男女トラブルの時効早見表|請求の種類別に何年で消えるか
不貞慰謝料の相談では、相手が外国籍であったり、すでに日本を離れて海外で暮らしていたりする場面があります。インターネットで調べると「海外では不倫相手への慰謝料請求は認められていない」という説明が数多く出てきて、自分の場合も同じなのかと不安になった方もおられるでしょう。
しかし、この説明はそのままでは当てはまりません。日本の裁判所で扱えるかどうか、どの国の法律で判断されるか、決まった内容を実現できるかは、それぞれ別の物差しで決まります。そして、そのどれもが「相手の国籍」では決まりません。
この記事では、相手が外国籍である場合と、相手が海外にいる場合とを切り分けたうえで、手続がどこでどのように変わるのかを整理します。請求する側と請求を受けた側の双方の視点から見ていきます。
この記事で扱うこと
- 「外国籍であること」と「海外にいること」で影響の出方が違うこと。
- 日本の裁判所で審理できるかどうかの決まり方。
- どの国の法律で判断されるかの決まり方。
- 書面が届くまでにかかる時間と、その間に動くもの。
- 決まった内容を実現できるかどうかの見通し。
「外国籍であること」と「海外にいること」は別の問題
| 見る場面 | 相手の国籍が外国であること | 相手の生活の本拠や所在が海外にあること |
|---|---|---|
| 日本の裁判所で審理できるか | 原則として影響しない | 住所がどこかで結論が変わる |
| どの国の法律で判断されるか | 原則として影響しない | 夫婦の生活の本拠が海外なら大きく変わる |
| 書面が届くまでの時間 | 影響しない | 数か月単位で延びることがある |
| 決まった内容を実現できるか | 影響しない | 相手と財産の所在によって変わる |
| やり取りに必要な手当て | 翻訳や通訳が必要になることがある | 連絡手段と時差の調整が要る |
表のとおり、国籍そのものが結論を動かす場面は多くありません。日本に住んで日本で働いている外国籍の方が相手であれば、手続の骨格は日本人が相手のときとほとんど変わりません。違いが出るのは、やり取りに使う言語や、書面に訳文を添えるかどうかといった実務面が中心です。
これに対し、相手が日本を離れて海外で生活している場合は、三つの場面すべてに影響が及びます。以下では、その三つを順に見ていきます。
日本の裁判所で審理できるか
まず見られるのは相手の住所
民事訴訟法3条の2第1項は、人に対する訴えについて、その住所が日本国内にあるときは日本の裁判所が管轄権を有すると定めています。住所がない場合や住所が知れない場合には居所が日本国内にあるとき、居所もない場合や知れない場合には訴えの提起前に日本国内に住所を有していたときにも管轄権が認められます。
注意したいのは、最後の受け皿に例外が付いていることです。条文は、日本国内に最後に住所を有していた後に外国に住所を有していたときを除くとしています。つまり、日本に住んでいた相手が帰国して現地に生活の拠点を移した場合、「以前は日本に住んでいた」という理由だけでは日本の裁判所を使えないことがあります。
不法行為があった地が日本国内にあるとき
もう一つの入口が民事訴訟法3条の3第8号です。不法行為に関する訴えは、不法行為があった地が日本国内にあるときに日本の裁判所へ提起することができます。ただし、外国で行われた加害行為の結果が日本国内で発生した場合において、日本国内におけるその結果の発生が通常予見することのできないものであったときは除かれます。
不貞をめぐる請求では、傷つけられたとされるのは婚姻共同生活の平穏です。そのため、夫婦の生活の本拠が日本にあれば、行為そのものが海外で行われていても、この入口が使える場合があります。
管轄が認められても却下されることがある
民事訴訟法3条の9は、日本の裁判所が管轄権を有することとなる場合であっても、事案の性質、応訴による被告の負担の程度、証拠の所在地その他の事情を考慮して、日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を害し、又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情があると認めるときは、訴えの全部又は一部を却下することができると定めています。
入口があることと、最後まで日本で審理されることは同じではありません。証拠も関係者も現地にそろっているような事案では、この規定が意識されることになります。
なお、日本の裁判所で審理できるとして、次に国内のどの裁判所かという問題が続きます。その決まり方は別の記事で扱っていますので、あわせてご覧ください。
