【不貞慰謝料】配偶者と不貞相手のどちらか一方だけに請求した場合の帰結

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

不貞をめぐる慰謝料では、不貞をした配偶者と不貞相手の二人が、同じ一つの損害について責任を負うと整理されています。そのため、二人の両方に請求することも、どちらか一方だけに請求することもできます。離婚しないので不貞相手だけに請求する、連絡先が分からないので配偶者だけに請求する、といった形で一方に絞られることは少なくありません。

 もっとも、一方だけに請求して話がまとまったとき、それで全体が片づいたことになるのかというと、そうとは限りません。終わったのは請求した相手との関係であり、請求しなかった相手との関係は別の形で残ります。しかも残り方は、お金の面、書面の面、裁判の面、時間の面で少しずつ違います。

 この記事では、一方だけに請求したあとに何が終わり、何が残るのかを、請求する側と請求を受けた側の双方から整理します。請求先そのものの選び方、二重取りにならない仕組み、求償の要件や負担割合の決まり方、示談書の条項の書き方は、それぞれ別の記事で扱っています。

「一方だけに請求する」とはどういう状態なのか

 民法719条1項は、数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負うと定めています。不貞の事案では、不貞をした配偶者と不貞相手がこの関係に立つと整理されるのが実務の一般的な理解です。

 ここから、請求する側は二人のどちらにも全額を請求できることになります。裏返せば、一方だけに請求するという選択は、もう一方の責任を消す手続ではありません。請求を向けなかったというだけで、その相手が負っている義務そのものが失われるわけではないという整理になります。

 一方だけに請求が向かう理由はさまざまです。離婚しないので配偶者に請求しても家計の中の移動になると考えた、相手方の氏名や住所が分からず配偶者にしか請求できなかった、配偶者との関係は自分たちで話し合うつもりだった、といった事情が挙げられます。いずれも自然な判断ですが、その結果として残る部分があることは意識しておいたほうがよい点です。

請求しなかった相手との関係は「未処理」として残る

 一方だけに請求して支払を受けた場合、その相手との関係では話が終わります。しかし、もう一方との関係は、終わったのでも消えたのでもなく、手をつけていない状態のまま残ります。あとから何かが起きるとすれば、この残った部分から起きます。

一方だけに請求したあと、何が終わり、何が残るのか

 残り方を面ごとに分けると、次のように整理できます。同じ「一方だけに請求した」という事実でも、面によって影響の出方が違う点が押さえどころです。

請求した相手との間で起きること請求しなかった相手との間に残ること
お金支払を受けた分だけ話が終わる請求できる枠は、支払われた分だけ縮んでいる
書面示談書や合意書の内容がその相手を縛る署名していない人には、その書面は原則として及ばない
裁判判決や和解がその相手との間で効力を持つ別の相手には、あらためて手続を起こす必要がある
時間請求や訴えによって時効の進行が止まり得る時効は、その相手との関係では進み続けると整理される


 以下、それぞれの場面を具体的に見ていきます。

配偶者だけに請求して終えた場合

 離婚を前提としない場合、配偶者だけに請求しても、支払われたお金が同じ家計の中を移動するにとどまることがあります。これは金額の多寡ではなく、家計が一つかどうかという事実の問題です。

不貞相手への請求は残るが、枠は縮んでいる

 配偶者から支払を受けたあとでも、不貞相手に請求を向けること自体が妨げられるわけではありません。ただし、同じ一つの損害についての賠償である以上、すでに支払われた分は差し引かれる形になります。先に低い金額でまとめた場合、その水準が後の交渉の出発点として持ち出されることもあります。

「もう支払われている」と言われる場面

 不貞相手に請求すると、配偶者からすでに支払われているのではないかという反論が出ることがあります。何がいくら、どういう名目で支払われたのかを説明できる形にしておかないと、話が先に進みにくくなります。

相手方が特定できていない段階で先に決めてしまう場合

 不貞相手の氏名や住所が分からないまま、配偶者との間だけで金額を決めることがあります。この段階では、関係がいつから続いていたのか、どちらが働きかけたのかといった事情が十分に分かっていないことも少なくありません。あとで事情が明らかになったとき、先に決めた金額が低かったと感じても、いったん取り交わした書面を後から動かすのは簡単ではありません。

不貞相手だけに請求して終えた場合

 離婚しない場合に選ばれやすいのがこの形です。ただし、この選択には、請求した側からは見えにくい後日の動きがあります。

内側の清算が配偶者に向かうことがある

 二人が同じ一つの損害について責任を負う以上、全額を支払った側が、もう一方に対してその分担を求めることがあります。不貞相手だけに請求した場合、この動きは不貞相手から自分の配偶者に向かうことになります。家計が同じであれば、受け取ったお金の一部が結果として出ていく形になり得ます。

配偶者を許した場合でも、内側の清算は別に残る

 配偶者には請求しない、支払を求めないと伝えていた場合でも、それは請求する側と配偶者との間の話です。民法445条は、連帯債務者の一人に対して債務の免除がされた場合などでも、他の連帯債務者はその一人に対して求償権を行使することができる旨を定めています。許すという判断が、不貞相手から配偶者への分担の求めまで止めるとは限らない、という整理になります。

配偶者との金銭面は未整理のまま残る

 不貞相手との間で解決しても、配偶者との間の金銭の整理は行われていません。その後に離婚の話が出た場合、この部分が改めて論点になることがあります。

書面は、署名した人の間でしか働かない

 一方だけと示談したとき、その書面がどこまで効くのかは見落とされやすい点です。

清算条項の宛先

 示談書の末尾に置かれる清算条項は、通常、その書面に署名した当事者どうしの間で、他に債権債務がないことを確認するものです。署名していない人との関係までが整理されるとは限りません。誰と誰の間の清算なのかは、条項の書きぶりから読み取ることになります。

