本番後に妊娠・中絶費用を請求された場合の対処法|弁護士が解説
風俗店でトラブルになったあと、「警察から連絡が来ないということは、もう終わったということだろうか」と考える方は少なくありません。逆に、「店から『警察に言う』と言われた。明日にでも逮捕されるのではないか」と、必要以上に追い込まれてしまう方もいます。
どちらも、警察がどういうときに、何をきっかけに動き出すのかという手続の構造を知らないことから来る不安です。
刑事手続では、捜査機関が事件の存在を疑うに至るきっかけを「捜査の端緒(たんしょ)」と呼びます。この記事では、性風俗の利用にまつわるトラブルで捜査が始まる典型的なきっかけを整理し、そこから捜査がどう動いていくのか、そして心当たりがあるときに何をすべきで何を避けるべきかを、客側の立場から解説します。
なお、本記事は捜査を免れる方法を説明するものではありません。事実として被害を受けた方がいる場合、その被害はなくなりません。手続の見通しを持ったうえで、早い段階で適切に対応するための情報として読んでいただければと思います。
1. そもそも「警察が動く」とはどういうことか
捜査は「犯罪があると思料するとき」に始まる
刑事訴訟法189条2項は、司法警察職員は犯罪があると思料するときに犯人および証拠を捜査するものと定めています。つまり捜査は、誰かが正式に申し立てたときにだけ始まるものではなく、捜査機関が「犯罪があったのではないか」と考えた時点で開始され得ます。
その「考えるきっかけ」が捜査の端緒です。代表的なものとして、被害者側の届出(被害届・告訴)、第三者からの告発、警察官による現認や職務質問、現行犯、自首などが挙げられます。統計的には被害者からの届出が端緒となる例が多いとされますが、それ以外の入口も現実に機能しています。
よくある2つの誤解
誤解①「被害届が出されたら、必ず捜査が始まる」
犯罪捜査規範61条1項は、警察官は犯罪による被害の届出をする者があったときは、管轄区域の事件かどうかを問わずこれを受理しなければならないと定めています。もっとも、実務では届出をしたその場ですぐ被害届として受理されるとは限らず、まずは相談として扱われることも珍しくありません。受理されたとしても、直ちに被疑者への接触が始まるとも限らず、裏付けの検討に一定の時間がかかることがあります。
誤解②「被害届が出されなければ、警察は動かない」
これも正確ではありません。後述するとおり、店舗の摘発、現場への通報、職務質問、インターネット上の情報など、被害者の届出以外の端緒から捜査が始まることがあります。
また、性犯罪は2017年(平成29年)の刑法改正で非親告罪となりました。告訴がなくても起訴できる建て付けであるため、「告訴を取り下げてもらえば当然に終わる」という理解も正しくありません。
2. 風俗トラブルで捜査が始まる主なきっかけ
① 相手方(セラピスト・キャスト)からの被害届・告訴
もっとも典型的な入口です。施術中に身体に触れた、サービスの流れから性交に至った、無断で撮影した——こうした事案で、相手方本人が警察に被害を申告するパターンです。
ここで押さえておきたいのが、被害届と告訴は別のものだという点です。
| 内容 | 位置づけ | |
|---|---|---|
| 被害届 | 犯罪被害の事実を申告する | 事実の申告にとどまる |
| 告訴 | 犯罪事実を申告し、犯人の訴追・処罰を求める意思表示 | 処罰意思の表明を含む |
告訴は書面によるのが通常ですが、口頭でも可能で、その場合は捜査機関が調書を作成することとされています(刑事訴訟法241条)。
問題になり得る罪名は、態様によって不同意わいせつ罪(刑法176条)、不同意性交等罪(同177条)、性的姿態等撮影罪などが考えられます。いずれも非親告罪であり、告訴期間の制限(親告罪について犯人を知った日から6か月とする刑事訴訟法235条)も及びません。時間が経ったから申告できない、という性質のものではないという点は理解しておく必要があります。
② その場での110番通報
