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裁判所や検察庁から出頭を求められたものの、仕事の都合や体調、あるいは事件と向き合うことへのためらいから、その日に行けなかった。そうした状況で、行かなかったこと自体が罪になるのか、保釈中だと扱いが変わるのかがわからないまま、次の連絡を待っている方がいます。
2023年11月に、出頭しなかった場合の罰則がいくつか新しく設けられました。ただし、罰則が及ぶ範囲は場面ごとに区切られており、出頭しなかったことがすべて処罰の対象になるわけではありません。この記事では、どの場面にどの規定が対応しているのかを、条文にさかのぼって整理します。
この記事で扱う「出頭しない」の場面
「出頭しない」という一言でまとめられがちですが、刑事手続の中では、呼び出す主体も、根拠となる規定も場面ごとに違います。おおまかには次のように分かれます。
- 捜査の段階で、警察官や検察官から任意の出頭を求められた場合。
- 起訴された後、裁判所から公判期日に召喚された場合。
- 保釈や勾留の執行停止をされている人が、指定された日時と場所に出頭する場合。
- 保釈などが取り消された後に、検察官から出頭を命じられた場合。
- 実刑判決が確定し、刑の執行のために検察官から呼出しを受けた場合。
これらは、応じなかったときの扱いがそれぞれ異なります。罰則が用意されている場面もあれば、罰則はなく手続の上での不利益だけが生じる場面もあります。まずは、多くの方が気にされる「逃げること自体が罪になるのか」という点から確認します。
逃げること自体を処罰する規定はあるのか
刑法には逃走の罪があります。2023年の改正で対象が広がり、現在は「法令により拘禁された者」が逃走したときに3年以下の拘禁刑と定められています(刑法97条)。改正前は裁判の執行により拘禁された既決または未決の者に限られていましたが、改正後は逮捕された人なども含まれると説明されています。
ここで押さえておきたいのは、条文が拘禁されている状態を前提に組み立てられている点です。保釈によって釈放されている人や、在宅のまま捜査や裁判を受けている人は、身体を拘束されていません。そのため、その状態から所在をくらませても、逃走の罪そのものには当たらないと解されています。
では何も問題にならないのかというと、そうではありません。2023年の改正で新しく置かれたのは、逃げたこと自体を捉える規定ではなく、指定された日時と場所に出頭しなかったことを捉える規定でした。「逃亡罪」という形ではなく「不出頭罪」という形で組み立てられている。この点が、この分野を読むときの出発点になります。
2023年11月に加わった不出頭の罰則
令和5年の刑事訴訟法改正により、出頭しなかった場合の罰則が5つ新設され、2023年11月15日から施行されています。法定刑はいずれも2年以下の拘禁刑です。
| 場面 | 規定 | 対象となる人 |
|---|---|---|
| 勾留の執行停止の期間が終わったのに、指定された日時・場所に出頭しない | 刑事訴訟法95条の2 | 期間を指定されて勾留の執行停止をされた被告人 |
| 許可を受けずに制限住居を離れ、指定された期間を過ぎても戻らない | 同95条の3 | その旨の条件を付されて保釈または勾留の執行停止をされた被告人 |
| 保釈などを取り消された後、検察官の出頭命令に応じない | 同98条の3 | 保釈または勾留の執行停止を取り消された被告人 |
| 召喚を受けたのに公判期日に出頭しない | 同278条の2 | 保釈または勾留の執行停止をされた被告人 |
| 刑の執行のための呼出しに応じない | 同484条の2 | 拘禁刑などの言渡しを受け、拘禁されていない人 |
表からわかるとおり、どの規定にも対象となる人の限定が付いています。誰が、どの呼出しに応じなかったのかによって、当てはまる規定があるかどうかが変わるということです。また、いずれも「正当な理由がなく」出頭しないことが要件になっています。
公判期日に出頭しなかった場合
保釈中かどうかで扱いが分かれる
