逮捕されたら会社・学校に連絡はいく?勾留と身分への影響
盗撮を疑われて端末を提出した、あるいは押収された。自分では1件のつもりだったのに、取調べで聞かれる範囲が別の日、別の場所にまで広がっていく。そうしたご相談は少なくありません。
この記事では、1件として始まった事件で、なぜ端末の中身から捜査が広がるのか、そしてその広がり方にどのような法律上の枠があるのかを整理します。データを見つからないようにする方法や、追及をかわすための受け答えは扱いません。撮影された相手が実在するという前提を外さずに、手続の見取り図をお示しすることが目的です。
先に結論だけ述べておくと、捜査が広がるのには理由があり、同時に広がり方には枠があります。枠を知っておくことは、これから何を聞かれ、どこで何が決まるのかの見当をつけることにつながります。
「本件」と「余罪」は、どの段階の話かで意味が変わる
すでに手続が始まっている事件を「本件」、それ以外の行為を「余罪」と呼びます。ただ、同じ「余罪」という言葉でも、どの段階の話をしているかによって意味がまったく違います。
疑われている段階と、1つの事件として立てられた段階と、起訴された段階は別のものです。報道で「余罪を調べている」と伝えられていても、それが起訴を意味するわけではありません。
| 段階 | 何が起きているか | 判断するのは誰か |
|---|---|---|
| 端緒 | 通報・被害届・押収物の中の記録など、捜査のきっかけがある | 警察 |
| 嫌疑(疑い) | 特定の行為について、その人がやったのではないかと考えている | 警察・検察官 |
| 立件 | 1つの事件として立ち上げ、必要な証拠をそろえて検察官に送る | 警察 |
| 起訴・不起訴 | 裁判所に判断を求めるかどうかを決める | 検察官 |
「調べられている」と感じている状態の多くは、この表の上のほうにあります。そして、上のほうにあるものがそのまま下まで進むとは限りません。
なぜ1件の令状で端末の中身が調べられるのか
令状には「差し押さえるべき物」が書かれている
憲法35条は、捜索する場所と押収する物を明示した令状によらなければ、住居や所持品への侵入・捜索・押収を受けないと定めています。刑事訴訟法218条1項が令状による差押えや捜索を定め、219条1項は、令状に被疑者の氏名や罪名とともに「差し押さえるべき物」を記載すると定めています。
つまり、令状は1つの被疑事実を前提に出されるものです。ここまでは、多くの方が思い描くとおりだと思います。
中身を確認しないまま差し押さえられることがある
問題になるのは、大量の記録が入った機器の場合です。最高裁は、被疑事実に関する情報が記録されている蓋然性が認められ、その場で内容を確認していたのでは記録を破壊されるおそれがあるといった事情のもとで、フロッピーディスクなどを内容を確認しないまま差し押さえることが許されるとした事例があります(最高裁平成10年5月1日決定)。
これは、どのような場合でも端末をまるごと持ち去ってよいという意味ではなく、具体的な事情のもとでの判断です。ただ、スマートフォンのように膨大な記録が入った機器について、その場で1つずつ中身を確かめてから差し押さえるという進め方が現実的でない場面があることは、押さえておく必要があります。
解析は複写したデータに対して行われる
刑事訴訟法110条の2は、記録媒体を差し押さえる代わりに、記録を他の媒体へ複写したうえでその媒体を差し押さえる方法を定めています。実務では、端末そのものを預かったうえで、複写したデータを解析するという流れになることが多いとされています。押収された端末がいつ返るのか、どのような手続があるのかは、別の記事で扱っています。
結果として、1件のために出したはずの端末が、1件分だけを写した状態ではないという事態が起こります。
令状の事件と関係のない記録が出てきたとき
解析の過程で、令状に書かれた事件とは別の行為をうかがわせる記録が見つかることがあります。とはいえ、そのデータがそのまま別の事件の処理に直結するわけではありません。新たなきっかけとして受け止められ、あらためて必要な手続がとられていくことになります。
