判決に納得できない場合|控訴を検討する際の判断材料
この記事は、2026年10月1日時点の刑法(2023年改正後の不同意わいせつ罪・不同意性交等罪の規定)、性的姿態撮影等処罰法、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律をもとに作成しています。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的な対応は弁護士にご相談ください。
「自宅に呼んだメンズエステの施術者が帰った後、店から『女の子が被害を訴えている』と電話があった」「ホテルで施術を受けた翌日、知らない番号から『警察に相談する』と連絡が来た」。出張型のメンズエステを利用した方から、このようなご相談が寄せられています。身に覚えがある方もいれば、何を指しているのか分からないという方もいます。
メンズエステのトラブルについては、「同意なく触れれば不同意わいせつ罪になりうる」「店から高額な請求をされたら弁護士へ」という説明が多く見られます。それ自体は誤りではありません。ただ、出張型は施術の場所を客の側が用意するという点で店舗型と前提が異なり、その違いが、訴えられた後の連絡の入り方や、手元に残る記録の種類に影響します。
この記事では、出張型(客の自宅やホテルに施術者が来る形態)に絞って、施術者から被害を訴えられたときに何が起きているのかを整理し、最初の数日で控えたいことを説明します。示談金の水準や示談書の条項、店舗型での一般的な対応は、それぞれ別の記事に譲ります。
この記事で扱う範囲
出張型メンズエステで「被害を訴えられた」という場面は、利用者の状況によって中身が大きく変わります。この記事で取り上げるのは次の範囲です。
- 施術者を自宅またはホテルに呼んだ後に、店・施術者・警察のいずれかから被害を指摘された場合。
- 施術中の身体への接触、室内での撮影、退出をめぐるやり取りなど、出張型で問題にされやすい行為。
- 自宅やホテルという場所に残る記録と、その扱い方。
- 連絡を受けた直後に控えたい対応と、弁護士に相談するまでの考え方。
店舗型やマンション型の店での一般的な対応はメンズエステでお触りをして「触られた」と言われた。不同意わいせつ罪のリスクと対応で解説しています。
出張型で訴えられたとき、店舗型と何が違うのか
施術の場所を用意したのは客の側
店舗型では、施術の部屋は店が用意し、出入口や受付にも店の目があります。これに対して出張型では、施術者は一人で客の自宅やホテルの部屋に入り、施術が終われば一人で帰ります。店の従業員がその場にいないため、何があったかを直接知っているのは、客と施術者の二人だけという状況になりやすいのが特徴です。
店舗型であれば、施術後にすぐ店員が部屋に入ってきてその場で話し合いが始まることがあります。出張型では、施術者が退出した後、時間をおいて店から電話やメッセージが届くという形が多く見られます。
店は住所や部屋番号を把握している
出張型の店は、施術者を送り出す前に、自宅の住所や部屋番号、ホテル名と部屋番号を聞き取るのが通常です。施術者の安全確認のために、到着時と退出時に店へ連絡させる運用をとっている店もあります。
このため、店舗型に比べて、店の側が客の生活の場所を知っているという非対称があります。「自宅に来られるのではないか」という不安が大きくなりやすいのは、この点によるものです。
場所ごとの違い
場所による違いを表にまとめると、次のようになります。
| 比べる点 | 店舗型・マンション型 | 出張型(自宅) | 出張型(ホテル) |
|---|---|---|---|
| 施術の場所を用意する人 | 店 | 客 | 客 |
| 店が把握しやすい客の情報 | 予約名と電話番号 | 予約名・電話番号・住所 | 予約名・電話番号・ホテル名と部屋番号 |
| 第三者の記録 | 店の出入口や受付 | マンション共用部の防犯カメラなど | フロントや廊下・エレベーターの記録など |
| 施術後の話し合いの始まり方 | その場で店員が対応することが多い | 後から店が連絡してくることが多い | 後からの連絡のほか、施術者がフロントに助けを求める場合もある |
出張型の店が風営法上の届出をしているかどうかで、客の扱いが変わるわけではありません。届出の有無と客の立場の関係は【風俗トラブル】メンズエステの『無店舗型』と『店舗型』|届出の有無で客のリスクはどう変わるかで、自宅派遣とホテルの一般的な違いはデリヘル・ホテヘルの特徴|自宅派遣とホテルで異なる論点で詳しく説明しています。
「訴えられた」の中身を見分ける
店からの苦情・金銭の請求
よく見られるのは、店のオーナーや従業員を名乗る人物から「施術者が被害を訴えている」「誓約書に違反した」と連絡が来る形です。多くの場合、「示談金」や「違約金」の支払いと、支払わなければ警察に相談するという話がセットになっています。
この段階では、まだ警察が動いているとは限りません。刑事手続として被害を申告することと、金銭を請求することは、別々の流れです。どちらの話をされているのかを、まず切り分けて受け止めることが大切です。
施術者本人や代理人の弁護士からの連絡
