痴漢・盗撮で後日逮捕されるのはなぜか|防犯カメラとICカード履歴

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

電車を降りたあと、あるいは施設を出たあとになって、「あのとき何も起きなかったのだから、もう終わったのだろうか」と考え続けている方がいます。一方で、身に覚えがないのに警察から連絡があり、なぜ自分が候補に挙がったのか分からないという方もいます。

 痴漢や盗撮は現行犯逮捕の印象が強い一方で、事件から日数が経ってから逮捕状を持った警察官が訪ねてくる「後日逮捕」も現実に起きています。ただ、その間に何が行われているのかは外からほとんど見えず、見えないまま時間だけが過ぎることが当事者には重い負担になります。

 この記事では、後日になって人物が特定されていく仕組みを、防犯カメラの映像と交通系ICカードの履歴を中心に整理します。扱うのは「どうすれば捜査を逃れられるか」ではなく、「いま何が動いている可能性があるのか」を把握して次の判断につなげるための情報です。行為者・被害者とも男女を問わない問題であり、記事全体を通じて性別は限定していません。

「後日逮捕」は法律上の何にあたるのか


現行犯逮捕と通常逮捕


 逮捕には大きく2つの類型があります。ひとつは犯行中または犯行直後にその場で行われる現行犯逮捕で、逮捕状が要らず、警察官以外の人でも逮捕できる場面があります。もうひとつが、裁判官の発付した逮捕状によって行われる通常逮捕です(刑事訴訟法199条)。「後日逮捕」と呼ばれているのはこの通常逮捕のことで、その場を離れたあとに令状を得たうえで執行されます。

 通常逮捕には2つの要件があります。「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」があることと、逃亡や証拠隠滅のおそれ、すなわち逮捕の必要性があることです。この2つは別のもので、疑いがあるというだけで自動的に逮捕状が出るわけではありません。

逮捕状には有効期間がある


 逮捕状の有効期間は、原則として発付の日から7日間とされています(刑事訴訟規則300条)。裁判官が相当と認めればこれより長い期間を定めることもできますが、通常の事件では長く放置される性質の書面ではありません。

 このことには実務的な意味があります。「逮捕状が出ている」段階と、「まだ照会や裏づけの途中である」段階とでは、時間の切迫度がまったく違うということです。後者の期間のほうがはるかに長く、しかも本人からは見えにくいという特徴があります。

なぜ現場で捕まらなくても人物が特定されるのか


特定は3つの段階に分かれている


 「防犯カメラで捕まる」という言い方は知られていますが、実際に1本の映像で人物が判明するわけではありません。多くの場合、次の段階を踏みます。

  1. 現場やその周辺に、その時間帯の記録が残る(映像、改札の通過記録、決済記録など)
  2. 記録どうしを突き合わせ、同一人物とみられる動きの線を引く
  3. その線の先にある記名情報(カードの名義、契約情報など)と結びつけ、匿名の人物像を実名に置き換える


 つまり後日逮捕は、決定的な証拠が1つ出てきた結果というより、別々の場所に残った断片をつなぎ、同一人物であることの確からしさを積み上げていく作業の結果として起きます。防犯カメラとICカードの履歴が繰り返し話題になるのは、この「つなぐ」工程で使いやすい記録だからです。

犯行の瞬間が写っていなくてもよい理由


 逮捕の段階で求められるのは有罪の証明ではなく、「疑うに足りる相当な理由」です。したがって行為そのものが映像に収まっていなくても、被害の申告や目撃者の話と移動の記録がかみ合えば、要件を満たすと判断される場合があります。

 もっとも、これは逆にも読めます。つないだ線が細ければ、その分だけ人違いが起きる余地も残るということです。この点は後段であらためて触れます。

防犯カメラが実際に果たしている役割


写っているのは「犯行」より「移動の連続性」


 駅構内、商業施設、通路、出入口、周辺の店舗や街頭など、人が通る場所には複数のカメラが置かれていることがあります。捜査では、犯行の瞬間そのものよりも、その前後にどこを通ったかという足取りが重視されることがあります。複数の映像を時系列に並べて同じ人物の移動として追う手法は「リレー捜査」と呼ばれます。

 ここでは服装、鞄、靴、歩き方といった外形的な特徴が手がかりになります。顔がはっきり写っていない映像でも、他の映像と組み合わせることで意味を持つ場合があるのはそのためです。

保存期間という時間の壁


 一方で、防犯カメラの映像は無期限に残るものではありません。多くの設備は一定期間で自動的に上書きされる運用になっており、その期間は設置者ごとに異なります。捜査機関が映像を確保できるかどうかは、被害の申告がどれだけ早く行われたかに左右される面があります。

 ただし、いったん取得された映像や記録は、その後は捜査書類として保管されます。「もとの機器の保存期間が過ぎたから証拠も消える」という関係にはありません。時間の経過で変わるのは、あくまで「これから取りに行けるかどうか」の部分です。