どの国の法律で判断されるか
決め手は「結果が発生した地」
準拠法、つまりどの国の法律で判断するかは、法の適用に関する通則法が定めています。17条は、不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、加害行為の結果が発生した地の法によると定め、ただし書で、その地における結果の発生が通常予見することのできないものであったときは加害行為が行われた地の法によるとしています。
ここが誤解されやすいところです。基準は「行為が行われた場所」ではなく「結果が発生した地」です。不貞の事案で損なわれたとされるのは夫婦の生活の平穏ですから、夫婦がどこで生活していたのかが重く見られることになります。
実際、日本人夫婦が海外で生活していた期間の不貞について、その地の法律によることになり、その地では不貞相手への請求が認められていないとして請求が退けられた裁判例があります。海外での生活が長い方は、この点を早い段階で確認しておく意味があります。
当事者がそろって同じ法の地にいるときの例外
通則法20条は、不法行為の当時において当事者が法を同じくする地に常居所を有していたことその他の事情に照らして、明らかにより密接な関係がある他の地があるときは、その地の法によると定めています。
したがって、不貞行為が海外で行われていても、当事者がそろって日本に生活の本拠を置いていれば、日本法によることになる場合があります。海外出張や短期の滞在中の出来事であれば、この規定が働く余地は小さくありません。「海外で起きたことだから日本の法律は関係ない」と早合点しないほうがよい理由がここにあります。
日本法を持ち出せる場面は限られている
通則法22条は、不法行為について外国法によるべき場合において、その外国法を適用すべき事実が日本法によれば不法とならないときは、その外国法に基づく請求はできないと定め、2項では、外国法と日本法の双方で不法となるときであっても、日本法により認められる損害賠償その他の処分でなければ請求することができないとしています。
この規定は外国法による請求に日本法の枠をはめるための一方通行の仕組みです。外国法が準拠法になる場面で、日本法のほうが有利だからという理由で日本法を持ち込めるわけではありません。ここを取り違えると、見通しを立て損ねることになります。
| 夫婦の生活の本拠 | 不貞行為が行われた場所 | 準拠法を考えるときの出発点 |
|---|---|---|
| 日本 | 日本 | 日本法から考えることになる |
| 日本 | 海外 | 結果が生じた地は日本側と見られやすい |
| 海外 | 海外 | その地の法から考えることになる |
| 海外 | 日本 | 結果がどこで生じたかを事案ごとに検討する |
表はあくまで考え方の見取り図です。生活の本拠が移動していた時期や、別居の有無によって評価は変わりますので、実際の判断は個別の事情によります。
話し合いで決められる部分もある
準拠法や裁判所は、争いになったときに法律が決めるものですが、当事者の合意で動かせる部分もあります。
通則法21条は、不法行為の当事者は、不法行為の後において、適用すべき法を変更することができると定めています。ただし、第三者の権利を害することとなるときは、その変更をその第三者に対抗することができません。示談の場面で、日本法によることを当事者間で確認しておくという選択肢があるということです。
裁判所についても、民事訴訟法3条の7が、当事者は合意によりいずれの国の裁判所に訴えを提起することができるかを定めることができるとしています。この合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ書面でしなければ効力を生じません。合意の内容を記録した電磁的記録によってされたときは書面によってされたものとみなされます。国内のどの裁判所かについては、民事訴訟法11条が第一審に限り合意で定められるとしています。
支払通貨も決めておきたい項目です。民法403条は、外国の通貨で債権額を指定したときは、債務者は履行地における為替相場により日本の通貨で弁済をすることができると定めています。どの通貨でいくらを、どの口座に、いつまでに払うのかを書き分けておかないと、送金手数料や為替差の負担をめぐって後から争いになります。
示談書の条項の組み立て方そのものは別の記事で詳しく扱っていますので、そちらをご覧ください。
書面が届くまでにかかる時間
相手が海外にいる場合にもっとも実感しやすい違いが、時間です。
| 方法 | どういう場面で使われるか | 時間の見え方 |
