家庭内で手が出た|家族間の暴行・傷害とDV法の関係
「もう何年も前のことなのに、いまになって警察から連絡が来た」「あのときのことは、まだ問題になるのだろうか」。暴行や傷害の場面をめぐって、こうしたご相談をいただくことがあります。
公訴時効という制度があること自体はご存じでも、いざご自身の件となると、いつから数えるのか、いつまで残るのか、そしてなぜ「いま」なのかが分かりにくいところです。
この記事では、暴行罪・傷害罪の公訴時効について、年数そのものよりも、時計の読み方と、時間が経ってから捜査が動き出す理由に重点を置いて整理します。
公訴時効は「なかったことになる」制度ではない
公訴時効は、検察官が起訴できる期間を区切る制度です。期間が経過した後に起訴がされた場合、裁判所は事件の中身に立ち入らず、免訴の判決を言い渡すことになっています(刑事訴訟法337条4号)。
ここで押さえておきたいのは、免訴は無罪とは違うということです。「やっていない」と判断された結果ではなく、「もう手続を進められない」という理由で打ち切られる形になります。
また、捜査の段階で期間の経過が確認された場合には、不起訴処分という形で終わります。検察の内部規程である事件事務規程には不起訴の理由の区分が並んでおり、その一つに「時効完成」という区分が置かれています(同規程75条2項)。時間が経てば静かに消えていくというより、手続上の形が用意されている、と考えていただくとイメージが近いかもしれません。
暴行罪は3年、傷害罪は10年
公訴時効の長さは、その罪の法定刑の上限を基準に決まります(刑事訴訟法250条2項)。暴行罪と傷害罪では、次のように分かれます。
| 項目 | 暴行罪 | 傷害罪 |
|---|---|---|
| 結果 | 暴行を加えたが、けがの結果は生じていない | 暴行を加え、けがの結果が生じた |
| 法定刑 | 2年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料 | 15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
| 公訴時効 | 3年 | 10年 |
| 根拠 | 刑事訴訟法250条2項6号 | 刑事訴訟法250条2項3号 |
なお、2025年6月1日施行の法改正により、従来の「懲役」と「禁錮」は「拘禁刑」に一本化されています。インターネット上には旧表記のままの説明も残っていますが、条文としては同じものを指しています。
年数の一覧や、起算点・停止事由の基本的な解説は、当事務所の別のコラムでも扱っています。この記事では、そこから一歩進んだ「時間差」の話に絞ります。
時効期間の数え方は、ふつうの期間計算と違う
ご自身で日数を数えたときに、条文どおりの計算とわずかにずれることがあります。理由の一つが、時効期間に用意された例外です。
刑事訴訟法では、日・月・年で計算する期間は初日を算入しないのが原則ですが、時効期間についてはただし書があり、初日を1日として数えます(同法55条1項)。行為が終わった日の時刻を問わず、その日が1日目になるという意味です。
もう一つ、期間の末日が土日や祝日などに当たる場合、通常はその日を期間に算入しない扱いになりますが、時効期間についてはこの例外が適用されません(同条3項)。末日が休日であっても、その日で期間は満了します。
いずれも被疑者・被告人の側に配慮した定めですが、「自分の計算では過ぎているはず」という感覚と実際の日付とがずれる原因にもなります。
起算点は「その日」とは限らない
公訴時効は、犯罪行為が終わった時から進行します(刑事訴訟法253条1項)。ここでいう「終わった時」は、手を出した瞬間とは限りません。
傷害罪はけがという結果が生じて成立する罪ですので、結果が生じた時点が基準になると考えられています。その場では何も見当たらなかったとしても、後になって結果が確認された場合には、時計の始まり方も変わり得ます。
また、複数人が関与した事件では、最後の行為が終わった時から、関与した全員について期間を起算すると定められています(同条2項)。ご自身の関与が早い段階で終わっていても、別の人の行為が続いていれば、時計はそこから動き出すことになります。
このように、起算点は「自分が手を出した日」と一致しないことがあります。
進行が止まっている期間がある
時効の進行は、一定の場合に停止します。停止している間は期間が進まず、その事情がなくなればそこから再開します。
条文が定めているのは、大きく次の場面です。
・公訴が提起された場合(刑事訴訟法254条1項)
・共犯者の一人に対して公訴が提起された場合(同条2項)