公判期日への不出頭罪(278条の2)の対象は、保釈または勾留の執行停止をされた被告人です。逮捕も勾留もされないまま在宅で起訴された人が期日に行かなかった場合、この規定は当てはまりません。
インターネット上には「公判期日に出頭しなくても罰則はない」と書かれた解説も残っていますが、それは在宅の場合に当てはまる説明です。保釈されている人については、2023年11月以降、罰則が用意されているという読み分けが必要になります。
出頭しないと裁判そのものが進まない
被告人が公判期日に出頭しないときは開廷することができない、というのが原則です(286条)。例外は限られており、法人の代理人が出頭する場合や軽微な事件のほか、勾留されている被告人が出頭を拒否して刑事施設職員による引致を著しく困難にしたとき(286条の2)、許可を受けずに退廷したり退廷を命じられたりしたとき(341条)などに限られます。
ここで注意したいのは、286条の2が勾留されている被告人を対象にしている点です。保釈中の人や在宅の人が連絡もなく来なかった期日は、この例外に当たらないため、そのまま空転します。裁判が終わらないまま時間だけが過ぎ、審理の期間が延びることになります。
勾引という手続
被告人が定まった住居を持たないとき、または正当な理由がなく召喚に応じないとき、応じないおそれがあるときは、裁判所は被告人を勾引することができます(58条)。勾引は強制的に裁判所へ連れて行く手続で、引致した時から24時間以内に釈放しなければならないとされています。ただし、その間に勾留状が発せられたときは別です(59条)。
召喚状には、正当な理由がなく出頭しないときは勾引状を発することがある旨を記載することになっています(63条)。裁判所が指定の場所への出頭や同行を命じ、これに正当な理由なく応じないときにも勾引の対象になります(68条)。
捜査段階の呼出しに応じなかった場合
捜査の段階で警察官や検察官から呼出しを受けたとき、逮捕または勾留されている場合を除いて、被疑者は出頭を拒むことができ、出頭した後もいつでも退去することができます(198条1項ただし書)。応じなかったこと自体を処罰する規定はありません。
もっとも、連絡がつかない状態が続けば、逃亡のおそれの評価に影響します。逮捕状を請求するかどうか、勾留を請求するかどうかの判断の中で、呼出しに応じてこなかったという経過が考慮されることがあります。罰則がないことと、不利益が生じないことは別の話です。
証人として呼ばれた場合は扱いが違う
同じ「呼出し」でも、証人として召喚を受けた人の不出頭には別の規定が置かれています。正当な理由がなく出頭しないときは10万円以下の過料と費用の賠償を命じることができるとされ(150条)、さらに1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金という刑罰の規定(151条)と、勾引の規定(152条)もあります。
「正当な理由」があるかどうかの分かれ目
事前に伝えたかどうか
公判期日に召喚を受けた被告人が病気その他の事由により出頭できないときは、裁判所の規則の定めるところにより、医師の診断書その他の資料を差し出さなければならないとされています(278条)。刑事訴訟規則では、出頭できないと考えたときは直ちに、その事由を記載した書面と、事由を明らかにする診断書などの資料を裁判所に差し出すことが求められています(規則183条1項)。
何も伝えずに欠席した場合と、期日の前に理由と資料を出して裁判所の判断を求めた場合とでは、後から振り返ったときの評価が変わります。連絡そのものが記録に残るという意味でも、事前に動く意味は小さくありません。
診断書に何が書かれているか
体調を理由にする場合、診断書の中身も問われます。刑事訴訟規則は、病名と症状のほかに、その状態で公判期日に出頭することができるかどうか、自ら、または弁護人と協力して適切に防御権を行使することができるかどうか、出頭したり審理を受けたりすることによって生命や健康状態に著しい危険を招くかどうかについて、医師の具体的な意見が記載されていなければならないとしています(規則183条3項)。
