【不貞慰謝料・請求された側】訴状が届いた|答弁書の期限と欠席のリスク
不貞慰謝料のやり取りでは、「そのころ夫婦関係はすでに壊れていた」「婚姻関係は破綻していたのだから支払う義務はない」という言い分がしばしば出てきます。請求を受けた側にとっては最初に思い浮かぶ反論であり、請求する側にとっては最も戸惑わされる言葉でもあります。この主張は、どこまでのことを決めるものなのでしょうか。ここでは、言い分の位置づけ、判断される時点、示す責任の所在という3つの角度から、請求する側と請求を受けた側の双方に向けて整理します。
「破綻していた」という一言に混ざっているもの
同じ「破綻していた」という言葉でも、法律の場面では別々の扱いを受ける言い分が混ざっています。どこまで通るかを考える前に、まず自分(または相手方)が述べているのがどの言い分なのかを切り分けることになります。
| 述べられている言い分 | 法律上どこに位置するか | 通った場合に起きること |
|---|---|---|
| 不貞の当時、すでに夫婦関係は壊れていた | 責任が生じるかどうかの問題 | 請求そのものが認められないことがある |
| 壊れていると聞かされ、そう信じていた | 認識(故意・過失)の問題 | 別の枠組みで改めて検討される |
| 壊れかけていた、冷え切っていた | 責任は残るが事情としての問題 | 金額の判断で考慮されることがある |
| 離婚の話が出ていた | それ自体では位置が決まらない | 上の3つのどれを支える事情かで意味が変わる |
1行目と2行目は似た言葉に見えますが、前者は夫婦の実際の状態についての主張、後者は当時の自分の受け止め方についての主張で、示すべきことも変わります。3行目に至っては、そもそも責任がないという主張ではありません。「破綻していた」と述べたつもりでも、中身を聞いていくと3行目や4行目にあたることは少なくありません。
日常の語感とはずれがある
日常会話では、会話がない、一緒に出かけない、気持ちが離れている、といった状態を指して「もう破綻している」と表現します。一方、慰謝料の場面で問題になる破綻は、夫婦としての共同生活の実体が失われ、元に戻る見込みがないと客観的に評価できるかどうかという話です。当事者の気持ちが冷めていたことと、外から見て共同生活の実体が失われていたことは、重なることもあれば重ならないこともあります。
なぜ破綻していれば責任が生じないとされるのか
不貞を理由とする慰謝料は、民法709条の不法行為として組み立てられます。ここで守られているのは、婚姻共同生活の平和の維持という利益だと理解されています。最高裁平成8年3月26日判決は、配偶者と第三者が肉体関係を持った場合でも、その当時すでに婚姻関係が破綻していたときは、特段の事情のない限り第三者は不法行為責任を負わない、と判断しました。壊れる前の状態が残っていないのであれば、侵害されたと言える利益も残っていない、という理屈です。
したがって、この主張は「金額を下げてほしい」という話ではなく、請求の土台そのものを否定する主張です。通れば結論は支払義務なしに向かい、通らなければ土台は残ります。効き方が両極端であることが、この主張の扱いを難しくしています。
判断されるのは「不貞のあった時点」
見られているのは現在の夫婦関係ではなく、不貞行為があった当時の状態です。この点を外すと、話がかみ合わなくなります。
発覚後に別居や離婚をしたことは材料にならない
発覚をきっかけに別居した、離婚が成立した、という経過は、その後に起きたことです。むしろ、不貞が原因で関係が悪化したのであれば、破綻を支える事情ではなく、生じた結果として金額の判断に働く方向の事情として扱われることがあります。「いまは離婚しているのだから破綻していた」という説明は、順序が逆になっています。
後から進んだ話し合いは前にさかのぼらない
交際が始まった後で夫婦の離婚協議が進み、条件が固まっていったという経過も同じです。関係を持った時点で協議が進んでいたのか、それとも関係が先にあって協議が後から動いたのかで、意味は変わります。関係が長期間続いている場合には、始まった時点と終わりに近い時点とで評価が分かれることもあるため、いつからいつまでの話なのかを整理しておく必要があります。