・犯人が国外にいる場合(同法255条1項)
・犯人が逃げ隠れているため、起訴状の謄本の送達や略式命令の告知が有効にできなかった場合(同項)
国外にいた期間の扱い
国外にいる場合について、最高裁は、一時的な海外渡航による場合であっても時効の進行は停止すると判断しています(最決平成21年10月20日)。海外への逃亡に限られる話ではなく、出張や旅行、留学といった事情でも同じ扱いになるという理解です。
さらに古い判例では、国外にいる場合は捜査機関が犯罪の発生やその犯人を知っていたかどうかを問わず進行が停止する、という考え方が示されています(最判昭和37年9月18日)。「気づかれていなかったのだから、その間も時間は進んでいたはずだ」という感覚とは、結論が異なることになります。
一方で、時効を止めないものもある
誤解されやすいところですが、被害届が出されたことや、告訴がされたこと、逮捕・勾留がされたこと自体では、公訴時効は停止しません。停止するのは、先ほど挙げた場面に限られます。
これは、読み手の立場から見ると二つの意味を持ちます。一つは、申告がされてから時間が経っていても、期間の長さそのものは変わらないということ。もう一つは、捜査機関の側から見れば、期間内に処理を進める必要があるということです。時効が近づいた事件で動きが出ることがあるのは、この構造によるところがあります。
時間が経ってから捜査が動き出す主な経路
「なぜ今なのか」という疑問の答えは、多くの場合、期間の残り方ではなく、事件が捜査機関の目に触れた時期にあります。実務上は、次のような経路が考えられます。
・当時は申告がなく、後になって被害届や告訴が出された
・その場では確認されなかったけがについて、後日に診断書が提出され、扱いが変わった
・別の事件の捜査や、関係者の説明の中で過去のできごとが出てきた
・当事者間のやり取りや民事のトラブルが先行し、その過程で申告に至った
・同じ相手との間で新たな出来事があり、過去の経緯もあわせて申告された
被害の届出については、警察官は管轄区域の事件かどうかを問わず受理しなければならないと定められています(犯罪捜査規範61条1項)。告訴についても同様の受理の定めがあり(同規範63条1項)、告訴を受けた司法警察員は、書類や証拠物を速やかに検察官に送付することとされています(刑事訴訟法242条)。時間が経ってからの申告であっても、入口が閉じているわけではないということです。
連絡の来方は一通りではない
時間が経った事件では、いきなり逮捕という形になるとは限りません。電話での問い合わせ、出頭を求める連絡、自宅への訪問など、形はさまざまです。
連絡の形から処分の重さを読み取ることは難しく、逆に、連絡がないことが終わりを意味するわけでもありません。この点は、身柄の拘束を伴わないまま進む事件の見えにくさと共通する部分があります。
時間が経った事件の捜査は、何が違うのか
年数の経過は、証拠の残り方に影響します。防犯カメラの映像や通信の記録には保存期間があり、その場にいた人の記憶も薄れていきます。診断書や写真のように残るものがある一方で、失われているものも出てきます。
その結果、当事者や関係者の説明、つまり供述の比重が相対的に大きくなりやすい、という特徴があります。
ここで気をつけたいのは、記憶があいまいなまま、聞かれた筋書きに沿って輪郭を埋めてしまうことです。覚えている部分とそうでない部分は、分けて伝えるほうが、後から見ても整理された記録になります。調書については、内容を確認し、違うところがあれば増減変更を申し立てることができるとされています(刑事訴訟法198条4項)。署名押印の前に、時間をかけて読むことができる場面です。
時間の経過は、処分の判断にどう関わるか
検察官は、起訴するかどうかを判断するにあたり、犯人の性格・年齢・境遇、犯罪の軽重や情状に加えて、「犯罪後の情況」を考慮することができるとされています(刑事訴訟法248条)。事件後の生活の状況や、被害を受けた方との間の解決の有無などが、ここに入ってきます。
時間が経っていること自体は、有利にも不利にも働き得る、というのが実際に近い言い方です。その間に生活が落ち着いていたという事情もあれば、被害を受けた側の状況が長く続いていたという事情もあります。「時間が経ったから軽くなる」と一方向に考えられるものではありません。
なお、時効の完成が近いことが、処分を軽くする事情として扱われるわけではありません。
刑事と民事では、別の時計が動いている