店舗内やホテルでのトラブルで、相手方や店舗スタッフがその場で110番通報するケースです。警察官が臨場し、事情によっては現行犯逮捕、あるいは任意同行を求められることになります。
ここで2点、混同されやすい点があります。
ひとつは、「店が通報する」ことと「警察が客を立件する」ことは同じではないという点です。臨場した警察官は、客の行為だけでなく、その店の営業形態そのものにも接することになります。無許可・無届の営業や違法なサービス提供があれば、店舗側が捜査対象となることもあります。
もうひとつは、「通報するぞ」という言葉が金銭要求とセットになっている場合です。これは通報そのものとは別のレイヤーの問題で、態様によっては脅迫罪(刑法222条)や恐喝罪(同249条)の成否が問題になり得ます。
③ 店舗の摘発(ガサ入れ)から客に及ぶケース
風営法違反や売春防止法違反の摘発は、原則として店舗の経営者・管理者・従業員が対象です。利用客が風営法違反そのもので処罰される構造にはなっていません。
ただし、摘発を「自分には関係ない」と考えるのは早計です。
- 現場に居合わせた場合、その場で事情を聴かれることがある
- 押収された予約データ、顧客名簿、防犯カメラの映像、従業員の供述などから、個別の客の行為が捜査機関の知るところとなる場合がある
- そこで、その客に不同意わいせつ・不同意性交等・撮影罪などの疑いが浮かべば、後日、別途の捜査対象になり得る
- 店舗の形態によっては、公然わいせつ罪(刑法174条)が問題となる余地もある
つまり摘発は、店舗にとっての終着点であると同時に、客の個別事案にとっての端緒になり得るということです。
④ 職務質問・パトロール
警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して、罪を犯し、もしくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者などを停止させて質問することができます(警察官職務執行法2条1項)。その場での質問が本人に不利、または交通の妨害になると認められる場合には、付近の警察署等への同行を求めることもできます(同条2項)。
繁華街やホテル街は重点的にパトロールが行われている地域であり、そこでの職務質問が端緒となる例もあります。なお、ここでいう同行(行政警察目的の任意同行)と、犯罪捜査の一環として被疑者に出頭を求める任意同行(刑事訴訟法198条1項)は法的な性質が異なります。
⑤ インターネット上の情報・サイバーパトロール
近年、無視できない端緒です。
- 掲示板やSNSへの「あの店では本番ができる」といった書き込みが、店舗への内偵のきっかけとして指摘されています(風俗業界向けの解説記事などで繰り返し指摘されている点です)
- 盗撮した動画や画像をインターネット上にアップロードした結果、それ自体が発覚の端緒となる
自分の書き込みや投稿が、自分自身の事案の端緒になり得るという点は意識しておくべきでしょう。
⑥ 相手が18歳未満だった場合の別ルート
これは、他のケースとは性質を分けて考える必要があります。
児童買春・児童ポルノ禁止法が問題となる事案では、被害児童の補導、保護者による届出、児童のスマートフォンに残ったやり取りの解析といったルートから発覚することが多いと、複数の刑事弁護を扱う法律事務所が指摘しています。補導を端緒として、児童のSNSアカウントのやり取りから複数の相手方が順次特定されていく、という捜査の流れも解説されています。
このルートの特徴は、行為から相当な時間が経ってから動き出すことがあるという点です。「何か月も連絡がないから終わった」という判断が当てはまりにくい類型といえます。また、相手の年齢を知らなかったことが直ちに免責につながるわけではない点も、他の類型と大きく異なります。
3. 端緒のあと、捜査はどう動くか
端緒があれば直ちに逮捕、というわけではありません。おおむね次のような順序をたどります。
(1)裏付け・内偵
