風俗店の「罰金」に支払義務はある?|減給の条件とペナルティへの対処法
支払いを終えた後になって、やり取りしていた相手が名乗っていた人物とは別の人だったと分かることがあります。数として多い場面ではありませんが、話し合いから支払いまでを当事者だけで進めたケースでは実際に起きています。
「別人だった」といっても中身はさまざまです。氏名そのものが偽られていた場合もあれば、本人ではあるものの請求できる立場になかった場合、代理人を名乗る人にお金を受け取る権限がなかった場合もあります。どの型かによって、その後にとれる手段は変わってきます。
この記事では、支払った後に相手が別人だと分かったときに何が問題になるのか、そして支払う前にどこまで確かめておけるのかを順に整理します。相手が誰であるかを確かめる作業は、相手を疑うための手続きというより、後から自分の対応を説明するための材料を残す作業に近いものです。
この記事で扱うこと・扱わないこと
本記事で取り上げるのは、次の範囲です。
- 支払った相手が名乗っていた人物と違っていた場面で、何が問題になるのか。
- 合意そのものの効力と、支払いの効力が、別々に判断されること。
- 支払う前に確かめられること、確かめきれないことの区別。
- 支払った後に食い違いが分かったときの動き方。
一方で、示談書に入れる条項の設計、清算条項の書き方と射程、署名や押印が証拠としてどう扱われるか、相手の氏名・住所が分からないときの調べ方については、それぞれ別の記事で扱っています。本記事では必要な範囲で触れるにとどめます。また、具体的な金額の水準にも立ち入りません。
「別人だった」にはいくつかの型がある
一口に別人といっても、どこがずれていたのかは事案によって異なります。まずは型を分けて見ておきます。
| 型 | どこがずれているか | 後から問題になりやすいこと |
|---|---|---|
| 名乗った氏名が本人のものではない | 氏名や住所が架空、または実在する別人のもの | 書面の名義人と実際に話した相手が一致しない |
| 本人だが請求する立場にない | 請求できる権利を持つのは別の人 | 権利を持つ人からの請求が後に残る |
| 代理人と名乗る人に権限がない | 本人からの委任がない、または委任の範囲を超えている | 支払いが本人に届いたものとして扱われないことがある |
| 振込先の口座名義が相手と異なる | お金を受け取った人が話し合いの当事者と別 | 誰にいくら渡ったのかを後から示しにくい |
この四つは重なって現れることもあります。たとえば、偽名で名乗った人が第三者名義の口座を指定してくる場合には、一つ目と四つ目が同時に起きています。
支払った後は、合意と支払いを分けて考える
別人だったと分かったとき、多くの方は「示談は無効になるのか」「お金は戻るのか」を同時に考えます。しかし法律上は、合意が誰との間で成立したのかという問題と、支払いが有効な弁済といえるかという問題は、別々に判断されます。
合意は誰との間で成立したのか
示談は、争いをやめるために互いに譲り合う合意であり、法律上は和解にあたります(民法695条)。合意は当事者の間に生じるものですから、名前を借りられただけの人との間に合意が成立するわけではありません。
また、代理人と名乗る人が本人から権限を与えられていなかった場合、その人が結んだ合意は、本人が後から認めない限り本人には効力が生じないとされています(民法113条1項)。つまり、書面の形が整っていても、本来の相手との間では話がついていない状態が残ることがあります。
支払いが有効かどうかは別に判断される
お金を渡した相手が受け取る権限を持たない人だった場合でも、その人が取引上の社会通念に照らして受け取る権利があるように見える外観を備えていて、支払った側が善意で、かつ過失がなかったときに限り、その弁済は効力を持つとされています(民法478条)。この条文にあてはまらない場合には、本来の債権者が利益を受けた限度でのみ効力を持つにとどまります(民法479条)。
ここで注目したいのは、支払った側に過失がなかったといえるかどうかが判断の分かれ目に含まれているという点です。相手が誰かをまったく確かめずに渡していた事情は、この判断の中で不利に働くことがあります。
合意の取消しを主張できる場合
相手が別人だと知っていれば示談に応じなかったという事情があるときは、錯誤を理由に取消しを主張する余地があります(民法95条)。だまされて合意に至った場合には、詐欺を理由とする取消しも考えられます(民法96条)。
もっとも、これらが認められるかどうかは、どのような説明を受け、どこまで確認していたかといった具体的な事情によります。主張すれば当然に通るというものではないため、手元の資料を整理したうえで検討することになります。
本人確認は誰のために行うのか
本人確認というと、相手の身元を疑う行為のように感じられ、話し合いの場では切り出しにくいものです。しかし前の章で見たとおり、確認していたという事実は、後から自分の側の説明を支える材料になります。
確認していれば示せること