この方式に違反する診断書は受理しないものとされ、方式に違反していない場合でも内容に疑いがあるときは、作成した医師を証人として尋問したり、他の医師に鑑定を命じたりする措置をとることになっています(規則184条)。病名だけが書かれた短い診断書では足りないことがある、ということです。医療機関に依頼する段階で、何を書いてもらう必要があるのかを伝えておくと行き違いが減ります。
同じ理由が繰り返されたとき
体調不良は、一般には正当な理由として受け止められやすい事情です。ただし、同じ理由による欠席が続き、提出される資料も十分でない場合には、正当な理由が認められないと判断された裁判例があります。ほかの事件で身柄を拘束されていることを伝えないまま現れなかった場合も、同様に扱われうるとされています。
罰則より先に動くのは取消しと収容
保釈されている人が召喚を受けながら正当な理由なく出頭しないとき、また逃亡したときや逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判所は保釈を取り消すことができます(96条1項1号、2号)。保釈を取り消す場合には、保証金の全部または一部を没取することができるとされています(同2項)。
取消しの決定があったときは、勾留状の謄本と決定の謄本を示して刑事施設に収容する、という手続が進みます(98条1項)。収容されていない状態が続く場合、検察官は出頭を命じることができ(98条の2)、この命令に正当な理由なく応じないと、前に触れた98条の3の対象になります。
整理すると、不出頭に対して先に動くのは身柄と保証金の話であり、罰則はその後に別の事件として扱われます。この順番を知っておくと、いま何が起きているのかを把握しやすくなります。
判決の後に呼出しを受けた場合
拘禁刑以上の実刑判決の宣告があったときは、保釈や勾留の執行停止はその効力を失います(343条)。刑事施設に収容されていないときは、検察官が日時と場所を指定して出頭を命じることができるとされています(343条の2)。
判決が確定した後は、刑の執行のための呼出しが行われます。死刑、拘禁刑または拘留の言渡しを受けた人が拘禁されていないときは、検察官が出頭すべき日時と場所を指定して呼び出し、これに応じないときは収容状を発することになります(484条)。この呼出しに正当な理由なく出頭しない行為が、484条の2の対象です。逃亡したときや逃亡するおそれがあるときは、呼出しを経ずに収容状を発することもできます(485条)。
また、拘禁刑以上の実刑判決の宣告を受けた後に逃亡したときは、保釈の取消しと保証金の没取が、いずれも「しなければならない」と定められています(96条4項、5項)。判決の前と後とで、扱いの重さが変わる場面です。
元の事件の処分にどう響くか
別の罪として加わる
不出頭罪が成立した場合、それは審理中の事件とは別の罪です。確定裁判を経ていない2個以上の罪は併合罪として扱われ(刑法45条)、有期の拘禁刑に処するときは、重い方の罪について定められた刑の長期に、その2分の1を加えた範囲で刑が決められます。ただし、それぞれの罪について定められた刑の長期の合計を超えることはできません(同47条)。
量刑や身柄の判断にも表れる
量刑の判断では、事件の内容だけでなく、手続にどう向き合ってきたかという事情も考慮されます。呼出しに応じずに所在がわからなくなった経過があると、その後の主張が受け入れられにくくなり、執行猶予が視野に入っていた事案で見通しが変わることもあります。いったん取り消された後に改めて保釈を求める場面でも、出頭が確保できるかどうかが厳しく見られます。
かくまった側に及ぶ責任
ご家族から、連絡を取ってよいのか、泊めてよいのかという相談を受けることがあります。刑法には、罰金以上の刑に当たる罪を犯した者または拘禁中に逃走した者を蔵匿し、隠避させた者を3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金に処する規定があります(刑法103条)。判例では、「罪を犯した者」には嫌疑を受けて捜査や訴追の対象になっている人も含まれると解されています。
