【男女トラブル】相手が「離婚する」と言い続けた|約束を理由に請求できるか

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

この記事は、2026年10月時点の民法(90条・587条・708条・709条・710条・724条・732条)と、最高裁判所昭和44年9月26日判決、最高裁判所平成8年3月26日判決、2026年6月に報じられた最高裁判所の判断をもとに作成しています。個別の事情によって結論は変わりますので、具体的なご判断はご相談の際に確認させてください。


「妻(夫)とは近いうちに離婚する」と何年も言われ続け、そのたびに時期が先送りされてきた。約束を守らなかった相手に慰謝料を請求できないか。ご相談の場では、こうした声を伺うことがあります。反対に、「離婚するつもりだと話していたことを理由に、交際相手から金銭を求められている」という、言った側からのご相談もあります。

 この点について、「既婚者との結婚の約束は無効なので、慰謝料は請求できない」という説明をよく見かけます。それ自体は誤りではありません。ただ、この説明は「約束を破ったこと」を理由にした請求についての話であり、約束の言葉を使って関係を続けさせたことそのものや、交際中に渡したお金の扱いまでは触れていないことが多いのが実情です。

 この記事では、相手が既婚者であることを知ったうえで交際し、「離婚する」と言われ続けてきた方を念頭に、請求の筋道を「約束」「関係を続けさせられたこと」「渡したお金」の三つに分けて整理します。独身だと偽られていた場合は既婚を隠されて交際|だまされた側が慰謝料を請求できる条件で、相手の配偶者から請求を受けた場合の対応は「離婚するから」と言われた既婚者との交際|後で慰謝料を請求されたらで扱っています。

「離婚する」という約束は、それだけでは請求の根拠になりにくい

 まず、「約束を守らなかったこと」を理由にした請求から見ていきます。結論からいえば、この筋道で請求が認められる場面は限られています。

既婚者との結婚の約束は、公序良俗に反するとされやすい

 日本の法律は、配偶者のある人が重ねて婚姻することを禁じています(民法732条)。また、配偶者のある人と性的関係を持つことは、他方の配偶者に対する不法行為になりうるとされています(同法709条)。こうした関係の継続を前提に交わされた「離婚したら結婚する」という約束は、公の秩序や善良の風俗に反するものとして、無効と判断されることが多いのが実情です(同法90条)。

 約束そのものが法的な効力を持たない以上、「約束を破った」ことを理由に慰謝料を求めることは、原則として難しいということになります。「何年も待たされた」という事情があっても、それだけでは婚約の不履行として扱われにくいという点は、最初に押さえておく必要があります。

言葉の具体性によっても評価は変わる

 交際中の「いつか一緒になろう」「落ち着いたら離婚する」といった言葉は、気持ちの表れとして受け止められることが多く、法的な約束とまでは評価されにくい傾向があります。独身同士の交際でも、婚約が成立していたといえるかは、両親へのあいさつ、指輪の授受、式場の予約、同居の準備など、外から見える事情を踏まえて判断されます。

 既婚者との交際では、そもそも約束の効力が問題になるうえ、言葉の具体性も問われることになります。婚約の成否の考え方は婚約を一方的に破棄された|慰謝料を請求できるケース・できないケースで詳しく解説しています。

相手の婚姻がすでに破綻していた場合は例外になりうる

 例外として考えられるのは、約束をした時点で、相手の夫婦関係がすでに破綻していた場合です。最高裁判所は、婚姻関係がすでに破綻した後に配偶者以外の人と関係を持っても、特段の事情がない限り、他方の配偶者に対する不法行為責任は生じないとしています(最高裁判所平成8年3月26日判決)。保護すべき夫婦の共同生活がもはや存在しないのであれば、その後に交わされた結婚の約束を直ちに無効とする理由も弱まる、という考え方です。

 ただし、破綻していたかどうかは、別居の期間や夫婦間のやり取りなど、夫婦の内部の事情によって判断されます。交際相手の説明だけを頼りに、夫婦の外にいる立場からこれを示すのは容易ではありません。破綻の主張がどこまで通るかは【不貞慰謝料】婚姻関係が破綻していたという主張はどこまで通るかをご覧ください。