「請求しない」と書いても、もう一方には及ばない

 民法441条は、連帯債務者の一人について生じた事由は、更改、相殺、混同にあたる場合を除き、他の連帯債務者に対して効力を生じないという原則を定めています。一方に対して請求しない、免除するという意思を示しても、その効力がもう一方に及ぶとは限らないという整理です。逆に言えば、もう一方との関係まで整理したいのであれば、その相手も加わった書面にする必要があります。

裁判にした場合、判決はどこまで効くのか

 交渉がまとまらず訴訟になった場合、この点はさらにはっきりします。

判決の効力が及ぶのは当事者

 民事訴訟法115条1項は、確定判決の効力が及ぶ者として、まず当事者を挙げています。つまり、一方だけを相手に起こした裁判の判決は、その裁判に加わっていないもう一方を直接には拘束しません

勝った場合も、負けた場合も、そのままは持ち込めない

 一方に対する請求が認められたとしても、その判決をもう一方への支払を求める根拠としてそのまま使うことはできません。反対に、一方に対する請求が認められなかったとしても、それだけでもう一方への請求が法律上消えるわけではありません。前の裁判での事実の認定は、次の手続で参考にされることはあっても、結論をそのまま決めるものではないと考えられています。

同じことをもう一度立証することになる

 結果として、もう一方に請求するなら、証拠の提出も主張も改めて行うことになります。時間と負担が二度かかる点は、一方だけに請求するか両方に請求するかを決める段階で考えておきたいところです。

時間の面では、待っている間も進んでいる

 請求や訴えの提起には、時効の完成を先延ばしにする働きがあります。ただし、この効果も請求を向けた相手との関係で生じるにとどまると整理されています。前述の民法441条の原則から、一方に訴えを起こしている間も、もう一方との関係では時効が進み続けると考えられています。

 一方との交渉や裁判が長引き、決着してからもう一方に向き直ったときには、期間の面で難しくなっていたということが起こり得ます。時効の期間や起算点の数え方は別の記事で扱っていますが、一方に働きかけていることは、もう一方の時間を止める理由にならないという点は、この場面で押さえておく必要があります。

請求を受けた側から見た「自分だけに来た」ことの帰結

 二人のうち自分にだけ請求が届いたという場合、そこから読み取れることと、その後に起きうることがあります。自分だけに請求が来たことには、もう一方とは別に話がついている、離婚しないので家計の外にだけ請求している、もう一方の事情がまだ分かっていない、といった背景が考えられます。どの背景なのかによって、提示された金額の意味も、その後の展開も変わってきます。

請求額がそのまま自分の負担額ではない

 届いた書面の金額は、請求する側が考える総額であることが多く、二人の間でどう分けるかという話とは別の問題です。二人の間の分担は、外から請求される金額とは別の場面で決まります。

署名する書面が、誰との関係を終わらせるのか

 提示された書面が、請求してきた側との関係だけを整理するものなのか、もう一方との関係にも触れているのかを確認しておく必要があります。分担を求めない旨の条項が入っている場合、その約束の相手は誰なのか、どの範囲までを対象としているのかが後日の争点になり得ます。

支払ったあとに、もう一つの関係が動き出す

 支払を終えたあと、もう一方に分担を求めるかどうかという場面が残ります。求める側に回れば、こちらから相手方の生活の場に書面が届くことになり、自分の側の事情を前提に主張を述べることにもなります。金額だけでなく、その後の関わり方まで含めて考える場面です。

よくあるご質問


配偶者には請求しないと決めました。不貞相手だけに請求できますか

 請求を一方だけに向けること自体は妨げられません。ただし、支払を受けたあとに不貞相手から配偶者へ分担を求める動きが生じることがあり、家計が同じであれば結果として出ていく形になり得ます。この点まで含めて条件を組み立てるかどうかが判断の分かれ目になります。

不貞相手と示談を終えました。あとから配偶者にも請求できますか

 請求を向けること自体は可能です。もっとも、すでに支払われた分は差し引かれるため、受け取れる枠は縮んでいます。また、示談書に書かれた内容が、配偶者との関係でどう読まれるかが問題になることもあります。

自分にだけ請求が来ました。もう一方にも請求するよう求められますか

 誰に請求するかを決めるのは請求する側であり、こちらから請求先を指定することはできません。二人の間の分担は、支払を終えたあとに、別の場面で改めて話し合うことになります。

まとめ


  1. 一方だけに請求するという選択は、もう一方の責任を消す手続ではない。
  2. 終わったのは請求した相手との関係であり、もう一方との関係は未処理のまま残る。
  3. 支払われた分だけ、残った相手に請求できる枠は縮む。
  4. 示談書は署名した人の間で働くものであり、署名していない人には原則として及ばない。
  5. 一方に対する判決は、その裁判に加わっていないもう一方を直接には拘束しない(民事訴訟法115条1項)。
  6. 一方に請求している間も、もう一方との関係では時効が進むと整理されている。
  7. 請求を受けた側では、支払ったあとに二人の間の分担という別の場面が残る。


ご相談について

 一方だけに請求するかどうかは、金額の見込みだけでなく、離婚するかどうか、相手方の資力、家計が同じかどうか、書面をどの範囲で作るかによって、その後の展開が変わります。すでに一方との間で書面を取り交わした後であっても、その内容がもう一方との関係にどう影響するのかを整理しておくことには意味があります。

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、不貞をめぐる慰謝料の請求と、請求を受けた場合の対応の双方についてご相談をお受けしています。どの段階からでも、現在の状況とお手元の資料を踏まえて、取り得る進め方をご説明します。お一人で判断に迷われている場合は、お早めにご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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