【不貞慰謝料】同じ家計の中での求償に意味はあるのか
この記事は、2026年10月2日時点の法令(刑法230条・230条の2・231条・232条、刑事訴訟法235条、民法709条・710条・724条、ストーカー行為等の規制等に関する法律)と公表されている判例をもとに作成しています。刑法の「懲役」「禁錮」は2025年6月1日から「拘禁刑」に一本化されており、本文の法定刑はこれを反映しています。
「共通の友人から『浮気して別れたって聞いたけど本当?』と聞かれた。誰が言っているのかはすぐに分かった」というご相談があります。反対に、「別れた経緯を友人に話しただけなのに、相手から名誉毀損だと言われた」というご相談もあります。
世の中では「悪口を言いふらされたら名誉毀損になる」と説明されることが多く、それ自体は誤りではありません。ただ、友人の輪という限られた範囲で、しかも口頭の会話として広がっている場面では、そもそも名誉毀損にあたるのか、証拠は又聞きしかないがどこまで動けるのか、という点の見通しが立てにくいのが実情です。
この記事では、別れた相手が共通の友人に口頭やLINEで悪口を広めている場面に絞り、名誉毀損になる線と、対応を考える順序を整理します。SNSへの投稿や写真の拡散については交際中の写真・動画をSNSに晒された|肖像権・プライバシー侵害での削除で、相手が家族や友人に直接接触してくる場面については別れた相手が家族や友人に接触してくる|第三者を巻き込む嫌がらせへの対応で解説しています。
「悪口」と「名誉毀損」は同じではない
具体的な事実を示しているかどうか
名誉毀損は、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損する行為として定められています(刑法230条1項)。ここでいう「事実」は、本当かうそかを問わず、証拠によって確かめられる性質の具体的な事柄を指します。「浮気をしていた」「借金を返さないまま別れた」「交際中に暴力を振るわれた」といった話は事実を示すものにあたりやすい一方、「性格が最悪」「一緒にいると疲れる人」といった言い方は、評価や感想の表明にとどまることが多いと考えられます。
評価や感想にとどまる言葉でも、侮辱として問題になる場合があります(同法231条)。ただし、別れた後の愚痴として語られる程度の不満は、言われた側にとって不快であっても、それだけで直ちに違法と評価されるわけではありません。法的に問題となるかどうかは、言葉の強さや具体性、繰り返しの程度によって判断が分かれます。
周囲からの評価を下げる内容かどうか
名誉毀損でいう「名誉」は、本人の気持ちではなく、その人が周囲から受けている評価を意味します。民事でも、名誉とは人の品性、徳行、名声、信用などについて社会から受ける客観的な評価をいうとされています(最高裁昭和45年12月18日判決)。共通の友人が聞いたときに「そういう人だったのか」と受け止める内容かどうかが、一つの目安になります。
本当のことでも違法になることがある
刑法は「その事実の有無にかかわらず」と定めており、話の内容が真実であっても名誉毀損は成立し得ます。例外として、公共の利害に関する事実について、もっぱら公益を図る目的で示し、真実であることが証明された場合には罰しないとされています(同法230条の2第1項)。民事でも同様の考え方がとられています(最高裁昭和41年6月23日判決)。
交際中の出来事や別れた経緯は、多くの場合、公共の利害に関する事実とはいいにくいものです。相手が「本当のことを話しただけ」と言っていても、その言い分がそのまま通るとは限りません。
| 言われている内容の例 | 考えられる法的な整理 |
|---|---|
| 「浮気をして別れた」「二股をかけていた」 | 事実を示すものとして、名誉毀損が問題になり得る |
| 「お金をだまし取られた」「借金を踏み倒された」 | 事実を示すもの。犯罪を思わせる内容は評価の低下が大きいと見られやすい |
| 「暴力を振るわれた」「警察沙汰になった」 | 事実を示すもの。事実と異なる場合は特に重く受け止められやすい |
| 「性格が最悪」「自分勝手な人」 | 評価や感想の表明。表現の程度によって侮辱が問題になる |
