不倫を会社・家族にバラされた|情報を広めた相手への法的対応
「妻(夫)とはもう終わっている」「近いうちに離婚する」——そう聞かされて交際を続けていたところ、ある日、相手の配偶者から慰謝料を請求された。当事務所にも、男女を問わずこうしたご相談が寄せられます。
このとき多くの方が最初に感じるのは、「離婚するって言われたのに、なぜ自分が払うのか」という納得のいかなさだと思います。一方で、インターネットには「言い訳にならない」と断じる説明も多く、かえって不安が強まってしまうこともあります。
実際のところ、この問題の判断はもう少し込み入っています。特に令和8年6月5日には、まさにこの場面についての最高裁判決が出されました。この記事では、「離婚するから」と言われて交際していた方が慰謝料を請求されたときに、何がどう判断されるのかを整理します。
「離婚するから」という言葉だけでは、支払義務の有無は決まらない
不貞慰謝料は、民法709条・710条の不法行為に基づく損害賠償です。ここで守られているのは「婚姻共同生活の平和の維持」という利益だと考えられています。
したがって、出発点としては次のようになります。
- 相手に配偶者がいることを知りながら性的関係を持った場合、故意が認められる
- 「離婚するつもりだと聞いていた」ことは、それ自体で当然に責任を免れる事情にはならない
「離婚する」と言いながら実際には離婚しない、というケースは実務上決して珍しくありません。だからこそ、裁判所はその言葉をそのまま受け取ることには慎重です。
ただし、判断はここで終わりません。言葉そのものではなく、その言葉の背後にあった「夫婦の実態」と、それについてあなたが何を認識していたかが問われることになります。
分かれ目は「夫婦関係が実際に破綻していたか」
破綻していた場合は責任を負わないのが原則
最高裁平成8年3月26日判決(民集50巻4号993頁)は、配偶者と第三者が性的関係を持った場合でも、その当時すでに婚姻関係が破綻していたときは、特段の事情のない限り不法行為責任を負わないと判断しています。破綻していれば、守られるべき「婚姻共同生活の平和」がもはや存在しない、という考え方です。
ここで重要なのが時間の前後関係です。「破綻していた後に関係を持った」のか、「関係を持ったことが原因で破綻した」のかで、結論は逆になります。後者であれば、むしろ増額方向の事情として扱われます。
破綻はそう簡単には認められない
もっとも、裁判所が破綻を認めるハードルは高く、当事者の一方が「もう終わっている」と考えていたというだけでは足りません。夫婦関係全体を客観的に見て、修復の見込みがない水準に達しているかが問われます。
裁判例の傾向をおおまかに整理すると、次のようになります。
破綻が認められやすい方向に働く事情
- 相当長期間にわたる別居が続いている
- 離婚協議が書面のやり取りを伴って具体的に進んでいる
- 離婚調停が申し立てられ、取下げなどもされていない
- 家計を分ける、互いの生活に干渉しないといった取り決めが実際にされている
認められにくい方向に働く事情
- 別居に不仲以外の理由がある(単身赴任、里帰り出産、冷却期間など)
- 別居期間が短い、あるいは行き来や生活費の授受が続いている
- 会話が少ない、性交渉がないといった事情にとどまる(それだけでは通常、破綻とは評価されません)
- 未成年の子の養育を通じて日常的な接触が続いている
同居したままの「家庭内別居」も、それ自体で破綻とされることは多くありません。
破綻していなくても、「破綻していると信じた相当の理由」が検討される
最高裁令和8年6月5日判決
従来の下級審では、「離婚したと信じたことに相当の理由がない」と判断されれば、そのまま過失を認めて支払いを命じる例が少なくありませんでした。
これに対し、最高裁第二小法廷は令和8年6月5日、「離婚したと信じた相当の理由がない」というだけで直ちに過失があるとはいえず、「婚姻関係が既に破綻していると信じ、かつそう信じるについて相当の理由があったか」を別に検討しなければならないという判断を示し、原審(高松高裁)の判断を破棄して差し戻しました。
この事案では、交際相手の女性が、自分の欄を記入済みの離婚届を男性に見せていたほか、夫から「家計を別々に管理する」「互いのプライバシーに干渉しない」と提案されたメールのやり取りも見せていました。最高裁は、こうした事情から、男性が夫婦の双方に婚姻共同生活を解消する意向があると認識していた可能性に触れています。
審理の順序が整理された
同判決の補足意見では、不貞慰謝料の審理について次の順序が示されています。
- 性的関係があったかどうか
- 「離婚していた」と信じたことに相当の理由があったか
- 不貞行為の当時、婚姻関係が実際に破綻していたか(破綻していれば、認識を問わず請求は認められない)
- 破綻していなかった場合、「破綻していると信じ、かつそう信じるについて相当の理由があったか」
つまり、②で否定されても③④が残る、という構造です。請求された側にとっては、反論の入口が一つ増えたことになります。
ただし「払わなくてよくなった」わけではない
誤解を避けるために、二点補足します。
第一に、この判決は差戻しであり、その事案の最終的な結論が出たわけではありません。
