【不貞慰謝料】遅延損害金はいつから、何%つくのか
配偶者のスマートフォンに、見覚えのない相手とのやり取りが残っていた。あるいは、自分が送ったメッセージのスクリーンショットを、相手方の代理人から示された。不貞慰謝料の場面で最初に問題になる資料は、いまやLINEやSNSのダイレクトメッセージ(DM)であることがほとんどです。
ただ、「メッセージが残っている」ことと、「それが慰謝料請求を支える証拠になる」ことは同じではありません。反対に、決定的な一文がないという理由だけで諦めてしまうのも、早すぎることがあります。
この記事では、LINEやDMが証拠としてどこまで働くのかを、請求する側と請求を受けた側の双方の視点から整理します。
「どこまで証拠になるのか」は3つの問いに分かれる
「LINEはどこまで証拠になるのか」という問いには、性質の違う3つの問いが重なっています。分けて考えると、手元にある資料の何が足りていないのかが見えやすくなります。
| 問い | 中身 | つまずきやすいところ |
|---|---|---|
| ①どこまで示せるか | そのやり取りから、どの事実まで読み取れるか | 性的関係そのものには届かないことが多い |
| ②どこまで信じてもらえるか | 本人が送ったものか、改変や切り取りがないか | 画面だけでは送信者や前後の文脈を確かめにくい |
| ③どこまで残せるか | いま手元にあるか、後から取り寄せられるか | 削除や送信取消で失われ、運営会社からは通常戻ってこない |
多くの解説は①だけを扱います。しかし実務でつまずきやすいのは②と③であり、特に③は、気づいたときには手の打ちようがなくなっていることがあります。
前提として「不貞行為」が指すもの
裁判例では、不貞行為は、配偶者以外の者と自由な意思にもとづいて性的関係を結ぶことを指すものとして扱われてきました(最高裁昭和48年11月15日判決。離婚原因に関する事案です)。慰謝料請求の場面でも、この性的関係の存在が中心的な争点になります。
もっとも、性的関係が確認できなければおよそ責任が生じない、というわけではありません。夫婦の生活の平穏そのものを侵害したと評価される場面もあり、この点は別の記事で扱っています。
1通のメッセージには4種類の情報が載っている
「どんな文言なら証拠になるか」という切り口の解説は多く見かけます。しかし、実際に交渉や裁判で効いてくるのは、本文の言葉づかいだけとは限りません。1通のメッセージには、少なくとも次の4種類の情報が同時に載っています。
| 載っている情報 | 読み取られやすいこと | それだけでは届かないこと |
|---|---|---|
| 本文の意味内容 | 関係の性質、何をしたか・何をするつもりか | 表現が抽象的だと関係の中身が確定しない |
| 送受信の日時と時間帯 | 深夜や宿泊を挟む時間帯かどうか、行動の時系列 | その時間に何をしていたかまでは分からない |
| 相手アカウントの同一性 | 誰とのやり取りか(表示名・アイコン・プロフィール) | 表示名は変更でき、本人性の裏づけにはならない |
| やり取りの量・間隔・期間 | 関係が続いていたか、途切れていないか | 個々の行為があったかどうか |
後ろの3つは、他の資料と結びつけるための留め具として働きます。宿泊施設の領収書、交通系ICカードの記録、クレジットカードの明細といった資料は、それ自体では誰と何をしていたかを語りません。メッセージに残った日時と重なることで、初めて意味を持ちます。
反対に、日時が写っていない画面や、誰とのやり取りか分からない画面は、本文がどれほど強い内容でも扱いが難しくなります。文面だけを切り出して保存するより、アカウント名・アイコン・日付が同じ画面に入る形で残しておくほうが、後の説明がしやすくなります。
文面のタイプが変われば、返ってくる反論も変わる
文面の強さは、そのまま「どんな反論が返ってくるか」に対応しています。反論の形をあらかじめ想定しておくと、追加で用意すべき資料が具体的になります。
| 文面のタイプ | 読み取られやすいこと | 返ってきやすい反論 | 反論に噛み合いやすい材料 |
|---|---|---|---|
| 性的関係に直接触れる文言 | 性的関係があったこと | 冗談で書いた、別の相手の話だ | 前後を含む広い範囲の記録、同じ時期の行動記録 |
| 宿泊・部屋・二人きりを前提とする文言 | 同じ場所で夜を過ごしたこと | 仕事の同行だった、他にも同行者がいた | 予約や決済の記録、当日の連絡状況 |
| 自ら関係を「不倫」と呼ぶ文言 | 当事者の認識、既婚と知っていたこと | 言葉のあやにすぎない | 同じ趣旨の言い回しが繰り返されていること |
| 好意の表現・呼称・スタンプ | 親密さ | 友人としての表現の範囲だ | 頻度・時間帯・継続した期間の積み重ね |