施術者本人がSNSやメッセージで直接連絡してくる場合や、施術者の代理人として弁護士名の書面が届く場合もあります。弁護士名の書面は、相手方が損害賠償や示談の話し合いを求めていることを示すもので、それ自体が刑事手続の開始を意味するものではありません。
警察からの連絡や来訪
施術者が警察に相談し、被害届が受理されると、警察から電話で事情を聴きたいと連絡が来ることがあります。出張型の場合、警察も住所を把握していることが多いため、自宅を訪ねてくる可能性も考えておく必要があります。不同意わいせつ罪や不同意性交等罪は、2017年の法改正以降、告訴がなくても起訴できる罪になっています。警察が動くきっかけについては風俗トラブルで警察が動くきっかけ|被害届・通報・摘発から捜査が始まる流れをご覧ください。
店名や施術者名を明かさない連絡
「どの店の、どの施術者が、いつのことを言っているのか」を尋ねても答えない連絡もあります。出張型の店の顧客情報が外部に出回り、それを使って金銭を求める連絡が行われることもあるため、被害を訴える側が具体的な事実を示さない場合には、慎重に受け止める必要があります。手口の傾向はメンズエステの美人局の手口5選と「サインしてはいけない書面」で紹介しています。
出張型で問題にされやすい行為
施術中の身体への接触や性的な行為
施術者の同意がないまま身体に触れたり、性的な行為に及んだりした場合には、不同意わいせつ罪(刑法176条)や不同意性交等罪(同法177条)が問題になります。2023年の改正で、暴行・脅迫がなくても、同意しない意思を形成し、表明し、全うすることが難しい状態に乗じた場合は処罰の対象になると整理されました。
出張型では、施術者が一人で客の部屋にいるという状況そのものが、「断りにくかった」という主張の背景として語られることがあります。相手方がどの事情を挙げているのかを確認することが、対応を考える出発点になります。類型の読み方はどの類型で立件されているのか|不同意性交等罪の8つの要因の読み方で解説しています。
室内での撮影
自宅で見守り用のカメラやスマートスピーカーが作動していた、テーブルの上のスマートフォンが録画中だった、という事情が後から問題にされることがあります。施術者の性的な部位や下着姿などをひそかに撮影すれば、性的姿態等撮影罪(性的姿態撮影等処罰法2条)にあたるおそれがあります。
防犯目的で常に作動しているカメラであっても、施術者から見れば撮影されていたことに変わりはなく、疑いを向けられるきっかけになりえます。一方で、その映像が当時のやり取りを示す材料になる場面もあるため、自分の判断で消去する前に相談することをおすすめします。ホテルの客室での撮影についてはラブホテル・ビジネスホテルでの撮影|「公共の場所」ではない場所の扱いもご覧ください。
退出をめぐるやり取り
延長を求めて引き止めた、玄関の鍵を施錠したままにしていた、といった事情が、「帰らせてもらえなかった」という訴えにつながることがあります。施術者が部屋から出ることを困難にした場合には、逮捕監禁罪(刑法220条)が問題になる可能性もあります。出張型の場所そのものをめぐる論点は【風俗トラブル】出張型・マンション型の個室サービス|住居侵入が加わる場面で扱っています。
出張型ならではの記録の所在
自宅の場合
自宅で施術を受けた場合、店とのやり取り(予約のメッセージや通話履歴)、決済の記録、室内のカメラの映像などが、客の手元に残っています。マンションであれば、共用部の防犯カメラに施術者の到着と退出の時刻が記録されていることもあります。
共用部の映像は管理会社や管理組合が管理しており、個人が求めてもすぐに見せてもらえるものではありません。保存期間が限られていることも多いため、必要になりそうな場合は早めに弁護士に相談してください。
ホテルの場合
ホテルの場合は、フロントでの来訪者の記録や、廊下・エレベーターの防犯カメラが残っていることがあります。ただし、ホテルが宿泊者や来訪者の情報を個人の求めに応じて開示することは通常ありません。捜査機関の照会や、弁護士を通じた手続によって確認する形になります。
記録は自分の説明を支える材料にもなる
記録というと不利な証拠を思い浮かべがちですが、施術者が部屋にいた時間、施術後のやり取りの内容、退出時の様子は、客の側の説明を支える材料にもなります。店とのメッセージや施術者とのやり取りを削除してしまうと、後から事実関係を説明する手段を自分で失うことになりかねません。同意の有無をどう示すかについては「同意があった」を証明できるか|風俗トラブルの証拠と限界で詳しく説明しています。
連絡を受けた直後に控えたいこと
施術者に直接連絡を取る
謝罪や事情説明のつもりで施術者本人に連絡を取ると、その連絡自体が圧力や口止めと受け取られるおそれがあります。出張型では施術者の連絡先を知っていることも多いため、気をつけたい点です。理由は性犯罪の示談交渉を弁護人に任せる意味|本人が連絡してはいけない理由で解説しています。
求められるまま書面に署名し、金銭を渡す
