相手が18歳未満だった|「知らなかった」は通用する?児童買春・児童ポルノ禁止法
ホテルの部屋は、鍵のかかる密室です。駅や電車のように大勢の人がいるわけでも、外から見通せるわけでもありません。そのため、「外で撮るのとは話が違うのではないか」「公共の場所ではないのだから条例には引っかからないのではないか」と受け止める方は少なくありません。
この受け止め方には、まったく根拠がなかったわけではありません。盗撮を取り締まってきた迷惑防止条例は、もともと公共の場所で起きる迷惑行為を念頭に作られた条例で、ホテルの客室のような私的な空間は想定の外に置かれていた時期が実際にありました。ただ、その状況はこの数年で大きく変わっています。
この記事では、性風俗のサービスをラブホテルやビジネスホテルの客室で受けた場面を想定し、「公共の場所ではない場所」がいま法律上どのように扱われているのかを、時期ごとの変化と、ホテルという場所ならではの論点に分けて整理します。
- この記事は、サービスを利用した客側の立場から書いています。
- 成人どうしのやり取りを前提としています。相手が18歳未満である可能性がある場合は扱いが大きく変わるため、記事ではなく個別のご相談をおすすめします。
- すでに逮捕されている、警察から呼び出しを受けているといった段階の方は、記事を読むよりも先に弁護士にご相談ください。
- 条文や制度を知る目的は、責任を逃れる方法を探すことではありません。自分の身に起きていることを正確に把握し、事実と違う前提のまま話が進まないようにするためのものです。
「公共の場所」という言葉はどこから来たのか
「公共の場所」は、日常語ではなく条例の中の言葉です。各都道府県の迷惑防止条例は、もともと路上や駅、電車といった公の場での迷惑行為を規制する目的で作られました。東京都の条例が昭和37年に作られたのが先駆けとされ、その後に各地へ広がった経緯があります。
出発点がそこにあるため、条例の条文には「どこで行われたか」という場所の限定が書き込まれています。一方、2023年にできた性的姿態撮影等処罰法(一般に撮影罪と呼ばれます)の条文には、場所についての限定がありません。ここが、ホテルの客室という場所を考えるうえでの最初の分かれ目です。
場所をめぐって使われる言葉は、大きく三つに整理できます。
| 条文に出てくる言葉 | 想定されている場所の例 | ホテルの客室の位置づけ |
|---|---|---|
| 公共の場所、公共の乗物 | 道路、公園、広場、駅、電車、バスなど | 当てはまらないと考えられている |
| 不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所 | 学校、事務所、タクシーなど | ロビーや廊下は近いが、客室そのものは性質が異なる |
| 人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所 | 住居、便所、浴場、更衣室など | 条例の改正後は、ここに含まれると整理されるのが一般的 |
つまり、ホテルの客室は「公共の場所ではない」という点はそのとおりです。ただ、そこから「だから何も問題にならない」という結論には、現在はつながりません。理由を次の章で見ていきます。
ホテルの客室の扱いは、三つの時期で変わってきた
第1期 条例が公共の場所に限られていた時期
かつての迷惑防止条例は、盗撮の規制場所を公共の場所や公共の乗物、公衆便所や公衆浴場などに限っていました。ホテルの客室や個人の住居はここに含まれないため、条例では捉えにくい領域でした。
この時期に使われることがあったのが軽犯罪法1条23号です。ただし、この規定が定めているのは「人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た」行為であって、撮影そのものを対象にした条文ではありません。刑も拘留または科料と軽く、撮影の事案を十分に捉えられないという指摘が繰り返されてきました。私的空間での被害が報じられるたびに「抜け穴」と表現されてきたのは、この状態を指しています。
第2期 条例の対象となる場所が広がった時期
被害の実態を受けて、各都道府県が条例の規制場所を広げる改正を行いました。東京都では2018年3月に条例が改正され、同年7月1日から施行されています。改正後の東京都の条文は、撮影が禁止される場所として、公共の場所や公共の乗物に加えて「住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所」を挙げています。
ホテルの客室は、この「その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所」に含まれると整理されるのが一般的です。同じ趣旨の改正は多くの都道府県で行われましたが、改正の時期と内容には地域差があり、いまも完全に横並びではありません。都道府県ごとの違いは別のコラムで扱っていますので、そちらをご覧ください。
