家族・身元保証人に請求が来た|どこまで払う義務があるか
警察や検察から「参考人として話を聞きたい」と連絡が来ることがあります。事件の目撃者や被害を受けた人として呼ばれる場合もあれば、自分にも心当たりのある事柄について聞かれる場合もあります。
参考人と被疑者は、刑事手続の中で別の扱いを受けます。ただしその違いは、呼び名が違うというだけのものではありません。どの条文に基づいて話を聞かれるのか、話した内容がどの書式でまとめられるのか、その書面が裁判でどう使われるのか、そして弁護人という制度がその人に届くのか。立場が入れ替わると、これらが同時に切り替わります。
そして切り替わりは、いつも「今日からあなたは被疑者です」と言葉で告げられるとは限りません。この記事では、参考人と被疑者が条文上どう違うのか、切り替わりが手続のどこに表れるのか、そのときに何が変わるのかを整理します。
この記事で扱う範囲
以下の点を順に確認していきます。
- 参考人と被疑者が、刑事訴訟法上どの条文で扱われているか。
- 「参考人には黙秘権がない」という説明がどこまで正確か。
- 参考人として出頭や供述を断った場合に何が起きるか。
- 立場の切り替わりが手続のどこに表れるか。
- 切り替わった時点で、それまで届かなかった何が届き始めるか。
事件そのものの見通しや、示談・処分の内容についてはここでは扱いません。
参考人は条文上どう位置づけられているか
刑事訴訟法は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者以外の者の出頭を求めてこれを取り調べることができる、と定めています。ここでいう「被疑者以外の者」が、実務で参考人と呼ばれている人です。事件を目撃した人、被害を受けた人、当事者の家族や勤務先の関係者、専門的な知識を持つ人などが含まれます。
これに対し被疑者については、別の条文が置かれています。捜査機関が犯罪の嫌疑をかけ、捜査の対象としている人が被疑者です。逮捕されているかどうかは関係がなく、在宅のまま捜査を受けている人も被疑者にあたります。
「重要参考人」は条文上の用語ではない
報道などで使われる「重要参考人」は、刑事訴訟法に出てくる言葉ではありません。参考人のうち、嫌疑がかかりつつあると捜査機関が見ている人を指す実務上・報道上の呼び方です。条文上の扱いは参考人と変わらず、被疑者としての手続に乗っているわけでもありません。言い換えると、重要参考人という中間の身分が法律で用意されているわけではなく、法律上はあくまで参考人か被疑者かのどちらかということになります。
立場が入れ替わると何が変わるのか
参考人と被疑者では、次の点が入れ替わります。
| 項目 | 参考人 | 被疑者 |
|---|---|---|
| 根拠となる条文 | 刑事訴訟法223条1項 | 刑事訴訟法198条1項 |
| 出頭と退去 | 拒むことができる | 逮捕・勾留中でなければ拒むことができる |
| 供述拒否権の告知 | 告知に関する規定は準用されていない | 取調べに先立ち告げられる |
| 作られる調書 | 参考人供述調書 | 被疑者供述調書 |
| 裁判での使われ方 | 被告人以外の者の供述として扱われる | 自分の不利益な事実の承認として扱われ得る |
| 弁護人の選任 | 制度としては予定されていない | いつでも選任でき、国選の対象になる場合もある |
このうち出頭と退去については、身体を拘束されていない被疑者であれば、参考人とほぼ同じ扱いです。差がはっきりと出るのは、告知・調書・弁護人の三つだといえます。
「参考人に黙秘権はない」という説明は正確か
参考人には黙秘権が認められていない、と説明されることがあります。しかしこれは、二つの別の事柄が混ざった言い方です。
刑事訴訟法は、被疑者を取り調べるときは、あらかじめ供述を拒むことができる旨を告げなければならないと定めています。参考人の取調べに関する条文は、被疑者の取調べの規定のうちいくつかを準用していますが、この告知に関する規定は準用の対象に入っていません。参考人に対しては、告知をしなければならないという法律上の決まりが置かれていない、ということです。
他方で憲法は、何人も自己に不利益な供述を強要されない、と定めています。ここでの主語は被疑者に限られていません。参考人として話を聞かれている人も、自分に不利益な供述を強要されない立場にあります。
整理すると、参考人について置かれていないのは告知の規定であって、供述を強要されないという保障そのものではありません。参考人の取調べは任意の手続ですから、答えたくない事柄に答えないままにすることも、途中で席を立つことも妨げられていません。
