示談金を一括で用意できないとき|分割・減額・被害弁償という選択肢
「利用していた店に警察の捜査が入ったらしい」と知って、自分の名前や連絡先が店に残っていることに気づき、ご相談に来られる方がいます。反対に、料金や施術の内容でもめたときに「届出も出していない違法な店なのだから払う必要はない」と言い切ってしまい、そこから話がこじれてしまったというご相談もあります。
インターネット上には「メンズエステの届出がなくても、利用した客が罪に問われることはない」という説明が並んでいます。その説明自体が誤っているわけではありません。ただ、そこで話が終わってしまうため、届出があるかないかが利用する側にとって何を意味するのかは、見えないまま残ります。
この記事では、メンズエステを利用する側の立場から、風営法上の「店舗型」と「無店舗型」という区分を整理したうえで、届出の有無によって客に返ってくるものがどう変わるのかを扱います。摘発された店の客としてどう振る舞うかという場面ごとの対応や、料金の返金交渉の進め方そのものは、別の記事に譲ります。
この記事で扱うこと
先に、扱う範囲をはっきりさせておきます。
- 「メンズエステ」と呼ばれる営業が、風営法の上でどこに位置づけられるのか。
- 店舗型と無店舗型という区分が、制度としてどう違うのか。
- 届出の有無で、利用した側の立場のどこが変わり、どこは変わらないのか。
- 利用する前や、トラブルが起きた直後に、自分で確かめられることと確かめられないこと。
「メンズエステ」は法律上の区分ではない
最初に押さえておきたいのは、風営法に「メンズエステ」という業態の区分は置かれていないという点です。呼び名は業界の中で使われているものであり、法律上の扱いは、看板ではなく実態によって決まります。
性的なサービスを伴わなければ、風営法の届出は要らない
男性向けにオイルマッサージやリラクゼーションを提供するだけの営業であれば、性風俗関連特殊営業には当たらず、風営法の届出は必要とされていません。届出がないこと自体は、それだけでは違法を意味しません。この点が、許可を受けなければ営業できない風俗営業との大きな違いです。
実態が伴えば、届出の要る営業として扱われる
一方で、異性の客の性的な好奇心に応じてその客に接触する役務を提供する営業は、性風俗関連特殊営業に当たり、届出が必要になります。店内の個室で提供するものは店舗型性風俗特殊営業(風営法2条6項2号)、客の指定するホテルや住居に派遣して提供するものは無店舗型性風俗特殊営業(同法2条7項1号)です。どちらに当たるかは、店が何と名乗っているかではなく、実際に何が行われているかで判断されます。紙パンツの有無やメニュー表の書き方は、判断材料の一つにはなっても、それ自体で結論を決めるものではありません。
同じ看板の下に、三つの立場の店が並んでいる
この二つを重ね合わせると、「メンズエステ」という同じ呼び名の下に、法的な位置づけの異なる店が並んでいることが分かります。利用する側から見て見分けがつきにくいのは、この三つが同じ言葉で呼ばれているためです。
| 区分 | 届出 | 役務が提供される場所 |
|---|---|---|
| 性的なサービスを伴わない施術業 | 風営法の届出は不要 | 店舗の個室 |
| 届出をした派遣型(いわゆる風エス) | 無店舗型として届出 | ホテルの客室や客の住居 |
| 届出のないまま性的なサービスを伴う店 | 本来は届出が必要な営業 | 店舗の個室 |
店舗型と無店舗型は、制度としてどこが違うのか
届出という言葉は同じでも、店舗型と無店舗型では手続の建て付けが異なります。ここが、後で述べる「客に返ってくるものの違い」につながります。
届け出る単位と場所が違う
店舗型は、営業所の所在地を管轄する公安委員会に届出書を提出します(風営法27条1項)。営業所という場所を単位にした制度です。無店舗型は営業所を持たないため、営業の本拠となる事務所の所在地を管轄する公安委員会に届け出ます(同法31条の2第1項)。届出書には、広告や宣伝で使う呼称や、受付所・待機所を設ける場合はその所在地も記載することとされています。
店舗型は、営業できる地域が限られている
店舗型性風俗特殊営業については、営業してはならない地域が定められています(風営法28条)。具体的な地域は各都道府県の条例で定められており、現在では、新たに店舗型を始めることが認められない地域が大半を占めています。その結果、店内で性的なサービスを提供する形の営業は、届け出ようとしても新規には受け付けられない地域がほとんどで、構造的に「届出のないまま営まれる」ことになりやすいという事情があります。
