【不貞慰謝料】同じ家計の中での求償に意味はあるのか
本記事は、2026年10月時点の法令にもとづいて作成しています。
マッチングアプリで知り合った相手にお金を貸したものの、返済が止まり、連絡もつかなくなった。いざ返してもらおうとしたとき、アプリに表示されていた名前やLINEの表示名しか知らず、相手の本名が分からないことに気づく方は少なくありません。
本名が分からなくても、お金を貸したという事実が消えるわけではありません。ただ、返還を求める手続の多くは、相手の氏名と住所が分かっていることを前提に組み立てられています。この記事では、本名が分からないまま請求しようとすると何が壁になるのか、手元の手がかりから相手にたどり着ける可能性、貸したことをどう示すか、詐欺の疑いがある場合の動き方を整理します。
偽名で借りられていても、貸したお金の返還は求められる
お金の貸し借り(金銭消費貸借契約)は、返すことを約束して金銭を受け取ることで成立します(民法587条)。契約の当事者は、実際にお金を受け取った人物そのものです。そのため、相手が偽名やニックネームを名乗っていた場合でも、名前が違っていたことを理由に返済の義務がなくなるわけではありません。借用書に偽名が書かれていた場合も同様で、書面は貸し借りがあったことを示す資料として意味を持ち得ます。
問題になるのは、返還を求める権利があるかどうかではなく、その権利を「誰に対して」「どこへ」行使するかという点です。
本名が分からないと、どこで手続が止まるのか
相手が任意に返してくれない場合、内容証明郵便による請求、支払督促、少額訴訟、通常の訴訟といった手段が考えられます。いずれも、相手の氏名と送り先が分かっていることが前提になります。
| 手段 | 必要になる相手の情報 | 本名・住所が分からない場合 |
|---|---|---|
| 内容証明郵便 | 氏名・住所 | 宛先がなければ送れない |
| 支払督促 | 氏名・住所 | 公示送達が使えないため、住所が分からなければ利用できない |
| 少額訴訟 | 氏名・住所 | 公示送達が必要な場合は通常の訴訟に移る |
| 通常の訴訟 | 氏名・住所(最後の住所など) | 氏名が分かれば、公示送達で進められる場合がある |
訴状には当事者を記載しなければならず(民事訴訟法133条2項)、裁判所は訴状を相手に送り届けます。氏名が分かっていて住所だけが分からない場合には、調査を尽くしても所在が判明しないことを示して、公示送達という方法で手続を進められることがあります(同法110条)。一方、支払督促は公示送達によらずに送達できる場合に限られ(同法382条)、少額訴訟も公示送達が必要になると通常の訴訟に移行します(同法373条3項)。
また、公示送達によって判決を得られたとしても、相手の財産や勤務先が分からなければ強制執行は難しく、回収には結びつきにくいのが実情です。本名が分からないときは、まず相手を特定できるかどうかが、その後の手続すべての前提になります。
手元の手がかりから相手にたどり着ける可能性
相手の本名が分からなくても、お金を渡した方法ややり取りの記録の中に、特定の手がかりが残っていることがあります。弁護士は、受任した事件の処理に必要な範囲で、弁護士会照会(弁護士法23条の2)を通じて企業などに情報の報告を求めることができます。
銀行口座に振り込んだ場合
貸したお金を相手の銀行口座に振り込んでいれば、振込先の金融機関名・支店名・口座番号が有力な手がかりになります。口座の開設時には本人確認が行われているため、弁護士会照会によって口座名義人の氏名や届出住所の回答を求めることが考えられます。ただし、回答に応じるかどうかや回答の範囲は金融機関によって異なります。また、振込先が相手本人ではなく第三者名義の口座だった場合には、その名義人との関係も確かめる必要があります。
送金アプリや電子マネーで送った場合
スマートフォンの送金アプリなどで送った場合は、送金履歴に表示される相手のアカウント情報が手がかりになります。運営する事業者への照会が考えられますが、登録されている情報の内容や回答の扱いは事業者ごとに異なります。
現金で手渡した場合
現金の手渡しは記録が残りにくく、相手の特定はほかの手がかりに頼ることになります。電話番号、LINEのID、マッチングアプリのアカウント、会ったときに乗っていた車のナンバー、聞いていた勤務先などを、できるだけ日付とともに整理しておきます。
電話番号やLINEのID、車のナンバーなどから相手をたどる仕組みと、その限界については、【男女トラブル】名前も住所も本当か分からない交際相手を、調べることはできる?で詳しく解説しています。どの手がかりからでも必ず判明するわけではなく、照会先が回答に応じないこともある点は、あらかじめ理解しておく必要があります。
特定に備えて、いま残しておきたい記録
照会の起点となる情報は、相手の退会や電話番号の解約、アカウントの削除によって、時間とともに確認できなくなっていきます。返済が滞り始めた段階で、次のような記録を保存しておくことが大切です。
- 振込明細、通帳の記帳、送金アプリの送金履歴。
- 相手のアプリ上のプロフィール画面とアカウント情報。
- アプリ内やLINEでのメッセージのやり取り(日付が分かる形のスクリーンショット)。
- LINEのIDや電話番号、相手が名乗っていた名前、聞いていた勤務先や住んでいる地域。
- 借用書やメモなど、返済の約束が書かれたもの。