約束とは別の筋道|「離婚する」と言って関係を続けさせたことの責任

 約束の効力が否定されても、それで検討が終わるわけではありません。「離婚する」という言葉を繰り返して関係を続けさせたこと自体が、相手の不法行為にあたるかという別の問いがあります。

既婚と知っていても、請求が一律に否定されるわけではない

 最高裁判所昭和44年9月26日判決は、妻のある男性と関係を持った女性が、男性に慰謝料を求めた事案について判断しています。この判決は、女性が男性に妻があることを知っていたとしても、それだけで請求を一律に否定すべきではないとしました。そのうえで、関係を持った動機が主として男性の偽りの言葉を信じたことにあり、関係を生じさせた責任が主として男性にあって、男性側の違法性が女性側の事情と比べて著しく大きいと評価できる場合には、請求が認められるとしています。

 背景にあるのは、不法な原因のために給付をした者はその返還を求められないという民法708条の考え方です。既婚者との関係には、知って関わった側にも一定の落ち度があるとみられやすいため、通常は請求が制限されます。しかし、双方の事情を比べて一方の責任が際立って大きい場合にまで請求を閉ざすのは公平ではない、というのがこの判決の考え方です。事案は男性に向けられた請求でしたが、双方の事情を比べるという考え方そのものは、性別を問わず参考になると考えられます。

評価の分かれ目になりやすい事情

 「著しく大きい」といえるかどうかは、個別の事情を積み重ねて判断されます。実務上は、次のような事情が検討の対象になります。

見られる事情請求する側に有利に働きやすい方向請求する側に不利に働きやすい方向
離婚の話の具体性調停を申し立てた、離婚届に記入したなど、具体的な手続や時期を示されていた「いつか」「そのうち」といった抽象的な言葉にとどまる
話の真偽手続を進めていると言いながら、実際には何もしていなかった実際に別居や離婚の協議が進んでいた
立場や年齢の差年齢や社会経験に大きな差がある、職場の上下関係がある対等な立場で交際していた
交際の経緯相手から強く求められて関係が始まり、続いた自分から積極的に関係を求めていた
生活への影響妊娠・中絶・出産、退職、転居など影響が大きい影響が限られている
関係の終わり方発覚後に一方的に連絡を絶つなど、不誠実な対応があった話し合いを経て関係を終えた


 このうち特に重視されやすいのは、離婚の話が気休めの言葉にとどまるのか、具体的な手続を装って信じ込ませるものだったのかという点です。「離婚調停中だ」「来月には離婚届を出す」と事実を偽り、それを信じさせて関係を続けた場合と、互いに先の見えない関係と理解しながら続けた場合とでは、評価が大きく異なります。

見通しは慎重に立てる

 この筋道は請求の道を残すものではありますが、認められる範囲は広くありません。既婚であることを知っていた以上、ご自身の側の事情も必ず比べられます。また、慰謝料の額も、独身と偽られていた場合と比べて抑えられる傾向があり、一般的な目安を当てはめにくい分野です。

 結婚をちらつかせて金銭や関係を得る行為が、どこから詐欺や貞操権侵害として扱われるかについては、結婚をちらつかせて金銭・関係を得る|結婚詐欺と貞操権侵害の境界で整理しています。

交際中に渡したお金は、名目ごとに分けて考える

 「離婚する」という言葉とともに、お金のやり取りが生じていることも少なくありません。慰謝料とは別に、渡したお金を取り戻せるかという問題があり、こちらは名目によって結論が大きく変わります。

貸したお金は、関係とは切り離して返還を求められる

 返してもらう約束でお金を渡していたのであれば、金銭の貸し借り(消費貸借)として返還を求めることができます(民法587条)。交際相手が既婚者であったことは、貸した事実そのものを左右しません。

 借用書がなくても、振込の記録や、「必ず返す」「来月返す」といったメッセージが残っていれば、貸付であったことを示す材料になります。詳しくは恋人・元恋人に貸したお金が返ってこない|借用書なしでも回収できる?をご覧ください。

