【親子問題】子の勤務先から親に連絡が来た|会社とのやり取りの範囲

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

この記事は、2026年10月時点の法令(民法、身元保証ニ関スル法律、個人情報の保護に関する法律、労働基準法)にもとづいて書いています。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的な対応はご相談のうえで判断してください。


「息子の勤務先から、出社していないが連絡がつかないかと電話があった」「娘が会社のお金を使い込んだので、親として返してほしいと言われた」。親子の問題のご相談では、お子さんの勤務先からの一本の電話をきっかけに、親御さんが事情を知るという場面が少なくありません。

 成人した子の仕事のことに親は責任を負わない、という説明はよく見かけます。それ自体は誤りではありません。ただ、会社からの連絡には安否の確認もあれば、身元保証人としての請求もあり、連絡の中身によって親御さんの立場は変わります。電話口で何を話し、何を話さずにおくかという点は、あまり説明されていません。

 この記事では、子の勤務先から親に連絡が来たときに、会社とのやり取りをどこまで引き受けるべきかを、連絡の種類ごとに整理します。身元保証人の責任の細かな計算や、横領などの刑事手続そのものについては、それぞれを扱った別の記事に委ねます。

会社からの連絡は、まず「何のための連絡か」を分ける

安否の確認として来る連絡

 もっとも多いのは、お子さんが無断で欠勤し、本人と連絡が取れないために、入社時に届け出た緊急連絡先として親に電話が来る場面です。会社には従業員の状況を把握する必要があり、事故や急病の可能性も考えて連絡を試みます。

 ここで押さえておきたいのは、緊急連絡先は「連絡を受ける窓口」であって、保証人とは別のものだという点です。緊急連絡先として名前を書かれていても、それだけで親御さんに何かを支払う義務や、子に代わって手続をする義務が生じるわけではありません。

親の法的な立場を前提とした連絡

 入社時に親御さんが身元保証書に署名している場合、会社は身元保証人として親に連絡してくることがあります。また、お子さんが18歳未満であれば、親御さんは親権者として、雇用について一定の関わりを持つ立場にあります。これらの場合は、親御さん自身が法的な関係の当事者になっています。

法的な立場のない親に対応を求める連絡

 身元保証書に署名しておらず、お子さんも成人している場合でも、会社から「親として弁済してほしい」「本人を説得してほしい」と求められることがあります。この場合、親御さんは会社との関係で当事者ではなく、求めに応じるかどうかは親御さんが判断することになります。

 連絡の種類と、親御さんの立場を整理すると次のとおりです。

連絡の種類親の立場親が対応する範囲の目安
無断欠勤などの安否確認緊急連絡先知っている範囲で居場所や最後の連絡を伝える
身元保証人としての請求身元保証契約の当事者契約と法律の枠の中で責任の有無と範囲を確かめる
未成年の子の雇用に関する連絡親権者労働基準法と民法の定める範囲で関わる
成人した子の不祥事への弁済の要求当事者ではない応じる義務はなく、応じるかどうかを判断する


成人した子の雇用関係に、親は当事者として加わっていない

労働契約は会社と子の間で結ばれている

 成年年齢は18歳です(民法4条)。成人したお子さんの労働契約は、会社とお子さんの間で結ばれたもので、親御さんはその契約の外にいます。親御さんが子に代わって退職を申し出たり、休職の手続を進めたりするには、本人から代理の権限を与えられていることが前提になります(民法99条)。

 成人した子の問題に親がどこまで関われるかの全体像は、【親子問題】成人した子の問題に親が介入できる法的な範囲で整理しています。

未成年の子の場合は、親権者としての関わりがある

 お子さんが18歳未満であれば事情が異なります。親権者は子に代わって労働契約を結ぶことはできませんが(労働基準法58条1項)、契約が子に不利であると認めるときは、将来に向けて解除することができます(同条2項)。また、賃金は未成年者本人が受け取るもので、親権者が代わりに受け取ることはできません(同法59条)。働くこと自体については、親権者の許可が関わります(民法823条)。

 このように、未成年の子については親が関与する仕組みがある一方、成人した子についてはその仕組みがないという違いがあります。会社からの連絡にどう向き合うかも、この違いを前提に考えることになります。

