マナーうんちく話535≪五風十雨≫
●一年で最も寒い時が春になった。だから希望が持てる。
テレビ、ラジオ、新聞等の天気予報ですっかり常套句になっていますが、「暦の上では春になりましたが、冷たい風が・・・」というセリフを聞いたり、見たりする時節になりました。
日本人は世界でも稀な暦好きといわれていますが、では、一体全体なぜ、一年で最も寒い時期を春にしたのでしょうか。
かつては夜が一番長く、昼が一番短い「冬至」が一年の始まりと考えられていたようですが、この日を境に日毎に昼の時間が長くなるわけですから、頷けます。
しかし、日は長くなっても、気温はどんどん下がって寒さは募り、厳しさが増してきます。
だから寒さが最も厳しい時期を一年のスタートにして、この日を境に気温が上昇し、過ごしやすく感じるようにしたという説が有力です。
ただ最近の異常気象は年々異常さが増して、それまで比較的規則正しかった四季の移り変わりが、不規則になってしまいましたね。
●春は東風が連れてくる
ところで、昔の人は、季節はどのように巡ってくると考えていたのでしょうか?
飛行機も新幹線もない時代、季節は「風」が運んでくると思われていたようです。
ちなみに風は「東風」「西風」「南風」「北風」がありますが、東風が春を、西風が秋を、南風が夏を、北風が冬を運んでくると考えられていたようです。
そういえば、この時期に相応しい「東風吹かば にほひをこせよ 梅の花 あるじなしとて 春を忘るな」という、菅原道真の有名な歌がありますね。
さて春の語源は色々ありますが、「草木の芽が張る」が転じて「春」になった説が有力です。
すでに湧き水の小さな水辺には「クレソン」や「セリ」が一足早くお目見えしています。そして春告げ草である「梅」を始め、「サンシュ」「ユキヤナギ」「ボケ」などが順次、新芽を膨らませ、張ってきます。
●物であっても心を込めて扱う日本人らしい優しい気持ちが込められた「針供養」
話は変わりますが、最近は物が豊かで大変便利になり、洋服もほとんどの人が既製服を購入します。
しかし昔の生活はそうではありません。
一着の服も何度も縫い直していねいに使用します。
従って昔の女性にとって針仕事は、今と比較にならないほど、とても大事な仕事です。
2月8日は女性が裁縫技術の向上を目指して、折れたり、曲がった針をこんにゃくや豆腐にさして供養する「針供養」の日です。
なぜ豆腐やこんにゃくにさすのかというと、長年固い布地と悪戦苦闘してきた針に対し、最後位は柔らかい豆腐やこんにゃくに刺さって安らいでほしいという気持ちが込められているからです。
ITやAIでは考えられない日本人本来の文化ですね。
筆にせよ、人形にせよ、針にせよ、長い間愛用してきたものを、心を込めて供養してきたわけで、日本人の心の優しさが伝わってきそうです。
この気持ちを持続させることこそ、持続可能な社会の実現や、戦争撲滅に寄与できるのではないでしょうか。
改めて、日本人の宝物と言える「しきたり」を、日常生活に取り入れることの大切さを痛感します。
●建国を偲び、国を愛する心を養う日「建国記念の日」
2月11日は「建国記念の日」で、初代天皇の神武天皇が即位された日とされています。
日本国の創始者であり、初代天皇といわれている神武天皇から、現在まで126代にわたって受け継がれているわけですから、日本は本当にすごい国だと思います。
戦前は建国記念の日は「紀元節」と呼ばれ、学校でも儀式が始まったら「君が代」をうたっていたようです。
君が代は国歌ですから、めでたい日や祝日には歌いますが、戦前の義務教育では、君が代を歌う時のマナーも教えています。
また小学6年になると「祝祭日及び家例祭祀」についても教えているので、とても高度な教育が施されていたようですが、今は国旗や国歌に対する関わり方はとても限定的になっている気がします。
●陽気が温かくなり雪が雨に変わる「雨水」
2月18日は二十四節気の一つ「雨水」です。
少しずつ春めいて、今までの雪が雨に変わる縁起がいい日で、この日にお雛様を飾ると、娘が良縁に恵まれると言い伝えられてきた日です。
価値観や恋愛観や結婚観などが激変し、生涯未婚率が増加する現在ではなじみがすっかり薄れてきましたが、時代の流れでしょうか?
ただ日本は、婚外出生は依然として少ないので、結婚しない人が増えれば、少子化は進むばかりでしょう。
雨水の行事にせよ、雛飾りにせよ、子どもの日にせよ、日本には女子の幸せな結婚を望んだ素晴らしい文化が多数存在することを、多くの人に理解してもらえばいいですね。
●いやらしいイメージもある春
雨水を過ぎれば春の便りがあちらこちらから届くようになり、やがて百花繚乱の季節になり、花見のシーズンを迎えます。
寒くて厳しい冬から花咲く春になるということは、本当に楽しみなことですが、うららかな日差しのもと、小鳥がさえずり、赤や黄色の花が咲き乱れる春は、実はいやらしいイメージもあります。
江戸時代に多くのファンを有していた「春画」は男女の情交を描いた版画で、それを本の形にしたのが「春本」です。
また、女性が金目的で不特定多数の男性と関係を持つことを「売春」と言いますが、まさに春を売るわけです。
ではなぜ、夏や冬を売るのではなく、春を売るのでしょうか?
これは春に華やかな花を咲かせる「桜」と関係があります。
桜の花言葉は品種により異なりますが、日本の桜の代表品種である「ソメイヨシノ」の花言葉は「高貴な女性」「優雅な女性」「純潔」です。
つまり春を売るとは、美しい女性が純潔を捨てるということになります。
最後に厳しい寒さは当分続きそうですが、春の来ない冬はありません。
厳しい寒さの中にも、草木の芽が張る時期です。
わたしたちも、胸を張って、前向きに生きていきたいものですね。