| 意味の確定しない略語や伏せ字 | ほとんど何も | そのような意味ではない | 同じ語が他の箇所でどう使われているか |
ここで注意したいのは、一文の強さと、事件全体の見通しは別のものだということです。強い一文があっても日時と相手が特定できなければ評価は下がり、弱い文面でも、頻度・期間・他の資料との一致がそろえば十分に働くことがあります。
LINE・DMは不貞の立証以外の場面でも使われる
メッセージは、性的関係があったかどうかを示すためだけの資料ではありません。むしろ、他の争点で決め手になることがあります。
- 既婚であることを知っていたか(不貞相手に請求する場合の故意・過失)。
- 関係がいつからいつまで続いたか(期間や継続性は金額の評価に影響します)。
- 夫婦関係がすでに破綻していたという反論に対する反証。
- 請求できる期間の起算点(民法724条の「損害及び加害者を知った時」の判断材料)。
- 性的関係が確認できない場合に、生活の平穏の侵害として問題になる場面。
たとえば「奥さんとはうまくいっていないんでしょ」「いつ離婚するの」といったやり取りは、性的関係そのものを示すものではありませんが、相手が既婚であることを知っていたかどうかの判断に関わります。文面の強弱だけで資料を捨てないほうがよい理由の一つです。
残り方はサービスごとに違う
LINEとSNSのDMでは、記録の残り方が異なります。この違いは、先ほどの③「どこまで残せるか」に直結します。
- 送信の取消し。一定の条件のもとで、送った側が相手の画面からも消せる機能があります。
- 一定時間で自動的に消える設定。開封後や一定時間の経過で表示が消えるモードを備えたサービスがあります。
- 非表示・アーカイブ。一覧から見えなくなるだけで、実際には残っている場合があります。
- アカウントの削除や機種の変更。引き継がれない範囲があり、後から遡れなくなることがあります。
- グループやオープンな場でのやり取り。1対1の場合とは扱いが変わる場面があります。
「消えたこと」自体はどう扱われるか
削除や送信取消があったこと自体が、不貞行為を示すわけではありません。日頃から履歴を整理している方もいます。ただし、他の資料と合わせて、隠す動機があったのではないかという評価に結びつくことはあります。
なお、訴訟の中で、提出義務のある資料を相手方に使わせない目的で失わせた場合について、裁判所がその資料に関する相手方の主張を真実と認めることができるという規定があります(民事訴訟法224条2項)。もっとも、これは訴訟が始まった後の場面についての規定であり、発覚前の削除にそのまま当てはまるものではありません。
相手のトーク履歴を後から取り寄せられるのか
「相手の端末に残っている履歴を、弁護士や裁判所を通じて取り寄せてもらえないか」というご相談は少なくありません。ただ、期待されるほど簡単ではないのが実情です。
運営会社に照会してもやり取りの中身は出てこない
弁護士には、受任した事件について、所属する弁護士会を通じて団体に照会する手続があります(弁護士法23条の2。弁護士会照会と呼ばれます)。
LINEヤフー株式会社は、この照会への対応方針を公表しています。そこでは、開示を検討する情報として氏名・住所・郵便番号・電話番号・メールアドレスといった登録情報が挙げられている一方、原則として開示できない例として、トーク履歴やメール本文などの通信履歴、およびその通信相手を対象とする照会が明示されています。通信の秘密(憲法21条2項、電気通信事業法4条)との関係によるものです。
1対1のやり取りは発信者情報開示請求の枠外
インターネット上の投稿については、発信者情報の開示を求める手続があります(情報流通プラットフォーム対処法5条。2025年4月1日にプロバイダ責任制限法から名称が改められました)。
もっとも、この手続が前提とするのは「特定電気通信」、つまり不特定の者によって受信されることを目的とする送信です(同法2条1号)。総務省の逐条解説も、1対1の通信はこれに含まれないとしています。1対1のトークやDMは、そもそもこの手続の対象になりません。
なお2025年12月には、弁護士会照会の運用について、通報機能を使ってアカウントを特定する方法により電話番号やメールアドレスの開示が得られる見込みであることが伝えられました。ただしこれは相手が誰かをたどるための手がかりであって、やり取りの中身を取り寄せるものではありません。
裁判の中で相手に出させる方法と、その限界
訴訟になれば、相手が持っている資料を出させる手続はあります。文書提出命令や文書送付嘱託です(民事訴訟法219条・223条・226条)。トーク画面を保存したデータや印刷物は、文書に準じるものとして書証に準じた扱いを受けます(同法231条)。命令に従わないときは、裁判所がその記載に関する相手方の主張を真実と認めることができるとされています(同法224条1項)。