これに対して、客の指定する場所へ派遣する無店舗型は、地域の制限が店舗型ほど厳しくありません。派遣型のメンズエステが無店舗型の届出をして営まれている例があるのは、このためです。摘発の報道で「店舗型のメンズエステ」が繰り返し登場する背景にも、この制度上の落差があります。
受付のための部屋を置くと、店舗型に近い扱いを受ける部分がある
派遣型であっても、客が訪れて受付をするための施設を設ければ、それは受付所として届出の対象になり、店舗型に準じた地域の規制が及びます。「派遣型のはずなのに待合室のような部屋がある」という形は、制度の上では単純な派遣型と同じには扱われません。
届出の有無で、客が罪に問われるかどうかは変わらない
ここは結論から書きます。店が届出をしていない営業であっても、そのサービスを受けたという一点で、利用した客が風営法違反に問われることは想定されていません。
規制が向けられているのは営業する側
風営法は、営業を営む者に対して届出や遵守事項を課す法律です。処罰の対象として想定されているのも営業者やその関係者であり、サービスを受ける相手方として当然に登場する立場の人については、別に処罰の規定が置かれていない限り、罪に問われないのが原則です。2025年6月に施行された改正で無許可営業などの罰則が引き上げられましたが、これも営業する側に向けられたものです。
ただし、客自身の行為が別に問われる場面はある
届出の有無とは切り離して、客の側の行為が別の問題になる場面はあります。相手が18歳未満であった場合、同意のない行為や無断の撮影があった場合、店の運営や人集めに関わっていた場合などです。これらは「店が届出をしていたかどうか」とは無関係に判断されます。詳しくは、それぞれのテーマを扱った記事をご覧ください。
変わるのは、トラブルが起きた後に使えるもの
では届出の有無は客にとって何なのかというと、罪に問われるかどうかではなく、何か起きたときに前提としてよいことが変わる、という形で表れます。
| 場面 | 届出をして営まれている場合 | 届出のないまま営まれている場合 |
|---|---|---|
| 年齢の制限 | 法律上の遵守事項として課されている | 義務を負う立場として届け出ていない |
| 従業者の記録 | 従業者名簿の備付けが義務 | 備えられているかは外から分からない |
| 金銭の話をする相手 | 事務所の所在地が届け出られている | 連絡先が変われば追いにくい |
年齢の確認が制度として担保されているか
無店舗型を営む者は、18歳未満の人を客に接する業務に従事させることや、18歳未満の人を客とすることが禁じられています(風営法31条の3)。店舗型にも同様の禁止が置かれています(同法28条)。届出をして営む以上、これらは行政処分の対象となる義務です。届出のない営業には、この義務を負う者としての登録がそもそもありません。「店を通しているのだから年齢は確認されているはずだ」という前提が、当然には働かないということです。
記録が残る建前になっているか
届出をして営む事業者には、営業所ごと(無店舗型では事務所ごと)に従業者名簿を備えることが義務づけられています(風営法36条)。届出のない営業では、そうした記録が整えられている保証がありません。もっとも、記録が何も残らないという意味ではありません。予約サイトのやり取り、店から届くメッセージ、決済の履歴は、届出の有無にかかわらず残り、客にとって不利にも有利にもはたらきます。
お金の話をする相手がはっきりしているか
届出をして営まれていれば、少なくとも営業の本拠となる事務所の所在地が行政に届けられています。届出のない営業では、店名も連絡先も短期間で入れ替わることがあり、返金を求めようとしたときに、請求する相手をどう特定するかという段階でつまずきがちです。相手を特定できないという問題は、支払う側ではなく、返してほしい側に重くのしかかります。
店内で受けるか、ホテルや自宅で受けるか
届出の区分は、そのままサービスを受ける場所の違いでもあります。場所が違えば、何か起きたときに残るものも変わります。
店内で受ける場合
店舗の個室で受ける形では、受付の記録、他のスタッフの存在、建物の防犯カメラなど、当事者以外の材料が残る可能性があります。一方で、その場で複数の店員に囲まれて金銭の話を持ちかけられるという相談は、店内型で多く見られます。
ホテルや住居に呼ぶ場合
派遣型では、部屋を指定する段階で自分の側の情報が相手に渡ります。自宅を指定すれば住所が、予約の連絡には電話番号やアカウントが残ります。密室性が高く、その場に第三者がいないため、後から「どちらが何をしたか」が争いになったときに、双方の言い分以外の材料が乏しくなりやすい点にも注意が要ります。これは、利用する側が疑いを向けられる場面でも、逆に被害を受けた場面でも同じように働きます。
店に捜査が入ったときに、客の側に起きること
