置き引きは窃盗か占有離脱物横領か|駅・カフェ・空港での荷物
事件のことで警察から連絡が来た。そのとき、とっさに手元のデータを消してしまった。あるいは、その場に一緒にいた人と「こう話しておこう」と取り決めてしまった。そうしたご相談は少なくありません。多くの方がまず気にされるのは、「それ自体が証拠隠滅という罪になるのではないか」という点です。
もっとも、この問いは一つの答えでは片づきません。物を消す行為と、人の話をそろえる行為とでは、そもそも問題になる条文が違うからです。そして、罪になるかどうかという話とは別に、身柄の扱いと量刑にどう響くかという、もう一つの軸があります。
本記事は、この点を切り分けて整理するものです。なお、証拠を消す方法や、話をうまく合わせる方法を扱うものではありません。すでにしてしまった方が、ここから先に何をしないほうがよいかを考えるための記事としてお読みください。
「消した」と「話を合わせた」は、別の条文で扱われる
物を消した場合に問題になるのは刑法百四条
証拠隠滅等罪は、刑法百四条に定めがあります。他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、変造し、または偽造・変造した証拠を使用した者を、三年以下の拘禁刑または三十万円以下の罰金に処するという内容です。
条文が「他人の」と限っているため、自分の事件の証拠を自分で消した場合は、この罪にはあたらないと解されています。人に頼んで消させた場合や、頼まれて消した側の立場については、別のコラム「撮影データを消してしまった|証拠隠滅と復元の実際」で整理していますので、本記事では深入りしません。
話を合わせた場合に先に問題になるのは刑法百三条
これに対して、口裏合わせは、まず犯人蔵匿等罪(刑法百三条)の「隠避」にあたるかどうかという形で検討されます。同条は、罰金以上の刑にあたる罪を犯した者や拘禁中に逃走した者を蔵匿し、または隠避させた者を、三年以下の拘禁刑または三十万円以下の罰金に処すると定めています。隠避とは、かくまう行為以外の方法によって、発見や身柄の拘束を免れさせる性質の行為を広く指すものと理解されています。
最高裁は、交通事故の事案について、犯人の車両が盗まれたことにするという内容の口裏合わせをしたうえで、参考人として警察官に虚偽の供述をした行為を、身柄の拘束を免れさせるような性質の行為と認め、隠避にあたると判断しました(最高裁平成二十九年三月二十七日決定)。ここで見落とせないのは、口裏合わせをしたという事実そのものが、その供述を隠避と評価するための重要な手がかりとされていることです。同じ内容を口にしても、事前の取り決めがあったかどうかで、見え方が変わり得ます。
| 行為の型 | 主に問題になる条文 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 他人の事件の証拠を消す・作り替える | 刑法百四条(証拠隠滅等) | 三年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金 |
| 犯人をかばう口裏合わせと虚偽の供述 | 刑法百三条(犯人蔵匿等) | 三年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金 |
| 関係者に面会を強請する・強談威迫する | 刑法百五条の二(証人等威迫) | 二年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金 |
| 宣誓した証人が法廷で虚偽の陳述をする | 刑法百六十九条(偽証) | 三月以上十年以下の拘禁刑 |
参考人として嘘を述べること自体は、証拠隠滅にはあたらないとされている
供述が調書になっただけでは足りない
「話を合わせて警察に説明したのだから、証拠を作ったことになるのではないか」という疑問は自然なものです。この点について最高裁は、他人の刑事事件に関し、被疑者以外の人が参考人として取調べを受けた際に虚偽の供述をしたとしても、刑法百四条の証拠を偽造した罪にはあたらないとしています。さらに、その虚偽の供述内容が供述調書に録取されるなどして書面に記録された場合であっても、そのことだけをもって同罪にあたるということはできない、とも述べています(最高裁平成二十八年三月三十一日決定)。
現行の刑法が、宣誓した証人の偽証を除いて、虚偽の供述そのものを処罰の対象としていないことが、その背景にあります。