もっとも、私的なやり取りの記録について提出義務が認められるかは争いがあり、申し立てれば当然に出てくるというものではありません。「もう残っていない」と言われたときに、残っているはずだと示すことも簡単ではありません。
結局のところ、手元で見られる状態にあるうちに残せたかどうかが、後の選択肢を大きく左右します。
提出する段階で問われること
保存したものを実際に提出する段階では、内容だけでなく、それがどのように作られたものかを説明できるかが問われます。写真や録音のような資料については、対象・日時・場所を明らかにすることが求められています(民事訴訟規則148条)。
- いつ、どの端末の画面を、どういう方法で保存したのか。
- やり取りのどこからどこまでを保存し、途中を飛ばしていないか。
- アカウント名や日付が同じ画面に写っているか。
- 複数の資料を出す場合、時系列で並べて説明できるか。
保存の具体的な手順(画面をどう撮るか、どこに二重に保管するか)は、別の記事で詳しく扱っています。ここでは、作られ方を説明できない資料は評価が下がりやすいという点を押さえてください。
請求を受けた側から見たLINE・DM
立場が逆になると、同じ資料はまったく違う見え方をします。
最も重い資料は、自分が送った一文であることが多い
請求を受けた方のご相談では、相手が持っている資料よりも、ご自身が送った短い返信のほうが問題になることがよくあります。「ごめんなさい」「もう会いません」「いくら払えばいいですか」といった一文は、事実を認めたものとして読まれる可能性があります。
事実関係をまだ整理できていない段階で、相手方や配偶者にメッセージで応答することには慎重であるほうがよいでしょう。
消すという選択が招くもの
自分の端末から消しても、相手側の端末には残ります。消したことが、かえって不利な印象につながることもあります。訴訟に至った場合の規定は先に触れたとおりです。
同じことは、示談が成立した後の連絡にも当てはまります。接触しない旨を約束した後のメッセージは、それ自体が新たな争いの材料になります。
切り取られた形で示されたとき
相手方から示された画面が、都合のよい部分だけを抜き出したものであることもあります。この場合、ご自身の端末に残っている前後のやり取りを示すことで、受け取られ方が変わることがあります。
ただし範囲を広げれば、ご自身に不利な部分も一緒に出ることになります。どこまで出すかは、争点を決めてから判断するほうが安全です。
よくある質問
ハートのスタンプや絵文字しか残っていません
それだけで性的関係を示すのは難しいのが通常です。ただし、送られた時間帯、頻度、続いた期間といった情報は残ります。他の資料と組み合わせる前提で、日付が分かる形で保存しておく価値はあります。
通知画面のスクリーンショットしかありません
通知には本文の一部しか表示されず、前後の文脈が欠けます。誰からの通知かが分かる点には意味がありますが、これだけで足りることは多くありません。端末を見られる状況があるうちに、トーク画面そのものを残せるかが分かれ目になります。
グループトークのやり取りは扱いが違いますか
当事者以外の人が読んでいる場でのやり取りは、内容によっては名誉に関わる別の問題を生みます。証拠として使う場面でも、第三者の私的な情報が含まれていないかを確認したうえで、必要な範囲に絞って提出するのが通常です。
相手が消してしまい、自分の端末にしか残っていません
相手の手元にない以上、こちらの資料が唯一のものになります。改変を疑われないよう、保存した経緯を説明できるようにしておくことが重要です。運営会社から取り戻せる場面は限られているという前提で考えてください。
まとめ
- 「どこまで証拠になるか」は、示せる範囲・信じてもらえる範囲・残せる範囲の3つに分けて考えると整理しやすくなります。
- 1通のメッセージには、本文だけでなく、日時・相手の同一性・やり取りの量という情報が同時に載っています。
- 文面のタイプごとに返ってくる反論はある程度決まっており、それに噛み合う資料を先に用意しておくと交渉が進みやすくなります。
- メッセージは、故意の有無・期間・破綻の有無・起算点といった別の争点でも使われます。
- トーク履歴の中身を運営会社から取り寄せることは原則としてできず、1対1のやり取りは発信者情報開示請求の対象にもなりません。
- 請求を受けた側では、ご自身が送った一文が最も重い資料になることが少なくありません。
LINEやDMは、手元にある間は当たり前のように見えていても、失われるときは一瞬です。一方で、残っている資料の意味は、集め方と組み立て方によって大きく変わります。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、不貞慰謝料に関するご相談を、請求する側・請求を受けた側のいずれについてもお受けしています。手元の資料でどこまで進められるのか、次に何を用意すべきかを整理するところから、ご一緒に考えます。