届出内容や現場の状況について、防犯カメラ、通信記録、関係者の供述などから裏付けが取られます。ここに時間がかかるため、行為と接触までにタイムラグが生じます。
(2)被疑者の特定
店舗の予約記録、決済情報、防犯カメラなどから特定に至ることがあります。
(3)任意の呼び出しか、逮捕か
被疑者への出頭要求は刑事訴訟法198条1項によるもので、逮捕・勾留されている場合を除き、出頭を拒み、また出頭後いつでも退去することができるとされています(同項ただし書)。もっとも「拒める」ことと「無視してよい」ことは別です。逮捕には逮捕の必要性が要求され(同法199条2項ただし書、刑事訴訟規則143条の3)、逃亡や罪証隠滅のおそれが検討されるため、連絡を絶つ対応はその評価に影響し得ます。
なお、最初は被疑者ではなく参考人(同法223条1項)として事情を聴かれることもあり、聴取の過程で立場が変わることもあります。
(4)在宅か身柄か
逮捕されずに在宅のまま捜査が進むことも珍しくありません。在宅事件でも捜査は継続しており、書類送検を経て起訴・不起訴が判断されます。「逮捕されなかったから終わった」ということにはなりません。
4. 誤解しやすい3つのポイント
「示談したから捜査は終わり」ではない
不同意わいせつ罪・不同意性交等罪は非親告罪です。示談の成立や宥恕(ゆうじょ)の意思表示は不起訴に向けた重要な事情として考慮され得ますが、示談=自動的に捜査終了ではありません。
「店に払ったから終わり」ではない
店舗に金銭を支払っても、それは店との間の話であり、被害を受けた本人との関係が当然に清算されるわけではありません。店舗の代理人と交渉した場合も、その代理人が本人の代理人であるとは限りません。
「連絡が来ないから大丈夫」ではない/「必ず捜査される」でもない
在宅捜査や裏付けの期間があるため、時間差は普通に生じます。一方で、申告があれば常に立件されるわけでもありません。どちらか一方に決めつけず、事実関係を整理して見通しを立てることが大切です。
5. 心当たりがあるときの対応
避けたほうがよいこと
- データの削除:削除は多くの場合復元が試みられ、かえって罪証隠滅と評価され得ます。身柄拘束の要否の判断にも影響し得ます
- 相手方への直接連絡・謝罪:接触自体が問題視される可能性があり、内容が証拠として残ります
- その場での支払い・署名:請求された金額がそのまま支払義務のある金額とは限りません
- SNSでの発信:不利な事実の記録になり得ます
- 警察からの連絡の無視・着信拒否:前述のとおり、逮捕の必要性の評価に影響し得ます
やっておくとよいこと
- 時系列の整理:日時、場所、店名、やり取りの流れを、記憶が新しいうちに書き出す。あいまいな点は「あいまい」と書いておく
- 記録を消さない:予約履歴、決済記録、メッセージのやり取りは、自分に有利な事実の裏付けにもなります
- 窓口を一本化する:店舗や相手方と個別に交渉を続けないこと
- 早い段階で弁護士に相談する:端緒の段階で相談があれば、任意の聴取への備え、示談の可否の検討、身柄拘束を避けるための対応などを、順序立てて進められる余地があります
なお、捜査機関に発覚する前に自首した場合、刑を減軽することができるとされています(刑法42条1項)。ただしこれは必ず減軽されるという制度ではなく、事案によって評価は異なります。自己判断ではなく、弁護士と相談したうえで検討すべき選択肢です。
まとめ
風俗トラブルで警察が動き出すきっかけは、相手方の被害届・告訴だけではありません。その場の通報、店舗の摘発、職務質問、インターネット上の情報、そして相手が18歳未満だった場合の別ルートと、複数の入口があります。
重要なのは、「連絡が来ていない=終わった」とも、「連絡が来た=すべて終わりだ」とも決めつけないことです。どのきっかけで、いま自分の事案がどの段階にあるのかを整理すれば、取るべき対応は見えてきます。
当事務所は、風俗トラブルについて一貫して利用者(客側)の立場でご相談をお受けしています。ご家族や勤務先に知られたくないというご事情も含め、まずはお気軽にご相談ください。


