借りた金を返せないと詐欺になるのか|借入時の欺罔の有無
本記事は2026年9月時点の法令に基づいて記載しています。性犯罪についての公訴時効の延長(刑事訴訟法250条3項・4項)は令和5年6月23日から、懲役刑と禁錮刑を拘禁刑に一本化する改正刑法は令和7年6月1日から、それぞれ施行されています。個別の事件で時効が完成しているかどうかは、罪名・起算点・停止事由によって変わるため、本記事の記載だけで判断することはできません。
「半年前に一度だけ関わった出来事について、先週になって警察から電話がありました」「一年以上前の話で、当時は何の連絡もなかったので、もう終わったものだと思っていました」。刑事事件のご相談では、事件そのものよりも、連絡が来た時期に戸惑っておられる方が少なくありません。
インターネット上の解説を読むと、「呼び出しまでの期間はケースバイケース」「多くは数か月以内」といった説明が並んでいます。これらは実務の感覚としてそれ自体が誤っているわけではありません。ただ、連絡を受けた方が知りたいのは平均的な期間ではなく、「なぜ、自分のところに、今になって来たのか」という一点であることがほとんどです。
この記事では、罪名を問わない一般論として、事件から時間が経ってから連絡が来る背景を3つの系統に分けて整理し、公訴時効という時計の数え方と、連絡の中身から捜査の段階を読む手がかりをまとめます。呼び出しそのものへの応じ方や、在宅事件になった後の待ち方については、それぞれ別の記事で扱っています。
なぜ「今」連絡が来たのか|遅れて動く3つの系統
時間が空いた理由は、多くの場合、次の3つのいずれかに整理できます。どの系統にあたるかによって、その後の見通しも変わってきます。
系統1 別の事件から名前が挙がった
捜査機関が事件を知るきっかけは、被害届や通報、告訴だけではありません。司法警察職員は犯罪があると思料するときに捜査を行うとされており(刑事訴訟法189条2項)、その「思料」のもとになる情報は、別の事件の捜査からもたらされることがあります。別件で取り調べを受けている人の供述、押収された端末の解析結果、事業者から任意提出または押収された記録などです。
この経路をたどる場合、行為の時点と、捜査機関がそれを知る時点との間に、大きな時間差が生まれます。つまり、遅れの正体が「捜査が滞っていたこと」ではなく「捜査機関が知るのが遅かったこと」にある、という場合が相当数あります。自分の事件だけを見ていると理由が見えないのは、そのためです。
端末の解析から捜査の範囲が広がる仕組みについては、1件のはずが余罪を疑われる|端末の中身から広がる捜査で詳しく扱っています。
系統2 被害の申告そのものが遅れた
被害を受けた側が、申告を決めるまでに時間を要する類型があります。相手との関係がその後も続いていた、職場や取引先の関係だった、被害当時に未成年だった、といった事情がある場合です。
法律も、この遅れをある程度は前提に置いています。令和5年の改正で、不同意性交等罪の公訴時効は15年、不同意わいせつ罪は12年とされ(刑事訴訟法250条3項)、さらに被害者が犯罪行為の終了時に18歳未満であった場合には、そこから被害者が18歳に達する日までの期間が時効期間に加算されることになりました(同条4項)。制度そのものが、申告までに年単位の時間がかかり得ることを織り込んでいるといえます。
申告までに時間が空いたという事情だけで、その供述の信用性が決まるわけではありません。逆に、時間が経っていることを理由に「相手にされないはずだ」と考えるのも、根拠のある見方とはいえません。
系統3 鑑定・解析・照合の順番待ち
防犯カメラ映像の解析、端末や記録媒体のデジタル鑑識、DNA型鑑定といった作業は、その性質上、一定の時間を要します。加えて、鑑定機関には他の事件の依頼も入っているため、順番待ちが発生します。
照合の仕組みが時間差を生むこともあります。警察では、DNA型記録取扱規則に基づき、犯罪現場などに遺留されたと認められる資料のDNA型の記録と、捜査上の必要があって被疑者の身体から採取された資料のDNA型の記録を登録し、警察庁でこれらを対照して、余罪に関する情報などを都道府県警察に通知する運用が行われています(同規則3条から6条まで)。後から登録された記録が、過去に保管されていた記録と結びつくという経路があるため、数年単位で時間が空いてから動き出す事件が生じます。