会社が親に話せることにも限りがある

 会社は、本人の同意を得ないまま従業員の個人データを第三者に提供することが原則としてできません(個人情報の保護に関する法律27条1項)。親御さんも、この場面では第三者にあたります。ただし、人の生命や身体の保護のために必要で、本人の同意を得ることが難しいときは例外とされています(同項2号)。

 無断欠勤が続き本人と連絡が取れないときの安否確認は、この例外にあたりうる場面です。他方で、処分の内容や勤務評価、社内での調査の中身までは、親御さんが尋ねても答えてもらえないことがあります。会社の対応が冷たく感じられても、それは会社が負っている義務の表れであることが少なくありません。

会社から支払いを求められたとき

身元保証書に署名していなければ、支払う義務はない

 お子さんが会社に損害を与えたとしても、成人した子の債務を親が当然に負うことはありません。身元保証書や連帯保証の書面に署名していないのであれば、親御さんに会社へ支払う法的な義務はないというのが出発点です。親子であることだけを理由とする請求には、応じる義務がありません。

 この点の考え方は、【親子問題】子の借金を親が返す義務はあるのかでも説明しています。

身元保証人になっている場合も、責任には枠がある

 身元保証人になっている場合でも、その責任は無制限ではありません。身元保証の期間は、定めがなければ原則3年、定める場合も5年が上限です(身元保証ニ関スル法律1条、2条)。会社は、本人に業務上不適任な点があって保証人の責任が生じるおそれがあるときなどに、遅滞なく保証人に通知しなければならず(同法3条)、通知を受けた保証人は将来に向けて契約を解除できます(同法4条)。

 責任を負う場合の金額も、裁判所が会社側の監督の落ち度や保証をするに至った経緯など、一切の事情を考慮して定めます(同法5条)。2020年4月以降に結ばれた、または更新された身元保証では、上限額(極度額)を定めていなければ契約そのものが効力を持ちません(民法465条の2)。さらに、会社が従業員本人に請求できる範囲自体が、信義則によって損害の一部に限られることがあります(最高裁昭和51年7月8日判決は、事案において損害の4分の1に限って認めました)。

 身元保証人への請求の詳細は、家族・身元保証人に請求が来た|どこまで払う義務があるかで扱っています。

その場で書面に署名しない

 支払いの義務がない親御さんでも、「親として誠意を見せてほしい」と言われ、返済の誓約書や念書、新たな保証書への署名を求められることがあります。こうした書面に署名すると、それまでなかった支払いの義務を、親御さん自身が新たに引き受けることになりかねません。

 求められた書面は持ち帰り、内容を確かめてから判断してください。会社が用意する書面への向き合い方は会社が用意した「返済誓約書」にサインする前にが、すでに署名してしまった場合は【親子問題】保証人になってしまった後にできることが参考になります。刑事の手続を避けるために親が示談金を負担するかどうかは、【親子問題】示談金を親が払うべきか|払う場合の条件で考え方を整理しています。

電話口で話すこと・話さないこと

相手と用件を確かめ、折り返しにする

 突然の電話では、会社名、部署、担当者の氏名、用件を聞き取り、いったん電話を切って会社の代表番号から折り返すと落ち着いて対応できます。勤務先を名乗る電話であっても、その場で金銭の話に進む場合は特に、相手が本当に勤務先の担当者かを確かめておくことが大切です。

安否の確認には協力する

 お子さんの身の安全に関わる連絡であれば、親御さんが知っている範囲で、最近の様子や最後に連絡を取った日、立ち寄りそうな場所などを伝えることは、お子さんを守ることにつながります。会社と親の双方が連絡を取れず、安否が心配な状況であれば、親御さんから警察に相談することも考えてください。安否確認の順序は、【親子問題】独立した後に連絡が来なくなったら|安否確認の順序と「報告の枠組み」で説明しています。

子の病状や家庭の事情は、子の了解を得てから伝える

 会社から事情を尋ねられると、お子さんの通院歴やひきこもりの経緯、家庭内でのトラブルや借金のことまで話してしまいたくなるかもしれません。しかし、一度会社に伝えた情報は取り消せず、お子さんの職場での立場に影響することがあります。こうした事情を伝えるかどうかは、できるだけお子さん本人の了解を得てから判断するのが望ましいといえます。

