マッチングアプリで美人局に遭った|「彼氏を名乗る男」への対処
交際している相手が実は既婚者だった――。マッチングアプリのプロフィール、共通の知人の一言、相手のスマートフォンの通知など、判明のきっかけはさまざまです。
このとき多くの方が最初に考えるのは「慰謝料を請求されるのか」ではなく、「これからどうするか」という目の前の選択だと思います。関係を続けるのか、それとも断つのか。まだ誰からも請求は来ていない、という段階の方も少なくありません。
しかし法律の視点から見ると、この「判明した後にどう行動したか」は、後から金銭の問題が生じたときに、かなり大きな意味を持ちます。この記事では、既婚だとわかった時点を境に法的な評価がどう変わるのか、「続ける」「別れる」それぞれにどのようなリスクがあるのかを、男女どちらの立場にも共通する形で整理します。
なお、慰謝料の相場、時効、請求が届いた後の具体的な対応などは別のコラムで扱っています。ここでは「まだ判断の途中にいる方」に向けた内容に絞ります。
1.「いつ知ったか」で、法的な評価は前と後に分かれます
責任の根拠は民法709条・710条
既婚者と性的関係を持った場合、その相手の配偶者から慰謝料を請求される可能性があります。根拠となるのは民法709条・710条の不法行為責任です。
重要なのは、この責任が成立するには故意または過失が必要だという点です。最高裁も、不貞の相手方が責任を負うのは故意または過失がある場合であるという考え方を示しています(最高裁昭和54年3月30日判決)。
つまり「既婚者と関係を持った」という事実だけで自動的に責任が決まるのではなく、相手が既婚だと知っていたか、知り得たかが問われます。だからこそ、「いつ知ったか」という時点が分かれ目になります。
判明する「前」と「後」で争点が変わります
| 判明する前の期間 | 判明した後の期間 | |
|---|---|---|
| 主な争点 | 気づけたか(過失の有無) | 知っていたこと自体は前提 |
| 主張の中身 | 「知らなかった」「気づける状況になかった」 | 「破綻していた」など別の反論に移る |
| 結論の傾向 | 事情次第で責任が否定されることもある | 責任が認められやすい |
判明前の期間については、「他の人が同じ立場に置かれても気づかなかっただろう」といえる事情があるかどうかが検討されます。裁判例では、お見合いパーティーで知り合い、氏名・年齢・住所・学歴まで偽られていた事案で、既婚であると認識することは困難だったとして故意・過失が否定されたものがあります(東京地方裁判所平成23年4月26日判決)。もっとも、こうした判断は例外的なもので、多くの事案では何らかの気づくきっかけがあったと評価されやすい傾向にあります。
判明した後に関係を続けると、その部分は別に評価されます
一方、既婚だとわかった後も関係を続けた場合、少なくともその後の行為については、知りながら関係を持ったものとして扱われることになります。
この点を正面から示した裁判例があります。飲み会で知り合った相手から「バツイチで籍は抜いている」と説明され交際を始めたものの、その後、配偶者の知人からの電話で既婚だと知り、それでも交際を続けたという事案で、裁判所はその電話以降に交際を続けたことについて不法行為の成立を認めました(東京地方裁判所平成24年12月17日判決)。
逆に、相手の配偶者から通知が届いた後は男女としての交際をやめたという事案について、不法行為の成立を否定した裁判例もあります。
つまり、判明した時点は「そこから先を別に評価される区切り」として機能します。
「はっきり知る前」のグレーな段階も、無関係ではありません
実務上悩ましいのは、決定的な証拠が出たわけではないが、疑わしい事情が積み重なっている段階です。
この点について、「もしかしたら既婚者かもしれない」という程度の認識であっても故意が認められうる、と一般に考えられています(いわゆる未必の故意)。左手の薬指の跡、休日や夜間に連絡が取れない、自宅を頑なに教えない、といった事情が重なっているのに確認しないまま関係を続けた場合、「知らなかった」という説明は通りにくくなる可能性があります。
疑いを持った段階で確認したという事実そのものが、後から見て意味を持つことがあります。
2.「続ける」を選んだ場合に生じること
判明後も関係を続ける選択をした場合、次の4つの側面が同時に動き始めます。
| 側面 | 続けた場合 | 断った場合 |
|---|---|---|
| 相手の配偶者との関係 | 判明後の期間・回数が積み上がる | 判明後の部分は生じない |
| 相手本人への請求 | 認められにくくなる方向に働く | 検討の余地は残る |