保釈中の被告人は拘禁されていないので「拘禁中に逃走した者」には当たりませんが、罰金以上の刑に当たる罪について裁判を受けている以上、この規定の対象になりうる立場です。隠れる場所を提供する、移動や生活の資金を渡すといった行為が問題になります。
もっとも、犯人または逃走した者の親族が、これらの人の利益のためにこの罪を犯したときは、その刑を免除することができるとされています(同105条)。免除が保証されているわけではなく、罪が成立しないという規定でもありません。連絡を取り合うことと、所在を隠す手助けをすることの間には線がある、と理解しておくのが安全です。
時間が経てば終わるのか
公訴時効は起訴で止まる
時効を待てば終わるのではないか、と考える方がいます。しかし公訴時効は、その事件について公訴が提起されたことによって進行を停止します(254条1項)。起訴された後に姿を消しても、公訴時効が完成して事件が終わることはありません。
刑の時効も国外では進まない
刑が確定した後の「刑の時効」についても、2023年5月の改正で規定が加えられました。拘禁刑、罰金、拘留および科料の時効は、刑の言渡しを受けた者が国外にいる場合には、その国外にいる期間は進行しないとされています(刑法33条2項)。あわせて、拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告を受けた人が裁判所の許可なく出国できないという制度も、2025年5月から始まっています。
出頭できないと分かったときにすること
当日になって行けなくなることも、事情によっては起こります。そのときに取れる手順を並べておきます。
- 指定された日より前に、事件を担当している弁護人へ連絡する。弁護人がいない場合は、期日の通知に記載された裁判所の担当部署へ連絡する。
- 理由を記載した書面と、それを裏づける資料をそろえて提出する。
- 体調が理由の場合は、病名と症状に加えて、出頭できるかどうかについての医師の意見が記載された診断書を用意する。
- 仕事や家庭の事情であれば、日程を動かせないかを早めに相談する。
- 連絡先や住まいが変わったときは、そのつど届け出ておく。
公判期日は、検察官、被告人、弁護人の請求により、または職権で変更されることがあります(276条)。変更されるかどうかは裁判所の判断ですが、黙って休むのと、事前に資料を出して判断を求めるのとでは、記録に残るものが違います。
早い段階で相談する意味
出頭しなかったことについて後から説明を求められる場面では、そのときに何を伝え、どのような資料を出していたかが手がかりになります。すでに一度行けなかった後であっても、次の期日に向けて経過を整理し、資料を補っておくことはできます。弁護人がついていれば、裁判所や検察庁への連絡、期日の調整、資料の準備を代わりに進めることができますし、ご本人と連絡が取りにくい場合にご家族から状況を伺って対応を検討することもあります。
弁護士法人若井綜合法律事務所は、池袋と新橋に事務所を置き、刑事事件のご相談をお受けしています。ご本人からのご相談はもちろん、ご家族からのご相談にも対応しています。
まとめ
- 逃走の罪は拘禁されている人を対象とする規定であり、保釈中や在宅の人がその状態から所在をくらませても、逃走の罪そのものには当たらないと解されている。
- 2023年11月に加わったのは「逃亡罪」ではなく、指定された日時と場所に出頭しなかったことを捉える5つの規定で、法定刑はいずれも2年以下の拘禁刑である。
- 5つの規定にはそれぞれ対象となる人の限定があり、保釈または勾留の執行停止をされた被告人が公判期日に出頭しない場合は278条の2の対象になる。
- 在宅のまま起訴された被告人には278条の2は当てはまらないが、勾引や勾留の判断に影響する。
- 被告人が出頭しない期日は原則として開廷できず、保釈中や在宅の人が来なかった場合は審理が止まる。
- どの規定も「正当な理由がなく」出頭しないことを要件としており、事前の届出と、規則が求める事項が記載された診断書の有無が分かれ目になる。
- 不出頭に対しては罰則より先に保釈の取消しと収容、保証金の没取が問題になり、公訴時効は起訴によって進行を停止するため、時間の経過で事件が終わることはない。


