判決宣告後の身柄はどうなるか|実刑判決と保釈の失効

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

「実刑判決が出ると、その場で刑務所に連れて行かれる」と説明されることがあります。ただ、判決の宣告によって実際に起きているのは、刑の執行の開始ではなく、身柄を拘束する根拠の入れ替わりです。

 保釈されている被告人に拘禁刑以上の実刑判決が宣告されると、保釈はその効力を失います(法343条1項)。このとき動き出すのは、保釈によって止まっていた元の勾留です。刑の執行が始まるのは判決が確定した後であり、宣告の日から確定までの間の身柄は、裁判中の勾留として続きます。

 この記事では、判決の宣告後に身柄がどのように扱われるのかを、実刑判決と保釈の失効を中心に整理します。以下では、刑事訴訟法を「法」、刑事訴訟規則を「規則」と表記します。

この記事で扱うこと


  • 宣告によって保釈の効力がどうなり、何を根拠に身柄が拘束されるのか。
  • 判決の種類と、宣告時の身柄の状態によって、その日の扱いがどう分かれるのか。
  • 宣告の後に、改めて保釈を求める道がどのように残っているのか。
  • 納めた保釈保証金が、どの時点で戻る扱いになるのか。


 判決の日に法廷で行われる手続の全体像、判決が確定した後の収監の流れ、控訴すべきかどうかの判断材料は、それぞれ別の主題になります。ここでは身柄の扱いに絞って説明します。

宣告で失われるのは「保釈」であって勾留ではない

 法343条1項は、拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告があったときは、保釈または勾留の執行停止はその効力を失うと定めています。保釈は、勾留状そのものを取り消す制度ではなく、保証金を納めることで勾留の執行を止めておく制度です。そのため、保釈が失効すると、止まっていた元の勾留が表に戻ります

 同条2項前段は、新たに保釈または勾留の執行停止の決定がないときに限り、法98条を準用すると定めています。法98条1項は、勾留状の謄本などを被告人に示して刑事施設に収容する手続を定めた規定です。判決の日に法廷で身柄が拘束されるのは、この準用による収容の手続にあたります。改めて勾留の裁判がやり直されるわけではありません。

収容されても刑が始まったわけではない

 裁判は確定した後に執行されます(法471条)。宣告の日に収容されても、その時点ではまだ刑の執行は始まっておらず、身柄は未決の勾留として拘置所などで続きます。刑期の起算も、裁判が確定した日からです(刑法23条1項)。上訴の提起期間中の未決勾留の日数をどう扱うかには別の規定があるため、この点は弁護人に確認しておくと見通しが立てやすくなります。

判決の種類で身柄の根拠がどう変わるか


判決の内容身柄の根拠に起きること宣告の日の身柄
拘禁刑以上の実刑保釈・勾留の執行停止が失効する(法343条1項)収容の手続がとられる
刑の全部の執行猶予勾留状が効力を失う(法345条)その日に身柄が解かれる
罰金・科料勾留状が効力を失う(法345条)その日に身柄が解かれる
無罪・免訴・刑の免除など勾留状が効力を失う(法345条)その日に身柄が解かれる


 法345条は、無罪、免訴、刑の免除、刑の全部の執行猶予、公訴棄却(一部の場合を除きます)、罰金または科料の裁判の告知があったときは、勾留状が効力を失うと定めています。執行猶予付きの判決であれば、それまで勾留されていた場合でも、その日のうちに身柄は解かれることになります。

宣告時の身柄の状態で三つに分かれる


宣告時の身柄の状態実刑判決が宣告されたとき
勾留されたまま出廷している勾留がそのまま続き、拘置所などに戻ることになる
保釈されている保釈が失効し、法廷で収容の手続がとられる
在宅のまま出廷している失効する保釈がなく、その場で収容されるとは限らない


 同じ実刑判決でも、その日に何が起きるかは身柄の状態で変わります。「実刑イコールその場で収容」という説明は、勾留中または保釈中の場面を前提にしたものです。

保釈が失効したのに収容されていないとき

 判決の宣告によって保釈が失効したにもかかわらず、被告人が刑事施設に収容されていない場合があります。この場合、検察官は日時と場所を指定して出頭を命じることができます(法343条の2)。正当な理由なくこの命令に従わないときの罰則も設けられています(法343条の3)。いずれも令和5年の改正で加えられた規定です。

在宅のまま裁判を受けていた場合

 もともと勾留されていなかった場合は、失効する保釈がありません。宣告の日に収容の手続がとられるわけではなく、判決が確定した後に、検察官から刑の執行のための呼出しを受けることになります。確定した後の流れは別の主題になるため、ここでは立ち入りません。

宣告の後にもう一度保釈を求めることはできる

 保釈が失効しても、改めて保釈を請求する道は残っています。第一審の判決後に行うものを「再保釈」と呼ぶことがあります。ただし、判断の枠組みは判決前と同じではありません。

権利保釈の規定は適用されない

 拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告があった後は、請求があれば原則として保釈を許すことを定めた法89条は適用されません(法344条1項)。残るのは、裁判所の裁量による保釈です(法90条)。

令和5年の改正で加えられた要件

 法344条2項は、宣告後の裁量保釈について、身体の拘束が続くことで受ける不利益の程度が著しく高い場合でなければならないとしたうえで、ただし書で、逃亡するおそれの程度が高くないと認めるに足りる相当な理由があるときはこの限りでない、と定めています。これまでの判断の在り方を条文上明確にしたものと説明されています。