参考人として出頭や供述を断ったらどうなるか
参考人の取調べは任意の手続です。出頭を求められても応じる義務はなく、応じた後にいつでも退去できます。
断ったことがそのまま逮捕につながるわけではない
逮捕は、被疑者について、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由と逮捕の必要があるときに、裁判官の発する令状によって行われます。参考人は被疑者ではありませんので、参考人としての呼び出しを断ったこと自体が逮捕の理由になるわけではありません。
もっとも、断ったから何も起きないと言い切れるわけでもありません。捜査が進むうちに立場が参考人から被疑者に変わることはあり、その段階では逮捕の要否が改めて判断されます。「断ったかどうか」ではなく「どの立場にいるか」で場面が変わる、と考えるほうが実態に近いといえます。
法律が用意しているのは別のルート
参考人が出頭や供述を拒んだ場合について、刑事訴訟法は逮捕とは別の仕組みを置いています。捜査に欠くことのできない知識を有すると明らかに認められる人が出頭または供述を拒んだときに、検察官が裁判官に対してその人の証人尋問を請求できるという制度で、第1回の公判期日より前に限って認められています。
また、いったん任意に供述した人が、公判では前と異なる供述をするおそれがあり、その供述が犯罪の証明に欠くことができないと認められる場合にも、同じように第1回公判期日前の証人尋問を請求できる規定があります。いずれも請求できるのは検察官で、警察が直接請求することはできません。
この手続では、裁判官の前で宣誓したうえで尋問を受けることになります。取調べに応じるかどうかは任意であっても、証人として尋問を受ける段階に移れば、証言を求められる場面が出てきます。参考人としての聴取を断ることが、そのまま事件から離れられることを意味するとは限らない、ということです。
切り替わりは言葉で告げられるとは限らない
参考人として呼ばれた人が、途中から被疑者として扱われるようになることがあります。捜査の過程で、その人自身に嫌疑が向いた場合です。
このとき、「ここからは被疑者としてうかがいます」と説明されることもありますが、そうとは限りません。むしろ手続の外形の変化として表れることが多く、次のような点が目安になります。
- 取調べの前に、供述を拒むことができる旨を告げられた。
- 質問が「見聞きしたこと」から「あなた自身が何をしたか」に移った。
- 本籍や前科の有無、家族構成や生活状況など、事件の内容から離れた身上に関する事柄を詳しく聞かれた。
- 署名を求められた書面の表題や様式が、それまでのものと違っている。
- 所持品の任意提出、携帯電話の提出、身体からの資料の採取など、自分自身に向けられた処分への協力を求められた。
これらが一つあれば被疑者だと決まるわけではありません。ただ、供述を拒むことができる旨の告知は、被疑者の取調べについて法律が義務づけているものです。参考人として呼ばれたはずなのにこの告知がされたときは、扱いが変わっている可能性を考える材料になります。
質問の中身が変わるのはなぜか
背景には、作られる調書の書式が違うという事情があります。警察の捜査については、国家公安委員会規則である犯罪捜査規範が、供述調書に何を明らかにしておくべきかを定めています。
被疑者供述調書については、本籍・住居・職業・氏名・生年月日・年齢・出生地のほか、旧姓や通称、前科の有無とその内容など、細かい事項が並べられています。これに対し参考人供述調書については、捜査上必要な事項を明らかにするとともに被疑者との関係を記載する、という定め方です。
さらに、勾留の理由となるべき事情や、保釈が認められない理由となるべき事情があるときは、その状況を調書で明らかにしておくこととされています。つまり、身柄をどう扱うかの判断に使われる材料が、調書の中に書き込まれていく仕組みになっています。
身上に関する質問が急に細かくなったと感じたときは、作られようとしている書面が変わっているのかもしれない、という見方ができます。
被疑者になった時点で届き始めるもの
立場が変わることは、不利になる面ばかりではありません。参考人のうちは制度として用意されていなかった手当てが、被疑者になると動き始めます。
- いつでも弁護人を選任できる立場になり、家族などが独立して選任することもできる。
