名誉毀損は親告罪|告訴期間と示談による解決

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

インターネットへの書き込みや人前での発言をめぐって「名誉毀損で告訴する」と言われ、この先どうなるのか分からないまま情報を探している方は少なくありません。名誉毀損罪は親告罪で、被害を受けたとされる方の告訴がなければ起訴されない犯罪です。そして告訴には、犯人を知った日から6か月という期間の制限があります。

ただ、この6か月を「6か月待てば終わる期間」と読んでしまうと、実際の見通しを見誤ることがあります。起算点がいつになるかには複数の考え方があり、公訴時効や民事の損害賠償は別の時計で動いているためです。

この記事では、名誉毀損罪が親告罪であることの意味、告訴期間の起算点と数え方、そして示談による解決の進め方を、投稿や発言をした側の立場から整理します。

名誉毀損罪が親告罪であるということ


刑法230条1項は、公然と事実を摘示して人の名誉を毀損した者を、その事実の有無にかかわらず、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金に処すると定めています。そして刑法232条1項により、この章の罪は告訴がなければ公訴を提起することができません。仮に告訴を欠いたまま起訴された場合、裁判所は判決で公訴を棄却することになります(刑事訴訟法338条4号)。

もっとも、告訴は起訴をするための条件であって、捜査を始めるための条件ではありません。告訴がまだ出されていない段階でも、警察から連絡が入り、事情を聴かれることはあります。「告訴されていないから何も起きない」という理解は、実際の流れとは異なります。

三つの期間が別々に動いている


名誉毀損をめぐっては、性質の異なる三つの期間が同時に進んでいます。最初にこの区別を押さえておくと、その後の判断がしやすくなります。

区分期間と起算点過ぎたときの効果
告訴期間犯人を知った日から6か月告訴ができなくなる
公訴時効犯罪行為が終わった時から3年検察官が起訴できなくなる
民事の消滅時効損害および加害者を知った時から3年(行為の時から20年)裁判上の請求が難しくなる


告訴期間が過ぎても公訴時効が残っていることはありますし、刑事の手続が動かなくても民事の請求が残っていることもあります。

「犯人を知った日」とはいつのことか


告訴期間の起算点は、刑事訴訟法235条1項の「犯人を知つた日」です。ここでいう「知った」の水準について、最高裁は昭和39年11月10日の決定で、犯人の住所や氏名といった詳細まで知る必要はないものの、犯人が誰であるかを特定し、他の人と区別して指し示すことができる程度の認識が必要であるという考え方を示しています。

このため、投稿者のハンドルネームやアカウント名を把握しただけでは、この意味で「犯人を知った」とはいえないと考えられています。匿名の投稿が問題になっている事案では、発信者情報の開示手続を経て投稿者が特定された時点が、実質的な出発点になることが多いといえます。開示の手続には時間がかかることも多く、投稿から相当の期間が経ってから告訴に至る例もあります。

投稿が残っている間の扱い


もう一つ、起算点をめぐって知っておきたい考え方があります。最高裁は昭和45年12月17日の判断で、「犯人を知った日」とは犯罪行為が終了した後の日を指し、犯罪が続いている最中に犯人を知ったとしても、その日を起算日とすることはできないとしています。

これをインターネット上の書き込みにあてはめた裁判例として、大阪高等裁判所の平成16年4月22日の判決があります。掲示板の書き込みが閲覧できる状態にある間は名誉を害する危険が続いており、犯罪はまだ終わっていないとして、犯人を知ってから6か月を過ぎた後の告訴を有効と判断したものです。

ただしこれは個別の事案についての判断であり、ネット上の投稿すべてに同じ考え方が及ぶかについては、議論のあるところです。いずれにしても、投稿を残したまま6か月の経過を数えるという発想は成り立ちにくいことになります。投稿の削除は、期間を動かすための手段としてではなく、被害の広がりを止め、相手方との話し合いの前提を整える対応として位置づけるのが実際的です。

6か月の数え方


期間の計算は刑事訴訟法55条によります。日・月・年で計算するものは初日を算入しないため、犯人を知った日の翌日から起算します。月は暦に従って計算し、期間の末日が土曜日、日曜日、祝日、1月2日、1月3日、12月29日から31日までの日に当たるときは、その日は期間に算入されません。

たとえば3月10日に相手方が犯人を知ったと評価される場合、翌11日から起算して9月10日が期間の末日となり、その日が休日であれば次の平日まで延びることになります。なお、公訴時効の期間についてはこれらのルールが働かず、初日から計算されます。同じ「期間」でも数え方が異なる点は、見落とされやすいところです。

なお、外国の代表者や日本に派遣された外国の使節が行う告訴には6か月の制限が及ばないという例外も置かれています(刑事訴訟法235条1項ただし書)。

告訴ができる人は一人とは限らない


告訴権者は被害を受けた本人だけではありません。刑事訴訟法231条1項により、被害者の法定代理人は独立して告訴ができます。未成年のお子さんが対象になった事案で、親権者が告訴するのがこの場合です。被害者が亡くなったときは、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹が告訴できますが、被害者が明示した意思に反することはできません(同条2項)。

また、亡くなった方の名誉を毀損したとされる場合には、その親族または子孫が告訴できます(同法233条1項)。なお、死者に対する名誉毀損は、虚偽の事実を摘示した場合に限って処罰の対象となります(刑法230条2項)。

ここで注意したいのが、刑事訴訟法236条です。告訴ができる人が数人いる場合、そのうち一人が6か月を過ぎたとしても、その効果は他の人には及びません。「本人の6か月が過ぎた」という事実だけで、刑事の可能性がすべてなくなるとは限らないことになります。