 また、謝罪の気持ちから「親として責任を取ります」と口にすると、支払いを引き受ける意思と受け取られることがあります。お詫びを伝えることと、金銭の約束をすることは分けて考えてください。

子の状況によって、会社とのやり取りはどう変わるか

子が逮捕・勾留されている場合

 お子さんが逮捕されて出勤できない場合、会社から欠勤の理由を尋ねられることがあります。事件の内容をどこまで会社に伝えるかは、その後の処分や雇用の継続に関わるため、弁護人と相談してから判断するのが安全です。初動については【親子問題】子が逮捕された|親が最初にすべきこと、会社に知られる経路については逮捕されたら会社・学校に連絡はいく?勾留と身分への影響で説明しています。

子が家庭の中でも問題を抱えている場合

 ひきこもりの期間を経てようやく就職した直後や、親へのお金の無心、暴力が続いている家庭では、会社とのやり取りまで親御さんが抱え込みがちです。親御さんが子の生活の窓口であり続けると、親子の距離はかえって縮まり、お子さんが自分で職場と向き合う機会が減ってしまいます。

 当事務所では、弁護士が親御さんの代理人として窓口を担い、民間の自立支援カウンセラーがお子さんの仕事探しや日々の生活を支える形で、親と子がそれぞれ自立することを目指しています。就労の現実については【親子問題】仕事探しの現実|職歴の空白をどう埋めるかをご覧ください。

義務のない求めが繰り返される場合

 身元保証人でもないのに支払いや説得を繰り返し求められる場合は、親御さんの立場と、今後のやり取りの窓口を書面で伝えることが考えられます。親御さんご自身で対応するのが負担であれば、弁護士が窓口になることもできます。窓口を代えることの意味は、【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択で説明しています。

よくあるご質問

会社から子の新しい住所を聞かれました。教えてもよいのでしょうか。

 お子さんが自分の意思で勤務先に住所を知らせていない場合、親御さんが伝えることで、お子さんとの関係がこじれることがあります。安否の確認が目的であれば住所そのものではなく、親御さんからお子さんに連絡を促す方法や、警察への相談を検討してください。

自分が身元保証人になっているかどうか分かりません。

 まずお子さんに確認し、分からなければ会社に身元保証書の写しを見せてもらうよう求めてください。署名や押印が親御さん自身のものか、期間が過ぎていないか、2020年4月以降の契約であれば極度額が書かれているか、といった点を確かめることになります。

子の代わりに会社へ謝罪に行くべきでしょうか。

 親御さんが謝罪に出向くこと自体は自由です。ただ、その場で金銭の支払いや書面への署名を求められることもあるため、約束はせずに持ち帰る前提で臨んでください。雇用の継続や処分は会社とお子さんの間で決まることですので、本人が向き合う手続であることも意識しておくとよいでしょう。

まとめ


  1. 会社からの連絡は、安否確認、身元保証人への請求、未成年の子の親権者への連絡、立場のない親への要求に分けて考える。
  2. 緊急連絡先は連絡を受ける窓口であり、それだけで支払いや手続の義務は生じない。
  3. 成人した子の労働契約は会社と子の間のもので、親が代わりに手続をするには本人からの授権が必要である(民法4条、99条)。
  4. 未成年の子については、契約の解除や賃金の受領について労働基準法の定めがある(労働基準法58条、59条)。
  5. 会社は本人の同意なく個人データを親に提供できないのが原則で、安否確認などは例外にあたりうる(個人情報の保護に関する法律27条1項)。
  6. 身元保証人の責任にも期間や金額の枠があり、極度額のない新しい契約は効力を持たない(身元保証ニ関スル法律1条〜5条、民法465条の2)。
  7. 子の病状や家庭の事情を会社に伝えるのは子の了解を得てからとし、その場で誓約書などに署名しない。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。弁護士若井亮は、成人したお子さんからの暴力や金銭の要求、長期化したひきこもりについて、5年以上にわたり北海道から沖縄まで全国のご家庭に関わってきました。親御さんの代理人として弁護士が対応し、民間の自立支援カウンセラーがお子さんの側の生活を支える体制をとっています。

お子さんの勤務先から突然連絡が来て、どこまで応じればよいか迷っている方、会社から支払いや書面への署名を求められている方は、署名や支払いをする前にご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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