示す責任は、主張する側にある
裁判では、自分に有利な事実は自分で示すのが原則です。破綻していたという主張は、請求を受けた側から出す反論ですから、その裏づけを出すのも述べた側になります。請求する側が「破綻していなかったこと」を先回りして証明しなければならないわけではありません。
もう一つ押さえておきたいのは、述べなければ判断の対象にならないという点です。実際には夫婦関係が冷え切っていたとしても、そのことを主張し、裏づけを出さなければ、判断の材料には乗りません。交渉の段階でも構図は同じで、こちらが説明しない限り、相手方がその事情を考慮してくれることは期待しにくいといえます。
主張はできても、材料が手元にないことが多い
この主張の最も現実的な難しさは、法律論ではなく材料の側にあります。請求を受けた側は、夫婦の家の中で何が起きていたかを直接には見ていない立場だからです。
| 手元に残っていることが多いもの | そこから示せること | 足りないと言われやすい点 |
|---|---|---|
| 配偶者から聞かされた説明のやり取り | そう聞いていたという経過 | 夫婦の実際の状態は分からない |
| 配偶者が家に帰らなかった時期の連絡 | 一定期間の生活の様子 | 別居といえる状態かは別に判断される |
| 離婚届や離婚協議に関する画像・文面 | 離婚に向けた動きがあったこと | どこまで具体化していたかが問われる |
| 交際中の写真や旅行の記録 | 関係の実態 | 夫婦関係が壊れていたことの裏づけにはならない |
このように、手元に残るのは配偶者から聞いた話を中心とする材料になりがちです。ところが、夫婦の一方が交際相手に語る家庭の話は、そのときどきの気持ちや事情に左右されるものでもあり、それだけで夫婦の状態が決まるとは扱われにくいのが実情です。
配偶者本人の協力は当てにしにくい
夫婦の内部の事情を語れるのは配偶者本人ですが、その人自身も請求を受けている立場にあることが多く、利害が一致するとは限りません。夫婦が関係を続けることになった場合には、当時の説明が変わることもあります。「本人が破綻していたと言ってくれるはずだ」という見込みを前提に方針を決めることは、避けておいた方が安全です。
破綻の判断で見られている事情
- 別居していたかどうか、別居に至った経緯、その期間。
- 別居している間に連絡や行き来、生活費のやり取りがあったかどうか。
- 離婚に向けた話し合いがどこまで具体化していたか、調停などの手続に入っていたか。
- 同居していた場合には、家事や生活費の分担、子どもを介した日常的なやり取りがあったかどうか。
- 夫婦の一方が関係の修復に向けて動いていた形跡があるかどうか。
これらは、どれか一つがあれば結論が決まるという性質のものではなく、全体を通して共同生活の実体が残っていたかどうかが見られます。別居の評価は事情によって幅があり、同居が続いていた場合に常に否定されるとも限りません。別居がある場合の考え方については、別の記事で詳しく扱っています。
通らなかったときに何が残るのか
破綻までは認められないという結論になっても、そこで主張が丸ごと消えるわけではありません。夫婦関係が円満とはいえない状態だったことまでは認められ、その事情が金額の判断で考慮されることがあります。破綻の主張が実際には金額をめぐる主張として働く、という言い方がされるのはこのためです。
ただし、主張したことによって当然に金額が下がるわけではありません。裏づけの乏しい主張は、事情としても重く扱われにくくなります。また、この主張は不貞行為があったこと自体は前提としたうえで責任を否定するものですから、述べ方によっては、争うつもりのなかった部分まで認めたものとして扱われることがあります。どの範囲を前提とするのかは、あらかじめ確認しておく必要があります。
「破綻していると思っていた」は別のレール
実際には破綻していなかった場合でも、そこで話が終わるとは限りません。最高裁令和8年6月5日判決は、離婚したと信じたことに相当の理由があるとはいえない場合でも、婚姻関係がすでに破綻していると信じ、そう信じるについて相当の理由があったかどうかを別に検討すべきだと判断し、原審の判断を破棄して審理を差し戻しました。
