【不貞慰謝料】反論の全体地図|どの主張をどの順で立てるか
自分の顔が使われた画像がネット上に出回ったとき、多くの方がまず口にされるのは「これは自分ではないのに、自分として広まってしまう」という戸惑いです。ところが手続を進めようとすると、その入口で「その画像に写っているのが本当にあなたなのか」という問いに向き合うことになります。
加工画像は、顔だけが本人で、体や背景は別のものというつくりになっていることが多くあります。全体が生成されたもので、どこにも撮影された本人が存在しないという場合もあります。それでも見る人が「あの人だ」と受け取るのであれば、社会的な不利益は現実に生じます。この落差が、加工画像をめぐる対応をむずかしくしています。
この記事では、実務で使われる「同一性」という言葉が二つの意味に分かれていること、そのうち「見る人が本人だと分かるか」がどのように判断されてきたか、そして手続の場面ごとに求められる水準がどう違うのかを整理します。
この記事で扱うこと・扱わないこと
- 扱うのは、加工された画像や動画について「本人といえるか」が問われる場面の考え方です。
- 削除や発信者情報開示の手続そのものの流れは、別の記事に譲ります。
- 慰謝料の相場や、個別事案の見通しには触れません。
- 画像を作った側・投稿した側の刑事責任は扱いません。
- 2026年8月時点の法令と、公表されている裁判例をもとにしています。
「同一性」という言葉が指している二つの中身
相談の場で「同一性が問題になる」と説明されるとき、実は性質の異なる二つの問いが混ざっています。片方は見る人の側の問題で、もう片方は画像そのものの成り立ちの問題です。どちらの話をしているのかを分けておくと、手続の見通しが立てやすくなります。
見る人が本人だと分かるか
名誉やプライバシーの侵害を主張する場面では、その表現が誰のことを指しているのかが分かることが出発点になります。実務ではこれを同定可能性と呼びます。誰のことか分からなければ、その人の社会的な評価は下がりようがなく、私生活上の事柄が知られたともいえないためです。加工画像の事案で問題になるのは、主にこちらの意味の同一性です。
元の画像と同じものといえるか
もう一つは、加工後の画像が、加工前に撮影された画像と同じものといえるかという問いです。性的な画像の公表を規制する法律のように、撮影された画像であることを前提に組み立てられた規定では、この意味での同一性が要件に関わってきます。撮影された画像に編集を加えたものであっても、元の画像との同一性が認められる場合には対象になり得ると説明されています。一方で、他人の体に自分の顔だけを合成したものは、顔の側の人については姿態が撮影されたものとはいえない、という整理が示されています。
二つの同一性は、どの場面で問われるのか
| 問われる場面 | 中心になる問い | 手がかりになるもの |
|---|---|---|
| 名誉やプライバシーの侵害 | 見る人が本人だと分かるか | 添えられた氏名・アカウント・文脈 |
| 肖像に関する人格的利益 | 本人の容ぼうを描いたものといえるか | 顔の特徴・元にした画像との一致 |
| 撮影された画像を前提とする規定 | 加工前の画像との同一性 | 素材になった画像を特定できるか |
| プラットフォームへの削除の申出 | 申し出ている人が対象者本人か | 本人確認書類・元画像の保有 |
| 投稿者を特定する手続 | 権利侵害が明らかといえるか | 上記を書面で説明できるか |
「本人と分かるか」はどう判断されてきたか
この論点は、文字による中傷の分野で積み重ねが厚く、加工画像にも同じ考え方が持ち込まれています。
一般の閲覧者を基準にする
ある表現が誰のことを述べているかは、書いた人の意図ではなく、一般の読者の普通の注意と読み方を基準に判断するという考え方が定着しています(最高裁昭和31年7月20日判決)。下級審の裁判例でも、投稿から推知される情報によって対象が特定の個人であると同定できることが、権利侵害を認める前提として挙げられています。また最高裁は、本人と面識のある人や事情を知る人が、その知識を手がかりに本人のことだと推知できる場合について、名誉毀損とプライバシー侵害の成立を認めた原審の判断を是認した例もあります(最高裁平成15年3月14日判決)。世の中の全員が分かる必要はなく、本人を知る層に届けば足りると理解されています。