映像やカード履歴から後日特定されていく流れは、痴漢・盗撮で後日逮捕されるのはなぜか|防犯カメラとICカード履歴で具体的に説明しています。
時間が経っていることは、有利なのか不利なのか
「今さら連絡が来たということは、それだけ重く見られているのか」というご質問をよくいただきます。結論から申し上げると、経過期間そのものは、有利にも不利にも働きます。
裏づけが固まってから来ている場合
客観的な資料の収集と分析が先に済み、最後に本人の説明を聞く段階に来ている、という進み方があります。この場合、連絡の時点で、事件の日時や場所がかなり具体的に示されることがあります。特定の物の持参を求められたり、既に押収されている物を前提とした質問が出たりするのも、この段階の特徴です。
裏づけが足りないために話を聞きに来ている場合
反対に、客観的な資料が乏しく、本人の説明と任意提出が主な材料になっている場合もあります。連絡の内容が「少し話を聞かせてほしい」という程度にとどまり、事件の特定が曖昧なときは、この段階である可能性が残ります。
ただし、連絡の口調が穏やかであることや、日程に融通が利くことが、そのまま嫌疑の軽さを意味するわけではありません。任意の呼び出しは、身柄を確保する必要がないと判断されている場合にも、準備が整ったので最後の聴取に呼ぶ場合にも、同じ形で行われます。
こちら側の裏づけは、先に失われている
見落とされやすいのが、時間の経過が自分の側の材料も削っているという点です。防犯カメラの映像、通信の記録、店舗の入退店記録などには保存期間があり、事件から時間が経つほど、「その時刻に別の場所にいた」という説明を支える資料は失われていきます。記憶も同じです。捜査機関の側は必要な資料を早い段階で確保していることが多いのに対し、身に覚えのない方ほど、何も残していないまま時間が過ぎている、ということが起こります。
通報から立件に至るまでに何が行われているかは、逮捕されるケースと逮捕されないケースの分かれ目|通報から立件までに何が起きるかで整理しています。
公訴時効という時計の数え方
「もう何年も経っているから時効ではないか」という見立ては、しばしば事実と食い違います。数え方に3つの注意点があるためです。
起算点は「犯罪行為が終わった時」
公訴時効は、犯罪行為が終わった時から進行します(刑事訴訟法253条1項)。共犯がある場合は、最終の行為が終わった時が、すべての共犯についての起算点になります(同条2項)。結果が発生して初めて処罰の対象となる類型では、結果が発生した時点が基準になると解されています。行為が一度きりだったのか、一定期間続いていたのかによって、起算点が動くことがあります。
期間は「法定刑の上限」で決まる
時効期間は、人を死亡させた罪かどうかでまず分かれ、次に各罪の法定刑の上限によって決まります(刑事訴訟法250条1項・2項)。基準になるのは、実際に言い渡されるであろう刑ではなく、条文に書かれた上限です。たとえば法定刑の上限が10年未満の拘禁刑にあたる罪であれば5年、長期15年未満の拘禁刑にあたる罪であれば7年、というように区分されています。性犯罪については、前述のとおり同条3項・4項の特則が上乗せされます。
数えていた期間が、止まっていることがある
犯人が国外にいる期間、または逃げ隠れているため起訴状の謄本の送達などができなかった期間については、時効の進行が停止します(刑事訴訟法255条1項)。この点について最高裁は、一時的な海外渡航にすぎない場合でも時効は停止するとの判断を示しています(最高裁決定平成21年10月20日)。また、共犯の一人が起訴されると、その裁判が確定するまでの間、他の共犯についても時効が停止します(同法254条2項)。
仕事や旅行で海外に出ていた期間があると、カレンダー上で数えた年数と、法律上の残り時間が一致しなくなります。自己判断で「もう過ぎている」と結論づける前に、渡航歴を含めて確認しておく必要があります。
時間が経ってから捜査が動く事件を、公訴時効の側から見た解説は、暴行・傷害の公訴時効|時間が経ってから捜査が来る理由をご覧ください。
公訴時効のほかにある「もう一つの時計」
時間の読み方に関わる期間は、公訴時効だけではありません。
親告罪の告訴期間