生活費やプレゼントは、返還を求めにくい

 一方、食事代や旅行代、生活費の援助、プレゼントなどは贈与とみられることが多く、関係が終わったことを理由に返還を求めるのは一般に難しいとされます。また、不倫関係を維持すること自体を目的とした給付は、不法な原因による給付として返還を求められない場合があります(民法708条)。贈与と貸付の区別は別れた途端「これまでの金を返せ」と言われた|贈与と貸付の違いで解説しています。

「離婚のための費用」として渡したお金

 注意して見たいのは、「弁護士費用が必要だ」「離婚の慰謝料を払うのに足りない」などと言われて渡したお金です。実際には離婚の手続を何も進めていなかったのに、その目的を告げて受け取っていたのであれば、目的を偽ってお金を得たものとして、返還や損害賠償を求める余地が生じます。

 このような場合、渡したときのメッセージや、相手が説明していた手続の内容が重要な手がかりになります。結婚を前提として渡したお金の扱いについては、結婚を前提に渡したお金・結納金は返還請求できるかもあわせてご覧ください。

請求を考える前に確認しておきたいこと

 交際相手への請求を検討する際には、その動きがご自身にどのような影響を及ぼすかも見ておく必要があります。

相手の配偶者から請求を受ける可能性

 相手が既婚者であると知って関係を持った場合、相手の配偶者から不貞行為を理由に慰謝料を請求される立場にもあります。交際相手に書面を送ったり裁判を起こしたりすれば、それが配偶者に関係を知られるきっかけになることもあります。

 請求する側に立つつもりが、同時に請求される側にも立つことになりうるため、どの順序で何をするかを事前に考えておくことが大切です。既婚と分かった後の選択肢については交際相手が既婚とわかった後、どうすべきか|「続ける」「別れる」それぞれの法的リスクで整理しています。

「破綻していると聞いていた」という説明の限界

 配偶者から請求を受けた場合、「夫婦関係は破綻していると聞いていた」と主張することが考えられます。2026年6月には、婚姻関係が破綻していると信じたことに相当な理由があれば過失は認められない、という趣旨の最高裁判所の判断が報じられました。ただ、その事案では、夫婦が離婚に異論がないことをメールで確認し、一方の配偶者が自分の欄を記入した離婚届を示していたなどの事情があったとされています。

 交際相手の「もう終わっている」という言葉だけで、相当な理由があったと認められるとは限りません。「離婚する」と言われ続けてきたこと自体が、まだ離婚していないことを示す事情として受け止められることもあります。故意・過失の考え方は【不貞慰謝料】既婚と知らなかった|故意・過失が否定される場合で詳しく扱っています。

時効と、配偶者に支払った場合の求償

 交際相手への慰謝料請求は、不法行為に基づくものであれば、損害と相手を知った時から3年、行為の時から20年で時効にかかります(民法724条)。貸したお金の返還は、これとは別の期間で扱われます。請求の種類ごとの期間は男女トラブルの時効早見表|請求の種類別に何年で消えるかをご覧ください。

 また、配偶者からの請求に応じて支払った場合、交際相手に負担部分の支払いを求めること(求償)も考えられます。交際相手への請求、配偶者への対応、求償の扱いは互いに影響し合うため、まとめて組み立てることが望ましいといえます。求償の仕組みは【不貞慰謝料】求償権とは何か|払った側が不貞相手に分担を求める仕組みで解説しています。

関係を終わらせるときの進め方

 請求をするかどうかにかかわらず、関係を終える場面では、後に争いを残さない形を整えておくことが大切です。

言われてきたことを記録として残す

 「離婚する」と言われた時期と内容、示された手続の説明、お金を渡した日と名目などを、メッセージや送金記録とともに時系列で整理しておきます。記憶だけに頼ると、後で相手に否定されたときに示すものがありません。

  • 「離婚する」「調停中だ」などの発言が残っているLINEやメールの画面。
  • 相手が説明していた離婚の手続や時期の内容と、その説明を受けた日付。
  • お金を渡した日、金額、渡したときに告げられた名目が分かる送金記録やメッセージ。
  • 妊娠・通院・退職など、交際によって生じた生活上の影響を示す資料。