注意したいのは、この判決が支払義務を否定したわけではないという点です。差し戻された事件は改めて審理されることになっており、結論が出ているわけではありません。また、ここで問われているのは当時どのような事実を認識していたかであって、「聞いていた」という説明だけで足りるという趣旨でもありません。この論点は、既婚と知りつつ交際した場合の記事で詳しく扱っています。
配偶者本人への請求では働き方が違う
ここまでは、不貞相手に対する請求を前提としてきました。配偶者本人に対する請求では、夫婦の間の義務違反という別の枠組みが問題になるため、同じ言葉でも意味合いが変わります。加えて、不貞そのものに対する慰謝料と、離婚に至ったこと自体に対する慰謝料は、法律上は別の請求として整理されます。請求書に両方が混ざっていることもあるため、何に対する請求として金額が組み立てられているのかを先に確かめておくと、反論の当て方が定まりやすくなります。
請求する側が「破綻していた」と言われたとき
この言葉が返ってくると、反省がないと感じて話し合いが難しくなりがちです。ただ、手続の上では、主張が出たことと、それが認められることは別です。まずは中身を確かめるところから始まります。
- どの時点の話として述べられているのかを確かめる。
- その時点の夫婦の生活について、日付の分かる形で経過を書き出す。
- 日常のやり取りが残っている記録(連絡、家計、家族の行事など)を探す。
- 相手方の説明と配偶者本人の説明が食い違っていないかを確認する。
実務上、この主張が出ると解決までの時間が延びる傾向があります。示談で早く終えたいのか、時間がかかっても判断を求めたいのかによって、どこまで争うかの方針も変わってきます。
よくあるご質問
別居していれば破綻していたことになりますか
別居は重要な事情の一つですが、それだけで結論が決まるわけではありません。別居に至った経緯、期間、その間のやり取りの有無などが合わせて見られます。年数の目安として出回っている数字は、離婚が認められるかどうかを論じる場面のものが混ざっていることがあり、そのまま当てはめられるものではありません。
配偶者本人が「破綻していた」と認めれば通りますか
当事者の説明は材料の一つですが、それだけで決まるものではありません。夫婦の一方の説明は、その人自身の立場と結びついているためです。説明を裏づける具体的な事実がどれだけ挙げられるかが問われます。
交渉の段階でこの主張を出すと不利になりますか
述べること自体が不利に働くわけではありません。ただし、述べた内容はその後の前提になります。時期や事実をあいまいにしたまま「破綻していた」とだけ伝えると、後から説明を組み立て直しにくくなることがあります。何を根拠にそう述べるのかを整理してから伝える方が、結果として動きやすくなります。
まとめ
- 「破綻していた」という一言には、責任の有無に関する主張、認識に関する主張、金額に関する事情が混ざっている。
- 破綻が認められれば請求の土台そのものが失われるが、その判断は客観的に行われる。
- 見られているのは不貞のあった時点であり、発覚後の別居や離婚は破綻の裏づけにはなりにくい。
- 示す責任は主張する側にあり、述べなければ判断の材料に乗らない。
- 一方で、夫婦の内部の事情は主張する側の手元に残りにくいという構造的な難しさがある。
- 破綻まで認められなくても、事情として金額の判断で考慮されることがある。
- 「破綻していると信じていた」という主張は、これとは別の枠組みで検討される。
ご相談について
破綻をめぐる主張は、言葉のうえでは短くても、どの時点の何を述べているのかによって扱いが大きく変わります。請求する側にとっても、請求を受けた側にとっても、手元にある材料が何を示せるのかを早い段階で見極めておくことが、その後の進め方を左右します。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、池袋・新橋の各オフィスで、不貞慰謝料をめぐるご相談をお受けしています。請求を検討されている方、請求を受けて対応にお困りの方のいずれについても、経過の整理からご一緒に検討いたします。お一人で判断しかねる段階でも、お気軽にご相談ください。