顔以外の要素が積み上がる
裁判例で同定可能性が認められてきたのは、氏名だけが手がかりだった場面ではありません。氏名と勤務先、店名と源氏名、学校名と学年、アカウント名と顔写真といったように、属性の組合せによって同姓同名の別人を除けるかどうかが検討されています。加工画像でも同じで、画像を単体で見るのではなく、添えられた文章、アカウント名、投稿された場所、前後の投稿までを合わせて判断されることになります。
加工画像は、写真とイラストの間にある
肖像に関する最高裁の判断は、加工画像を考えるうえでも参考になります。最高裁は、人は自分の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益を持つとしたうえで、容ぼう等を描写したイラスト画についても、みだりに公表されない人格的利益を認めました(最高裁平成17年11月10日判決)。撮影されたものでなければ保護の外、という単純な線引きにはなっていません。
「ありのまま」と受け取られるかどうか
同じ判決は、写真とイラスト画の違いにも触れています。写真はレンズがとらえた姿を再現したものであり、公表されれば本人の姿をありのままに示したものという前提で受け取られる。これに対しイラスト画は作者の主観や技術が反映されるものであり、そのことを前提に受け取られる。したがってイラスト画の公表が受忍の限度を超えるかを判断するときには、この特質を考えに入れる必要がある、という趣旨です。
加工画像は、この二つの中間に置かれます。成り立ちとしては人の手や機械が作ったものでありながら、受け取る側には撮影されたもののように見えるからです。ありのままを写したものとして受け取られるかどうかという視点は、加工画像の評価を考えるうえでも手がかりになります。
精巧さは、有利にも不利にも働く
加工が精巧であるほど、見る人は本人だと受け取りやすくなり、同定可能性の面では認められやすい方向に働きます。逆に、粗い加工や、見てすぐ作り物と分かる画像は、本人だと受け取られにくく、その分だけ入口の要件を満たしにくくなります。もっとも、合成であることが画面上に示されていた事例でも名誉毀損の成立を認めた裁判例があり、表示さえあれば責任が問われないという整理にはなっていません。
顔以外に手がかりになるもの
- 画像に添えられた氏名・ハンドルネーム・アカウントへのリンク。
- 投稿文や前後の書き込みに書かれた勤務先・学校・地域といった属性。
- 背景に写り込んだ建物・室内・持ち物など、元の画像に由来する部分。
- ほくろ・傷・髪型・眼鏡など、本人を知る人が見分けられる特徴。
- 自分が過去に公開していた画像が素材に使われている場合の、構図や服装の一致。
- 「これは本人ではないか」という趣旨の第三者の反応。
素材になった画像を特定できるか
手がかりとして分かりやすいのは、加工の元になった画像を突き止めることです。自分が過去に投稿した写真がそのまま使われていれば、構図・背景・服装・撮影された時期が一致します。元の画像を保存した場所や公開していた時期を示せれば、加工画像との結びつきを言葉で説明しやすくなります。
一方、全体が生成された画像で、特定の素材にさかのぼれない場合もあります。このときは元画像との一致という道が使えないため、前の項目で挙げた要素の積み重ねに頼ることになります。ここが、加工画像の事案で立証の負担が重くなりやすい部分です。
場面ごとに求められる水準は違う
同じ「本人といえるか」という問いでも、どの手続に乗せるかで、求められる説明の重さが変わります。
プラットフォームへの削除の申出
削除の申出では、法律の要件よりも各社の利用規約と運用が前面に出ます。多くの事業者は、本人になりすました画像や、同意のない性的な合成物を規約で禁じており、裁判所の判断を待たずに削除される場合があります。申出の際には本人確認書類の提出を求められるのが通例です。ここでいう本人の確認は、申し出ている人が画像の対象者かという意味であり、裁判での立証とは別の話です。
投稿者を特定する手続
発信者情報の開示を求める場面では、権利が侵害されたことが明らかといえることが条件になります。加工画像の事案では、この段階で「本人と分かる」という説明を書面で組み立てられるかが分かれ目になります。通信記録の保存期間という制約もあるため、時間の余裕は多くありません。