| 交際中の性的な事柄、病気、家族の事情 | 真偽にかかわらず、プライバシーの侵害が問題になり得る |
「共通の友人だけ」でも名誉毀損になるのか
公然性は「不特定または多数」が基本
名誉毀損や侮辱が成立するには、「公然と」行われたことが必要です。公然とは、不特定または多数の人が認識できる状態をいうとされています。1対1の会話で一度だけ話したという場面では、この要件を満たさないと判断されることが多いと考えられます。
少人数でも「広がる可能性」で判断されることがある
一方で、刑事の判例は、話した相手が特定の少人数であっても、そこから不特定多数の人へ広がっていく可能性がある場合には公然性を認めています(最高裁昭和34年5月7日判決)。伝播性と呼ばれる考え方です。民事の裁判例にも、少人数への伝達について、広がる可能性があれば足りるとしたものがあります。もっとも、この考え方には学説上の批判もあり、裁判例の判断も一貫しているとはいえません。何人に話せば成立する、という明確な線は引かれていないのが実情です。
共通の友人という関係は、この判断で一つの特徴を持ちます。友人同士はさらに別の友人とつながっていることが多く、「ここだけの話」として伝えられた内容でも、輪の外へ広がる可能性は否定しにくい面があります。反対に、話した相手が相手方自身の家族や、守秘が期待される専門職などに限られる場合は、広がる可能性が低いと評価されやすいと考えられます。
グループLINEと、個別の会話の積み重ね
共通の友人が参加するグループLINEへの書き込みは、参加人数が多いほど「多数」に向けた発信と評価されやすく、転送やスクリーンショットによる拡散も容易です。また、一人ひとりに個別に話していた場合でも、同じ内容を何人にも繰り返していれば、全体として多数の人に伝えたものとみる余地があります。
| 場面 | 公然性の評価の傾向 |
|---|---|
| 元交際相手が友人1人に、一度だけ話した | 認められにくい |
| 共通の友人数人に、口止めをせず話した | 広がる可能性から認められる余地がある |
| 共通の友人が多く参加するグループLINEに書き込んだ | 認められやすい |
| 同じ内容を友人一人ひとりに繰り返し話した | 全体として多数に伝えたとみる余地がある |
| 誰でも見られるSNSに投稿した | 基本的に認められる |
名誉毀損以外に問題になる場面
プライバシーの侵害
交際中の性的な事柄や、病気、家族の事情、借金の有無などは、真実であっても、本人が他人に知られたくないと考えるのが通常の事柄です。私生活上の事柄で、一般の人の感覚から公開を望まないと考えられ、まだ知られていない事柄を明らかにすることは、プライバシーの侵害として不法行為になり得ます(東京地裁昭和39年9月28日判決)。名誉毀損と異なり、「本当のことかどうか」が直接の争点にならない点に特徴があります。刑事上の扱いについては私生活を暴露した|プライバシー侵害は犯罪になるのかで解説しています。
侮辱と名誉感情の侵害
具体的な事実を伴わない悪口でも、公然と人を侮辱した場合には侮辱罪が問題になります。2022年の改正で法定刑が引き上げられ、現在は1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料とされています(刑法231条)。改正の内容は侮辱罪の厳罰化で何が変わったのか|公訴時効と逮捕の可能性で詳しく扱っています。民事では、社会通念上許される限度を超える侮辱行為は、名誉感情の侵害として不法行為になり得るとされています(最高裁平成22年4月13日判決)。
つきまといや嫌がらせと重なっている場合
悪口が広まるのと並行して、本人への連絡が続く、友人を通じて伝言が届く、待ち伏せをされるといった行為がある場合は、ストーカー規制法の対象となる可能性も検討します。同法は、恋愛感情やそれが満たされなかったことへの怨恨を目的とする一定の行為を規制しており、その中には名誉を害する事項を告げることなども含まれています(ストーカー行為等の規制等に関する法律2条1項)。悪口だけを切り出すのではなく、一連の行動として見たほうが対応しやすい場面もあります。元交際相手のつきまとい・待ち伏せ|ストーカー規制法でできる対応もあわせてご覧ください。
証拠をどう残すか|又聞きの限界