 話し合いの場でのやり取りを残す方法については、【男女トラブル】別れ話を録音しておくべきか|交際を終える話し合いでの記録の作り方で紹介しています。

直接のやり取りを避け、窓口を一本にする

 関係が長く続いた相手との話し合いでは、再び「もう少し待ってほしい」と説得され、結論が先送りになることがあります。また、感情が高ぶったやり取りの中での言動が、後に不利な材料として使われることもあります。

 弁護士が代理人として窓口になれば、ご本人が相手と直接やり取りする必要はなくなります。ご家族などに知られない形で連絡を進める方法については家族に知られずに解決できるか|連絡方法・書面の送付先の設計をご覧ください。

合意の内容は書面にまとめる

 話し合いがまとまった場合には、支払う金額や方法だけでなく、今後の接触の禁止、互いに口外しないこと、合意した内容以外に請求しないこと(清算条項)を書面にしておくことが考えられます。書面の作り方は不倫の示談書・合意書の作り方|接触禁止・口外禁止・清算条項で、当事務所が関係の解消に関わった事例は【解決事例】既婚者同士の不倫関係解消に伴う金銭トラブル|弁護士の介入により早期解決を実現した事例で紹介しています。

よくあるご質問

「離婚したら結婚しよう」というLINEが残っています。婚約の証拠になりますか。

 メッセージは、そうした言葉があったことを示す材料にはなります。ただ、相手が既婚者である以上、その約束は原則として効力を持たないとされるため、婚約の不履行として請求する根拠にはなりにくいのが実情です。一方で、離婚の時期や手続を具体的に示すやり取りであれば、相手の言葉が偽りであったことを示す材料として、関係を続けさせたことの責任を問う場面で意味を持つことがあります。LINEの証拠としての扱いは【不貞慰謝料】LINE・DMはどこまで証拠になるのかで解説しています。

相手が実際に離婚調停をしていた場合でも、請求はできませんか。

 相手が実際に離婚に向けた手続を進めていたのであれば、「偽りの言葉で関係を続けさせた」という評価はしにくくなります。他方で、夫婦関係の破綻が進んでいたことを示す事情にもなりうるため、相手の配偶者から請求を受けた場合の反論の材料になることがあります。どちらの方向で意味を持つかは、手続の時期と交際の時期の前後関係によって変わります。

請求したいけれど、相手の配偶者に知られたくありません。

 交際相手のみに連絡を取る形で交渉を進めることは考えられますが、相手が配偶者に話す可能性や、裁判になった場合に関係が明らかになる可能性を完全に排除することはできません。そのため、請求するかどうかと並んで、配偶者に知られた場合の対応まで見通しておくことが大切です。連絡の方法や書面の送付先をどう組み立てるかは、ご事情を伺ったうえでご提案します。

まとめ


  1. 既婚者との「離婚したら結婚する」という約束は、公序良俗に反するとして無効とされることが多く(民法90条・732条)、約束を破ったことだけを理由とする請求は難しい。
  2. 約束の時点で相手の婚姻関係がすでに破綻していた場合は例外となりうるが、夫婦の外からその事実を示すのは容易ではない(最高裁判所平成8年3月26日判決)。
  3. 既婚と知っていても、相手の偽りの言葉が関係の主な原因で、相手側の違法性が著しく大きい場合には、慰謝料が認められる余地がある(最高裁判所昭和44年9月26日判決・民法708条の考え方)。
  4. 離婚の話が具体的な手続や時期を偽るものだったか、立場の差や生活への影響がどの程度だったかが、評価の分かれ目になりやすい。
  5. 貸したお金は関係とは切り離して返還を求められるが(民法587条)、贈与や関係を維持するための給付は返還を求めにくい(同法708条)。
  6. 請求の動きが相手の配偶者に知られるきっかけになりうるため、ご自身が請求を受ける可能性や求償の扱いもあわせて検討する。
  7. 交際相手への慰謝料請求は、損害と相手を知った時から3年で時効にかかる(民法724条)。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。「離婚する」と言われ続けてきた関係の清算や、交際中に渡したお金の扱い、相手の配偶者への対応まで、ご事情を伺ったうえで進め方をご提案します。
交際相手に対して請求を考えている方も、反対に交際相手から金銭を求められている方も、直接のやり取りを始める前に一度ご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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