|---|---|---|
| 外国における送達(民事訴訟法108条) | 相手の所在が分かっている | 裁判長が現地の管轄官庁や日本の大使・公使・領事に嘱託する。数か月単位を見込む |
| 公示送達(110条1項3号) | 108条の方法によることができない、又はこれによっても送達できないと認めるべき場合 | 外国においてすべき送達についてした公示送達は6週間で効力が生じる |
| 公示送達(110条1項4号) | 外国の管轄官庁に嘱託を発した後6月を経過しても送達を証する書面の送付がない場合 | 同じく6週間 |
民事訴訟法112条2項は、外国においてすべき送達についてした公示送達の期間を6週間と定めており、同条3項でこの期間は短縮することができないとされています。国内の送達で通常見込む2週間とは前提が違うということです。
送達の方法や相手が日本語を理解できるかどうかによっては、書類に訳文を添えることが求められます。この費用と時間も、あらかじめ見込んでおく必要があります。
期間の扱いにも違いがあります。民事訴訟法97条1項は、当事者がその責めに帰することができない事由により不変期間を守れなかった場合の追完について、事由が消滅した後1週間以内としつつ、外国に在る当事者についてはこの期間を2月としています。また96条2項は、遠隔の地に住所又は居所を有する者のために裁判所が付加期間を定めることができるとしています。相手が海外にいるときは、こちらの側でも期間の見積もりを長めに置くことになります。
請求する側が海外にいる場合
海外にいるのが相手ではなく自分である場合にも、押さえておきたい規定があります。
まず、民事訴訟法75条1項は、原告が日本国内に住所、事務所及び営業所を有しないときは、裁判所は被告の申立てにより、決定で訴訟費用の担保を立てるべきことを原告に命じなければならないと定めています。担保の額は、被告が全審級において支出すべき訴訟費用の総額を標準として定められます。同条4項により、申立てをした被告は原告が担保を立てるまで応訴を拒むことができます。海外から日本の裁判所に訴えを起こす側にとっては、想定しておくべき負担です。
もう一つが送達場所です。民事訴訟法104条1項は、当事者、法定代理人又は訴訟代理人は送達を受けるべき場所を受訴裁判所に届け出なければならないと定めており、その場所は日本国内に限られます。日本国内に届出先を確保できるかどうかが、手続を進めるうえでの前提になります。
期日への出席については、ウェブ会議による方法が利用できる場面があります。ただし、手続の種類によって扱いが異なりますので、詳しくは裁判所の手続を扱った記事をご覧ください。
決まった内容を実現できるか
判決を得ることと、実際にお金を受け取ることは別の問題です。この差は、相手が海外にいる場合にとくに大きくなります。
日本の判決に基づいて相手の国にある財産を差し押さえようとすれば、その国で判決を承認してもらい、執行のための手続を経る必要があります。どのような要件が置かれているかは国によって異なります。
参考までに、日本が外国の判決に求めている要件を見ると、民事訴訟法118条は、外国裁判所の確定判決は、法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること、敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと、判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと、相互の保証があることのすべてを備える場合に限り効力を有すると定めています。公示送達その他これに類する送達は、この呼出しには含まれません。
外国でもこれに近い関門が置かれているのが一般的です。そうすると、相手の国が不貞相手への慰謝料請求という制度自体を持っていない場合、日本で得た判決をその国で実現しようとする段階で難しさが出てくることがあります。
実務的には、相手が日本国内に残している財産や収入があるかどうかが分かれ目になります。日本国内に給与の支払先や預金があるのであれば、日本での手続で対応できる余地があります。逆に、日本に何も残っていない場合には、判決を得ること自体の意味を含めて、はじめに検討しておく必要があります。
強制執行の手続の中身については、別の記事で扱っています。
請求を受けた側から見ると
海外にいる側から見た場合の注意点も整理しておきます。
第一に、受け取らないままでいても手続が進む道筋が用意されています。上に見たとおり、外国への嘱託ができない場合や、嘱託を発した後6月を経過しても送達を証する書面の送付がない場合には公示送達が使われます。海外にいるから届かない、で終わるわけではありません。
