【不貞慰謝料・請求された側】一部でも支払うと何が確定するのか
この記事は、2026年10月時点の法令(刑法、民法、ストーカー行為等の規制等に関する法律、情報流通プラットフォーム対処法、民事保全法)と、ストーカー規制法の解釈・運用について警察が示している留意事項(令和6年10月の通達)にもとづいて作成しています。ストーカー規制法は2025年12月30日施行の改正(一部は2026年3月10日施行)を反映しています。2025年6月1日施行の改正刑法により懲役・禁錮は「拘禁刑」に一本化されており、本文の刑の記載はこれに合わせています。
「別れた相手が、私のことだと分かる投稿をSNSで続けている」「名前は出していないのに、共通の友人から『あれ、あなたのことだよね』と言われた」。ご相談の現場では、こうした元恋人の「匂わせ」投稿に悩む方のお話を伺います。一方で、「自分の気持ちを書いただけなのに、元恋人から削除を求められた」という、投稿した側からのご相談をお受けすることもあります。
世間では「名前を出していなければ問題ない」「SNSの投稿は自由だから止められない」と説明されることがあり、それ自体がすべて誤りというわけではありません。ただ、匂わせの投稿は、誰に向けて何を伝えているかによって、問題になる法律が大きく変わります。名前の有無だけで線を引くと、対応できる場面を見落とすことがあります。
この記事では、元恋人がSNSで匂わせの投稿を続けている場面に絞り、どこから違法と評価されうるのかの分かれ目と、止めるための段階的な手順を整理します。共通の友人に直接悪口を広めている場合は【男女トラブル】別れた相手が共通の友人に悪口を広めている|名誉毀損になる線、交際中の写真や動画がそのまま投稿された場合は交際中の写真・動画をSNSに晒された|肖像権・プライバシー侵害での削除で扱っています。
匂わせの投稿は「誰に向けたものか」で分けて考える
第三者に分かる匂わせと、あなたにだけ分かる匂わせ
匂わせの投稿を法的に考えるときに最初に確認したいのは、その投稿が誰に何を伝えているかです。大きく分けると、共通の友人やフォロワーなど第三者が読んで「あの人のことだ」と分かる匂わせと、第三者には意味が分からなくても、あなたにだけは自分のことだと分かる匂わせがあります。
第三者に分かる匂わせは、主に名誉やプライバシーの問題になり、あなたにだけ分かる匂わせは、主に監視やつきまといの問題になります。同じ「匂わせ」という言葉でも、使える法律と手続の入口が異なるのはこのためです。
投稿者の近況にとどまる匂わせ
もう一つ、元恋人が自分の近況や気持ちを発信しているだけで、あなたについては何も伝えていない投稿もあります。新しい交際相手との写真や、別れた後の心境をつづった投稿などです。見る側にとっては不快でも、この型は法的な問題になりにくいのが通常です。
三つの型と、問題になりうる法律、判断の分かれ目を整理すると、次のようになります。
| 匂わせの型 | 問題になりうる法律 | 判断の分かれ目 |
|---|---|---|
| 投稿者の近況にとどまる | 多くの場合、法的な問題になりにくい | あなたについての事実や評価が含まれているか |
| 第三者に分かる | 名誉毀損・侮辱、プライバシー侵害 | 読む人の中に、あなたのことだと分かる人がいるか |
| あなたにだけ分かる | ストーカー規制法の「つきまとい等」 | 好意や恨みを満たす目的で、繰り返されているか |
違法と評価されにくい匂わせ
自分の生活を発信しているだけの投稿
元恋人が新しい交際相手との写真を載せる、思い出の場所に一人で行った写真を載せる、別れの曲の歌詞を引用するといった投稿は、あなたへの当てつけに見えることがあります。しかし、こうした投稿の多くは投稿者自身の生活や感情を表したものであり、あなたの社会的な評価を下げる内容や、あなたの私生活を明かす内容を含んでいなければ、違法と評価される場面は限られます。
「不快であること」と「違法であること」は別の問題であり、法的な手段で止められるのは、投稿があなたの権利を侵害している場合です。この区別を最初に押さえておくと、どこに力を注ぐべきかが見えやすくなります。
法的な手段の前に、見え方を調整する
違法とまではいえない匂わせについては、ブロック、ミュート、フォロー解除など、SNSの機能で目に入らないようにすることが現実的な対応になります。相手の投稿を確認し続けることがかえって負担になっている場合もあります。