店の担当者が自宅やホテルを訪ねてきて、念書や示談書への署名、身分証の写しの提出、その場での支払いを求めることがあります。内容を確認しないまま署名すると、後から争うことが難しくなる場合があります。署名前に確かめたい点は示談書に署名する前の最終確認|後から戻しにくい項目はどこかをご覧ください。
自宅に来られたときの対応
店の関係者が自宅を訪ねてきた場合、無理に招き入れる必要はありません。玄関先での話し合いを避け、代理人を通じて連絡してほしいと伝える方法もあります。退去を求めても居座る場合の対応は職場・自宅に押しかけられた|住居侵入・不退去・業務妨害の使い方で説明しています。
示談と刑事手続の関係
誰と示談するのかを確かめる
出張型のトラブルでは、店のオーナーが施術者に代わって金額を提示してくることが多くあります。しかし、身体への接触などで被害を受けたと主張しているのは施術者本人であり、店が受けたとする損害とは別のものです。誰に、何の名目で支払うのかを分けて考えることが、後の蒸し返しを防ぐことにつながります。詳しくは誰に払うのか|店の損害とキャスト個人の損害は別をご覧ください。
示談が成立しても処分が決まるわけではない
示談が成立し、施術者が処罰を求めない意思を示せば、検察官が処分を決めるうえで考慮されます。ただし、示談をすれば不起訴になるという関係ではありません。この点は示談が成立しても処分が残る場合|示談=不起訴ではない理由で解説しています。
住所を知られている不安と代理人
出張型では店が住所を把握しているため、「これ以上自宅を知られたくない」という不安よりも、「すでに知られている住所に今後も連絡が来るのではないか」という不安が中心になります。弁護士が代理人になれば、連絡の窓口を弁護士に一本化し、示談書に接触禁止や個人情報の削除を盛り込むよう求めることができます。本名を出さずに進められる範囲については本名を明かさずに示談できるか|代理人限りでの合意の可否で説明しています。
事実と違う主張をされている場合
施術者の主張が事実と違う場合には、早く終わらせたいという気持ちから認めてしまうのではなく、どこが違うのかを整理して伝えることが基本になります。出張型では、店が集めた到着・退出の連絡時刻や、店とのメッセージが、客の説明と食い違っていないかを確認する材料になります。
警察が被害申告を受けた段階では、施術者側の話しか聞いていないことが多く、客の側から事情を説明し、それを裏付ける記録を示すことが意味を持ちます。取調べで何をどう話すかは、事前に弁護士と整理しておくと安心です。
よくあるご質問
家族と同居している自宅に警察が来ることはありますか。
被害届が受理され、住所が把握されている場合には、自宅を訪ねて事情を聴こうとすることがあります。電話で連絡がつく場合には、出頭の日時を調整する形で進むことも多いため、連絡があった段階で弁護士に相談し、対応の仕方を決めておくとよいでしょう。
ホテルで施術を受けた場合、ホテルに連絡が行きますか。
捜査の過程で、ホテルに対して宿泊記録や防犯カメラの映像の提供が求められることはありえます。施術者がその場でフロントに助けを求めた場合には、ホテルの従業員が事情を知っていることもあります。どの程度まで確認が及ぶかは事案によって異なります。
店から連絡が来たまま、その後音沙汰がありません。
連絡が途絶えた理由は、店が請求をやめた場合、施術者が警察への相談を見送った場合、反対に警察への相談が進んでいる場合など、さまざまです。連絡が来た時点のやり取りを保存しておき、不安が続くようであれば一度ご相談ください。被害届が出される前の対応については被害届が出される前に返金した|刑事事件化を避けられるのかも参考になります。
まとめ
- 出張型は施術の場所を客が用意するため、何があったかを直接知るのは客と施術者の二人になりやすい。
- 店は住所やホテルの部屋番号を把握しており、施術後に時間をおいて連絡が来る形が多い。
- 「訴えられた」には、店からの金銭請求、施術者や代理人からの連絡、警察からの連絡があり、刑事の申告と金銭の請求は別の流れとして受け止める。
- 身体への接触は不同意わいせつ罪(刑法176条)・不同意性交等罪(同法177条)、室内での撮影は性的姿態等撮影罪(性的姿態撮影等処罰法2条)、退出の妨げは逮捕監禁罪(刑法220条)が問題になりうる。
- 自宅やホテルの記録、店や施術者とのやり取りは、客の説明を支える材料にもなるため、自分の判断で消去しない。
- 施術者への直接連絡、内容を確認しないままの署名や支払いは控え、誰に何の名目で支払うのかを分けて考える。
- 示談の成立は処分の判断で考慮されるが、示談をすれば不起訴になるという関係ではない。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、メンズエステをはじめとする風俗トラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。出張型の利用後に店や施術者から連絡が来た方、警察からの連絡に備えたい方は、やり取りの記録をお手元に残したうえでご相談ください。
身に覚えがある場合も、主張の内容に心当たりがない場合も、まずは何を言われているのかを一緒に整理するところから始めます。ご家族や勤務先に知られないよう配慮しながら対応します。


