【不貞慰謝料】二重取りにならない仕組みと、確認の方法
不貞の慰謝料をめぐるやり取りの中で、「求償権(きゅうしょうけん)」という言葉が出てくることがあります。慰謝料を支払った後になって、不貞のもう一方の当事者から負担を求められた、あるいは自分の側から分担を求めたい、という場面です。
この言葉は日常の会話ではあまり使われないため、「支払ったお金が戻ってくる権利」と受け取られることがあります。ただ、実際には返してもらうための仕組みというより、一つの賠償を外側の関係と内側の関係の二段に分けて清算し直す仕組みです。この点を取り違えたまま話し合いを進めると、金額の話に入る前の段階で行き違いが生じます。
この記事では、求償権がどのような仕組みで、いつ、誰と誰の間に生じるのかという部分に絞って整理します。分担の割合をどう決めるのか、示談書に求償権を放棄する条項を置くかどうか、交渉の場でどう持ち出すか、いつまで行使できるのかといった点は、それぞれ別の記事で扱います。
「求償」という言葉が指しているもの
求償とは、複数の人が同じ一つの責任を負っている場面で、そのうちの一人が自分の分を超えて支払ったときに、超えた部分の負担をもう一方に求めることをいいます。不貞の慰謝料では、慰謝料を支払った当事者が、不貞のもう一方の当事者に対して分担を求める場面がこれにあたります。
返金や立替えとは前提が異なる
お金を求める場面はほかにもありますが、前提としている関係がそれぞれ違います。混同されやすい三つを並べると、次のように整理できます。
| 言い方 | 前提になっている関係 | 不貞の慰謝料でいうと |
|---|---|---|
| 返金 | 受け取る理由のなかったお金を戻してもらう | そもそも支払う理由があったのかという別の問題です |
| 立替え | 自分は責任を負わないが、他人の支払いを代わりにした | 支払った側にも責任があるため、この形にはあてはまりません |
| 求償 | 自分も責任を負う中で、自分の分を超えて支払った | 支払った側が、不貞のもう一方の当事者に分担を求めます |
違いの中心は、支払った側自身も責任を負っているかどうかです。求償は、責任がなかったことを理由にお金を取り戻す仕組みではなく、責任があることを前提にしたうえで、二人の間の負担の偏りを後から直す仕組みだといえます。
分担を求める相手は、請求してきた側ではありません
ここは最初に取り違えられやすいところです。慰謝料を請求してきたのは、不貞をされた配偶者です。しかし、求償として分担を求める相手は、その配偶者ではなく、不貞のもう一方の当事者です。
つまり、不貞相手が請求を受けて支払ったのであれば、分担を求める先は不貞をした配偶者であり、不貞をした配偶者が支払ったのであれば、分担を求める先は不貞相手ということになります。支払ったお金を、請求してきた配偶者から返してもらう話ではない、という点をおさえておくと、その後の見通しが立てやすくなります。
慰謝料の責任は二つの関係に分かれている
求償の仕組みが分かりにくいのは、一つの慰謝料に、性質の違う二つの関係が重なっているためです。
外側の関係|請求する配偶者との間では全額
不貞をした配偶者と不貞相手は、被害を受けた配偶者との関係では、それぞれが損害の全額について責任を負うものとして扱われます。民法719条1項は、数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯して損害を賠償する責任を負うと定めています。
そのため、請求する側は、二人のどちらか一方だけに全額を求めることもできますし、二人に対して求めることもできます。誰に、いくら請求するかの選択は、請求する側に委ねられています。
内側の関係|当事者どうしの間では分担
これに対して、不貞をした配偶者と不貞相手との間では、責任は分かれます。二人がそれぞれ全部を負担するわけではなく、それぞれの関わり方に応じた分担があるという考え方です。
外側では全額、内側では分担という二段構えになっているため、外側の請求が一方に偏ったとき、その偏りを内側で調整する必要が出てきます。この調整のための権利が求償権です。
二つの関係は連動していません