告訴がなければ起訴できない罪、いわゆる親告罪については、犯人を知った日から6か月を経過すると告訴ができなくなります(刑事訴訟法235条1項)。名誉毀損罪や器物損壊罪などがこれにあたります。なお、性犯罪は2017年の改正で親告罪ではなくなっているため、この6か月の期間は関係しません。罪名によって、動き得る期間の枠組みがまったく異なるということです。
在宅のまま進む期間には、法律上の上限がない
身柄を拘束されている事件では、送致まで48時間、検察官が勾留を請求するまで24時間、勾留は原則10日で延長を含めて最大20日という枠が定められています(刑事訴訟法203条、205条、208条)。これに対し、在宅で捜査が進む場合には、こうした期限がありません。そのため、数か月にわたって表立った動きがないことは、珍しいことではありません。
在宅のまま時間が過ぎていく間に何が進んでいるのかは、在宅事件になった場合|見えない時間の進み方と捜査が長引く理由と待ち方|連絡が来ない期間に何が起きているかで扱っています。
「連絡が来ない」ことは、結論ではない
不起訴の処分がされた場合でも、その旨が当然に本人へ知らされるとは限りません。検察官は、公訴を提起しない処分をした場合において、被疑者から請求があったときに速やかにその旨を告げるとされています(刑事訴訟法259条)。裏を返せば、こちらから確認しない限り、結果が分からないまま時間だけが過ぎることがあるということです。静かな期間を「終わった」と読むのは、根拠が薄いといえます。送致後の流れについては、書類送検されてから処分が決まるまでの期間をご参照ください。
連絡の中身から、捜査の段階を読む
受けた連絡の内容そのものが、手がかりになります。ただし、いずれも目安であり、逆のこともある点は先にお断りしておきます。
どこから、どういう名目で来たか
まず、警察署名と部署名、担当者の氏名、連絡先を控えておきます。生活安全課なのか、刑事課なのか、組織犯罪対策の部署なのかによって、扱われている事件の性質が推測できることがあります。あわせて、被疑者として話を聞きたいのか、参考人としてなのかも、確認できる範囲で確認しておきます。なお、警察官を名乗る詐欺の電話も報告されているため、いったん電話を切り、警察署の代表番号にかけ直して在籍を確かめる、という手順を踏んでも差し支えありません。
参考人という名目は固定されたものではなく、聴取の途中で立場が変わることもあります。その分岐については、『参考人』として呼ばれた|被疑者に切り替わる瞬間で詳しく説明しています。
何を持ってくるよう言われたか
身分証だけでよいと言われた場合と、当時使っていた携帯電話、衣類、カード類などを具体的に指定された場合とでは、想定されている作業が違います。指定が具体的であるほど、既に手元にある資料との照合が予定されている可能性が高くなります。持参した物について、その場で任意提出を求められることもあります。求めに応じるかどうかは任意ですが、断った場合に令状による差押えに進むこともあるため、事前に方針を決めておくほうが落ち着いて対応できます。
日程の指定に、どの程度の幅があるか
仕事の都合に合わせて日程を調整してもらえる場合と、日時がほぼ固定で示される場合があります。前者は在宅で進める方針が前提になっていることの目安になり、後者は準備が一定の段階まで進んでいることをうかがわせます。もっとも、単に担当者の予定の問題であることも多く、これだけで見通しを立てることはできません。
呼び出しを受けたときの具体的な対応は、警察から呼び出しの電話が来た|任意同行・出頭要請への対応と「任意同行」は断れるのか|断った場合に起きることにまとめています。
連絡を受けた直後にしておくこと
時間が経ってから連絡が来た事件では、初動の意味合いが、事件直後のケースとは少し異なります。
失われつつある裏づけを、先に確保する
交通系ICカードの利用履歴、キャッシュレス決済の記録、予約や配達の履歴、当時のメッセージのやり取りなど、日付と行動を結びつける資料を、まず手元に集めます。これらには保存期間や取得の窓口があり、放置すると取り戻せなくなるものがあります。何が後から証拠として機能するかは、証拠の残し方|あとで警察・弁護士に通用する記録とはで整理しています。
記憶を、呼び出しの前に書き出しておく