第二に、争える余地がある場合もあります。日本の裁判所に管轄権があるかどうか、どの国の法律で判断すべきかは、いずれも主張の対象になります。とくに海外での生活が長かった事案では、準拠法の点が結論に直結することがあります。
第三に、対応の順序に注意が必要です。民事訴訟法3条の8は、被告が日本の裁判所が管轄権を有しない旨の抗弁を提出しないで本案について弁論をし、又は弁論準備手続において申述をしたときは、裁判所が管轄権を有すると定めています。日本の裁判所で審理されること自体を争うのであれば、中身の反論より前に述べておく必要があるということです。
避けたほうがよい進め方
相手が外国籍である場合に、在留資格やビザに関わることをほのめかして支払いを促すやり方を思いつく方がおられます。これは避けるべきです。
不貞は刑事上の問題ではなく、慰謝料の請求は民事の話です。それを在留の可否や勤務先の処遇と結びつけて相手に迫れば、請求する側の言動そのものが問題として取り上げられることになりかねません。金額の交渉においても、こうした経緯は請求する側に不利に働きます。
相手の勤務先や家族への連絡についても同じ考え方が当てはまります。詳しくは、取り立て方の限界を扱った記事をご覧ください。
よくあるご質問
相手が外国籍ですが、日本に住んでいます。特別な手続が必要ですか
住所が日本国内にあれば、日本の裁判所で審理できるかどうかという点では日本人が相手の場合と変わりません。夫婦の生活の本拠も日本にあるのであれば、準拠法についても日本法から考えることになります。違いが出やすいのは、日本語でのやり取りが難しい場合の訳文や通訳の手当てです。民事訴訟法154条1項は、口頭弁論に関与する者が日本語に通じないときは通訳人を立ち会わせると定めています。
海外で作成した示談書は日本でも有効ですか
通則法10条1項は、法律行為の方式はその成立について適用すべき法によるとし、2項で、行為地法に適合する方式は有効とすると定めています。そのため、現地の方式に沿って作成した書面が方式の点で無効になるとは限りません。もっとも、支払いが滞ったときに直ちに強制執行へ進めるかどうかは別の問題です。日本の公証役場で公正証書にする場合、当事者が海外にいるときは代理人による嘱託などの手当てが必要になりますので、作成の段取りを含めて事前に確認しておくことをおすすめします。
相手が近く出国しそうです。急いだほうがよいですか
出国そのものを止める手立てはありませんが、出国の前と後では、日本の裁判所を使えるか、書面がどれくらいで届くか、決まった内容を実現できるかのいずれもが変わり得ます。とくに、日本国内に住所があるうちに手続を始められるかどうかは、その後の進み方に影響します。時効の管理は別に進むものですので、この点も含めて早めにご確認ください。
まとめ
- 相手の国籍が外国であること自体は、手続の骨格をほとんど変えない。
- 影響が大きいのは、相手の生活の本拠や所在が海外にあること。
- 日本の裁判所で審理できるかは、相手の住所と、不法行為があった地で決まる(民事訴訟法3条の2、3条の3第8号)。
- 帰国して現地に住所を移した相手には、「以前は日本にいた」という理由が使えないことがある。
- どの国の法律で判断されるかは、加害行為の結果が発生した地で決まる(通則法17条)。行為の場所ではない。
- 当事者がそろって同じ法の地に常居所を持つときは、そちらの法によることがある(同20条)。
- 外国法が準拠法になる場面で、日本法のほうが有利だからという理由で日本法を選ぶことはできない。
- 話し合いであれば、準拠法や裁判所、支払通貨を合意で決められる部分がある。
- 外国への送達は数か月単位、公示送達の効力発生も6週間と、時間の前提が変わる。
- 日本で判決を得ても、相手の国で実現できるとは限らない。日本国内に財産があるかが分かれ目になる。
ご相談をお考えの方へ
相手が外国籍である、あるいは海外にいるという事情は、それだけで請求ができなくなることを意味しません。一方で、日本国内だけで完結する事案とは、確認すべき順序も、かかる時間の見積もりも異なります。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女問題に関するご相談を承っております。夫婦がどこで生活していたのか、相手が現在どこにいるのか、日本国内に財産が残っているのかといった点をうかがったうえで、進め方の見通しをお示しします。請求する側の方も、請求を受けた側の方も、まずはお気軽にご相談ください。