内側の分担がどうなっていても、外側の請求は縛られません。二人の間で「自分の負担はこの程度だ」と考えていたとしても、請求する配偶者に対して「その分しか支払わない」と主張できるわけではないということです。
逆に、外側で支払った金額がそのまま内側の分担を決めるわけでもありません。分担の話は、外側の支払いが済んだ後に、当事者どうしの間で改めて問題になります。話し合いの場でこの二つが同じテーブルに載ると、議論がかみ合わなくなりがちです。
求償権はいつ生まれるのか
求償権は、慰謝料を請求された時点で生じるものではありません。示談書に署名した時点でもありません。実際に支払いがされて、初めて形になる権利です。
「求償されるかもしれない」と「求償権がある」は別
交渉の段階で、相手方から「支払った後に求償するつもりだ」と告げられることがあります。この段階では、まだ権利として存在しているわけではなく、支払いがされればその可能性がある、という状態にとどまります。
もっとも、将来生じる可能性があることを前提に、支払う金額や条件を決めていく場面は実際にあります。交渉の場でどのように扱うかは、それ自体が一つの論点であり、別の記事で扱っています。
支払った事実を後から示せる形にしておく
分担を求める側になったとき、出発点になるのは「自分が支払った」という事実です。ところが、時間が経ってから振込記録だけを見ても、それが何のための支払いだったのかまでは読み取りにくいことがあります。
示談書や合意書、支払いの記録、やり取りの控えといったものが手元にそろっているかどうかで、後の説明のしやすさは変わってきます。支払いが終わった時点で書類を整理しておくことには、こうした意味もあります。
何が分担の土台になるのか
分担の話に入る前に、そもそも何を土台として分けるのかが決まっている必要があります。
同じ一つの損害についての支払いであること
求償は、二人が同じ一つの損害について責任を負っていることを前提にした仕組みです。したがって、土台になるのは、その慰謝料の支払いとしてされたものに限られます。
夫婦の間で動いたお金には、生活費や財産分与など、慰謝料とは別の性質のものが含まれていることがあります。名目のはっきりしないまま渡されたお金は、後になって「あれは慰謝料の一部だった」と説明しても、そのとおりには読み取ってもらえないことがあります。支払いの名目をどう扱うかは、内側の清算においても意味を持ちます。
分担の割合はあらかじめ決まっているわけではありません
二人の分担が半分ずつだと説明されることがありますが、割合が法律で定められているわけではありません。二人の関わり方の違いによって、どちらかが重く見られることもあります。
割合は、まず当事者の話し合いで決められることがあり、まとまらなければ、最終的には裁判所の判断に委ねられます。どのような事情が割合の判断に影響するのかは、当事務所の別の記事で詳しく扱っています。
どちらからどちらへ向かうのか
求償というと、不貞相手が支払って、不貞をした配偶者に分担を求める場面が想定されがちです。しかし、向きは支払いの経過によって変わります。
| 場面 | 分担はどちらへ向かうか | 見落とされやすいところ |
|---|---|---|
| 不貞相手だけが請求を受けて支払った | 不貞相手から、不貞をした配偶者へ | 請求してきた配偶者に返還を求めるものではありません |
| 不貞をした配偶者だけが支払った | 不貞をした配偶者から、不貞相手へ | 夫婦の間で話が済んだ後に、外側の当事者へ話が向かうことになります |
| 双方がそれぞれ一部を支払った | 支払った額が分担を上回っている側から、もう一方へ | それぞれの支払いを合計し、二人の総額として見る必要があります |
| 双方に配偶者がいる | 関係が二組になり、向きが交差します | いわゆるダブル不倫の場面で、別の記事で扱っています |
夫婦が同じ家計であれば、お金の動きとしては行き来にとどまることがあります
不貞をされた配偶者が離婚をせず、夫婦の家計が一つのままである場合、不貞相手からの求償に配偶者が応じると、いったん家計に入ったお金の一部が再び外へ出ていくことになります。求償が交渉の場で意識されるのは、こうした事情が背景にあるためです。
求償を受けた側から見た同じ場面
