不倫慰謝料を払った後の求償権|不倫相手に負担を求められるか
マッチングアプリで知り合い、実際に会う話まで進んだ相手に、会う前や当日に「前払い」としてお金を渡した——。ところが、その直後にドタキャンされ、そのまま音信不通になってしまった。「渡してしまったお金は、もう戻ってこないのだろうか」と不安を抱えている方は少なくありません。
結論から言えば、取り戻せるかどうかは「そのお金がどういう性質のものだったか」によって大きく変わります。同じ「前払い金」でも、任意で渡した気持ち(贈与)なのか、返してもらう約束のあった立替金なのか、あるいは当初から金銭目的でだまし取られたものなのかで、使える法的手段も回収の見込みも異なります。
この記事では、男女トラブル・詐欺被害の返金交渉に取り組む弁護士の視点から、次の点を整理して解説します。
- 会う約束のドタキャン・音信不通で「前払い金」が問題になる典型的な場面
- 渡したお金の性質による、取り戻せる可能性の違い
- 「ドタキャン=詐欺」とは限らないという前提と、詐欺といえるかの見極め方
- 相手が音信不通の場合の特定方法と、返還を求める具体的な流れ
なお、性別を問わずご相談を受け付けています。「自分のケースは取り戻せるのか」を知りたい方は、この記事をお読みいただいたうえで、無料相談もご利用ください。
「前払い金」を渡した後にドタキャン・音信不通になるとは
マッチングアプリで会う約束の前後に金銭を渡し、その後に相手と連絡が取れなくなるケースには、いくつかの典型的なパターンがあります。
- 「会うための交通費」「準備にかかるお金」を先に送ってほしいと求められて送金した
- 「ただの遊び目的ではないという誠実さの証明として、気持ちを用意してほしい」と言われて当日に手渡した
- 「連絡先の交換にはポイント購入が必要」「会うためには手続き費用がかかる」と別サイトへ誘導され、費用を支払った
- 交際・関係を前提に「お手当」「サポート」を先払いした
- 「保証金」「キャンセル防止のためのデポジット」といった名目でお金を預けた
いずれのケースでも、支払った後に相手がドタキャンをして、LINEやアプリ上のやり取りが未読のまま途絶える、電話に出ない、ブロックされる、といった展開になりがちです。
こうした場面で最初に整理すべきなのは、「渡したお金が何だったのか」という点です。相手が名付けた名目そのものではなく、やり取りの実態と証拠から性質を見極めることが、取り戻せるかどうかの出発点になります。
取り戻せるかは「渡したお金の性質」で変わる
同じ前払い金でも、その法的な性質によって、返還を求められるかどうかと、その難易度が変わってきます。ここでは代表的な4類型を見ていきます。
① 任意に渡した「気持ち」「贈与」
「誠実さの証明」「デートのお礼」など、返してもらう前提がないまま自分の意思で渡したお金は、法的には贈与にあたる可能性があります。
書面によらない贈与であっても、口頭の合意で成立します(民法第549条)。そして、いったん渡し終えた(履行が済んだ)部分については、原則として一方的に解除して取り戻すことはできないとされています(民法第550条ただし書)。つまり、純粋に「気持ち」として任意に渡したお金は、その後にドタキャンされたという理由だけでは、返還を求めるのが難しい場合があります。
もっとも、その贈与が相手のうそによって引き出されたものであれば、話は別です(後述の④)。「任意に渡した」ように見えても、渡すに至った経緯に欺罔(だますこと)があったかどうかは、丁寧に検討する必要があります。
② 返金の約束があった立替金・準備金
「検査費用は次に会うときに返す」「交通費は立て替えておいてくれれば後で精算する」など、返してもらう約束が伴っていたお金は、贈与とは性質が異なります。
これは実質的に貸付金や立替金にあたり、相手には返還する義務があります。返金請求の対象になりうるお金です。ただし、「返す約束があった」ことは請求する側が示す必要があり、LINEでの「あとで返すね」といったやり取りや送金の記録が重要な証拠になります。渡した側と受け取った側で言い分が食い違いやすい部分なので、記録を消さずに保存しておくことが大切です。
③ 「会うこと」やサービスの対価として渡した
「会う」「関係を持つ」といったことの対価として前払いしたのに、相手が現れなかった場合はどうでしょうか。
対価として渡したのに約束が果たされていないのであれば、債務不履行や不当利得(民法第703条・第704条)を根拠に返還を求める余地があります。相手が受け取ったお金を保持し続ける法律上の理由がなくなっているからです。
ただし注意したいのは、「会う」という約束自体は、法的に履行を強制できる債務として扱いにくいという点です。焦点になるのは「会わせること」の強制ではなく、「対価として渡したお金を、約束が果たされなかった以上は返してもらえるか」という金銭の返還の問題として整理することになります。
④ 当初から金銭目的だった(詐欺)
最初から会う意思がなく、金銭を得ることだけが目的で近づいてきた場合は、詐欺の問題になります。
詐欺によってお金を渡してしまった場合、渡す意思表示を取り消して返還を求めることができます(民法第96条・第703条)。
刑事面では、人をだまして財物を交付させる行為は詐欺罪にあたり、10年以下の拘禁刑が定められています(刑法第246条第1項)。ただし、刑事手続きは犯人を処罰するかどうかを判断するものであり、有罪になったからといって渡したお金が自動的に戻ってくるわけではありません。お金を取り戻すには、別途、民事上の請求が必要です。
「ドタキャン=詐欺」とは限らない
ここで押さえておきたいのは、ドタキャンや音信不通が、そのまま「詐欺」を意味するわけではないということです。
