではありません。相手が示した一つの案に応じるかどうか、という形に問題を狭めない方が整理しやすくなります。
協議が調わないときの手続
話し合いがまとまらない場合や、話し合い自体ができない場合には、家庭裁判所に扶養請求の調停または審判を申し立てることができます。申立先は相手方の住所地の家庭裁判所または当事者が合意で定める家庭裁判所で、申立てに必要な費用は収入印紙1200円分(扶養権利者1人につき)と連絡用の郵便料です。調停では、各扶養義務者の経済状況や生活状況、扶養を受ける側の意向などをふまえて話し合いが進められ、調停が成立しなかった場合には原則として自動的に審判手続が開始されます。
請求を受けている側からも申し立てられる
見落とされがちですが、この手続の申立人は、扶養を受ける側に限られていません。裁判所の案内でも、申立人として扶養権利者と扶養義務者の双方が挙げられています。複数の扶養義務者がいる場合に、その扶養すべき順序を指定する申立てをすることもできます。要求を受けている側から、負担の枠組みを決めるために手続を利用するという選択肢があるということです。繰り返される要求に個別に応答し続けるより、決め方そのものを第三者のいる場に移した方が、結果として負担が定まる場合があります。
扶養義務では説明のつかない要求
「扶養義務」という言葉で求められていても、内容をよく見ると扶養の枠組みでは説明できないものが混じっていることがあります。
| 求められている内容 | 扶養義務の枠内かどうか |
|---|---|
| 生活費・医療費・介護費用の援助 | 扶養の問題として扱われる |
| 親族が負っている借金の肩代わり | 別の根拠が要る |
| 貸金や賃貸借の保証人になること | 別の根拠が要る |
| 親族の事業資金の提供 | 別の根拠が要る |
| 施設や病院の身元保証人になること | 契約上の責任の問題 |
| ほかの親族が負担すべき分の立替え | 扶養義務者の間の分担の問題 |
借金の肩代わりについては、第三者が債務者に代わって弁済できる場面が民法に定められていますが(民法474条)、親族であることから当然に支払義務が生じるわけではありません。保証は、書面でしなければ効力を生じないとされています(民法446条2項)。口頭で求められ、その場で返事をしなかったことをもって保証したことになるものではありません。施設や病院の身元保証人は、扶養義務ではなく、その契約でどのような責任を引き受けたかという問題です。署名を求められている書面があれば、内容を確認してから判断することになります。
役所から扶養についての照会が届いた場合
親族が生活保護を申請したことにともない、福祉事務所から扶養に関する照会が届くことがあります。
照会は義務の確定ではない
生活保護法は、民法に定める扶養義務者の扶養は保護に優先して行われるものとしています(生活保護法4条2項)。もっとも、この照会は扶養が可能かどうかを尋ねるものであり、これに回答したことで金額が確定するという性質のものではありません。援助ができない事情がある場合は、その事情を書いて返すことになります。
照会を行わない場合の整理
扶養照会の運用について、厚生労働省は令和3年に通知を出し、扶養義務の履行が期待できないと判断される場合には照会を行わない取扱いを示しています。挙げられている類型は、扶養義務者が生活保護を受けている場合や長期入院中の場合、概ね70歳以上の高齢者である場合などのほか、借金を重ねている、相続をめぐって対立している、縁が切られているといった著しい関係不良の場合、扶養を求めることで申請者の自立が明らかに阻害されると認められる場合です。音信不通の期間についても、従前の20年程度という例示に加え、10年程度でも交流の断絶と判断してよいという整理が示されました。
費用の徴収を求められた場合
実際に保護費が支給された後に、自治体が扶養義務者から費用の全部または一部を徴収する規定もあります(生活保護法77条1項)。ただし、扶養義務者が負担すべき額について自治体との間で協議が調わないとき、または協議をすることができないときは、自治体の申立てにより家庭裁判所がこれを定めるとされています(同条2項)。役所からの請求であっても、金額に争いがあれば家庭裁判所が判断する仕組みになっています。
すでに渡してしまったお金の扱い
多くのご相談は、何度か応じた後の段階で寄せられます。渡した後だからといって、その後の要求にすべて応じることになるわけではありません。
贈与だったのか、立替えだったのか
過去に渡したお金が、返還を予定しない贈与だったのか、返してもらう前提の貸付けや立替えだったのかは、後になって争点になります。渡した時点のやり取りが残っていれば手がかりになりますが、口頭のみのことも珍しくありません。今後渡す分については、どのつもりで渡すのかを短い書面やメッセージで残しておくと整理しやすくなります。
立て替えた分の精算の場
親を扶養してきた人が、ほかの兄弟姉妹に対して負担分を求めることがあります。この点について最高裁判所は、扶養してきた扶養義務者が他の扶養義務者に求償する場合の各自の扶養分担額は、協議が調わないかぎり家庭裁判所が審判で定めるべきであり、通常裁判所が判決手続で定めることはできないと判断しています(最高裁判所昭和42年2月17日判決)。「これまで自分が払った分を返せ」と一方的な金額を告げられた場合も、その分担額は相手が決められるものではありません。