第3期 撮影罪ができた時期
2023年7月13日、性的姿態撮影等処罰法が施行されました。この法律の撮影に関する規定には、場所についての限定がありません。自宅であれ、ホテルの客室であれ、個室であれ、場所によって成否が分かれる作りにはなっていないということです。
注意していただきたいのは、適用されるのは行為が行われた当時の法令だという点です。数年前の出来事について今の法律が当然に当てはまるわけではなく、逆に「昔のことだから軽い条例で済む」と決めつけることもできません。この点も、時期と地域の組み合わせで変わってきます。
いまホテルの客室での撮影はどう評価されるのか
現在の枠組みは、大まかに次のように整理できます。
- 撮影罪には場所の限定がないため、ホテルの客室であることを理由に対象から外れる、という構造にはなっていない。
- 迷惑防止条例には場所の要件が残っているが、多くの都道府県が私的な空間を含むように改正しており、客室が要件を満たすと整理される地域が広い。
- 両方に当たり得る場合、実務では法定刑の重い撮影罪で立件されることが通例で、条例はそれを補う位置づけになっている。
なお、撮影罪の条文が「何を」「どのような態様で」撮影した場合を対象にしているのか、たとえば相手が仕事として服を脱いでいた場合にどう考えるのか、「ひそかに」とはどういう状況を指すのかといった条文の中身については、別のコラムで詳しく扱っています。この記事はあくまで「場所」に絞ってお話しします。
「撮れていなかった」場合の扱いは法令によって違う
ホテルの事案で意外に見落とされやすいのが、ここです。
撮影罪には未遂を処罰する規定が置かれています。撮影に至らなかった場合でも、未遂として評価される余地があるということです。他方、条例には「撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること」という文言があり、カメラを向ける行為や設置する行為そのものが、条文上はっきりと禁止行為として書かれています。
つまり、「向けただけ」「置いただけ」で映像が残っていないケースについて、撮影罪では未遂という枠組みで、条例では設置行為そのものという枠組みで、それぞれ検討されることになります。データが残っていないことは事実として重要ですが、それだけで話が終わるとは限らないというのが条文の形です。
2026年4月にも、宿泊施設の客室に派遣型風俗店の従業員を呼び、室内に小型カメラを設置したとして逮捕され、本人は撮影できていなかったと述べていると報じられた例がありました。報道の段階では事実関係も評価も確定していませんが、「撮れていたかどうか」だけで終わる話ではないことがうかがえます。
ホテルという場所に特有の論点
自分が借りた部屋か、そうでない場所か
自分が正規に借りた客室にいること自体は、通常は問題になりません。これに対して、他人の部屋、共用の浴場や更衣室、従業員用のスペースなど、立ち入る権限のない場所に入った場合は、撮影とは別に刑法130条の建造物侵入罪が問題になり得ます。法定刑は3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金です。
実務では、先に建造物侵入で捜査が始まり、その後に撮影に関する容疑が加わるという順序になることもあります。「部屋に入っただけ」と「撮影した」は別の評価対象だと理解しておくと、聞かれている内容を取り違えずに済みます。
部屋にカメラや機器を残してきた場合
ホテルの事案でよくあるのが、機器を回収できないまま退室してしまうケースです。客室は清掃や点検が入る場所であり、忘れ物や不審な機器は見つかりやすいといえます。施設側は自らの信用に関わる問題として扱いますから、そのまま黙って処分されるとは考えにくいところです。
部屋の設備や備え付けの機器を使った場合
自分のスマートフォンか、持ち込んだ小型カメラか、部屋にもともとある機器かによって、条文の要件が変わるわけではありません。条文は「写真機その他の機器」という書き方をしており、機器の種類や持ち主で線を引く作りにはなっていません。
自分が撮られていた側だった場合
ホテルの客室は、利用する側が被害に遭う場所でもあります。室内に第三者が仕掛けた機器があった、相手方に無断で撮影されていた、というご相談も現実にあります。この場合は立場が反対になり、証拠の保全や削除の求め方が問題になります。同じ「ホテルでの撮影」でも進め方は異なりますので、心当たりがある場合は早めにご相談ください。
発覚の経路が街なかとは異なる
「密室だったのだから記録は残らないだろう」という見方は、実際にはあまり当てはまりません。ホテルという施設には、次のような記録や経路が存在します。