なお、相手の投稿を確認するために、別のアカウントを作って相手の鍵アカウントに入り込むといった行為は、別の問題を生むことがあります。この点は【男女トラブル】相手のSNSを見続けてしまう|自分の行動が問題になる場面と元交際相手のSNSを見ていた|のぞき見が罪になる場面で解説しています。
第三者に分かる匂わせ|名誉とプライバシーの線
名前がなくても「誰のことか」が分かる場合
名誉毀損やプライバシー侵害が問題になるには、投稿が特定の人について書かれたものだと分かることが前提になります。裁判例では、名前が書かれていなくても、投稿の内容や前後の文脈から、その人を知る人が読めば誰のことか分かる場合には、この前提を満たすと考えられています。
匂わせの投稿で注意したいのは、一つひとつの投稿は曖昧でも、続けて投稿されるうちに、交際していた時期、別れた時期、職業、住んでいる地域といった手がかりが積み重なっていく点です。単独では誰のことか分からない投稿でも、投稿の流れ全体を見ると、共通の知人には誰のことか分かる状態になっていることがあります。
あなたの評価を下げる内容のほのめかし
「平気で嘘をつく人だった」「お金にだらしない人と付き合っていた」「浮気されて別れた」といった投稿は、あなたの社会的な評価を下げる内容になりえます。名誉毀損罪は、公然と事実を摘示して人の名誉を毀損した場合に、その事実の有無にかかわらず成立するとされています(刑法230条1項)。事実を示さずに人を軽んじる表現であれば、侮辱罪が問題になります(同法231条)。
ほのめかす書き方であっても、何を言っているかは、一般の読者が普通の注意で読んだときにどう受け取るかで判断されます。また、私人の私生活についての投稿は、内容が真実であることを理由に責任を免れる場面は限られます(同法230条の2)。民事では、これらの投稿が不法行為として損害賠償の対象になり、名誉を回復するための措置を求められる場合もあります(民法709条、710条、723条)。
交際中の私生活のほのめかし
「あの人は家ではこんな姿だった」「二人で行った旅行先で」など、交際していたからこそ知りえた私生活を明かす投稿は、プライバシー侵害が問題になります。評価を下げる内容でなくても、一般に知られておらず、公開されることを望まない私生活上の事柄であれば、対象になりえます。
交際中の写真の一部や、顔を隠した写真を使った匂わせも同様に考えます。写真が使われている場合は、肖像権の問題もあわせて検討することになります。
あなたにだけ分かる匂わせ|ストーカー規制法の線
「見ている」と伝わる投稿
「今日のその服、似合ってたね」「あの店、また一人で行ってるんだ」など、あなたの最近の行動を知っていることをほのめかす投稿は、第三者には意味が分からなくても、あなたには強い不安を与えます。ストーカー規制法は、行動を監視していると思わせるような事項を告げ、またはその知り得る状態に置くことを「つきまとい等」の一つとしています(ストーカー行為等の規制等に関する法律2条1項2号)。
警察の運用上の留意事項では、「知り得る状態に置く」とは、直接伝えるものではないものの、相手方が日常生活において知ることのできる範囲に到達させることをいうとされています。あなたが見ていることを前提にしたSNSの投稿は、あなたに直接送られたメッセージでなくても、この「知り得る状態に置く」に当たりうるということです。ただし、投稿の内容が監視していると思わせる程度に至っていることが必要です。
目的と繰り返しという要件
ストーカー規制法が対象とするのは、恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する恨みの感情を満たす目的で行われる行為です(同法2条1項)。別れを受け入れられない元恋人の匂わせは、この目的と結びつきやすい一方、元恋人の新しい交際相手が投稿している場合などは、目的の要件が問題になります。
また、「つきまとい等」を繰り返すと「ストーカー行為」となり、刑事罰の対象になります(同法2条4項、18条)。監視をほのめかす投稿の場合は、身体の安全や住居の平穏などが害される不安を覚えさせるような方法で行われたことも必要です(同法2条4項)。一度の投稿で直ちに対象になるわけではないことは、連絡は1回だけだった|つきまとい等とストーカー行為の違いで整理しています。
名誉を害する内容・性的な内容のほのめかし
ストーカー規制法は、名誉を害する事項や、性的羞恥心を害する事項を告げ、またはその知り得る状態に置くことも「つきまとい等」としています(同法2条1項7号、8号)。運用上、名誉を害する事項は具体的な事実を示すことまでは必要とされていないため、刑法の名誉毀損罪とは別の角度から対象になる場合があります。