当時の日付、同行者、移動の順序、前後の予定などを、時系列で書き出しておきます。取調べでは断片的な質問が続くため、その場で全体を組み立て直すのは簡単ではありません。書き出す際は、はっきり覚えていない部分を無理に埋めず、曖昧なままにしておくことが大切です。後から訂正すると、記憶が変わったのではないかという見方をされることがあるためです。取調べでの受け答えの方針については、黙秘したほうがよいのか|黙秘の効果とリスクの整理も参考になります。
相手方への直接の連絡は控える
時間が経っている分、「当時どういう話になっていたか、本人に確かめたい」と考えたくなる場面があります。しかし、捜査が始まった後のこの種の接触は、口裏合わせや証拠隠滅と受け取られる余地があり、身柄拘束の必要性を判断する材料にもなり得ます。実際にどのような行為がどう評価されるのかは、証拠を消した・口裏を合わせた|証拠隠滅罪と量刑への影響で詳しく述べています。謝罪や示談の申し入れを検討する場合も、代理人を通すのが原則です。
自分から出頭するという選択肢を検討される方もいます。時間が経ってからの出頭は、自首として扱われるかどうかを含めて判断が分かれるところですので、自分から出頭すべきか|自首の成否と実務上の意味をご覧いただいたうえで、個別にご相談いただくのが確実です。
よくあるご質問
事件から3年が経っています。もう時効ではないのですか
時効期間は罪名ごとに異なり、法定刑の上限を基準に決まります(刑事訴訟法250条1項・2項)。加えて、起算点がいつなのか、停止事由があったかどうかでも変わります。とくに、その間に海外に出ていた期間があると、その分だけ進行が止まっている可能性があります(同法255条1項、最高裁決定平成21年10月20日)。カレンダー上の経過年数だけで判断するのは避けたほうがよいと考えます。
参考人として呼ばれただけでも、弁護士に相談すべきでしょうか
名目は固定されたものではなく、聴取の内容によって立場が変わることがあります。相談したこと自体が捜査上の不利益になる仕組みはありませんので、呼び出しの前に一度、事実関係を整理しておく意味はあります。相談の時期による違いは、弁護人を頼むタイミング|捜査段階で差がつく理由でも触れています。
連絡に応じないまま過ごした場合、どうなりますか
任意の呼び出しに強制力はありません。ただし、応じない状態が続くこと自体が、逃亡のおそれの判断に影響し得ます。日程の都合がつかないのであれば、その旨を伝えて調整を申し出るほうが、結果として穏当に進むことが多いといえます。応じなかった場合に生じ得ることは、逃亡・不出頭に対する罰則|出頭しなかった場合に起きることにまとめています。
まとめ
- 遅れの理由は、別事件からの発覚、被害申告の遅れ、鑑定や照合の順番待ちという3つの系統に整理できる。捜査機関が事件を知る端緒は被害届に限られない(刑事訴訟法189条2項)。
- 性犯罪では公訴時効が延長され、被害者が犯罪行為の終了時に18歳未満であれば18歳に達する日までの期間が加算される(同法250条3項・4項)。申告までの時間が空くことを制度が前提にしている。
- 公訴時効は犯罪行為が終わった時から進行し、共犯がある場合は最終の行為が終わった時が基準になる(同法253条1項・2項)。
- 時効期間は実際に科される刑ではなく法定刑の上限で決まる(同法250条1項・2項)。
- 国外にいる期間は時効の進行が停止し、一時的な海外渡航でも同様とされている(同法255条1項、最高裁決定平成21年10月20日)。
- 親告罪の告訴は犯人を知った日から6か月で期間が切れるが(同法235条1項)、在宅で進む捜査自体には法律上の期間制限がない。
- 不起訴の処分は請求がなければ告げられないため(同法259条)、連絡が来ないことを結論と読まない。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。事件から時間が経ってから連絡が来たという場面では、何を聞かれるのかが分からないまま出頭日が迫るという状態になりやすく、その間に手元の裏づけが失われていくことも少なくありません。
ご自身の状況が3つの系統のどれにあたるのか、時効の残り時間がどうなっているのか、呼び出しにどう応じるのかといった点は、事実関係を伺ったうえでなければ見通しが立ちません。すでに呼び出しを受けている方も、まだ連絡はないが心当たりがあるという方も、判断の材料を整理する段階でお声がけいただければと思います。