いったん決めた額の見直し
扶養の順序や程度、方法について協議または審判があった後に事情の変更が生じたときは、家庭裁判所はその協議または審判の変更または取消しをすることができるとされています(民法880条)。収入の減少、転職、家族の増加、自身の健康状態の変化などは、見直しを求める理由になり得ます。決めた額が将来にわたって固定されるものではない、という点は押さえておいてよいところです。
要求の仕方が法律上の線を越える場面
求められている内容とは別に、求め方そのものが問題になることがあります。害を加える旨を告げて人を脅迫する行為(刑法222条)、義務のないことを行わせる行為(刑法223条)、人を恐喝して財物を交付させる行為(刑法249条)は、相手が親族であっても犯罪の成立自体が否定されるものではありません。住居から退去を求められたのに応じない場合についても規定があります(刑法130条後段)。
もっとも、財産に関する一部の罪については、親族間の場合に刑を免除し、または告訴がなければ公訴を提起できないとする特例が置かれています。恐喝の罪はこの特例が準用される範囲に含まれる一方、脅迫や強要は含まれません。関係と罪名によって扱いが変わるため、警察に相談すれば同じように処理されるとは限りません。この点の詳細は、親族間の財産犯に関する特例を扱った記事をご覧ください。
勤務先や近隣に事情を伝えると告げて支払いを迫られる例もあります。応じる前に、何をどこまで言われているのかを記録に残しておくことをおすすめします。
支払いを決める前に整理しておきたいこと
金額を決める前に、次の点を書き出しておくと判断がしやすくなります。
- 相手との続柄と、扶養義務の根拠がどの条文に当たるのか。
- 相手が自分の資産・年金・就労でどこまで生活できるのか、不足がいくらなのか。
- ほかに扶養義務を負う親族が何人いるのか、その人たちの状況はどうか。
- 自分の側の手取り収入と、住居費・教育費・債務の返済を差し引いた余力。
- 求められている内容が、生活費の援助なのか、借金や保証といった別の問題なのか。
- これまでに渡した金額と時期、そのときのやり取りが残っているか。
- 応じるとした場合の月額・期間・見直しの時期をどう区切るか。
その場で金額を答えないこと、支払う場合も期間と見直しの時期を区切ること、やり取りの窓口を一つにまとめることが、後の負担を左右します。
よくあるご質問
長く疎遠だった親でも、扶養義務はありますか
親子は直系血族に当たりますので、疎遠であったことだけを理由に規定が及ばなくなるわけではありません。ただし、成人した子が親に対して負うのは余力の範囲での援助と整理されており、金額は当事者の協議、調わなければ家庭裁判所が一切の事情を考慮して定めます(民法879条)。疎遠になった経緯も、その事情に含まれ得ます。
兄弟の一人が親を引き取っています。ほかの兄弟は何もしなくてよいのですか
扶養をすべき者の順序について当事者間で協議が調わないときは、家庭裁判所が定めるとされています(民法878条)。生まれた順や同居しているかどうかで自動的に決まるものではなく、それぞれの資力や生活状況をふまえて判断されます。引き取っている側からも、引き取っていない側からも、扶養請求の調停を申し立てることができます。
一度渡すと、毎月払い続けなければならなくなりますか
一度援助したことが、将来の一定額の支払いを約束したことになるわけではありません。もっとも、同額を継続して渡してきた事実は、話し合いの場で前提として扱われやすくなります。援助するなら、金額と期間、見直しの時期を最初に決めておく方が後の調整は進めやすくなります。協議や審判の後に事情が変われば、変更や取消しを求めることもできます(民法880条)。
まとめ
- 扶養義務を負うのは、配偶者(民法752条)、直系血族及び兄弟姉妹(民法877条1項)、特別の事情があるときに家庭裁判所の審判を受けた3親等内の親族(同条2項)です。
- 義務があることと、金額が決まっていることは別です。順序は民法878条、程度と方法は民法879条により、協議か家庭裁判所の手続で決まります。
- 成人した子から親、兄弟姉妹の間の扶養は、自分と家族の生活を維持したうえで余力の範囲で援助する位置づけと整理されています。
- 扶養請求の調停・審判は、扶養を受ける側だけでなく、扶養義務者の側からも申し立てることができます。申立費用は収入印紙1200円分と郵便料です。
- 借金の肩代わりや保証、身元保証は扶養義務とは別の問題で、保証は書面でしなければ効力を生じません(民法446条2項)。
- 生活保護に関する扶養照会は義務の確定ではなく、費用徴収の額に争いがあるときも家庭裁判所が定めます(生活保護法4条2項、77条1項・2項)。
- 立て替えた扶養料の分担額は、協議が調わないかぎり家庭裁判所が審判で定めるとされています(最高裁判所昭和42年2月17日判決)。
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求められている側からのご相談も、これから援助の枠組みを決めたいという方からのご相談もお受けしています。やり取りの記録や届いた書面がありましたら、あわせてお持ちください。