交際中の性的な画像の存在をほのめかす投稿は、拡散の前段階として深刻に受け止める必要があります。画像が相手の手元にある場合の対応は別れた相手が裸の画像を持っている|拡散される前に削除させる交渉で扱っています。危害をほのめかす投稿がある場合は、法的な評価を待たずに、身の安全の確保と警察への相談を優先してください。
「続けている」ことが持つ意味
一つずつではなく、並べて見る
匂わせの投稿は、一つだけを取り出すと「誰のことか分からない」「ただの感想だ」と言える余地があります。しかし、投稿が続いている場合には、投稿の時期、あなたの行動との重なり、言葉の選び方を並べて見ることで、誰に向けたものか、何を伝えようとしているのかが読み取れるようになることがあります。
匂わせへの対応では、個々の投稿の違法性を一つずつ問うよりも、投稿の流れ全体を記録として示すことが重要になります。ストーカー規制法の「繰り返し」も、特定の種類の行為に限らず、各号の行為が全体として繰り返されているかで判断されると解されています。
投稿以外の接触と合わせて評価される
匂わせの投稿と並行して、DMや電話が届く、共通の友人を通じて近況を探られる、新しい交際相手に連絡が来るといった接触がある場合は、それらも含めて一連の行為として評価されます。新しい交際相手に連絡が向かっている場合は【男女トラブル】元恋人が新しい交際相手に連絡してくる|止めるための段階と、二人での動き方、家族や友人への接触は別れた相手が家族や友人に接触してくる|第三者を巻き込む嫌がらせへの対応もあわせてご覧ください。
止めるための手順① 記録と情報の出所の確認
投稿の残し方
最初に行いたいのは記録です。投稿は相手がいつでも削除できるため、ブロックや削除の申出をする前に保存しておきます。
- 投稿の画面全体が分かるスクリーンショットと、投稿日時。
- 投稿のURLと、アカウント名・ID。
- その投稿を誰が見られる設定になっているか(公開か、鍵アカウントか)。
- 投稿についた反応やコメントのうち、あなたのことだと読み取っているもの。
- 共通の友人から「あなたのことでは」と言われた場合は、その日時と内容。
保存の方法と証拠としての整え方は、男女トラブルの証拠の集め方|LINE・録音・写真を法的に有効にするで解説しています。
投稿と現実の対応を書き留める
匂わせの投稿は、それだけを見ても意味が分からないことがあります。「この投稿の前日に、自分はこの店にいた」「この話は交際中に二人だけでした会話だ」など、投稿の内容があなたの現実のどの部分と対応しているかを、投稿ごとにメモしておくと、後で第三者に説明するときに役立ちます。誰のことか、何を伝えているかを説明できるのは、多くの場合あなた自身だけです。
相手がどこから情報を得ているか
あなたの最近の行動をほのめかす投稿がある場合は、元恋人がその情報をどこから得ているのかを確認することが大切です。共通の友人、あなた自身のSNSの投稿、共有したままの位置情報やアカウントなどが経路になっていることがあります。経路の止め方は【ストーカートラブル】スマホや共有サービスから居場所が漏れている|位置情報以外の経路を止めるが参考になります。
止めるための手順② 弁護士からの通知を最初の一手に
通知で伝えること
記録がそろい、投稿が続いている場合に、最初の一手として考えられるのが弁護士から元恋人への通知です。匂わせの投稿は、本人に直接やめてほしいと伝えると、それ自体が新たな投稿の材料になることがあります。第三者である弁護士が窓口になることで、こうしたやり取りを避けやすくなります。
- 弁護士が代理人に就いたこと。
- 問題となる投稿を特定し、削除を求めること。
- 同種の投稿や、あなたへの直接の連絡をやめるよう求めること。
- 今後の連絡は弁護士を窓口とすること。
- 続く場合には、警察への相談や法的な手続を検討すること。
投稿者が誰かが分かっている匂わせの場合は、投稿者を特定する手続を経ずに、本人に直接働きかけられる点が、匿名の書き込みとの大きな違いです。通知の仕組みは受任通知とは何か|送られると相手方との関係はどう変わるかで解説しています。
通知の後に続く手段
通知の後も投稿が続く場合や、通知を待てない内容の場合は、次の手段を状況に応じて組み合わせます。
- SNSの運営会社への削除の申出。大規模なプラットフォームでは、申出への対応の手続が法律で整えられています。