ご自身が先にアプリを退会すると、相手とのやり取りを見られなくなることがあります。保存の順序は【男女トラブル・マッチングアプリ】退会するとやり取りは消えるのか|証拠を残す順序を、運営会社からメッセージを取り寄せられるかについては【男女トラブル・マッチングアプリ】アプリ内のメッセージは後から取り寄せられるのか|保存期間と開示の限界も参考にしてください。
「貸した」ことをどう示すか
相手を特定できたとしても、相手が「もらったお金だ」と主張すれば、貸したものか贈ったものかが争いになります。交際に近い関係で渡したお金ほど、この点が問題になりやすい傾向があります。
借用書がなくても、「来月必ず返す」「少しずつ返すね」といったメッセージ、相手からの一部の返済、金額や使い道を相談したやり取りなどは、貸し借りがあったことを示す資料になり得ます。反対に、返済について何も話していない送金は、贈与と受け取られるおそれがあります。借用書がない場合の考え方は、恋人・元恋人に貸したお金が返ってこない|借用書なしでも回収できる?で解説しています。
詐欺の疑いがある場合
最初から返すつもりがなく、偽名や作り話でお金を引き出していた場合には、詐欺罪(刑法246条)に当たる可能性があります。警察に相談し、被害届や告訴が受理されて捜査が進めば、相手が特定されることもあります。もっとも、返済の約束をしていた貸し借りでは、借りた時点でだますつもりがあったかどうかの立証が難しく、「返すつもりだったが返せなくなった」という説明との区別がつきにくいため、民事上の問題として扱われることも少なくありません。また、刑事手続は処罰のための手続であり、お金を返してもらうための手続そのものではありません。
だまされて銀行口座に振り込んだ場合で、その口座が犯罪に利用されたものとして凍結されれば、振り込め詐欺救済法(犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律)にもとづき、口座に残っていた資金から被害額に応じた分配を受けられることがあります。口座に残高がなければ分配はなく、被害者が複数いれば按分になります。手続の入口は、振込先の金融機関と警察への連絡です。
海外在住を名乗る相手や、投資の話を伴う送金だった場合は、国際ロマンス詐欺で送金してしまった|被害回復の可能性と限界や【男女トラブル・マッチングアプリ】マッチングアプリで知り合った相手に投資を勧められたら?もあわせてご覧ください。被害の回復を確約するような広告には注意が必要で、その見分け方はロマンス詐欺の「二次被害」に注意|高額着手金を謳う相談先の見分け方で取り上げています。
ご自身で相手を探すときに気をつけたいこと
相手を見つけたい一心で、尾行や待ち伏せをしたり、SNSに相手の写真や事情を投稿して情報提供を呼びかけたりすると、つきまといや名誉毀損として、ご自身が責任を問われるおそれがあります。相手の別のアカウントを探し出して繰り返しメッセージを送るといった行動も、請求の場面でかえって不利に働くことがあります。返済を求める連絡は、内容と回数を抑え、記録が残る方法で行うのが無難です。
時効と費用の見通しも確認しておく
貸したお金の返還請求権は、原則として、権利を行使できることを知った時から5年、権利を行使できる時から10年で時効により消滅します(民法166条1項)。相手の特定に時間がかかることもあるため、返済期限や最後のやり取りから時間がたっている場合は、早めに確認しておくと安心です。時効の数え方は【男女トラブル】元恋人に貸したお金には、時効がある?で解説しています。
また、照会や訴訟、強制執行には費用と時間がかかります。貸した金額、手がかりの内容、相手に支払能力があるかどうかによって、費用をかけて請求することが見合うかどうかは変わります。依頼の前に、特定の見込みと回収の見込みを分けて確認しておくことをおすすめします。費用の目安は男女トラブルを弁護士に依頼する費用相場と流れ|内訳・目安・確認しておきたいことをご覧ください。
よくあるご質問
アプリの運営会社に問い合わせれば、相手の本名を教えてもらえますか
個人からの問い合わせに対して、運営会社がほかの利用者の氏名や住所を回答することは通常ありません。運営会社が年齢確認などのために情報を保有している場合でも、開示するかどうかは弁護士会照会などの手続を通じて判断されることになり、回答が得られないこともあります。
相手の下の名前と電話番号しか分かりません。相談しても意味はありますか
電話番号は照会の起点になり得る手がかりです。ただし、携帯電話会社によっては回答が得られない場合や、すでに解約されている場合もあります。振込履歴などほかの手がかりと組み合わせて検討することになるため、手元にある情報をすべてお持ちいただくと見通しを立てやすくなります。
相手の特定だけを弁護士に依頼できますか
弁護士会照会は、受任した事件を処理するための制度です。そのため、貸したお金の返還請求などの依頼があることが前提になり、本名を調べることだけを目的とした依頼は受けられません。
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本名が分からないときは、手がかりの整理から
マッチングアプリの相手に貸したお金は、本名が分からないという一点で、請求の入口が閉ざされているように感じられるかもしれません。実際には、振込先の口座や電話番号など、手元の記録から相手にたどり着ける場合もあれば、難しい場合もあります。記録が失われる前に保存し、特定の見込みと回収の見込みを分けて見極めることが、次の一歩を選ぶ手がかりになります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