身分証を見せてもらった、書面の氏名と住所を突き合わせた、代理人には委任状を求めた。こうした経緯が残っていれば、相手が誰であるかを確かめたうえで支払ったという説明ができます。反対に、確認の跡が何も残っていないと、どの段階で何を信じたのかを後から説明しにくくなります。
記録として残しておきたいもの
確認した内容は、その場かぎりの記憶ではなく形にしておくと役立ちます。提示された身分証の種類と記載内容のメモ、やり取りしたメールやメッセージ、示談書の原本、振込の控えなどです。相手の書類の写しを受け取る場合には、取得の目的を伝え、用が済んだ後の扱いを決めておくと、後の行き違いを避けやすくなります。
確かめる対象は三つに分かれる
本人確認と聞くと氏名の照合だけを思い浮かべがちですが、示談の場面で確かめたい事柄は三つに分かれます。
| 確かめる対象 | 見るところ | 抜けたときに起きやすいこと |
|---|---|---|
| 同一性 | 氏名・住所・生年月日と、書面の記載が一致しているか | 名義人と別の人と示談書を作ってしまう |
| 立場 | 請求の根拠となる関係が、資料から読み取れるか | 請求できる人が別にいて、後から重ねて求められる |
| 受領権限 | お金を受け取る人が本人か、委任の範囲に含まれるか | 支払いが本人に届いたものとして扱われない |
多くの方は一つ目だけを気にしますが、支払った後に問題が残りやすいのは二つ目と三つ目です。順に見ていきます。
同一性をどう確かめるか
書面の記載と提示された資料を突き合わせる
示談書に記載する氏名や住所は、当事者を特定するための情報です。提示された身分証の記載と、書面に書かれた氏名・住所が一致しているかを、その場で目を通して確かめておきます。読みの分かる氏名か、住所の表記が途中で変わっていないかといった点も、後から連絡がつかなくなったときに効いてきます。
相手が資料を見せたがらない場合
事情によっては、住所を知られたくない、名前を出したくないという希望が示されることがあります。刑事事件の被害者の方のように、住所を伏せる扱いに合理的な理由がある場面もあります。この場合は、確認を求めないという選択ではなく、どこまでなら示してもらえるのかを話し合い、伏せた部分をどう補うかを決めるという進め方になります。代理人を通す、住所の記載を一部伏せたうえで別の方法で特定するといった方法が考えられます。
対面できない場合
郵送やメールだけでやり取りする場合、書面が返ってきても、それを書いたのが誰なのかを直接には確かめられません。実印での押印と印鑑登録証明書を求める、身分証の写しを添えてもらう、送付先と連絡先が一致しているかを見るといった方法が使われますが、対面の場合と同じ確度にはならないことを前提に進めることになります。
請求する立場があるかをどう確かめるか
氏名が本人のものであっても、その人に請求できる立場があるとは限りません。たとえば不貞に関する慰謝料であれば、請求できるのは原則として婚姻関係にある配偶者です。事件の被害に関する賠償であれば、被害を受けた本人が基本になります。
ここで確かめたいのは、請求の根拠となる関係が資料から読み取れるかという点です。相手の説明だけを前提に金額を決めてしまうと、後になって、権利を持つ別の人から改めて連絡が来ることがあります。もっとも、戸籍や住民票の写しを求めることは相手にとって負担が大きく、応じてもらえないこともあります。その場合には、どの立場でどの事実について請求しているのかを書面上に明記しておくという方法があります。
お金を受け取ってよい人かをどう確かめるか
代理人と名乗る人が出てきた場合
本人ではなく家族や知人が窓口に立つことがあります。この場合、本人からの委任があるのか、委任の範囲に金銭の受領が含まれているのかを確かめておきます。委任状の提示を求めるほか、本人に直接連絡して依頼の有無を確認する方法もあります。
権限のない人が代理人として結んだ合意については、その人自身が相手方の選択に従って履行または損害賠償の責任を負うとされていますが(民法117条1項)、相手方が権限のないことを知っていた場合などには適用されないとされています。責任を追及できる場面があるとしても、それは支払いを終えた後の後始末であり、支払う前の確認に代わるものではありません。
弁護士が代理人として連絡してきた場合
弁護士が代理人であれば、氏名・所属弁護士会・登録番号が示されているのが通常です。日本弁護士連合会の弁護士情報検索で照合できますし、事務所の代表番号に連絡して在籍を確かめる方法もあります。確認の手順自体は、別の記事で詳しく扱っています。
振込先の名義が相手と異なる場合
振込先として当事者以外の名義の口座を指定されることがあります。家族名義、勤務先名義、あるいは説明のない第三者名義などです。名義が違うこと自体が直ちに問題とは限りませんが、なぜその口座なのかの説明を受け、指定した経緯をやり取りの記録に残しておくと、後から支払いの事実を示しやすくなります。
支払った後に食い違いが分かったときの動き方
支払いを終えた後に別人だったと分かった場合、次の順で考えていくことになります。
