マナーうんちく話2293《「いずれ菖蒲か杜若」。令和の今習いたい旧制高等女学校の高度な礼節教育》

平松幹夫

平松幹夫

テーマ:日常生活におけるマナー

●いずれ菖蒲か杜若
4月には百花の王様と呼ばれる「牡丹」が、そして5月になれば百花の女王「芍薬」が見頃を迎えますが、牡丹に芍薬とくれば「立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿はユリの花」という言葉が浮かんできます。

女性の立ち居振る舞いの美しさを、見事に表現した気品のある言葉だと思います。

日本では女性の美しさを花にたとえて褒め称えますが、ちょうどこの時期には牡丹や芍薬に続いて「あやめ」と「かきつばた」が見頃を迎えます。

「いずれあやめか かきつばた」という言葉も有名ですね。

「あやめ」と「かきつばた」はいずれも大変美しいのですが、見分けがつかないほどよく似ています。
従ってこの言葉は、二人の美しい女性を例えて使われます。

すらりとした紫の花の姿が、品のよさそうな美しい女性を連想させてくれますが、
たんに似た者同士ではなく、二人とも美しいということが条件です。 

●日本人女性の凛とした美しさ
ところで江戸末期から明治にかけ日本を訪れた外国人は、日本女性の貧しくとも凛とした振る舞いに感心したといわれています。

特に武家階級であった女性は幼いころから習い事や立ち居振る舞いなど、厳しくしつけられていたので、それが目に付いたのでしょう。

テレビドラマですっかり有名になった小泉セツさんもそうでしょう。
明治の半ばに雑誌記者としてアメリカから来日したラフカディオ・ハーンと結婚したセツさんの両親は、共に松江藩の士族ですから、幼いころから厳しく礼節教育を受けてきたことが容易に想像できます。

●家庭に重きを置いた旧制女学校のレベルの高い礼節教育
そして明治になってから昭和20年の敗戦を迎えるまでは、日本の学校では熱心に礼節教育を行っていました。

明治新政府の大きな功績の一つに学校教育の普及がありますが、全国各地に作られた尋常小学校・尋常高等小学校、国民学校等では教科として礼節教育がなされていました。

小学生でも高学年になればマナー教育を学校で受けるわけです。

さらに明治の後半になると、尋常高等小学校を卒業した女性でも中等教育が受けられるようになり、全国各地に「高等女学校」が設立され、数学、国語、物理などと同じように「女子礼法」の授業があり、科目としてのみならず、学校生活全般において礼節教育を受けたわけです。

またそこで教わる礼節教育は、単なるマナーではなく、徳育と結びついた人格教育であり、誠実で品位のある女性を育成することを目的としていました。

●レベルが高かった旧制女学校の礼節科目の内容
「女子礼法」でどんなことを教えたかといえば、先ず家庭や学校における心得に触れており、服装から他者に迷惑をかけないことなど、ごく常識的なことを説いています。

作法は「礼の仕方」についても詳しく触れ、最敬礼や敬礼の角度まで細かく分けています。

「姿勢」「歩き方」「座り方」「起立」「着席」をはじめ、言葉遣い等も厳しく教え込まれています。

和室における「膝行」「膝退」や「跪座」など、今ではほとんどの人が発揮することができない難しい振る舞いまで教わっています。
※《マナーうんちく話88「和室での基本的マナー」》を参考にしてください。

さらに神前での拝礼の仕方から玉串奉奠の手順、焼香の作法まで学んでいます。

戦前の高等女学校は誰でも通えたわけではなく、5人から10人に一人くらいの割合の女性が学んだわけですが、今の中学1年生から高校2年生くらいまでの女性が、このような高度な作法を学んでいたわけですから、たいしたものですね。

加えて《マナーうんちく話》でも触れていますが「国旗」や「国歌」をはじめ、「皇室」についても教わります。

勿論、食事の作法にも触れています。
食事に際、その都度感謝の気持ちを表し、秩序を正し、明るく、品よく食べることを説いています。

今は「スマホ見ながら飯」「テレビ見ながら飯」「新聞見ながら飯」が当たり前になっていますが、まだ物が豊かでなかった戦前では、食事と真摯に向き合うことの大切さを教えているわけで、飽食の国になった今の日本人が、最も見習うべき点だと痛感します。

また、日常生活において、家庭でこのような躾がなされていれば、数学や国語の成績には直結しなくとも、社会人になった時、さらに母親になった時にもすべての面で役に立つはずです。


このような高度な作法を学校で学んだわけですから、卒業する頃には「たてば芍薬、座れば牡丹、歩く姿はユリの花」に形容されるような、とても美しい振る舞いが自然に身についたのでしょうね。

これに生け花、茶道、裁縫なども加味され、当時の日本人女性は、世界の男性のあこがれの存在になれたのではないでしょうか。

ちなみに地域の教育委員会や新聞社等の後援を受け、私が主催する「生涯現役百歳大楽院」に長年通っていただいている受講生の一人に、旧制の「高等女学校」卒業生がいらっしゃいますが、白寿を過ぎた今でも大変凛とされ、いろいろなことを前向きに楽習されています。


●見習う点が多々ある旧制女学校の良妻賢母教育
戦前の高等女学校はいまの女子高のような存在でしたが、あくまで「良妻賢母」の育成に重きが置かれていたという点です。

つまり家庭向きの教育であり、女性を家庭に結びつける役目があったと思います。

この点が教師のように一定の職業や自立した市民を視野に入れた、欧米の女子教育とは異なっていたわけですね。


ただ、これらの礼法をしっかり学校教育の中で習得することは、日本人が本来有している様々な美徳を再認識することであり、日本人が祖国に誇りを持ちたいと思うようになると思います。


今では「良妻賢母教育」にはいろいろな批判もありますが、いくら時代が変わろうと子供にとって賢いお母さん像は大切だと考えます。

「良妻」に関しては「良夫」でもいいし、「良妻夫」でもよく、そこは家族の問題として夫婦で決めればいいのではないでしょうか。

最後に現在でも「良妻賢母教育」の名残は色々なところに根強く残っていますが、頭から批判するのではなく、見習う点は素直に見習い、さらにそこに潜むジェンダーの役割の概念をいかにするか?
みんなで知恵を出し合えばいいのではと思います?

加えて、AI全盛の今、「礼節教育」全般をどうするか、この点を真剣に考えていただきたいものです。

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平松幹夫
専門家

平松幹夫(マナー講師)

人づくり・まちづくり・未来づくりプロジェクト ハッピーライフ創造塾

「マルチマナー講師」と「生きがいづくりのプロ」という二本柱の講演で大活躍。「心の豊かさ」を理念に、実践に即応した講演・講座・コラムを通じ、感動・感激・喜びを提供。豊かでハッピーな人生に好転させます。

平松幹夫プロは山陽新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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