公訴時効とは別に、被害を受けた方からの損害賠償請求についても期間の定めがあります。不法行為による損害賠償請求権は、損害および加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年で時効によって消滅するとされ(民法724条)、人の生命または身体を害する不法行為については、前者が5年に読み替えられます(同法724条の2)。
起算点が「知った時」である以上、刑事の時計とは進み方が一致しません。刑事の期間が経過していても、民事の請求が残っている場面はあり得ますし、その逆もあり得ます。
また、民事の時効には更新という仕組みがあり、権利の承認があったときは、その時から新たに進行を始めるとされています(同法152条1項)。相手方への連絡や支払いの申し出がこの承認にあたるかどうかは、内容によって評価が分かれるところです。示談を検討される際には、この点もあわせて確認しておくと安心です。
自分で「もう過ぎている」と判断しにくい理由
ここまで見てきたとおり、期間の計算にはいくつもの変数が絡みます。整理すると、次のような点です。
・どの罪名を前提に数えるのか(結果の有無で3年と10年が入れ替わる)
・起算点をいつと見るのか(行為の日か、結果が生じた時か)
・関与した人が複数いるか(最後の行為が基準になる)
・停止していた期間があるか(国外にいた期間を含む)
・数え方の例外を織り込んでいるか(初日算入・末日が休日でも算入)
これらは、どれか一つのずれで結論が変わり得るものです。ご自身の記憶だけで「もう過ぎている」と結論づけるのは、難しい部分があります。
連絡が来たとき、来ていないときに考えたいこと
この記事は、時効の完成を待つことをおすすめするものではありません。待つという選択には、その間ずっと不確かさを抱え続けるという負担が伴いますし、状況が動いたときに手元の材料が減っているという問題もあります。
そのうえで、避けておきたい対応として、次のようなものが挙げられます。
・相手方に直接連絡を取り、申告を取りやめるよう求めること
・当時のやり取りの記録を消したり、書き換えたりすること
・記憶があいまいな部分を、思い出したことにして説明すること
・急かされるまま、内容を確認しないで書面に署名すること
連絡が来ている場合は、いつ・どこから・どういう名目で来たのかを控えておくと、その後の整理がしやすくなります。連絡が来ていない場合でも、当時の状況やご自身が覚えていることを早い段階で書き出しておくことには意味があります。時間が経つほど、思い出せる範囲は狭くなっていくためです。
よくあるご質問
被害届が出ているかどうかを確認できますか
捜査に関する情報ですので、ご本人からの問い合わせに対して捜査機関が回答することは、通常は想定しにくいところです。弁護士が代理人として連絡や照会を行うことで状況の一部が分かる場合はありますが、いつでも把握できるというものではありません。
何年も前のことで、記憶がはっきりしません
覚えていないことを覚えていないと述べること自体が、それだけで不利益な扱いにつながるものではありません。むしろ、あいまいな部分を埋めた説明が記録に残るほうが、後から食い違いを生みやすくなります。覚えている範囲とそうでない範囲を分けて伝えることが出発点になります。
事件当時、未成年でした。期間は変わりますか
公訴時効の期間そのものは、成人か未成年かで変わるものではありません。ただし、当時の年齢によって、適用される手続の枠組みが異なってきます。行為の時に14歳未満であった場合には、刑事責任を問われないとされています(刑法41条)。個別の事情によって扱いが変わりますので、年齢と時期を整理したうえでご確認ください。
まとめ
暴行・傷害の公訴時効について、この記事で整理したことをまとめます。
・公訴時効は期間の経過により起訴ができなくなる制度であり、無罪とは意味が異なる
・暴行罪は3年、傷害罪は10年(刑事訴訟法250条2項)
・時効期間は初日を算入し、末日が休日でも算入する(同法55条1項ただし書・3項ただし書)
・起算点は行為の日と一致しないことがあり、関与者が複数いれば最後の行為が基準になる(同法253条)
・国外にいた期間は、一時的な渡航であっても進行が停止する(同法255条1項、最決平成21年10月20日)
・被害届や告訴、逮捕そのものでは時効は停止しない
・時間が経ってからの捜査は、申告や発覚の時期によって生じるもので、期間の残り方とは別の問題
・刑事と民事では別の時計が動いており、期間の考え方も異なる
時間が経った事件は、当時の記録が減り、説明の比重が大きくなる分、整理の仕方によって見え方が変わりやすい領域です。ご自身の件がどの段階にあるのか分からないという場合は、早めに弁護士へご相談ください。