立場が入れ替わり、分担を求められる側になることもあります。突然の請求のように感じられますが、内容としては、最初から自分にもあった負担が、形を変えて表に出てきたものです。
確かめる順序
求められた金額の当否を考える前に、順序としては次の点から確かめることになります。
- 相手方が実際に支払いを済ませているか。
- その支払いが、同じ一つの慰謝料についてのものか。
- 二人の間の分担が、どの程度と考えられるか。
このうち一つ目と二つ目は、金額の議論とは別の入口です。相手方の支払いがまだ済んでいない段階であれば、分担を求める前提そのものが整っていないことになります。また、示談の際に求償に関する取り決めがされている場合には、その内容によって結論が変わることがあります。取り決めの読み方については、別の記事で扱っています。
権利として残ることと、手元にお金が戻ることは別
求償権があるという説明と、実際に分担分を受け取れるという話は、同じではありません。この点を分けて考えておくと、支払いの段階での判断が現実に近づきます。
任意に応じられなければ、自分から求める側に回ります
分担を求めても相手方が応じない場合、話を進めるには、自分の側から手続を起こすことになります。慰謝料を請求されていたときとは立場が入れ替わり、今度は自分が請求する側として、主張と裏づけを用意する側に回ります。
自分の側の事実を前提に述べることになります
求償を求める場面では、二人が同じ責任を負っていたことが出発点になります。つまり、不貞があったという事実を前提として、そのうえで分担を論じることになります。慰謝料の交渉の場では否定したい事情であっても、求償の場面では前提として扱う必要が出てくる、という関係になります。
書面は相手方の生活の場に届きます
分担を求める相手方は、不貞のもう一方の当事者です。相手方が配偶者と同居を続けている場合、こちらから送った書面は、その生活の場に届くことになります。すでに終わったと考えていた問題が再び動き出す形になり、そのことが別のやり取りを呼ぶこともあります。求償を検討する際には、金額とあわせて、この点も含めて考えることになります。
よくあるご質問
Q.求償権は放棄しなければならないのですか
放棄が義務づけられているわけではありません。示談の際に、相手方から放棄する条項を求められることはありますが、応じるかどうかは条件全体の中で判断する事柄です。条項の書き方や判断の目安については、別の記事で詳しく扱っています。
Q.分担は半分ずつになるのですか
半分と決まっているわけではありません。二人の関わり方によって、割合の見方は動きます。話し合いで決まらない場合には、最終的に裁判所が判断することになります。
Q.求償のやり取りは、慰謝料を請求してきた配偶者にも伝わるのですか
求償は当事者二人の間の問題ですが、相手方が配偶者と同居していれば、事実上伝わることが多いといえます。夫婦の関係が修復の途中にある場合、そこから新たな摩擦が生じることもあります。
まとめ
- 求償は、支払ったお金を取り戻す仕組みではなく、二人の間の負担の偏りを後から直す仕組みです。
- 分担を求める相手は、請求してきた配偶者ではなく、不貞のもう一方の当事者です。
- 慰謝料には、請求する配偶者との外側の関係と、当事者どうしの内側の関係があり、二つは連動していません。
- 求償権は、実際に支払いがされて初めて形になります。
- 土台になるのは、同じ一つの慰謝料についての支払いであり、名目の違うお金は同じようには扱われません。
- 分担の割合は決まっておらず、話し合いで決まらなければ裁判所の判断に委ねられます。
- 権利として残ることと、手元にお金が戻ることは別の問題です。
不貞の慰謝料に関するご相談
求償は、慰謝料を支払うかどうかを決める段階から、支払った後の清算まで、複数の場面にまたがって関わってきます。どの段階にいるのかによって、検討すべき点も、用意しておくべき資料も変わります。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、慰謝料を請求する側の方からも、請求を受けた側の方からも、不貞をめぐるご相談をお受けしています。ご自身の状況で何が問題になりうるのかを整理したいという段階でも差し支えありませんので、お気軽にご相談ください。