「話す」ことと「作る」ことの境目
もっとも、同じ決定は、その事案で作成された書面については証拠偽造罪の成立を認めています。参考人の供述調書という形式をとってはいるものの、その実質は、関係者が相談しながら架空の事実についての虚偽の内容を創作し、具体化させて書面にしたものであり、虚偽の内容が記載された証拠を新たに作り出したといえる、という理由です。
つまり、受け身で虚偽を述べたにとどまるのか、内容を作り込んで書面という形にまで持っていったのかが分かれ目になります。自分で上申書や陳述書を作成して提出した場合について、証拠偽造にあたると判断した裁判例もあります(東京高等裁判所昭和四十年三月二十九日判決)。「口で話しただけなら問題にならない」という理解は、この境目を見落とさせます。
頼んだ側、頼まれた側、そして関係者への働きかけ
自分の事件でも成立する罪がある
百四条が「他人の」事件に限られているのに対し、条文の作りが異なる罪があります。証人等威迫罪(刑法百五条の二)です。同条は、自己もしくは他人の刑事事件の捜査もしくは審判に必要な知識を有すると認められる者、またはその親族に対し、当該事件に関して、正当な理由がないのに面会を強請し、または強談威迫の行為をした者を、二年以下の拘禁刑または三十万円以下の罰金に処すると定めています。
自分の事件についても成立し得ること、対象が法廷に立つ証人に限られず、事情を知っている人やその親族にまで及ぶことが特徴です。また「威迫」は面と向かってのやり取りに限られず、不安や困惑の念を生じさせる文言を記載した文書を送付し、その内容を相手に知らせる方法による場合も含まれるとされています(最高裁平成十九年十一月十三日決定)。
示談の話をしたい、事実関係を確かめたいという気持ちから、被害者や目撃者に直接連絡を取る方は少なくありません。しかし、受け取る側から見れば、それは供述への働きかけと映ることがあります。連絡は弁護人を通す形にしておくほうが、後から経緯を説明しやすくなります。
頼んだ側が不問になるわけではない
自分をかくまわせたり、自分について虚偽の説明をさせたりすることを他人にそそのかした場合について、判例は、犯人蔵匿等罪の教唆犯が成立するという立場をとってきました(最高裁昭和四十年二月二十六日決定など)。自分で行えば処罰されない行為であっても、他人を巻き込んだ時点で防御の範囲を超えると評価される、という考え方です。学説には批判もありますが、実務の前提になるのは判例の立場です。
親族であっても刑の免除は裁量にとどまる
刑法百五条は、犯人蔵匿等罪と証拠隠滅等罪について、犯人の親族がその利益のために犯したときは刑を免除することができると定めています。これは罪が成立しないという意味ではなく、成立を前提として、裁判所の判断で刑を免除する余地を認めたものです。免除されるとは限りませんし、証人等威迫罪はこの規定の対象にも含まれていません。
量刑にはどう効いてくるのか
刑の重さの枠は犯情で決まる
量刑については、当該の犯罪行為にふさわしい責任を明らかにすることがその本質的な任務であり、法益侵害の程度や行為の悪質性、意思決定に対する非難の程度といった犯情の評価によって刑の重さが測られる、という整理が広く共有されています。反省の程度や更生の見込みといった一般情状は、犯情によって定まる範囲の中での調整要素として位置づけられます。
証拠を消した、話を合わせたという事情は、犯行そのものの態様ではなく、犯行後の事情です。したがって、それがあるだけで刑が一段階跳ね上がるという単純な関係にはありません。もっとも、反省の程度をどう見るかという評価に直結するため、刑を軽くする方向の事情を打ち消してしまう働きをします。示談が成立していることや、前科がないことの評価が、その分だけ届きにくくなるということです。
別の罪が成立すれば、枠そのものが動く
これに対し、口裏合わせや証拠の処分について別に罪が成立すると認められた場合は、話が変わります。元の事件とあわせて併合罪として処理され(刑法四十五条)、有期の拘禁刑については、重いほうの罪の刑の長期にその二分の一を加えたものが上限となります(同法四十七条)。一般情状の調整ではなく、刑を決める枠そのものが動くということです。
執行猶予についても、三年以下の拘禁刑などの言渡しを受けた場合に、情状により猶予することができるとされています(同法二十五条一項)。犯行後にどう振る舞ったかは、この情状を判断する材料の一つになります。