ここに時間差が生まれます。解析には時間がかかり、事案によっては数週間から数か月に及ぶこともあります。いったん釈放されたあとになって動きがあるのは、このためです。連絡がないまま日が過ぎている状態が、そのまま終わりを意味するとは限らない理由の一つが、ここにあります。
捜査が探しているのは、画像そのものではない
事件にするには「いつ・どこで・誰を」が要る
画像や動画が見つかったとしても、それだけで1つの事件を組み立てることはできません。行為の日時、場所、そして相手が誰かという3点が定まらなければ、どの法律が適用されるのか、時効の起算点はいつか、被害を受けた人に確認できるのか、といった判断ができないからです。
そのため取調べでは、画像の内容そのものよりも、いつ撮ったのか、どの建物か、どの部屋かといった問いが繰り返されます。撮影日時の記録や位置の情報、アプリの利用履歴が手がかりとして見られるのも同じ理由です。なお、端末の外側に残る記録については、別の記事で整理しています。
風俗の場面で起きやすいねじれ
風俗店の利用にかかわる場面では、この3点の埋まり方が独特です。相手は源氏名で、本名も連絡先も分からないことが多い一方、予約や決済の記録は利用した側の名義で残ります。店舗名と日時が分かれば、そこから相手にたどり着く余地があるということです。
他方で、店の側が事情を公にすることに消極的な場合もあり、そのまま届出がされないこともあります。同じ店を繰り返し利用していた場合や、複数の店をまたいでいる場合には、記録の重なり方が問題になりやすくなります。
「見つかった」と「立件された」は別
記録が見つかっても、日時や場所、相手を特定できないままであれば、立件に至らないことがあります。ここは多くの解説記事が触れている点です。
ただし、特定できないことがそのまま有利だと言い切れるわけではありません。相手が分からなければ、謝罪や被害弁償を申し入れる相手も分からないということになるからです。立件されなかった行為が処分にどう影響するかは、この記事の後半で触れます。
取調べで余罪について聞かれたとき
話さないこと自体は権利として認められている
憲法38条1項は、自己に不利益な供述を強要されないと定めています。刑事訴訟法198条2項は、取調べに先立って、供述を拒むことができる旨を告げなければならないと定めています。余罪について話さないという選択は、この枠の中のことです。
一方で、事実と違う説明をした場合、それ自体が直ちに犯罪になるわけではないとしても、あとから記録と食い違えば、供述全体の信用性という別の問題が生じます。話すか話さないかの判断は、弁護人と方針を決めてから臨むほうが、後から動かしにくい発言を残さずに済みます。
余罪を聞くこと自体にも枠がある
本件で身体を拘束されている間に、それ以外の行為について尋ねることが、直ちに違法になるわけではありません。最高裁は、ある事実で逮捕・勾留されている被疑者に対し、社会的な事実として密接に関連する別の事実について付随して取り調べても違法とはいえないとした事例があります(最高裁昭和52年8月9日決定)。
もっとも、身体の拘束が実質的には別の行為のための拘束になっていると見られる場合には、令状主義との関係で問題があるという議論があります。取調べの内容が本件からどんどん離れていくと感じたときに、その状況を弁護人に共有しておく意味は、ここにあります。
覚えていないことを断定しない
日時や場所は、記憶があいまいになりやすい部分です。確かめようのないことを「たぶんそうです」と答えると、その内容が調書として残り、後から訂正する負担が生じます。分からないことは分からないと述べるほうが、結果として説明の整合性を保てることがあります。
| よく聞かれること | 確かめようとしていること | 答える前に整理したいこと |
|---|---|---|
| これはいつ撮ったものか | 行為の時期。適用される法律や時効の前提になる | 記憶と記録が食い違っていないか |
| どこの建物か、どの部屋か | 場所の特定。建物への立入りが別に問題にならないか | 思い込みで場所を断定していないか |
