風俗トラブルで店の「顧問弁護士」が出てきた|客側がまず確認すべきこと
風俗店やメンズエステを利用したあと、しばらく経ってから見知らぬ番号で着信があり、折り返すと「○○警察署の者ですが、少しお話を伺いたい」と言われる——。このとき多くの方が最初に思うのは、「行かなければいけないのか」「行ったらそのまま逮捕されるのか」ということではないでしょうか。
呼び出しの電話は、それ自体が処分ではありません。ただ、ここでの対応の仕方が、その後に在宅で手続きが進むのか、身柄を拘束される方向に傾くのかを分ける場面になり得ます。
この記事では、電話を受けてから出頭日までの数日間に絞って、任意同行・任意出頭という手続の法的な意味と、その間にできること・避けたほうがよいことを整理します。取調室に入ってからの受け答えや供述調書への向き合い方、示談金の金額の考え方については、それぞれ別の記事で詳しく扱っていますので、必要に応じてそちらもご覧ください。
1. 「警察からの呼び出し」には、性質の違うものがある
同じ「署に来てください」でも、法律上の位置づけは同じではありません。まず、自分がどれに当たるのかを見極めることが出発点になります。
(1) 被疑者としての出頭要請
罪を犯した疑いをかけられている人に対して、捜査機関が出頭を求めるものです(刑事訴訟法198条1項)。風俗の事案では、施術中の身体接触、本番行為、撮影などについて被害の申告があったケースがこれに当たります。
(2) 参考人としての出頭要請
被疑者以外の関係者から事情を聴くためのものです(同法223条1項)。店舗そのものが摘発され、利用客に順次連絡が回ってくる場合は、多くがここから始まります。
(3) 現場での任意同行
その場で声をかけられ、署への同行を求められるものです。職務質問に伴うもの(警察官職務執行法2条2項)と、被疑者の出頭を確保するためのもの(刑事訴訟法198条1項)があります。
(4) 逮捕状に基づく逮捕
これは「任意」ではありません。裁判官の発する令状によって、身体の拘束が強制的に行われます。
電話を受けた段階では、まず次の点を落ち着いて確認してください。
- 警察署名・部署名・担当者の氏名
- 自分は被疑者として呼ばれているのか、参考人として呼ばれているのか
- どの件について聞きたいのか
- 日時・場所・おおよその所要時間・持ち物
その場で即答する必要はありません。「予定を確認して折り返します」と伝えて、いったん電話を切ってかまいません。なお、警察を名乗る詐欺の電話も現に存在します。不安があれば、かかってきた番号にそのまま折り返すのではなく、警察署の代表番号を自分で調べてかけ直し、担当者に取り次いでもらうのが確実です。
2. 「任意」の意味と、その限界
任意出頭・任意同行の「任意」には、法律上はっきりした意味があります。
刑事訴訟法198条1項ただし書は、逮捕・勾留されている場合を除き、被疑者は出頭を拒むことができ、また出頭した後もいつでも退去できると定めています。参考人についても、同法223条2項でこの規定が準用されており、同じことが当てはまります。
つまり、令状がない以上、署へ行くことも、その場にとどまることも、強制はされません。取調べの途中で「今日はここまでにさせてください」と申し出て帰ることも、法律上は可能です。
ただし、ここを取り違えないでいただきたいのは、「拒める」ことと「無視してよい」ことは別だという点です。
逮捕は、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由に加えて、逃亡や証拠隠滅のおそれがあるかどうかで判断されます(刑事訴訟法199条2項ただし書、刑事訴訟規則143条の3)。連絡を無視し続ける、着信を拒否する、連絡が取れない状態が続く——こうした事情は、まさにこの「おそれ」の評価に直結し得ます。任意の要請に応じないことが、結果として身体拘束を招く方向に働くことは、現実にあります。
仕事の都合などで指定された日に行けないのであれば、その旨を伝えて日程を調整すること自体は、ごく普通に行われています。無言で応じないことと、事情を説明して調整することは、まったく違う意味を持ちます。
3. 任意同行が「実質的な逮捕」と評価される場合
任意である以上、捜査機関は強制的な手段を用いることはできません。最高裁は、令状によらない捜査において許されない「強制手段」を、個人の意思を制圧し、身体・住居・財産などに制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為である、という趣旨で示しています(最高裁昭和51年3月16日決定)。
さらに、強制手段に当たらない任意の取調べであっても、無制限に許されるわけではありません。事案の性質、嫌疑の程度、本人の態度などの事情を踏まえ、社会通念上相当と認められる方法・態様・限度でなければならない、というのが判例の考え方です(最高裁昭和59年2月29日決定)。