- 手元の資料を集める。示談書の原本、振込の控えや領収書、やり取りの記録、提示された資料のメモなど、経緯が分かるものをまとめます。
- どの型のずれなのかを見きわめる。氏名が偽られていたのか、立場がなかったのか、受領権限の問題なのかで、その後の道筋が変わります。
- 相手に連絡する前に、伝える内容を整理する。感情的なやり取りは記録として残り、後の交渉で使われることがあります。
- 渡したお金の返還を求めるかを検討する。法律上の原因なく利益を受けた人には返還義務があるとされていますが、その範囲は事情によって異なります(民法703条、704条)。
- 刑事の相談が必要かを検討する。だまし取られたといえる事情があるときは、警察への相談も選択肢に入ります。
- 本来の相手から連絡が来る可能性に備える。支払いが有効な弁済と扱われない場合、請求は残ったままになります。
取り戻せたとしても残るもの
返還を求める交渉や手続きが進んだとしても、支払った金額がそのまま戻るとは限りません。すでに使われてしまっている場合には、返還の範囲が現に残っている利益の限度にとどまることがあります。相手の所在が分からなくなっていれば、請求そのものに時間がかかります。
さらに重いのは、本来の相手との関係が終わっていないという点です。支払いが本人に届いたものとして扱われない場合、その人からの請求はそのまま残ります。結果として、渡したお金を追いかけながら、別に支払いを求められる状況になることがあります。話し合いの入り口で相手を確かめておく意味は、ここにあります。
請求する側から見たとき
自分が本人であることを示す準備
請求する側に立つ場合も、相手から本人確認を求められることがあります。求められて不快に感じる方もいますが、確認の手順を踏んでおくことは、支払った側が後から「別人だった」と主張しにくくなるという意味で、請求する側の利益にもなります。氏名と住所を書面に正確に記載する、必要な範囲で身分証を示すといった対応で足りることが多いといえます。
代理人を立てる場合
家族に窓口を任せる場合には、委任の範囲を書面にしておくと、相手方からの確認に応じやすくなります。とくに金銭の受領を任せるのであれば、その点を明記しておきます。振込先を自分以外の名義にする場合も、理由を説明できるようにしておくと、支払いを渋られる場面を減らせます。
よくあるご質問
身分証の提示を求めると、話がこじれませんか
求め方によります。相手を疑っているという伝え方ではなく、書面に正確な氏名と住所を記載するために確認したい、という説明であれば受け入れられやすい傾向があります。互いに示し合うという形にすることもできます。
示談書に署名があれば、本人と合意したことになりませんか
署名があることは重要な事情ですが、それだけで名義人本人が合意したと確定するわけではありません。署名や押印が証拠としてどう扱われるかについては、別の記事で詳しく扱っています。
相手が偽名だったと分かった場合、示談書は無意味になりますか
無意味と決めつける必要はありません。誰と、いつ、どのような内容で話がついたのかを示す資料としては残ります。その書面をどう使うかは、ずれの型と手元の資料によって変わります。
弁護士に相談する意味
支払った後に食い違いが分かった場面では、返還を求める相手、請求が残っている相手、連絡してよい範囲が入り組みます。整理を誤ったまま連絡を重ねると、後の交渉で不利な材料が増えることがあります。
支払う前の段階であれば、確認の求め方や書面の記載の仕方について助言を受けることで、後から争いになりにくい形に整えられる場合があります。すでに支払ってしまった場合でも、手元の資料からどの主張が立てられるかを検討する余地は残ります。いずれの段階でも、まずは経緯を時系列で整理したうえでご相談いただくと、話が早く進みます。
まとめ
- 「別人だった」には型があり、氏名のずれ、立場のずれ、受領権限のずれ、口座名義のずれで、その後の道筋が変わります。
- 合意が誰との間で成立したのかと、支払いが有効な弁済といえるかは、別々に判断されます。
- 受け取る権限のない人への支払いが効力を持つかの判断には、支払った側に過失がなかったといえるかが含まれます(民法478条、479条)。
- 確かめる対象は、同一性・立場・受領権限の三つに分かれ、後から問題が残りやすいのは後の二つです。
- 代理人と名乗る人が出てきた場合は、委任の有無と、金銭の受領が委任の範囲に含まれるかを確認します。
- 支払った後に分かったときは、資料を集め、ずれの型を見きわめてから連絡内容を整理します。
- 渡したお金を追いかけることと、本来の相手からの請求が残ることは、別の問題として並行します。
ご相談について
弁護士法人若井綜合法律事務所では、慰謝料や損害賠償をめぐる示談について、支払う前の確認の進め方から、支払った後に食い違いが分かった場合の対応まで、ご相談をお受けしています。池袋と新橋に事務所があり、ご都合に合わせてご利用いただけます。
示談書の案を受け取っている段階、あるいはすでに支払いを終えている段階など、どの時点であってもかまいません。お手元の書面ややり取りの記録をご用意のうえ、ご相談ください。