| 相手は誰か、何回目の利用か | 相手の特定と、繰り返しの有無 | 覚えていない部分をどう伝えるか |
| ほかにも同じことをしたか | 余罪の有無と件数 | 弁護人と方針を決めたうえで臨めているか |
立件されなかった余罪は、処分にどう効くのか
立件されなかった行為でも、量刑の場面でまったく無関係になるわけではありません。ただし、ここには古くから枠が引かれています。
最高裁大法廷は、起訴されていない犯罪事実を余罪として認定し、実質上これを処罰する趣旨で量刑の資料として考慮し、そのために重く処罰することは許されないとしました。他方で、被告人の性格や経歴、動機や方法といった情状を推し量るための資料として考慮することは、禁じられるものではないとしています(最高裁昭和41年7月13日大法廷判決)。
この線引きは、形だけのものではありません。同じ最高裁大法廷は、起訴されていない窃盗について、行われた期間・回数・被害金額まで具体的に認定していた事案について、実質上処罰する趣旨で重い刑を科したものと認められるとして、違法としています(最高裁昭和42年7月5日大法廷判決)。
つまり、余罪の件数がそのまま刑に上乗せされていく、という仕組みにはなっていません。他方で、余罪が立件され起訴された場合には、複数の罪をまとめて処断する併合罪の枠組みに入り、刑の上限の考え方が変わります。この点は別の記事で扱っています。
1件が複数件として扱われるときの見え方
同じ事実について逮捕を繰り返すことは、原則として想定されていません。刑事訴訟法199条3項は、同一の犯罪事実について前に逮捕状の請求や発付があったときは、その旨を裁判所に通知しなければならないと定めており、この規定は、同じ事実の蒸し返しが当然には認められないことを前提にしていると理解されています。
一方、別の行為は別の事実ですから、そちらについて新たに手続がとられることがあります。身柄の拘束が続く、追加で書類が送られる、あとから起訴が追加される、といった形で、当初思い描いていたより手続が長くなることがあります。会社や家族への影響が読みにくくなるのは、この長さによるところが大きいと言えます。
今からできること、避けたいこと
できることは、隠すことではなく、把握することです。
- 思い出せる範囲で、時期・場所・状況を時系列に書き出す。正確でなくてよく、分からない部分は分からないと書く。
- 提出した書面や受け取った書類の控えを、手元にまとめておく。
- 連絡が来ている場合は、誰から、いつ、何を求められたかを記録しておく。
- 話す内容の方針は、取調べの前に弁護人と決めておく。
避けたいのは、データの削除や端末の初期化、周囲の人に頼んで操作してもらうことです。自分の事件の証拠を自分で消すこと自体が直ちに罪になるわけではありませんが、頼まれた側には別の問題が生じ得ますし、逮捕や勾留、処分を判断する各場面で考慮される事情になり得ます。この点は別の記事で詳しく扱っています。
相手に直接連絡を取ることも避けてください。謝罪の気持ちがあっても、当事者どうしのやり取りは受け止められ方が読めません。窓口を弁護人に一本化したほうが、話し合いは進めやすくなります。
まとめ
1件のつもりだった事件で余罪を問われる場面は、端末の中の記録から始まることが多くあります。ただ、そこには段階があり、それぞれに枠があります。
- 令状は1つの被疑事実を前提に出されるが、記録媒体は内容を確認しないまま差し押さえられることがある。
- 解析は複写したデータに対して行われ、結果が出るまでに時間がかかることがある。
- 記録が見つかることと、事件として立てられることは別で、日時・場所・相手の特定が必要になる。
- 立件されなかった行為を実質的に処罰する趣旨で重く量刑することは許されない、という枠がある。
- 話すかどうかの方針や、記憶があいまいな部分の伝え方は、事前に弁護人と決めておくほうが扱いやすい。
早く相談したからといって、望む結果が約束されるわけではありません。それでも、自分が今どの段階にいるのかが分かるだけで、次に何が起きるのかの見当はつけやすくなります。不安を抱えたままの時間が長くなる前に、一度ご相談ください。