何を示していくことになるか

 裁量による判断である以上、請求書を出せば足りるというものではありません。第一審で保釈されていた期間に指定された条件を守って生活できていたか、日常的に監督できる家族がいるか、住まいと仕事がどうなっているか、判決までの間に被害弁償や通院などの取り組みを続けてきたかといった事情を、資料の形にして示していくことになります。判決の前から準備できるものが多い部分です。

どこに請求するのか

 上訴の提起期間内で、まだ上訴がされていない事件について保釈の判断をすべきときは、原裁判所が決定します(法97条1項)。上訴の申立て後は、訴訟記録がどこにあるかによって判断する裁判所が変わります。宣告の直後に請求するのか、控訴の申立てを済ませてから請求するのかで、書面の宛先が変わる点は確認しておきたいところです。

保釈保証金は判決の日に戻るわけではない

 保証金が還付される引き金は、判決が出たことそのものではなく、規則91条1項が定める出来事です。実刑判決の場合は、保釈が失効したことにより被告人が刑事施設に収容されたときが、その出来事にあたります(同項2号)。収容される前に新たな保釈の決定があって保証金が納付されたときは、前に納めた保証金を新しい保証金に充てることもできます(同項3号、同条2項)。

 一方で、判決の宣告を受けた後に逃亡した場合など、保証金を没取しなければならないと定められた場面もあります。金額の決まり方や没取の要件は、それ自体が別の主題になります。

控訴審でも同じことが起きる

 法343条は控訴審にも準用されます(法404条)。控訴が棄却されて実刑が維持された場合も、その時点で保釈は失効します。

 かつては、控訴審では被告人の出頭義務がないため判決の日に身柄が拘束されない、という説明がされることがありました。令和5年の改正により、控訴裁判所は、保釈または勾留の執行停止をされている被告人に対して判決を宣告する公判期日への出頭を命じなければならないとされ(法390条の2)、出頭しない場合には一定の判決を宣告できないという規定も設けられました(法402条の2)。控訴審の判決期日についても、第一審と同じ前提で準備しておくことになります。

 上告する場合も同じ構造で、訴訟記録が最高裁判所に届く前と後とで、保釈を請求する先が変わります。身柄が拘束されているかどうかは、打合せの取りやすさや、判決後に新たな資料を用意できるかどうかにも関わってきます。争う予定があるのであれば、宣告の日を境に何ができなくなるのかを先に把握しておくことになります。

宣告の後に及ぶもう一つの制限

 拘禁刑以上の実刑判決の宣告を受けた人は、裁判所の許可を受けなければ日本から出国することができないとされています(法342条の2)。2025年5月に始まった制度で、判決が確定する前の段階から及びます。出国の許可を請求する手続も定められており(法342条の3以下)、仕事や家族の事情で渡航の予定がある場合は、早めに弁護人に伝えておくことになります。

判決の日までに整えておきたいこと


  1. 実刑判決になった場合に備えて、その日から連絡がとりにくくなる前提で、職場や家族への伝え方を決めておく。
  2. 家賃や公共料金の支払い、携帯電話や預金口座の管理を、誰がどう引き継ぐのかを決めておく。
  3. 当日の持ち物は最小限にし、持ち帰ってもらうものと預ける先をあらかじめ決めておく。
  4. 改めて保釈を求めるかどうか、求める場合に用意できる資料と保証金の目処を弁護人と話しておく。
  5. 控訴の申立てを含め、宣告の日から動き出す期限について弁護人と確認しておく。


 いずれも、宣告の後では動きにくくなることばかりです。判決の日までに決めておくほど、当日の負担は小さくなります。

誤解されやすい点


  • 実刑判決の宣告で刑の執行が始まるわけではなく、執行は判決が確定した後です。
  • 保釈が失効しても勾留状まで消えるわけではなく、身柄の根拠は元の勾留に戻ります。
  • 執行猶予付きの判決であれば、勾留されていた場合でもその日に身柄は解かれます。
  • 判決の後でも保釈を求めることはできますが、判断の枠組みは判決前と同じではありません。
  • 保釈保証金は判決の日に自動的に戻るのではなく、還付は収容などの出来事に連動します。


まとめ


  • 拘禁刑以上の実刑判決が宣告されると、保釈と勾留の執行停止は効力を失います(法343条1項)。
  • 失効すると元の勾留が働き、法98条を準用した手続によって収容されます(法343条2項前段)。
  • 刑の執行が始まるのは判決の確定後で、宣告後の身柄は裁判中の勾留として続きます(法471条)。
  • 執行猶予・罰金・無罪などの場合は勾留状が効力を失い、その日に身柄が解かれます(法345条)。
  • 保釈が失効しても収容されていないときは、検察官が出頭を命じることができます(法343条の2)。
  • 宣告後の保釈は裁量によるものに限られ、法344条2項の枠組みで判断されます。
  • 保証金の還付は、判決ではなく収容などの出来事に連動します(規則91条1項)。


判決を控えている段階でのご相談

 判決の日にどのような扱いになるのかは、判決の内容と、その時点での身柄の状態によって変わります。実刑の可能性がある事件では、宣告の後に何をどの順番で進めるのかを判決の前に組み立てておくことが、当日の混乱を減らすことにつながります。

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、池袋・新橋の各事務所で刑事事件のご相談をお受けしています。判決を控えている段階でも、宣告後の身柄の見通しや、改めて保釈を求める場合の準備についてご相談いただけます。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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