「友人から聞いた」だけでは足りないことが多い
この種のご相談で最も難しいのは、相手が何を言ったのかを、相談者本人が直接は聞いていないことです。友人から「〇〇がこう言っていた」と伝えられた内容は、それ自体が証拠として全く使えないわけではありませんが、いつ、誰に対して、どのような言葉で話したのかがあいまいなままだと、後で相手に否定されたときに立証が難しくなります。友人の記憶も時間とともに薄れ、「そこまでは言っていなかったかもしれない」と変わることも珍しくありません。
そのため、聞いた直後に、日時・場所・話した相手・話の中身をできるだけ具体的に書き留めておくことが、後の対応の土台になります。
友人に協力を求めるときの配慮
グループLINEの書き込みや、相手から友人に送られたメッセージがあれば、友人にスクリーンショットを共有してもらうことが考えられます。友人に、聞いた内容をメモにしてもらえる場合もあります。
ただし、友人にとっては、元交際相手との関係もあるなかでの協力になります。強く求めすぎると友人関係そのものが損なわれたり、協力を頼んだことが相手に伝わって対立が深まったりすることがあります。どこまで頼めるかは、友人との関係を踏まえて慎重に考える必要があります。
自分で残しておきたい記録
ご自身で用意できる記録としては、次のようなものがあります。
- 友人から聞いた内容を、聞いた日のうちに書き留めたメモ。
- 友人から届いたLINEやメッセージの画面(日時が分かる形で保存したもの)。
- グループLINEや相手からのメッセージのスクリーンショット(共有を受けられた場合)。
- 悪口が広まったことで生じた影響(誘いが来なくなった、職場で聞かれたなど)の記録。
- 相手とのやり取りのうち、別れた経緯や対立の内容が分かるもの。
記録の残し方の全体像は男女トラブルの証拠の集め方|LINE・録音・写真を法的に有効にするで解説しています。
対応の選択肢|まず「止める」ことを考える
様子を見る、自分の言葉で伝えるという選択
共通の友人が少数で、話の内容も一時的な愚痴にとどまっている場合には、法的な手段をとらずに様子を見るという判断もあり得ます。信頼できる友人に対して、事実と異なる部分だけを落ち着いて伝えておくことで、話がそれ以上広がらないこともあります。その際も、相手を責める言葉を重ねるのではなく、自分の側の事実を伝える範囲にとどめておくことが大切です。
弁護士名の通知で発言を止める
事実と異なる話が繰り返し広められている、内容が深刻で仕事や生活に影響が出始めている、といった場合には、弁護士から相手に通知を送り、発言をやめるよう求める方法があります。通知には、問題となる発言の中止、今後の連絡の窓口を弁護士に一本化すること、必要に応じて友人への訂正を求めることなどを盛り込みます。
相手との間で合意ができる場合は、今後お互いに相手のことを第三者に話さない、接触しないといった内容を書面にしておくことも考えられます。こうした条項の書き方と限界については接触禁止条項・口外禁止条項の書き方と限界で解説しています。当事務所でも、元交際相手からの嫌がらせについて、弁護士からの通知によって行為が止まった事例があります(【解決事例】元交際相手からの恐喝・なりすまし被害|受任通知で嫌がらせを止めた解決事例)。
損害賠償や刑事告訴を検討する場合
民事では、名誉毀損やプライバシーの侵害を理由に、慰謝料などの損害賠償を請求することが考えられます(民法709条・710条)。ただし、口頭で限られた範囲に話されたにとどまる場合、認められる金額は大きくなりにくい傾向があり、弁護士費用や時間との見合いを考える必要があります。請求できる期間は、損害と加害者を知った時から3年です(同法724条1号)。
刑事では、名誉毀損罪と侮辱罪はいずれも告訴がなければ起訴できない親告罪です(刑法232条1項)。告訴は、犯人を知った日から6か月以内にする必要があります(刑事訴訟法235条)。親告罪の仕組みは名誉毀損は親告罪|告訴期間と示談による解決、告訴状の書き方は告訴状はどう書くのか|受理されやすい書き方と添付資料で扱っています。
| 対応 | 主な目的 | 留意点 |
|---|---|---|
| 様子を見る・自分で事実を伝える | 話の拡大を抑える | 相手を責める言葉を重ねない |