交通系ICカードの履歴は何を示すのか


履歴が示すのは「その改札を通った時刻」


 映像が「どんな人物か」を示すのに対し、ICカードの履歴は「いつ、どの改札を通ったか」という点の情報を示します。性質が違うため、組み合わせたときに意味が生まれます。映像の中で改札を通過した時刻と、その改札で記録された通過の時刻が一致すれば、映像に写っている匿名の人物と特定のカードとが結びつく可能性が出てきます。

 記名式のカードや定期券は氏名などの情報と結びついています。無記名式のカードにはその結びつきがありませんが、チャージや決済の方法によっては別の記録が残ることもあり、無記名なら履歴に意味がないということでもありません。

本人が確認できる範囲は限られている


 なお、自分の履歴を自分で確認できる範囲には制限があります。JR東日本のSuicaについて公表されている取扱いは次のとおりです。

確認の方法確認できる範囲備考
駅の自動券売機・チャージ専用機など直近26週以内・最大100件の印字26週間を超えた分などは印字できないことがある
JR東日本アプリ直近の利用分(表示件数に上限あり)カードをかざして残額と履歴を確認する方式
個人情報の開示請求受付日から過去1年以内記名式のみが対象。無記名式は対象外


 また、定期券区間内だけの入出場記録は履歴の印字に反映されず、開示請求によっても確認できないとされています。つまり、本人が自分で見られる範囲と、事業者が保有している情報の範囲は同じではありません。自分で履歴を確認して何も出てこなかったという事実だけで、記録が存在しないと判断することはできない、ということになります。

その情報はどのように警察に渡るのか


 防犯カメラの映像もICカードの履歴も、施設の管理者や鉄道事業者が保有している情報であり、警察が自由に閲覧できる状態にあるわけではありません。捜査で用いられる代表的な手続が捜査関係事項照会です。刑事訴訟法197条2項は、捜査について、公務所または公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができると定めています。

 この照会について、押さえておきたい点が2つあります。

  • 照会を受けた側は報告義務を負うと解されているが、その履行を強制する方法はないとされている(警察庁の通達でもこの点が示されています)
  • 照会は本人に通知されるものではないため、自分に関する情報が照会されていても本人は気づかないのが通常である


 1つ目からは、照会先の運用や情報の管理状況によって、返ってくる情報の細かさに差が生じ得ることが分かります。捜索差押許可状という別の手続がとられる場面もあります。

 2つ目は当事者にとって影響の大きい点です。何も連絡がないという状態は、捜査が動いていないことを意味しません

痴漢と盗撮では「特定のされ方」が違う


記録が残る行為かどうかという分かれ目


 同じ「後日逮捕」でも、痴漢と盗撮とでは捜査の組み立て方が異なります。最大の違いは、行為そのものの記録が残るかどうかです。

観点痴漢盗撮
行為そのものの記録残らないことが多い撮影データという形で残ることがある
捜査の出発点被害の申告、目撃者の話被害の申告のほか、機器の発見
中心になる作業同一人物性をつなぐ記録の積み上げ端末・記録媒体の解析と設置の経緯の解明
関わりやすい別の罪建造物侵入罪など
主な罪名迷惑防止条例違反、不同意わいせつ罪など撮影罪、迷惑防止条例違反など


 痴漢では行為の物的な痕跡が乏しいため、「その時間にその場所にいた同一人物である」ことを示す記録の積み重ねが中心になります。防犯カメラとICカードの履歴が強調されるのは、主にこの型を念頭に置いたものです。

 これに対し盗撮では、撮影されたデータそのものが残っている場合があり、端末の解析が中心になります。カメラを設置しておく型では、機器が発見された時点で捜査が始まるため、出発点が被害の申告ではなく物になります。設置や回収のために立ち入った態様によっては、建造物侵入罪が別に問題となることもあります。

統計にあらわれた発生場所の偏り


 警察庁が令和7年10月に公表した施設管理者向け資料によると、令和6年に性的姿態撮影罪で検挙された盗撮事案の発生場所は、商業施設が2,275件(36%)で最も多く、次いで駅構内が1,369件(22%)、住宅等が598件(9%)、学校が414件(7%)などとなっています。

 商業施設と駅構内で全体の半数を超えます。いずれも防犯カメラが設置され、入退場の記録が残りやすい場所です。「後日になって特定される」という現象が語られやすい背景には、こうした場所の偏りもあります。

 なお、警察庁「令和7年の犯罪情勢」によれば、性的姿態撮影等処罰法違反の認知件数は令和7年に9,962件(前年比18.1%増)とされています。

「時間が経ったから大丈夫」と言いにくい理由


記録の寿命と公訴時効は長さが違う


 防犯カメラの映像が上書きされるまでの期間は、多くの場合、日単位から週単位です。これに対して公訴時効は年単位で定められています。

問われ得る主な罪法定刑の例公訴時効
迷惑防止条例違反(痴漢・東京都の例)6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金3年
同上(常習の場合・東京都の例)1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金3年
撮影罪(性的姿態撮影等処罰法2条)3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金3年
性的影像記録の提供・送信等(同法3条2項、5条)5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金5年
不同意わいせつ罪(刑法176条)6月以上10年以下の拘禁刑12年
不同意性交等罪(刑法177条)5年以上の有期拘禁刑15年