- 勾留された場合などには、資力の要件を満たせば国選弁護人の対象になる。
- 逮捕された場合には、犯罪事実の要旨を告げられ、弁解の機会が与えられる。
- 一定の重い事件では、取調べの録音・録画が行われる。
参考人として聴取を受けている段階では、これらは制度としては予定されていません。弁護士に相談すること自体は立場を問わずできますが、弁護人という地位に基づく手続は、被疑者になってから始まります。
切り替わった時点は誰が決めるのか
どの時点から被疑者になったのかは、後になって問題になることがあります。告知が必要だったのに行われていなかったのではないか、といった形で争われる場面があるためです。
裁判例の中には、捜査官が内心で嫌疑を抱いて取り調べたというだけでは足りず、その人の刑事責任の有無を決めるための手続を開始したと客観的に認められる時から被疑者になる、という趣旨を述べたものがあります。捜査機関がどう呼んでいるかという呼称ではなく、手続として何が始まっているかで判断する考え方です。
ただ、これは後から評価される話であり、聴取を受けている本人がその場で見極められるものではありません。そのため、自分がどちらの立場かを確定させようとするよりも、どちらであっても困らない対応をとるという発想のほうが、現実的な備えになります。
どちらの立場でも共通してできること
参考人の取調べには、被疑者の取調べに関する規定のいくつかが準用されています。準用されている範囲では、参考人も被疑者と同じ扱いです。
- 出頭を拒むこと、また出頭した後にいつでも退去すること。
- 作成された調書を閲覧し、または読み聞かせを受けること。
- 記載に誤りがあると考えるときに、内容の追加・削除・変更を申し立てること。
- 調書への署名押印を断ること。
調書は、署名押印がされてはじめて完成します。読み上げられた内容が自分の記憶と違うと感じたときに、その場で申し立てる余地は残されています。裏を返せば、参考人としての聴取であっても、署名押印をした書面は証拠として扱われ得るということでもあります。
受け止め方を誤りやすい3つの点
参考人なら話した内容は残らない
参考人の供述も調書にまとめられ、一定の要件のもとで裁判の証拠になります。被疑者の調書とは根拠となる条文が異なりますが、記録に残らない聴取ではありません。
断ると疑われるので応じるほかない
応じるかどうかは任意です。日程を改めてもらう、事前に用件を尋ねる、内容を確認したうえで返答すると伝えるといった中間の対応もあります。断るか全面的に応じるかの二択で考える必要はありません。
署名しないと帰れない
署名押印を断ることは、参考人にも被疑者にも認められています。署名を断ったことを理由に退去できなくなる仕組みは、法律上は置かれていません。
相談する時期
参考人として呼ばれた段階では、まだ相談するほどではないと感じる方もいます。ただ、次のような場合には、応じる前に一度整理しておくほうが判断しやすくなります。
- 聞かれる事柄の中に、自分自身の行為が含まれている。
- 事件の当事者と近い関係にあり、話す内容が自分の立場に跳ね返り得る。
- 何について聞かれるのか、事前の説明ではよく分からない。
- 過去に同じような事柄で警察から連絡を受けたことがある。
弁護士に相談することは、捜査への協力を拒むことと同じではありません。どこまでが記憶に基づいて答えられる範囲か、どこから先は確認が必要かを整理しておくことは、聴取に応じるうえでも役に立ちます。
まとめ
- 参考人は刑事訴訟法上「被疑者以外の者」として取調べの対象になる立場であり、「重要参考人」は条文上の用語ではない。
- 参考人と被疑者では、根拠条文・作られる調書・裁判での使われ方・弁護人という制度の有無が入れ替わる。
- 参考人について置かれていないのは供述拒否権の「告知」の規定であって、供述を強要されないという保障そのものは及ぶ。
- 参考人が出頭や供述を拒んだ場合に法律が用意しているのは、逮捕ではなく第1回公判期日前の証人尋問という別の仕組みである。
- 立場の切り替わりは言葉で告げられるとは限らず、告知の有無や質問の中身、書面の様式の変化として表れる。
- 被疑者になると、弁護人の選任や弁解の機会など、それまで制度として届かなかった手当てが動き始める。
参考人として呼ばれた段階で、自分がどちらの立場にいるかを本人が見極めることはできません。だからこそ、答えられることと答えにくいことを分けて整理しておくことが、どちらの立場であっても意味を持ちます。判断に迷う点があれば、聴取に応じる前に弁護士にご相談ください。