| 弁護士名の通知 | 発言をやめさせる・窓口を一本化する | 証拠が少なくても検討できる |
| 合意書の作成 | 今後の発言と接触を約束させる | 相手の合意が必要 |
| 損害賠償請求 | 被った損害の回復 | 金額と費用の見合い、3年の期間 |
| 刑事告訴 | 処罰を求める | 6か月の告訴期間、捜査機関の判断 |
してしまいがちな対応と、その注意点
悪口を広められたと知ったとき、次のような対応をとりたくなる方は少なくありません。いずれも、こちらの立場を悪くするおそれがある点に注意が必要です。
- 同じ友人たちに、相手の悪口を言い返す。こちらの発言も名誉毀損や侮辱として問題になり得ます。
- 友人を一人ずつ問い詰めて、誰が何を言ったかを聞き出す。友人関係が損なわれ、相手に伝わって対立が深まることがあります。
- 相手のSNSや勤務先に、事情を書き込んだり連絡したりする。内容によっては、こちらが責任を問われる側になります。
- 相手に直接会って、撤回や謝罪を強く迫る。やり取りがこじれ、新たなトラブルの原因になりやすい場面です。
別れた後に相手の動向が気になり、SNSを確認し続けてしまうこともあるかもしれません。自分の行動が問題になる場面については【男女トラブル】相手のSNSを見続けてしまう|自分の行動が問題になる場面で解説しています。
よくあるご質問
別れた理由を友人に話しただけで、名誉毀損と言われることはありますか?
親しい友人に、別れた経緯を事実の範囲で相談として話すことが、直ちに違法とされるわけではありません。一方で、相手の具体的な非行を断定的に、多くの人に繰り返し伝えた場合や、性的な事柄など私生活の深い部分に触れた場合には、名誉毀損やプライバシーの侵害が問題になり得ます。名誉毀損だと言われた側の対応についてはSNSの投稿で名誉毀損と言われた|刑事と民事の違いも参考になります。
録音やスクリーンショットがなくても、弁護士に依頼できますか?
ご依頼いただくことは可能です。発言をやめるよう求める通知は、証拠が十分にそろっていない段階でも検討できます。ただし、損害賠償請求や刑事告訴に進む場合には、相手の発言を具体的に示す証拠の有無が見通しを大きく左右します。費用の目安は男女トラブルを弁護士に依頼する費用相場と流れ|内訳・目安・確認しておきたいことをご覧ください。
相手は「本当のことを言っただけ」と言っていますが、それなら問題はないのですか?
真実であることが責任を免れる理由になるのは、公共の利害に関する事実を、もっぱら公益を図る目的で示した場合に限られます(刑法230条の2第1項)。交際中の出来事や別れた経緯は、多くの場合これにあたりにくく、真実であっても名誉毀損やプライバシーの侵害が問題になる可能性があります。
まとめ
- 悪口が名誉毀損にあたるかは、具体的な事実を示しているか、周囲からの評価を下げる内容かによって分かれます(刑法230条1項)。
- 話の内容が真実でも、公共の利害に関わらない私生活の事柄であれば、責任を免れるとは限りません(刑法230条の2第1項)。
- 共通の友人という少人数への話でも、そこから広がる可能性があれば公然性が認められることがあります(最高裁昭和34年5月7日判決)。
- 性的な事柄や病気など私生活の深い部分は、真偽にかかわらずプライバシーの侵害が問題になります。
- 又聞きの情報は、聞いた直後に日時・相手・内容を具体的に記録しておくことが重要です。
- 対応は、まず発言を止めることを優先し、損害賠償は3年(民法724条1号)、刑事告訴は6か月(刑事訴訟法235条)の期間に注意します。
- 言い返す、友人を問い詰める、相手の勤務先に連絡するといった対応は、こちらの立場を悪くするおそれがあります。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。別れた相手が友人に話を広めていて対応に迷っている方、反対に、相手から名誉毀損だと言われて不安を感じている方も、まずは状況をお聞かせください。
お手元の記録がまだ十分でない段階でも、何を残しておくべきか、どの手段が見合うのかを一緒に整理いたします。ご事情に応じて、相手への通知から合意書の作成まで、適切な順序をご提案します。