会う約束が破られる背景には、単なる心変わり、他の予定を優先された、関係を続ける気がなくなった、といった事情もあり得ます。これらは道義的には不誠実であっても、直ちに詐欺という法的評価にはつながりません。詐欺といえるためには、お金を受け取った時点で、相手に「会う意思も返す意思もなく、だまして金銭を得るつもりだった」という認識があったことが要件になり、この当初からの欺罔の意思を示すことが実務上のハードルになります。
もっとも、相手の内心を直接証明するのは困難でも、次のような客観的な事情(間接事実)を積み重ねることで、詐欺をうかがわせることは可能です。
- 会う前から、次々と名目を変えて金銭を求めてきていた
- お金を受け取った直後に連絡を絶ち、すぐにブロックした
- プロフィールや身元に関する説明に虚偽があった
- 同じ手口による被害が他にも複数確認できる
- 一度渡した後、さらに追加の送金を求めてきた
詐欺かどうかの見極めと立証の考え方については、より詳しく解説した別記事「結婚詐欺に遭ったかも|結婚詐欺の立証と損害賠償請求」もご参照ください。詐欺と評価できるかどうかで、使える手段(取消・損害賠償)と回収の見通しが変わってくるため、自己判断せず整理することをおすすめします。
返還を求める法的根拠の整理
ここまでを踏まえると、前払い金の返還を求める主な法的根拠は、状況に応じて次のように整理できます。
- 不当利得返還請求(民法第703条・第704条):相手がお金を保持する法律上の理由がない場合に、その返還を求めるもの
- 不法行為に基づく損害賠償請求(民法第709条・第710条):詐欺など違法行為でお金を失った場合に、損害の賠償を求めるもの
- 詐欺・強迫による取消(民法第96条):だまされて・脅されて渡した場合に、その意思表示を取り消して返還を求めるもの
- 貸金・立替金の返還請求(民法第587条ほか):返す約束のあったお金について、その履行を求めるもの
どの根拠で請求するのが適切かは、渡したお金の性質と手元の証拠によって変わります。複数の根拠を組み合わせて主張することもあります。
音信不通の相手をどうやって特定するか
「相手の本名も住所も知らない」「アプリ上のニックネームしかわからない」という状況でも、返還請求をあきらめる必要はありません。相手を特定する方法がいくつか考えられます。
- 弁護士会照会(弁護士法第23条の2):弁護士が、口座情報や電話番号などの手がかりをもとに、金融機関や通信事業者に対して契約者情報などの照会を行う制度
- 口座名義からの調査:振込で渡した場合、振込先の口座名義が特定の手がかりになることがある
これらは手がかりの有無や事案によって使えるかどうかが変わり、確実に特定できるとは限りません。ただ、「連絡が取れない=打つ手がない」というわけではないため、手元にどんな情報が残っているかを整理したうえで相談されることをおすすめします。
前払い金を取り戻すための具体的な流れ
実際に返還を求める場合、おおむね次のような流れになります。
- 証拠の保全:アプリ・LINE上のやり取り、送金明細やクレジットカードの利用履歴、相手のプロフィール画面などを、消さずにスクリーンショットなどで保存する
- お金の性質と根拠の整理:贈与か、立替金か、対価か、詐欺かを見極め、どの法的根拠で請求するかを固める
- 内容証明郵便による請求:相手に返還を求める書面を送る。いつ・誰に・どのような内容を送ったかを記録に残し、請求の意思を明確に示す効果がある
- 交渉・民事訴訟:任意に応じない場合は、民事訴訟(金額によっては少額訴訟)で裁判所の判断を求める
時効に注意
返還請求権には時効があり、放置すると請求できなくなるおそれがあります。
不法行為に基づく損害賠償請求権は、損害および加害者を知った時から3年、または不法行為の時から20年で消滅します(民法第724条)。不当利得や契約に基づく請求権は、権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年で消滅します(民法第166条)。
いずれも、対応が遅れるほど相手の特定や証拠の確保が難しくなります。
費用倒れを避けるための考え方
現実的な問題として、渡した金額が少額の場合、弁護士に依頼するとその費用が回収額を上回ってしまう「費用倒れ」になることもあります。数万円のケースで全力の訴訟対応をすることが、必ずしも合理的とは限りません。
だからこそ、動く前に**「取り戻せる見込みがどの程度あるのか」「費用と回収額のバランスはどうか」**を確認しておくことが大切です。無料相談を活用して見通しを立てたうえで、依頼するかどうかを判断されるとよいでしょう。
やっておきたいこと・避けたいこと
最後に、前払い金を取り戻したい場合の初動を整理します。
やっておきたいこと
- やり取り・送金記録・相手のプロフィールなど、証拠を消さずに保存する
- 渡したお金がどういう名目・約束で渡されたかを、時系列で整理する
- 早めに専門家へ相談し、取り戻せる見込みと手段を確認する
避けたいこと
- 感情的に何度も連絡を続ける(相手を警戒させ、証拠隠滅を招くことがある)
- 「今度こそ会える」と言われて追加のお金を渡す
- 「取り戻せない」と早々にあきらめ、時効を経過させてしまう
まとめ|まずは「渡したお金の性質」を見極めることから
会う約束のドタキャン・音信不通で渡した前払い金を取り戻せるかどうかは、そのお金が贈与だったのか、返金約束のある立替金だったのか、対価だったのか、それとも当初から金銭目的の詐欺だったのかによって変わります。ドタキャンや音信不通が直ちに詐欺を意味するわけではない一方、経緯に欺罔があれば、取消や損害賠償によって返還を求められる可能性があります。
いずれの場合も、証拠の保全と早めの対応が回収の見込みを左右します。「自分のケースはどの類型にあたるのか」「取り戻せる見込みはあるのか」を知りたい方は、一人で抱え込まず、専門家にご相談ください。当事務所では、性別を問わず、全国どこからでも無料でご相談いただけます。