| 相手の言葉への依存 | 「離婚するから」を前提に判断し続けることになる | 言葉に左右されずに済む |
| 生活面 | 職場・妊娠・住まいの問題が長期化しやすい | 早い段階で整理しやすい |
(1)相手の配偶者に対する責任が積み上がっていきます
不貞慰謝料の金額は、期間の長さ、頻度、関係の態様といった事情を踏まえて判断されます。判明後に関係を続ければ、その期間はすべて「知りながら続けた期間」として評価対象になります。
「同じ関係を続けているだけ」という感覚であっても、法的には後から加算されていく部分だと考えたほうが実態に近いといえます。
(2)自分が相手本人に請求できる余地は、狭まる方向に働きます
見落とされやすいのがこちらです。
独身だと偽られて関係を持った場合、だまされた側から相手本人に対して、貞操権(性的なことを自分で決める権利)の侵害を理由に慰謝料を請求できる余地があります。しかし、この請求では「既婚だと知った後も関係を続けたかどうか」が減額あるいは否定の方向に働く事情として扱われます。
裁判例の傾向としても、既婚と判明した時点で速やかに関係を断ったことは、請求する側にとって有利に働く事情として挙げられています。
したがって、判明後に関係を続けるという選択は、相手の配偶者に対する負担が増える方向と、自分が相手に請求できる余地が減る方向の、両方に同時に作用することになります。
(3)「離婚するから」という言葉は、それ自体では免責になりません
判明後に関係が続く典型的なきっかけが、相手の「いま離婚の話を進めている」「もう夫婦の実態はない」という説明です。
法律上、夫婦の婚姻関係が不貞の当時すでに破綻していた場合には、特段の事情がない限り責任を負わないという考え方があります(最高裁平成8年3月26日判決)。ただし、これは夫婦の実態がどうだったかの問題であり、相手が口頭でどう説明したかとは別です。口頭で聞いただけの説明を前提に関係を続けても、それだけで責任が否定されるとは限りません。
なお、この分野については、破綻していると信じたことに相当の理由があったかを別途検討すべきだとする最高裁の判断(令和8年6月5日)が出ていますが、事件は差し戻され、結論は確定していません。「もう払わなくてよくなった」という趣旨のものではない点にご注意ください。
(4)生活面のリスクも長期化します
職場が同じ、妊娠の可能性がある、住まいを共有しているといった事情がある場合、関係が長引くほど整理が難しくなります。法的な責任とは別に、現実的な選択肢が減っていくという点も判断材料になります。
3.「別れる」を選んだ場合に、残ること・生じること
「別れれば終わり」とまではいえません。誠実にお伝えすると、次の2点があります。
判明前の分の責任がゼロになるわけではありません
判明後にすぐ関係を断ったとしても、それ以前の期間について過失があったと評価されれば、その部分の責任は残り得ます。相手の配偶者が後から事実を知り、請求してくる可能性もあります。
ただし、速やかに断つことは、どの方向にも有利に働きます
一方で、判明時点で関係を断つという行動は、
- 判明後の期間について責任が生じない
- 「だまされていた」という説明の説得力が増す
- 相手本人に請求する場合の減額事情を作らない
という形で、複数の方向に働きます。判断に迷う段階であっても、関係を保留にしたまま時間だけが経過する状態は避けたほうがよいというのが実務的な感覚です。
別れ際に起きやすい3つのこと
関係を断つ過程で問題が生じることもあります。
① 相手からの引き止めや脅し
「別れるなら配偶者に話す」「職場に知らせる」といった形で引き止められたり、口止め料や金銭を求められたりすることがあります。正当な権利の行使と、害を告げて金銭を求める行為とは別の問題です。度を越えた要求は、脅迫罪(刑法222条)や恐喝罪(刑法249条)が問題になることがあります。ただし線引きは微妙で、自己判断は避けたほうがよい領域です。
② 連絡が止まらない/公開される
別れた後も連絡が続く、SNSや共通の知人を通じて事実を広められる、写真や動画を持たれている、といった問題が生じることがあります。これらについては「別れ話のもつれでLINE・電話が止まらない|接触禁止を実現する方法」「別れた相手が裸の画像を持っている|拡散される前に削除させる交渉」で扱っています。
③ 妊娠が判明している場合
妊娠が絡む場合、関係の解消とは別に、認知や費用の問題が生じます。
4.判明した直後にしておきたいこと・避けたいこと
しておきたいこと
- 経緯を時系列で書き出す — いつ知り合い、いつ関係を持ち、いつ・どのように既婚だと知ったか。記憶が鮮明なうちが最も正確です