第二に、「離婚するからと言われていれば慰謝料を払わなくてよい」という趣旨の判断ではありません。婚姻関係が破綻しておらず、破綻を信じる相当の理由もなければ、これまでどおり責任を負います。判断の手順が精密化された、と理解するのが正確です。
「相当の理由」を支えるのは、当時あなたが認識していた事実
ここが実務上、最も差が出るところです。
「相当の理由」があったかは、関係を持った当時、あなたが何を知り、何を見せられていたかで判断されます。後になって集めた資料や、後から知った事情ではありません。
理由を支えやすい事情の例
- 記入済みの離婚届や、離婚協議書の案を実際に見せられていた
- 配偶者本人が離婚や別居に向けて動いていることが分かるやり取り(メール等)を見せられていた
- 別居先の住まいを知っていた、別居の実情を具体的に把握していた
- 夫婦間で離婚に異論がないことを確認したやり取りを見ていた
理由を支えにくい事情の例
- 「もう冷え切っている」「そのうち離婚する」と口頭で聞いていただけ
- 相手が家に帰り続けていることを知りながら、裏づけを確認しなかった
- 共通の知人がいるのに、事実関係を確かめなかった
- 相手の家庭の話がほとんど出てこず、確認する機会もあったのにしなかった
裁判例には、「夫婦関係が冷え切っていると聞かされていた」という反論について、それを裏づける具体的事情がなく、関係を持った後も相手が自宅に帰っていることを認識していたことから、相当の理由を認めなかったものもあります。言葉を聞いていたことと、客観的な裏づけを認識していたことは、評価がまったく異なります。
このため、当時のLINE・メール・写真などを自分から削除してしまうことは、後で不利に働く可能性があります。都合が悪く感じるやり取りも含めて、そのまま残しておくことをおすすめします。
「あなたのせいで離婚した」と言われたとき
「離婚するから」と言われていた場面では、実際にその後離婚に至ることもあります。すると請求書に、「あなたとの関係のせいで離婚を余儀なくされた」という主張が加わることがあります。
ここで区別が必要です。
- 不貞慰謝料:性的関係を持ったこと自体に対する慰謝料
- 離婚慰謝料:夫婦を離婚させたことに対する慰謝料
この二つは法的に別のものです。最高裁平成31年2月19日判決(民集73巻2号187頁)は、不貞行為をした第三者が離婚させたことを理由とする責任を負うのは、その夫婦を離婚させることを意図して婚姻関係に不当に干渉するなど、離婚のやむなきに至らせたと評価すべき特段の事情がある場合に限られるとしています。
令和8年判決の補足意見も、この二つが混同されやすいことを指摘しています。請求書の中で両者が一体として書かれている場合、内訳を整理するだけで前提が変わることがあります。
支払義務があるとしても、金額は別の問題
破綻も相当の理由も認められなかった場合でも、「請求された額をそのまま払う義務がある」ことにはなりません。
- 金額の妥当性(請求額は相手の言い値であり、支払義務の額とは別です)
- 消滅時効(民法724条。配偶者が不貞の事実と相手方を知った時から3年、行為から20年)
- 交際の期間・回数、主導したのがどちらか、夫婦関係への影響の程度といった増減事情
- 支払った後に、交際相手本人に負担を求める求償の可否
- 示談書に署名する前に確認すべき条項(清算条項・接触禁止・口外禁止など)
これらは論点が多いため、当コラムの別記事「不貞慰謝料を請求されたときにまず確認すべき6つのポイント」「不倫慰謝料を払った後の求償権」「不倫の示談書・合意書の作り方」などをあわせてご覧ください。弁護士名の内容証明が届いた場合の初動は「内容証明が弁護士名で届いた|慌てて払う前にやるべきこと」で扱っています。
なお、そもそも相手が既婚者だと知らなかったという場合は、本記事とは検討の筋道が異なります。「『独身だと思っていた』場合は慰謝料を払わなくてよい?故意・過失の判断」をご参照ください。
「離婚する」が嘘だった場合、あなたの側から請求できることも
「離婚するから」と言われ続けたものの、実際には離婚するつもりが最初からなかった、というケースもあります。
事情によっては、あなたの側から、うそをついた相手本人に対して貞操権侵害を理由とする慰謝料を請求できる余地があります。相手の配偶者からの請求とは、当事者も根拠も別のものです。詳しくは「既婚を隠されて交際|だまされた側が慰謝料を請求できる条件」で解説しています。
請求を受けた直後の対応
避けたいこと
- その場で不貞行為を認める発言をする(電話でのやり取りは、そのまま証拠になり得ます)
- 期限に追われて、内容を確認しないまま示談書に署名する
- 当時のLINE・メール・写真を削除する
- 請求を無視して放置する(訴訟に移行することがあります)
しておきたいこと
- 請求の内容を整理する(誰が、誰の代理として、いくらを、いつまでに、どういう理由で求めているか)
- 交際当時に相手から示された事実を、時系列で書き出す(離婚届を見せられた時期、別居の話、夫婦間のやり取りを見た時期など)
- 相手の主張のうち、事実と異なる部分を控えておく(認否そのものは慎重に)
- 回答期限を確認し、期限より前に弁護士に相談する
「離婚するから」と言われていた場面は、事実関係の細部で結論が変わりやすい類型です。ご自身で判断する前に、当時の経緯を弁護士に整理してもらうことをおすすめします。


