【親子問題】被害者側への対応を親が担う場面の注意点
本記事は、2026年10月時点の法令に基づいて、弁護士の介入後に子の反発が強まった場面での備えをご説明するものです。配偶者暴力防止法・民事保全法・高齢者虐待防止法・精神保健福祉法・刑法の規定は、執筆時点で確認できた内容を反映しています。
弁護士に依頼して子との窓口を代えた後、しばらくして子が強く反発し、物に当たったり、親御さんに詰め寄ったりすることがあります。「介入を頼んだせいで、かえって状況を悪くしてしまったのではないか」と、ご自分を責める親御さんも少なくありません。
介入の後に反発が強まることは、珍しいことではありません。ただ、そのまま様子を見るだけでは、再び暴力が起きたときに身を守る手立てが限られてしまいます。本記事では、介入後に子が逆上する背景、その場で優先すること、再度の暴力に備えて事前に決めておくこと、親子の間で使える法的な手段と使えない手段を順にご説明します。
介入の後に反発が強まるのはなぜか
これまで親御さんと直接やり取りしてきた子にとって、弁護士が窓口になることは、生活の前提が変わる出来事です。お金を求めれば応じてもらえた、声を荒らげれば要求が通った、という関係が急に通じなくなるため、戸惑いや不安が怒りの形で表に出ることがあります。
反発が強まりやすい時期には、ある程度の傾向があります。
- 弁護士からの通知や、初めての訪問を受けた直後。
- 金銭の援助が止まる、または減額される時期。
- 家を出て暮らすことを提案された前後。
- 親御さんと直接連絡が取れなくなったと子が気づいたとき。
こうした反発は、親御さんの対応が誤っていたことを意味するものではありません。一方で、反発が暴力に向かうおそれがある以上、「いずれ落ち着くはず」と考えて備えを後回しにすることは避けたいところです。
逆上が起きたときに優先すること
子が逆上して危険を感じたときに優先するのは、話し合いで収めることではなく、その場を離れることです。説得を試みたり、言い返したりすると、かえって緊張が高まることがあります。玄関に近い部屋に移る、外に出る、近くの家族や知人の家へ向かうなど、まずは物理的な距離を取ってください。
身に危険が迫っているときは、ためらわずに110番通報をしてください。通報の判断基準や、電話口で伝える内容は【親子問題】110番を呼ぶ判断基準|その場で何を伝えるかで詳しくご説明しています。
落ち着いた後は、次の記録を残しておくことが、その後の手続の土台になります。
- 日時・場所・暴力や暴言の内容を書いたメモ。
- けがの写真と、医療機関で作成してもらった診断書。
- 壊された物の写真。
- 警察に通報・相談した日時と、対応した警察署の名称。
- 弁護士に状況を伝えた日時と内容。
診断書を取るタイミングは【親子問題】診断書はいつ取るべきか|傷害の立証、警察への相談を記録として残す意味は【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続で解説しています。
また、介入中の出来事は、できればその日のうちに担当の弁護士へ伝えてください。子からの接触があったかどうか、どのような言葉が使われたかによって、次の対応が変わることがあります。
再度の暴力に備えて事前に決めておくこと
一度逆上が起きた後は、次に同じことが起きる可能性を前提に準備をしておくことが大切です。準備ができていれば、いざというときに迷う時間が短くなります。
| 備える場面 | 事前に決めておくこと |
|---|---|
| 避難 | 一時的に身を寄せる先(親族の家、知人の家、宿泊施設など)と、そこへの移動手段 |
| 持ち出し | 身分証、保険証、通帳、常用している薬、スマートフォンの充電器をまとめておく場所 |
| 連絡 | 子から連絡が来ても直接は応じず、弁護士に回すというルール |
| 家族間 | 危険を感じたときに家族同士で知らせ合う合図や連絡の方法 |
| 通報 | 110番する場面と、最寄りの警察署に相談する場面の区別 |
避難先の考え方は【親子問題】避難先の確保|一時的に親が家を出るという選択で取り上げています。親御さんが一時的に家を離れることは、子を見放すことではなく、双方が冷静さを取り戻すための時間をつくる選択でもあります。
なお、子を締め出すために無断で鍵を替えるといった対応は、状況によっては法的な問題を生じることがあります。判断の分かれ目は【親子問題】鍵を替える・締め出すことの可否|自力救済の限界でご説明しています。
連絡のルールで大切なのは、親御さんが個別に応じないことです。逆上の後には、謝罪や懇願の形で連絡が来ることもありますが、その都度直接応じていると、窓口を弁護士に一本化した意味が薄れ、要求と反発が繰り返されやすくなります。お子さんへの気持ちがあるからこそ応じたくなる場面ですが、伝えたいことは弁護士を通じて届けるという形を保つことが、結果として親子双方を守ることにつながります。
親子の間で使える法的な手段と、使えない手段
再度の暴力に備える法的な手段には、親子の関係ならではの制約があります。配偶者間の暴力と同じ手段が使えると考えていると、いざというときに想定と違ってしまうため、あらかじめ整理しておきます。
配偶者間の「保護命令」は親子の間では使えない
接近禁止命令や退去命令といった保護命令は、配偶者暴力防止法に基づく制度です。対象となるのは、配偶者(事実婚や離婚後を含みます)と、生活の本拠を共にする交際相手からの暴力であり、子から親への暴力はこの制度の対象に含まれていません。インターネット上では「家庭内暴力」と「DV」が同じ意味で使われることも多いのですが、親子の場合には別の手段を検討することになります。