届出のない営業に対して捜査が行われた場合、営業に関する資料が調べられます。予約の記録や連絡先の一覧が含まれることがあり、そこから後日、利用者に連絡が来ることがあります。求められるのは、多くの場合、店の営業実態についての説明への協力です。
この協力は任意のものですが、話した内容は記録として残ります。連絡が来た段階で、自分自身の行為について聞かれているのか、店の営業について聞かれているのかを確かめておくと、その後の見通しが立てやすくなります。捜査の場面で客がどのような立場に置かれるかは、それだけで一つのテーマになりますので、詳しくは該当の記事をご覧ください。
お金をめぐる話は、届出の有無では決まらない
相談の場でよく聞くのが、「違法な店なのだから、払わなくてよいはずだ」という言い方です。ここは切り分けが要ります。届出などの取締りのルールと、支払う義務があるかどうかという当事者間のルールは、別の系統の話です。届出をしていない営業であっても、それだけで請求のすべてが当然に無効になるわけではありません。
逆に、届出をしている店の請求なら何でも通るというものでもありません。争えるかどうかを分けるのは、店に届出があるかではなく、料金の説明がいつどのように行われたか、合意された内容は何かという点です。金額の当否や返金の進め方は、別の記事で扱っています。
確かめられること、確かめられないこと
最後に、利用する側にできることを整理します。届出の有無を店頭の様子だけで見分けるのは難しく、そこを見極めようとするより、次の点を押さえておくほうが役に立ちます。
- 料金の総額と、追加が発生する条件を、支払う前に文字の残る形で確認しておく。
- 予約や連絡のやり取りを消さずに残しておく。あとから事実関係を確かめる材料になる。
- 自宅を指定するかどうかを、必要性と照らして考える。一度渡した住所は取り戻せない。
- その場で金額を告げられて署名や送金を求められたときは、いったん持ち帰ると伝える。
- 店から「警察に言う」「家族に知らせる」と言われても、その場で応じずに内容を書き留めておく。
- 自分の側にも落ち度があると感じる場面でも、相談する先はある。先送りしないほうが選べる手は多く残る。
よくあるご質問
届出のない店だと知りながら利用した場合、罪に問われますか
店の届出の有無を知っていたかどうかで、利用した側の立場が変わるという仕組みにはなっていません。風営法が規制しているのは営業する側だからです。ただし、相手の年齢や、同意の有無、撮影といった別の問題がある場合は、そちらで判断されます。
店舗型のメンズエステは、すべて違法ということですか
そうではありません。性的なサービスを伴わないリラクゼーションであれば、店内で営業していても風営法の届出は必要とされていません。問題になるのは、実態が届出の要る営業に当たるのに届出がない場合です。
摘発された店を利用していたことが、家族や勤務先に伝わりますか
客として説明を求められただけであれば、そのことが直ちに勤務先などに知らされる仕組みにはなっていません。ただし、連絡の取り方や、その後の手続の進み方によって事情は変わります。心当たりがある段階で、伝わる経路を整理しておくことをおすすめします。
まとめ
- 風営法に「メンズエステ」という区分はなく、扱いは看板ではなく実態で決まる。
- 性的なサービスを伴わなければ届出は不要で、届出がないこと自体は違法を意味しない。
- 実態が伴えば、店内提供は店舗型(風営法2条6項2号)、派遣は無店舗型(同法2条7項1号)として届出が必要になる。
- 店舗型は営業できる地域が限られており(同法28条)、店内で提供する形は届出のないまま営まれやすい構造がある。
- 届出がない店を利用したというだけで、客が風営法違反に問われることは想定されていない。
- 変わるのは、年齢の制限や従業者名簿(同法36条)といった義務を負う相手がいるかどうか、金銭の話をする相手を特定できるかどうかである。
- 「違法な店だから払わなくてよい」とは限らず、争えるかは請求の中身で決まる。
メンズエステでのトラブルにお困りの方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、風俗店とのトラブルに関するご相談を、池袋と新橋の事務所でお受けしています。高額な金銭を求められている場合、支払った分の返金を求めたい場合、店に捜査が入って連絡が来た場合など、状況によって取れる手段は変わります。
利用していたこと自体を人に話しづらいというお気持ちから、相談が遅れてしまう方は少なくありません。時間が経つほど、記録が失われ、選べる手段も限られていきます。弁護士には守秘義務があります。ご自身に思い当たる点があるとお感じの場合でも、まずは事実関係を整理するところからご相談ください。