 迷惑防止条例は都道府県ごとに規定と罰則が異なるため、上の表は東京都を例にしたものです。また被害者が犯罪行為の終了時に18歳未満であった場合、不同意わいせつ罪や不同意性交等罪では、18歳に達する日までの期間が時効期間に加算されます(刑事訴訟法250条4項)。

 この表からは、記録が残っているかどうかと、起訴できる期間が続いているかどうかは、別の時間軸で動いていることが分かります。映像が上書きされていても、その前に取得されていれば残りますし、他の証拠から捜査が進むこともあります。

数か月かかるのは、多くの場合「順番」の問題


 事件から逮捕までに数か月を要することがあるのは、証拠が新たに湧いてくるからというより、確認すべき作業に順番があるためです。映像の確保と解析、関係者からの事情聴取、事業者への照会と回答の待ち時間、他の事件との照合。並行して進む部分もあれば、一つの結果を待って次に進む部分もあります。その間、本人の生活には何の変化も現れません。連絡がないことを進展がないことと受け取ってしまいやすいのは、この構造によります。

心当たりがない人が候補に挙がることもある


 ここまで見てきたとおり、特定の作業は確からしさを積み上げるものです。積み上げた結果が高い確度に達することもあれば、そうでないこともあります。同じ時間帯に同じ車両を利用している、服装の系統が似ている、改札の通過時刻が近いといった事情は、その人が行為者であることを意味しませんが、絞り込みの過程では候補として浮かぶ材料になり得ます。実際に、身に覚えのないまま事情を聴かれる立場になる方はいます。

 したがって、警察から連絡があったことは、その時点で行為者と断定されたことを意味しません。この段階で避けたいのは、状況を早く終わらせたいという理由から、事実と違う内容をその場で認めてしまうことです。身に覚えがないのであれば早い段階から一貫してその旨を述べ、記憶があいまいな点は「はっきり覚えていない」と伝えるほうが、後々の説明と食い違いにくくなります。

逮捕されるか、在宅で進むかを分けるもの


 人物が特定されたとしても、そのまま逮捕されるとは限りません。逮捕状は、逃亡や罪証隠滅のおそれなどに照らして明らかに逮捕の必要がないと認められるときは発付されないとされています(刑事訴訟法199条2項ただし書、刑事訴訟規則143条の3)。

 実際、身柄を拘束せずに捜査が進む在宅事件として扱われることもあり、その場合は呼び出しを受けて出向き、取調べを受けたうえで帰宅するという形で手続が進みます。ただし在宅事件には処分までの法定の期限がなく、数か月から1年以上を要することもあります。連絡が途絶えても終わったとは限らない点は、身柄事件と共通しています。

 ここで一点はっきりさせておきたいことがあります。画像や履歴を消す、機器を処分する、連絡を絶つといった行動は、証拠隠滅や逃亡のおそれを裏づける事情として評価され得ます。逮捕の必要性を自ら作り出す方向に働くという意味で、結果を悪くしやすい対応です。削除したデータが技術的に復元されることもあります。

連絡が来る前・来た後にできること


 まだ何の連絡もない段階でできることは、不安のまま待ち続けることではありません。事実関係を整理し、どのような枠組みで扱われる可能性があるのかを把握しておくことです。心当たりがある場合には、自ら申告する(自首)という選択肢や、被害者の方への被害弁償・示談を検討する余地もあります。いずれも成立するかどうかや処分への影響は事案によって異なるため、進め方を含めて弁護士に相談したうえで判断されることをおすすめします。

 電話や訪問を受けた場合も、その場ですべてを決める必要はありません。日時の調整を求めることはできますし、話す内容について弁護士に相談してから応じることもできます。他方、連絡を無視して放置することは別のリスクを生みやすい対応です。

 相談の際には、次の点を整理しておくと見通しを立てやすくなります。

  • 日時と場所(駅名、路線、施設名、おおよその時刻)
  • その日の移動経路と、利用した交通手段・カードの種類
  • 相手方や周囲の人とのやり取りの有無とその内容
  • 警察から受けた連絡の内容(担当部署、担当者名、求められていること)
  • 手元に残っている書面(呼出状、通知など)の有無
  • 心当たりの有無と、争いたい点があるかどうか


まとめ


 痴漢・盗撮の事件で後日に人物が特定されるのは、決定的な証拠が突然現れるからではなく、防犯カメラの映像やICカードの履歴に代表される断片的な記録を、捜査関係事項照会などの手続を通じて集め、同一人物としてつないでいく作業が積み重ねられるためです。

 その作業は本人からは見えず、連絡がないことは進んでいないことと同じではありません。他方で、時間が経てば自動的に消えていくものでもなく、記録の寿命と公訴時効は別の時間軸で動いています。いま何も起きていないように見える期間は、選べる選択肢がまだ残っている期間でもあります。心当たりがある方も、身に覚えがないのに連絡を受けた方も、状況が動く前に一度、事実関係を整理して相談しておくことをご検討ください。当事務所では初回無料での相談を受け付けており、24時間の受付体制をとっています。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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