損害賠償や刑事の手続
訴訟では、本人と分かることを主張する側が資料で裏づけていくことになります。刑事の手続では、告訴を受けた捜査機関が事件として扱うかどうかを判断します。名誉毀損は告訴がなければ起訴できない犯罪であり、告訴できる期間にも定めがあります。気づいた時点で見通しを整理しておくことが、選択肢を残すことにつながります。
相手方から出てくる主張
| よく出てくる主張 | 受け止め方 |
|---|---|
| 架空の人物を描いたもので、実在の誰でもない | 氏名・アカウント・背景など、実在の人物に結びつく要素があるかを示す |
| 似ているだけで本人ではない | 本人を知る人が推知できるかという視点で、属性の組合せを整理する |
| 合成であることを明示していた | 表示があっても責任が否定されるとは限らないとした裁判例がある |
| 本人が写った写真は使っていない | 画像単体ではなく、投稿全体の文脈で判断されることを説明する |
先にしておきたいこと
- 画像だけでなく、URL・投稿日時・アカウント名を含めた画面全体を保存する。
- 前後の投稿や、第三者のコメントもあわせて記録に残す。
- 素材に使われたと思われる自分の画像を、公開していた時期が分かる形でまとめる。
- 拡散先を見つけたら、消える前に同じ形で記録する。
- 相手からやり取りを求められても、その場で応じずに記録を優先する。
- 早い段階で弁護士に相談し、削除と特定のどちらを先に進めるかを決める。
避けたい進め方
- 投稿者と思われる相手に自分から連絡し、感情的なやり取りに発展させること。
- 本人ではないと説明するために、別の自分の画像を新たに公開すること。
- 削除だけを急ぎ、投稿者につながる手がかりを残さないまま画面を閉じること。
- 「本人ではない」と言われた時点で、手続を止めてしまうこと。
- 拡散の範囲を確かめるつもりで、自分で引用して広げてしまうこと。
よくあるご質問
顔だけが自分で、体は別人です。それでも自分の画像といえますか
見る人が本人だと受け取るかどうかが出発点になります。顔のほかに氏名やアカウントが添えられていれば、本人を指していると判断されやすくなります。ただし、撮影された画像であることを前提とする規定に当たるかどうかは、これとは別に検討することになります。同じ画像でも、根拠にする制度によって結論が変わり得ます。
生成されたものだと分かる粗い画像でも、対応できますか
本人だと受け取られにくいほど、入口の要件は満たしにくくなります。もっとも、添えられた文章の内容によっては、画像そのものとは別に責任が問題になる場合があります。また、対象が誰か分からなくても、本人に向けられた侮辱として名誉感情の侵害が問題になる余地もあります。どの枠組みで組み立てるかは、投稿の中身によって変わります。
鑑定やAI判定の結果は、本人であることの証明になりますか
こうした判定は、その画像が生成・加工されたものかどうかを示す材料であって、そこに写っているのが誰かを決めるものではありません。手続の中心になるのは、見る人が本人だと分かるかという点です。判定結果は補助的な資料として位置づけ、他の要素と組み合わせて使うことになります。
まとめ
- 「同一性」には、見る人が本人だと分かるかという問いと、加工前の画像と同じものといえるかという問いの二つがある。
- 加工画像の事案で先に問題になるのは、前者の同定可能性であることが多い。
- 誰のことかは、一般の読者の普通の注意と読み方を基準に判断される。
- 本人を知る人が推知できれば足り、世の中の全員が分かる必要はない。
- 判断材料は顔だけでなく、氏名・アカウント・文脈・背景の積み重ねになる。
- 最高裁は、撮影された写真だけでなく、容ぼうを描写したものについても人格的利益を認めている。
- 削除の申出・投稿者の特定・訴訟では、求められる説明の重さがそれぞれ違う。
- 画面全体の保存と、素材に使われた自分の画像の整理が、後の手続を左右する。
加工画像をめぐる問題は、法律の条文がそのまま当てはまる場面が少なく、手元にある材料をどう組み立てるかで進み方が変わります。弁護士法人若井綜合法律事務所では、削除と投稿者の特定のどちらを先に進めるか、どの資料を残しておくべきかといった段階から、状況をうかがったうえでご説明しています。お困りの際は、早めにご相談ください。