- やり取りを消さない — 独身だと思わせる発言や、判明時のやり取りは、自分を守る材料にもなります。不利に見える部分だけ消すと、後で信用性を疑われます
- 相手の氏名・連絡先などの情報を残す — 後から請求を検討する場合、相手を特定できないと手続きが進みません
- 関係を終える意思を、記録が残る形で一度伝える — 繰り返しの説得や長い議論は避けます
- 期限を決めて専門家に相談する — 判断を保留したまま関係が続くこと自体がリスクになります
避けたいこと
- 自分から相手の配偶者に連絡して謝罪する — 事実関係が整理されないうちの連絡は、こちらの発言がそのまま証拠として扱われることがあります
- SNSや共通の知人に事実を広める — 内容が真実であっても、名誉毀損(刑法230条)が問題になることがあります。実際に、被害を訴えた側が公表を理由に賠償を命じられた事案もあります
- 相手のスマートフォンを無断で確認する、位置情報を取得する — IDを入力してログインする行為は不正アクセス禁止法に、位置情報の取得はストーカー規制法などに触れる可能性があり、証拠集めのつもりが逆効果になり得ます
- その場で示談書に署名する、支払いに応じる — いったん合意すると覆すのは容易ではありません
- 口頭の「離婚するから」を前提に関係を続ける — 前述のとおり、言葉だけでは判断材料として弱い部分があります
5.判断が分かれやすい5つの場面
① 相手が「別居中」「離婚協議中」だと言っている
別居期間の長さ、離婚手続きが実際に進んでいるか、書面が存在するかなどが検討されます。口頭の説明のみか、客観的な裏づけがあるかで評価は変わります。
② 肉体関係がない(食事や連絡のみ)
一般に、不貞行為とされるのは性的関係を伴う場合です。ただし、親密な交流が夫婦関係に影響を与えたとして責任が問題になった裁判例もあり、「関係がなければ一切問題にならない」とまでは言い切れません。
③ 妊娠している
関係の解消と、認知・費用の問題は別に進みます。感情的な判断で結論を急がないほうがよい場面です。
④ 職場が同じ
関係を断った後も接触が避けられず、社内での取り扱いや配置の問題が生じることがあります。
⑤ 相手の配偶者から先に連絡が来た
この場合、判明の時点が明確になります。連絡を受けた後も関係を続ければ、その点が不利に働きやすくなります。請求が届いた後の対応は「不貞慰謝料を請求されたときにまず確認すべき6つのポイント」「内容証明が弁護士名で届いた|慌てて払う前にやるべきこと」をご覧ください。
よくあるご質問
Q. 既婚者と交際すること自体は犯罪ですか。
刑法には重婚罪(184条・2年以下の拘禁刑)がありますが、これは届出による法律上の婚姻が重複した場合の規定であり、交際や不貞関係はこれに当たりません。既婚者との交際は、原則として民事上の問題として扱われます。
Q. 判明してすぐ別れたのに、請求が届きました。
判明前の期間について責任を問われている可能性があります。ただし、知り得なかった事情があれば主張の余地はありますし、判明後すぐに関係を断ったという事実も評価されうる事情です。まずは請求の中身(誰が・何を根拠に・いくら・いつまで)を整理してください。
Q. すぐには切れないので、会う頻度を減らそうと思います。
頻度を減らしても、関係が継続していると評価されれば「判明後の期間」として扱われます。区切りが曖昧なままだと、後から時期を説明することも難しくなります。
Q. 相手は「配偶者にはわからない」と言っています。
発覚するかどうかと、法的な責任が生じるかどうかは別の問題です。また、請求できる期間には制限(民法724条)がありますが、その起算点は相手の配偶者が事実と相手方を知った時点とされており、時間の経過だけで安心できるものではありません。
まとめ
- 既婚だと判明した時点は、法的な評価が前後に分かれる区切りとして機能します
- 判明後に関係を続けると、相手の配偶者に対する負担が積み上がる一方、自分が相手本人に請求できる余地は狭まる方向に働きます
- 「離婚するから」という言葉だけでは、責任が否定されるとは限りません
- 関係を断っても判明前の分の責任が消えるとは限りませんが、速やかに断つことは複数の方向に有利に働きます
- 別れ際の脅しや暴露、妊娠が絡む場合は、別の問題として並行して考える必要があります
- 判断を保留したまま時間が経過することが、最も選択肢を減らします
どちらを選ぶかは最終的にご本人の判断ですが、選択によって後の法的な立場が変わることは知っておいて損はありません。迷っている段階でのご相談も歓迎しています。