量刑より先に効いてくるのは、身柄と説明の信用性
接見等禁止と保釈の判断
実務では、量刑よりもかなり早い段階で影響が表れます。裁判所は、逃亡し、または罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときは、勾留されている人と弁護人以外の者との接見を禁じることができるとされています(刑事訴訟法八十一条)。関係者と話を合わせたやり取りが残っていれば、この判断に直接効いてきます。
起訴後の保釈でも、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときが除外事由とされているほか(同法八十九条四号)、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者もしくはその親族に害を加え、またはこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるときも、別の除外事由として挙げられています(同条五号)。関係者への働きかけは、この二つのいずれにも触れ得ます。
説明が食い違ったときに失うもの
もう一つは、供述の信用性です。話を合わせた場合、通信の記録や移動の記録、他の関係者の説明と、どこかで食い違いが生じることがあります。いったん食い違いが表面化すると、その後に述べる本当のことまで、同じ疑いの目で見られることになります。有利な事情を主張したい場面で、この影響は小さくありません。
なお、言いたくないことを言わないことと、事実と違うことを述べることは、まったく別の選択です。前者は権利として保障されていますが、後者にはこうした不利益が伴います。
すでに話を合わせてしまった場合に考えること
取り決めをしてしまったこと自体は、もう戻せません。ここから先の対応のほうが結果に効いてきます。次のような整理が出発点になります。
・いつ、誰と、どのような内容を取り決めたのかを、時系列で書き出しておく。
・その取り決めに沿って、すでにどこまで話してしまったのかを確認する。
・取り決めをした相手に、あらためて連絡を取らない。
・訂正するかどうか、どの順序で行うかは、弁護人と相談してから決める。
・やり取りの記録を、これ以上消さない。
訂正には副作用もあります。説明が変わったこと自体が、その理由を問われる材料になるためです。だからこそ、自己判断で動く前に、事実関係を把握している弁護人と手順を決めておくことに意味があります。
控えたほうがよい対応
次のような行動は、状況をかえって説明しにくいものにします。
・関係者に連絡し、話の内容をそろえ直そうとする。
・被害者や目撃者に直接連絡を取る。
・やり取りの履歴や端末の内容を、追加で消す。
・記憶が曖昧な部分を、断定的な形で述べる。
・家族や知人に、代わりに連絡を取ってもらう。
最後の点について補足します。頼まれた側は、他人の事件について動くことになるため、頼んだ本人よりも重い立場に立たされることがあります。善意から出た行動であっても、その構造は変わりません。
弁護士に伝えておきたいこと
話しにくい部分ではありますが、伏せたまま方針を立てると、後から出てきた記録と食い違い、かえって不利になります。次の点は早めにお伝えください。
・誰と、いつ、どのような内容の取り決めをしたか。
・その取り決めが、どのような形で記録に残っているか。
・すでに捜査機関に話した内容と、その時期。
・関係者から連絡が来ていないか、こちらから連絡していないか。
・消したもの、処分したものがあるか。
まとめ
・物を消す行為は刑法百四条、口裏合わせは刑法百三条というように、まず問題になる条文が異なる。
・参考人として虚偽の供述をすること自体は証拠隠滅等罪にあたらないとされるが、口裏合わせを伴う虚偽の供述は隠避と評価され得る。
・虚偽の内容を作り込んで書面という形にした場合には、証拠偽造にあたると判断されることがある。
・証人等威迫罪は自分の事件についても成立し、文書を送付する方法も含まれるとされている。
・量刑では犯情が刑の枠を決め、犯行後の事情は原則としてその枠内の調整要素にとどまるが、別罪が成立すれば枠そのものが動く。
・量刑より先に、接見等禁止や保釈の判断、そして説明の信用性という形で影響が出る。
・すでにしてしまった場合は、そこからさらに手を加えず、事実を整理したうえで早めに相談する。
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