刑事手続|暴行・傷害・脅迫・器物損壊
親子の間であっても、殴る・蹴るといった行為は暴行罪や傷害罪に、「殺す」などと告げる行為は脅迫罪に、物を壊す行為は器物損壊罪に当たりうるものです。刑法244条には、同居の親族の間で起きた窃盗などについて刑を免除する特例がありますが、この特例は暴行・傷害・脅迫・器物損壊には及びません。
それぞれの扱いは、【親子問題】親子間の暴行・傷害は立件されるのか|特例が及ばない範囲、【親子問題】「殺す」と言われた|脅迫罪として扱われる線引き、【親子問題】壁や家具を壊された|器物損壊として扱えるかで解説しています。被害届を出すかどうかは、家族関係への影響も含めて考える必要があるため、【親子問題】被害届を出すと家族関係はどうなるのか|出す前に考えることもあわせてご覧ください。
民事保全の仮処分|接近や面談の強要を禁じる
保護命令が使えない親子の間では、民事保全法に基づく仮処分を裁判所に申し立てる方法が考えられます。仮の地位を定める仮処分(民事保全法23条2項)として、親御さんへの接近や面談の強要、住まいへの立ち入りなどを禁じるよう求めるものです。
仮処分では、子の暴力や接触によって親御さんの平穏な生活が害されるおそれを、資料によって裁判所に示す必要があります。先に挙げた記録や診断書、警察への相談記録は、この場面でも大切な材料になります。認められる場合でも、担保として一定の金銭を納めるよう求められることがあります。また、同じ家に住み続けている状態では接近を禁じること自体が難しいため、別々に暮らし始めた後に、再び押しかけてくるおそれがある場面で検討することが多い手段です。
親御さんが65歳以上の場合|高齢者虐待防止法
親御さんが65歳以上であれば、同居する子などからの暴力は、高齢者虐待防止法上の「養護者による高齢者虐待」として扱われることがあります。市町村に相談・通報すると、市町村は高齢者の安全確認や事実の確認を行い(9条)、生命や身体に重大な危険が生じているおそれがあるときは立入調査(11条)や、その際の警察署長への援助の要請(12条)を行うことができます。老人福祉法に基づく措置で高齢者が保護された場合には、養護者との面会を制限する仕組み(13条)も設けられています。
相談先は、市区町村の高齢者福祉の担当窓口や地域包括支援センターです。行政が動く流れは【親子問題】高齢の親が被害者の場合|行政が動く仕組みで詳しくご説明しています。
心の不調が背景にあると考えられる場合
逆上の背景に精神的な不調があると考えられる場合には、医療につなぐことも検討します。精神保健福祉法には、精神障害のために自身を傷つけ、または他人に害を及ぼすおそれがあると認められる人を警察官が発見したときに、保健所長を経て都道府県知事に通報する仕組み(23条)があり、その後に指定医による診察が行われることがあります。ただし、こうした手続に進むかどうかは警察や行政、医師が判断するもので、家族が望めば必ず行われるというものではありません。日頃の様子から医療につなぐ判断については【親子問題】ひきこもりと精神疾患の切り分け|医療につなぐ判断をご覧ください。
介入を続けるか、進め方を見直すか
子が逆上したことをもって、介入が失敗したと決めつける必要はありません。これまでの関係が変わる過程で、一時的に反発が強まることは起こりうるものです。ただ、同じ進め方を続けてよいかどうかは、担当の弁護士と改めて確認する必要があります。見直しの際には、次のような点を話し合います。
- 訪問や通知の頻度、伝える内容の順序を変える必要があるか。
- 子の生活を支えるカウンセラーの関わりを厚くする余地があるか。
- 親子が物理的に離れて暮らすことを優先すべき段階か。
- 警察との連携を強める必要があるか。
当事務所では、弁護士が親御さんの代理人として子と向き合い、民間の自立支援カウンセラーが子の日々の生活を支えるという形で、親子の問題に取り組んでいます。暴力の傾向がある子のケースでは、事案に応じて警察と連携を取りながら、できる限り安全に配慮して進めています。子の側を孤立させるだけでは、反発がかえって強まることもあるため、親御さんの保護と子の生活の支えを並行させることを大切にしています。役割を分ける理由は【親子問題】弁護士とカウンセラーが組むという形|役割を分ける理由、実際の介入の経過は【親子問題】弁護士とカウンセラーはどう介入するのか|4つの事例で見るサービスの実際でご紹介しています。
もっとも、どのような進め方をとっても、子の反発や暴力を完全に防げるとお約束することはできません。だからこそ、介入の方針と並行して、親御さんの安全を守る備えを具体的に整えておくことが大切です。
距離を取ることで変わることもある
介入後の逆上は、親子があまりにも近い距離で暮らしてきたことの表れである場合もあります。お互いに逃げ場のない状態では、小さなきっかけが大きな衝突につながりやすくなります。一時的に離れて暮らすことや、子が家を出て自分の生活を始めることで、関係が少しずつ落ち着いていったご家庭もあります。
距離という視点については【親子問題】親子が離れて暮らすことの意味|距離という視点、具体的な進め方は【親子問題】子を家から独立させる具体的な手順で解説しています。
介入の後に子が逆上したときは、まず親御さんご自身とご家族の安全を確保し、記録を残し、担当の弁護士と方針を確認し直すことが出発点になります。親子の間で使える手段には限りがありますが、記録と備えがあれば、選べる手立ては広がります。お一人で抱え込まず、早めにご相談ください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


