自分から出頭すべきか|自首の成否と実務上の意味

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

風俗店でのトラブルのあとに、「このまま連絡を待つより、自分から警察へ行ったほうがよいのではないか」と考える方は少なくありません。調べてみると「自首すれば刑が軽くなる」という説明が出てくる一方で、「それは自首にはならない」「自分から行ったせいで事件になることもある」という説明も見つかり、かえって判断がつかなくなりがちです。

 この記事では、自分から捜査機関に出向くことにどのような意味があるのかを、条文と手続の仕組みから整理します。先にお伝えしておくと、自首が成立するかどうかは、申告する側では決められません。決まるのは、捜査機関がその時点で何をどこまで把握しているかという、本人からは見えない事情によってです。

この記事が前提としている場面

 次のような状況を想定しています。

  • 成人同士の間で起きた風俗店でのトラブルで、客側の立場にある。
  • まだ逮捕されておらず、警察からの呼び出しも受けていない。
  • 店やキャストから「警察に言う」と言われた、あるいは何も言われないまま連絡が途絶えている。


 すでに警察から呼び出しを受けている場合は、「自分から行くかどうか」ではなく「求められた出頭にどう応じるか」という別の問題になります。相手が18歳未満であった可能性がある場合や、すでに逮捕されている場合も、この記事の範囲を超えますので個別にご相談ください。なお、この記事は発覚を避ける方法を説明するものではありません。

「自首になるか」から考えると、順番が逆になる

 自分から行くべきか迷っている方の多くは、「自首になるなら行く、ならないなら行かない」という順序で考えています。しかし、自首の成否は捜査機関側の把握状況で決まるため、出向く前に確かめる手立てがほとんどありません。判断の順序としては、次の三つを先に整理するほうが現実的です。

  1. 自分の行為が、犯罪として問われうるものなのかどうか。
  2. その出来事について、相手や店がすでに警察へ届け出ている可能性がどの程度あるか。
  3. 出向いた先で、何をどこまで述べるつもりなのか。


 風俗店のルールに違反したことと、犯罪が成立することは同じではありません。一つ目の見立てが立たないまま出向くと、三つ目が決まらないまま取調べに臨むことになります。

自首とは何を指すのか


刑法42条1項の内容

 刑法42条1項は、罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができると定めています。「減軽することができる」という書き方であり、減軽するかどうかは裁判所の判断に委ねられています。自首が成立すれば刑が下がると決まっているわけではない、というところが出発点になります。

「発覚する前」とはどの段階か

 判例は、犯罪事実がまったく知られていない場合のほか、犯罪事実は知られていても犯人が誰であるかが分かっていない場合も含むとしています。一方で、犯罪事実も犯人も分かっていて、犯人の所在だけが分からない場合は含まれないとされています(最高裁昭和24年5月14日判決)。氏名までは判明していなくても、容ぼうその他の特徴から他の人と区別して特定できる状態であれば、犯人が分かっていないとはいえないと説明されています。

申告の中身も要件になる

 自首は、自分の犯罪事実を申告し、その処分を捜査機関に委ねる意思を示すものとされています。そのため、事実の一部を伏せた申告や、責任がないという趣旨の申告は、自首にあたらないと整理されています。風俗のトラブルでは同意があったかどうかが争点になることが多く、「行為はあったが同意はあった」という申告は、自首という形にはなじみにくいといえます。この場合は自首ではなく、事実関係を自分の側から説明するための出頭として考えることになります。

風俗の場面では「発覚」の判定が読みにくい

 風俗店でのトラブルには、当事者のほかに店という第三者が関わります。そのため、本人が思っているより早い段階で、人物の特定につながる材料がそろっていることがあります。

店側に残っていることがある情報人物の特定との関係本人から確認できるか
予約時の電話番号・会員登録の情報氏名や連絡先に直接つながるできない
身分証の提示や写しの控えそのまま人物の特定につながる控えの有無すら分からないことが多い
防犯カメラや入退店の記録容ぼうと日時の特定につながるできない
キャストや従業員の説明出来事の内容と人物像の特定につながるできない


 さらに、被害届や告訴が出ているかどうかを本人が確かめる方法は、基本的にありません。捜査機関は捜査の内容を疑われている側に説明しませんし、手続の経過を知らせる仕組みは被害を届け出た側に向けたものです。つまり、発覚しているかどうかを確かめてから決める、という進め方は現実には取りにくいということになります。

自首として受け付けられた後、何が動くのか

 自首は、書面または口頭で、検察官または司法警察員に対して行うものとされています(刑事訴訟法245条、241条1項)。口頭で申告した場合、捜査機関は調書を作らなければならないとされており(245条、241条2項)、これが自首調書と呼ばれるものです。

 あわせて、245条は、司法警察員が受けたときは速やかに関係する書類と証拠物を検察官に送付しなければならないという規定も準用しています(242条)。自首は「話を聞いてもらって終わり」という手続ではなく、事件として検察官に引き継がれることを前提にした仕組みだということです。