- 相手がその場で気づき、店舗に連絡する。派遣型の場合、店舗が対応の窓口になることが多い。
- 清掃や点検で機器や忘れ物が見つかり、施設側が警察に届け出る。
- 施設内の防犯カメラ、入退室の記録、自動精算機や券売機の履歴が残っている。
- 旅館業法6条1項により、営業者には宿泊者名簿を備え、氏名・住所・連絡先などを記載する義務がある。名簿は宿泊日から3年間保存することとされており、警察からの照会に協力する運用が案内されている自治体もある。
- 予約サイトの履歴やクレジットカードの決済記録から、利用日時と利用者がたどれる。
宿泊者名簿の記載事項は2023年12月13日施行の改正で見直され、従来の「職業」に代わって「連絡先」が必須項目になりました。施設の形態によって運用に幅はありますが、「誰がいつ利用したか」がまったく残らない場所ではない、と考えておくのが現実的です。
よくある四つの受け止め方と、実際の考え方
| よくある受け止め方 | 実際の考え方 |
|---|---|
| 客室は公共の場所ではないから条例違反にならない | 条例の場所要件は改正で広がっており、そもそも撮影罪には場所の限定がない |
| 撮れていないから何も残らない | 未遂の規定と、条例の「差し向け・設置」の規定がある |
| 相手は仕事で脱いでいるのだから同意がある | 同意の有無は場所とは別の要件で、業務であることが同意を意味するわけではない |
| データを消せば終わる | 削除の事実自体が説明を要する事情になることがあり、復元が試みられる場合もある |
一つ目は、この記事の出発点にした感覚そのものです。「公共の場所ではない」という認識は言葉としては正しいのですが、そこから導かれる結論が、いまの法令の形とずれてしまっている点に注意が必要です。
ネット上の説明を読むときに気をつけたい点
- 条例改正前や撮影罪の施行前に書かれた記事が、そのまま残っていることがあります。「ホテルでの盗撮は条例では処罰できない」と書かれた記事は、書かれた時点では正確でも、現在の説明としては古くなっています。
- 都道府県を比較した記述は、時点によって内容が変わります。「この県は私的空間を規制していない」といった記載は、その後の改正で状況が変わっていることがあります。
- 2025年6月1日から、懲役と禁錮が拘禁刑に一本化されました。「懲役」と書かれた記事は、それ以前の表記のままである可能性があります。
- 罰則の数字が特定の都道府県の条例を前提にしていることがあります。ご自身の地域の条例と同じとは限りません。
相談する前に整理しておきたいこと
弁護士に相談する際、次の点が分かっていると話が早く進みます。分からない部分は「分からない」で構いません。
- いつの出来事か(年月日まで分かる範囲で)。適用される法令が変わるため、時期は重要です。
- どこの都道府県だったか。条例の内容が地域で異なるためです。
- どの施設だったか、自分が借りた部屋の中の話か、それ以外の場所か。
- 相手や店舗、施設から何をどのように言われているか。連絡の記録は残しておいてください。
- 警察や施設から連絡があったか、あった場合はいつ、どのような内容だったか。
一方で、次の対応は避けたほうがよいと考えています。
- 自己判断での削除や端末の初期化。事後の行動として評価される場面があり、状況を良くするとは限りません。
- その場での現金の受け渡しや、内容を確認しないままの念書・誓約書への署名。あとから内容の解釈で争いになりやすい形です。
- 相手本人への直接の連絡。窓口が店舗や代理人になっている場合、直接の接触がかえって事態を複雑にすることがあります。
まとめ
- 「公共の場所」は迷惑防止条例の中の言葉で、ホテルの客室がそれに当たらないという理解自体は誤りではありません。
- ただし条例は各地で改正され、住居や浴場と並ぶ「人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所」に客室が含まれると整理されるのが一般的です。
- 東京都では2018年7月1日から規制場所が広がっています。改正の時期と内容には地域差があります。
- 2023年7月13日に施行された撮影罪には、場所についての限定がありません。
- 適用されるのは行為当時の法令であり、時期と地域の組み合わせで扱いが変わります。
- 撮影に至らなかった場合でも、未遂の規定や、条例の「差し向け・設置」の規定があり、それだけで話が終わるとは限りません。
- ホテルには清掃・防犯カメラ・宿泊者名簿・決済記録といった経路があり、「密室だから残らない」とは考えにくいのが実情です。
早く相談したからといって良い結果が約束されるわけではありませんが、時期・場所・経緯を正確に整理したうえで臨むほうが、選べる対応は多くなります。心当たりがある場合は、事実関係が固まる前の段階でご相談ください。