- 警察への相談と、ストーカー規制法にもとづく警告や禁止命令の申出(同法4条、5条)。2025年12月30日施行の改正により、申出がなくても警察が職権で警告できる仕組みも設けられました。
- 名誉毀損罪・侮辱罪による告訴。これらは告訴がなければ公訴を提起できない罪です(刑法232条1項)。
- 裁判所への投稿削除や投稿禁止の仮処分の申立て(民事保全法23条2項)と、損害賠償の請求。
削除の申出については【男女トラブル】情報流通プラットフォーム対処法で削除依頼はどう変わったのか、警察の手続はSNS・LINEの執拗な連絡はストーカーになる?警告・禁止命令の流れ、警察と裁判所の使い分けは接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分け、告訴の期間は名誉毀損は親告罪|告訴期間と示談による解決で整理しています。
避けたい対応
こちらの行動が新たな問題を生まないように
匂わせの投稿を受けている側であっても、対応の仕方によっては、自分が責任を問われる立場になりかねません。次のような対応は控えることをおすすめします。
- こちらも匂わせの投稿で応じる。
- 相手の投稿にコメントやDMで抗議を繰り返す。
- 相手の投稿をスクリーンショットで拡散し、共通の友人に批判を呼びかける。
- 相手の新しい交際相手や家族、勤務先に連絡して、やめさせるよう求める。
- 別のアカウントを使って、相手の鍵アカウントの投稿を見る。
止めるための対応は、記録を残し、第三者を通じて伝えるという形で、こちらからの接触を最小限にしながら進めるのが基本です。
よくあるご質問
鍵アカウントでの匂わせでも問題になりますか。
鍵アカウントは見られる人が限られますが、それだけで問題にならないとはいえません。名誉毀損罪の「公然と」は、不特定または多数の人が知りうる状態をいい、見られる人の範囲や、そこから広がる可能性によって判断されます。また、プライバシー侵害やストーカー規制法の「知り得る状態に置く」は、公然性とは別の観点で判断されます。共通の知人が多い鍵アカウントでは、むしろ身近な人にだけ伝わることで影響が大きくなる場合もあります。
「あなたのことではない」と言われたら、どうなりますか。
匂わせの投稿では、投稿者からこうした反論が出ることは珍しくありません。誰のことかは、投稿者の説明ではなく、投稿の内容や前後の流れから、読む人がどう受け取るかで判断されます。投稿と現実の対応を記録しておくこと、共通の知人が実際にあなたのことだと受け取っていた事情を残しておくことが、この反論への備えになります。
元恋人ではなく、その新しい交際相手が匂わせの投稿をしています。
名誉毀損やプライバシー侵害は、投稿したのが誰であっても同じ枠組みで判断されます。一方、ストーカー規制法は、あなたへの好意やそれが満たされなかったことへの恨みを満たす目的を前提としているため、新しい交際相手による投稿には当てはまりにくい場合があります。元恋人が新しい交際相手に情報を伝えて投稿させているような事情があれば、その点も含めて検討します。
まとめ
- 匂わせの投稿は、第三者に分かるものは名誉・プライバシーの問題、あなたにだけ分かるものは監視・つきまといの問題として、分けて考えます。
- 投稿者の近況にとどまる匂わせは、不快であっても違法と評価されにくく、SNSの機能で見え方を調整するのが現実的です。
- 名前がなくても、読む人の中にあなたのことだと分かる人がいれば、名誉毀損や侮辱、プライバシー侵害が問題になりえます(刑法230条1項、231条、民法709条、710条)。
- あなたの行動を知っているとほのめかす投稿は、監視していると思わせる事項を知り得る状態に置く行為に当たりうるとされています(ストーカー行為等の規制等に関する法律2条1項2号)。
- 投稿が続いている場合は、一つずつではなく流れ全体を記録し、投稿と現実の対応を書き留めておくことが重要です。
- 対応は、記録と情報の出所の確認、弁護士からの通知という順序が基本です。
- 続く場合は、削除の申出、警察の警告・禁止命令(同法4条、5条)、告訴(刑法232条1項)、仮処分(民事保全法23条2項)を検討します。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。元恋人の匂わせの投稿にお悩みの方はもちろん、自分の投稿について元交際相手から削除を求められて困っている方からのご相談にも対応しています。
投稿の記録の整え方から、弁護士名での通知、削除の申出や警察への相談の進め方まで、状況に応じて一緒に検討します。まずはお気軽にお問い合わせください。