関わった人が複数いる場合


複数人で投稿したり、内容を分担して広めたりした事案では、刑事訴訟法238条1項が働きます。親告罪について共犯の一人または数人に対してした告訴やその取消しは、他の共犯に対しても効力を生じるという規定です。

つまり、名前が挙がったのが一人であっても、その告訴の効力は関わった他の人にも及びます。反対に、示談によって告訴を取り消してもらった場合、その効果も他の人に及ぶことになります。関係者が複数いる事案で、誰が誰と、どの順番で話をするのかを整理しないまま個別に動くと、一方の合意が全体の状況を左右することがあります。

期間の経過を当てにした対応が難しい理由


ここまでの内容を、投稿や発言をした側の視点でまとめると、次のようになります。

・起算点そのものが動く可能性があり、投稿がいつ削除されたかによって評価が変わり得る
・公訴時効の3年は、告訴期間とは別に進んでいる
・民事の損害賠償請求は、刑事とは別の期間で判断される
・同じ投稿から信用毀損や業務妨害、脅迫といった親告罪でない罪名が問題になる場合、告訴期間の制約はかからない
・告訴ができる人が複数いる場合、一人の期間が過ぎても他の人の期間は残っている
・期間の内側では捜査が進み、事情聴取や記録の保全が行われることがある

時間の経過を待つ方針は、こうした事情が重なると見通しが立ちにくくなります。相手方との関係をどう収めるかを早めに考えたほうが、選べる手段は多く残ります。

示談は段階によって意味が変わる


名誉毀損が親告罪であることは、示談の場面で具体的な意味を持ちます。どの段階にあるかによって、合意に盛り込む内容も、結果への結びつき方も変わります。

段階合意に盛り込む内容結果との結びつき
告訴される前告訴をしない旨を含めた合意刑事事件として扱われないまま終わることがある
告訴後・起訴される前告訴の取消しを含めた合意告訴が取り消されれば起訴ができなくなる
起訴された後告訴の取消しはできない量刑を判断する際の事情として考慮される


告訴の取消しは一度だけ


刑事訴訟法237条1項は、告訴は公訴の提起があるまで取り消すことができると定めています。そして同条2項により、告訴の取消しをした人は、同じ事実について改めて告訴をすることができません。

相手方にとって、取消しは後戻りのできない判断です。示談の交渉が慎重になりやすいのは、金額の問題だけでなく、この一回性があるためでもあります。合意の文言をあいまいにしないこと、支払いと取消しの順序を明確にしておくことが、双方にとっての安心につながります。

なお、告訴もその取消しも代理人によって行うことができ(同法240条)、書面または口頭で検察官または司法警察員に対して行われます(同法241条)。示談書ができただけでは手続は完了せず、相手方が実際に取消しの手続をとって初めて、その効果が捜査機関に伝わる点にも注意が必要です。

示談書に盛り込むことの多い項目


・謝罪の内容と、その伝え方
・支払う金額、支払方法、支払期限
・該当する投稿の削除と、同じ内容を再び投稿しないこと
・告訴をしない、または告訴を取り消すこと(段階に応じて)
・ほかに債権債務がないことを確認する条項
・合意の内容を第三者に口外しないこと

金額は、投稿の内容や閲覧された範囲、相手方の受けた影響などによって大きく異なり、相場としてひとまとめに語れるものではありません。

控えたほうがよい対応


・相手方に直接連絡して、その場で話をつけようとすること
・投稿を削除したうえで、何もなかったものとして説明すること
・相手方の主張のうち事実と異なる部分まで、確認しないまま認めてしまうこと
・警察や検察からの連絡を放置すること
・示談書の文言を確かめないまま署名すること

投稿は、削除しても相手方の手元や事業者側の記録に残っていることがあります。説明の整合性がとれなくなると、その後の話し合いが進めにくくなります。

よくあるご質問


【6か月が過ぎているのに、警察から連絡がありました】

告訴期間は起訴のために必要な告訴の期限であって、捜査ができる期限ではありません。また、相手方が投稿者を特定した時期や、投稿が削除された時期によって、起算点の評価が変わることもあります。まず何について聞かれているのかを確かめ、名誉毀損以外の罪名が想定されていないかも含めて整理することが出発点になります。

【投稿を削除すれば、それで終わりますか】

削除には、被害の広がりを止めるという意味があります。ただ、いったん成立した事実がなくなるわけではなく、民事の損害賠償請求も別に残ります。前述の裁判例の考え方によれば、削除によって初めて告訴期間が動き出すという整理もあり得るところです。

【相手方が複数いると言われました】

投稿の対象となった方が複数いる場合、それぞれについて別に評価されます。告訴期間も、告訴ができる人ごとに考えることになります。関わった人が複数いる場合の告訴の効力については、前述の刑事訴訟法238条1項の規定が働きます。

まとめ


・名誉毀損罪は親告罪で、告訴がなければ起訴されない(刑法232条1項)
・ただし告訴は起訴の条件であって、捜査の条件ではない
・告訴期間は犯人を知った日から6か月(刑事訴訟法235条1項)
・「犯人を知った」といえるには、その人を特定し他と区別できる程度の認識が必要とされている
・犯罪行為が続いている間は起算されないと考えられており、投稿が残っている事案では起算点の評価が分かれ得る
・期間は初日を算入せず、末日が休日であれば延びる(同法55条)
・告訴ができる人が複数いる場合、一人の期間の経過は他の人に影響しない(同法236条)
・示談の内容は、告訴の前か、告訴後で起訴前か、起訴後かによって変わる
・告訴の取消しは公訴の提起までで、取り消した人は改めて告訴ができない(同法237条)

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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