したがって、断ることが事実上できないような態様で連行された場合には、形式上は「任意同行」でも、実質的には逮捕と評価され、違法とされることがあり得ます。
もっとも、その場で押し問答をしたり、実力で振り切ろうとしたりするのは避けてください。かえって別の問題(公務執行妨害など)を生みかねません。現実的な対応は、「弁護士に連絡を取りたい」と明確に申し出ること、そして、いつ・どこで・どのようなやり取りがあったのかを、後から思い出せる形で記録しておくことです。
4. 風俗の事案で特に気をつけたい4つの点
(1) 店の「警察に行く」と、警察が実際に動くことは別
店側から「通報されたくなければ誠意を見せろ」といった形で金銭を求められている段階と、捜査機関が現に動いている段階は、まったく別のものです。通報をほのめかしながら金銭を要求する言動は、その内容によっては脅迫罪や恐喝罪の問題になり得ます。この点は不当要求への対応の問題として、別記事で扱っています。
(2) 店に支払っていても、被害者本人との関係は別に残る
店に「罰金」「違約金」などの名目で支払いを済ませていても、それによって被害を申告した本人との間で示談が成立したことにはなりません。後から本人が改めて被害を申告することは現実にあり、警察からの連絡はその流れで来ることもあります。
(3) 参考人として呼ばれた場合の注意
参考人の取調べでは、被疑者の場合と違い、供述を拒める旨の告知は法律上の義務とされていません(刑事訴訟法223条2項は、同法198条2項を準用していません)。もっとも、自己に不利益な供述を強要されないという保障(憲法38条1項)は、誰に対しても及びます。
また、店の摘発をきっかけに参考人として話を聴かれているうちに、聴取の内容から容疑が向けられ、被疑者として扱われるようになることもあります。「参考人だから」と気を緩めない姿勢は必要です。
(4) 相手の年齢が18歳未満だった可能性がある場合
この場合は、成人どうしの事案とは別のレイヤーの問題になります。自己判断は避け、早い段階で弁護士に事実関係を伝えてください。
5. 出頭日までにやっておきたいこと/避けたいこと
やっておきたいこと
- 記憶が鮮明なうちに、時系列で事実を書き出す(日時、場所、店名、やり取りの流れ、金銭の授受の有無)。あいまいな部分は「あいまいだ」と書いておくことが大切です。
- 手元の記録を消さずに保存する。予約メール、LINE、決済履歴、移動履歴などは、自分に有利にも不利にもなり得ますが、消せば別の問題を招きます。
- 勤務先の休みの取り方を現実的に考えておく。所要時間は事案により幅があります。
- 出頭日より前に弁護士に相談する。出頭当日になってから探しても間に合いません。
避けたいこと
- 着信を無視する、着信拒否をする、連絡が取れない状態にする
- 画像・メッセージ・アプリの履歴などを削除する(証拠隠滅と評価され得ます)
- 相手方本人や店に直接連絡を取り、謝罪や交渉を試みる
- SNSや掲示板に事情を書き込む
- 記憶があいまいなまま、断定的に「やっていない」「やった」と言い切る
6. 出頭当日について
当日は、事情の聴取と、内容を書面にまとめる作業が中心になります。供述調書は、いったん署名押印すると後から覆すのが難しく、内容に食い違いがあれば訂正を求めることができ、納得できなければ署名押印を断ることもできます(刑事訴訟法198条4項・5項)。この点は取調べ対応の記事で詳しく解説しています。
なお、日本の実務では、取調室への弁護士の同席は原則として認められていません。ただし、任意の聴取であれば、先ほど述べた198条1項ただし書により、途中で席を外して弁護士に連絡を取ることは可能です。弁護士に署の近くで待機してもらう形をとることもあります。
7. まとめ
- 警察からの呼び出しには、被疑者としての出頭要請、参考人としての出頭要請、現場での任意同行、逮捕状による逮捕があり、法的な意味が違います。
- 任意の出頭は拒むことができ、出頭後もいつでも退去できます(刑事訴訟法198条1項ただし書、参考人は223条2項で準用)。
- 一方で、連絡を無視し続けることは、逃亡や証拠隠滅のおそれの評価に影響し、身体拘束につながり得ます。応じられない事情があるなら、伝えて調整するのが現実的です。
- 電話を受けてから出頭日までの数日間に、事実の整理と方針の確認をどこまでできるかが、その後を左右します。
不安を抱えたまま一人で出頭日を迎えるより、事実関係を整理したうえで臨むほうが、結果としてご本人の負担は小さくなります。当事務所では、風俗トラブルに関するご相談を、ご家族や勤務先に知られないことを前提としてお受けしています。連絡が来た段階でも、まだ取れる手段は残されています。