 警察内部の規則である犯罪捜査規範も、自首をする者があったときは管轄区域内の事件かどうかを問わず受理しなければならないとしたうえで(63条1項)、自首のあった事件の捜査では、当該犯罪または犯人がすでに発覚していたものでないかどうか、他に真犯人がいてそれを隠すためのものでないかどうか、自分が犯した別の犯罪を隠すためのものでないかどうかに注意しなければならないと定めています(68条)。自首として扱われるかどうかは、申し出た側の言い方ではなく、受け付けた側が確認したうえで判断される事柄だということが、ここからも分かります。

自首が成立した場合に変わること・変わらないこと

 自首が認められた場合でも、変わるのは主に「判断材料が一つ増える」という部分です。

  • 減軽は任意的なもので、認められるかどうかは事案全体を見たうえで判断される。
  • 起訴するかどうかは検察官が決める事柄であり、自首はその判断材料の一つにとどまる。
  • 逮捕するかどうかは、嫌疑とは別に逃亡や証拠隠滅のおそれという物差しで判断されるため、自首したことだけで決まるわけではない。
  • 店やキャストからの金銭の請求は民事の問題であり、自首によって消えるものではない。
  • 性犯罪にあたる類型は告訴がなくても起訴できるため、相手が許す意向であっても手続が自動的に終わるわけではない。


 逆に、自首の要件を満たさない場合でも、自分から出向いたという事実の意味がなくなるわけではありません。呼び出される前に自ら出向き、必要な説明をし、その後の手続にも応じているという経過は、身柄をどうするかや起訴するかどうかを判断する場面で考慮されることがあります。自首にならないなら行っても無駄、ということにはならないという点は、押さえておいてよいと思います。

出向くと決めた場合、行く前に整理しておくこと

 当日その場で考えることを減らしておくほど、説明の内容は安定します。

  1. どの出来事について、どこまでを事実として述べるのかを決めておく。
  2. 記憶が曖昧な部分を区別し、覚えていないことは覚えていないと述べる前提で整理する。
  3. 店とのやり取りや支払いの有無を、日付が分かる形で手元にまとめておく。
  4. 仕事や家族の予定について、当日戻れなかった場合の段取りを考えておく。
  5. 手元にある機器やデータを、自分の判断で処分したり初期化したりしない。


 最後の点は特に大切です。不利な材料を減らすつもりの行動が、証拠隠滅のおそれという評価につながることがあります。整理することと処分することは別だとお考えください。

出向かないという選択をした場合に残ること

 自分からは行かないという判断もあり得ます。ただしその場合も、何も起きていない状態が確定するわけではありません。届け出るかどうかは相手方の判断であり、後から手続が始まることもあります。また、店からの金銭の請求は刑事手続とは別に進みますので、そちらへの対応は残ります。時間の経過によって刑事責任が問われなくなる仕組み自体はありますが、これは待っていれば終わるという趣旨のものではありません。

弁護士に相談する意味と、その限界

 自首や出頭を検討している段階で弁護士に相談した場合、次のようなことができます。

  • 事実関係を伺ったうえで、自首として扱われる余地がある場面なのか、出頭として考えるべき場面なのかを見立てる。
  • 警察署に事前に連絡し、担当部署と日程を調整したうえで同行する。
  • 述べるべき範囲と、その場では答えを保留してよい範囲を事前に整理する。
  • 店や相手方との連絡窓口を引き受け、直接のやり取りを避ける。
  • 仮に身柄を取られた場合に、そのまま釈放に向けた対応につなげる。


 一方で、弁護士が同行しても逮捕されないことを約束できるものではありません。捜査機関がどう判断するかは、事案の内容や把握している事情によります。同行の意味は、判断そのものを動かすことにあるのではなく、こちらの事情を整理して伝える経路を作り、その後の手続に切れ目なく対応できる状態にしておくことにあります。

まとめ


  1. 自首が成立するかどうかは、捜査機関の把握状況で決まり、本人の側では確かめにくい。
  2. 「捜査機関に発覚する前」には、犯人が誰か分かっていない場合も含まれるが、所在だけが不明な場合は含まれない。
  3. 風俗のトラブルでは、店側に人物の特定につながる情報が残っていることが多い。
  4. 自首は受理されればそのまま事件として検察官へ引き継がれる仕組みであり、話を聞いて終わる手続ではない。
  5. 自首にあたらない場合でも、自ら出向いたという経過が考慮されることはある。
  6. 行くと決めた場合も、行かないと決めた場合も、手元の記録を自分の判断で処分しないことが前提になる。


 当事務所では、風俗店でのトラブルについて、初回無料でご相談をお受けしています。全国どこからでも24時間ご連絡いただけます。出頭や自首への同行にも対応しておりますので、ご自身で結論を出す前に、一度状況を整理する機会としてご利用ください。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

風俗・男女トラブルの不当要求から依頼者を守る弁護士

若井亮プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