【親子問題】30代のひきこもりの子に、親が最初に声をかけるなら何から?

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

この記事は、30代でひきこもりの状態にある成人した子と同居している親御さんを想定しています。暴力や「死にたい」といった言葉がすでに出ている場合は、声かけの工夫よりも先に安全の確保が必要になるため、記事の後半で扱う順序をご確認ください。


子が30代になっても家から出ず、何年も会話らしい会話がない。何か言わなければと思うものの、何から話せばよいのか分からない。当事務所には、こうしたご相談が親御さんから寄せられます。

 声をかけるきっかけを探しているうちに月日が過ぎ、「今さら何と言えばいいのか」とためらいが強くなっていくこともあります。この記事では、30代のひきこもりの子に親が最初に声をかけるとき、どこから始め、どの順に話を進めるとよいのかを、法律上の位置づけも交えて整理します。

最初の声かけは「用件」ではなく「あいさつ」から

 久しぶりに声をかけるとき、親御さんはつい「これからどうするつもりなのか」「仕事は探しているのか」と、いちばん気になっていることから切り出したくなります。ただ、長く会話が途絶えている状態で最初に将来やお金の話をすると、子は「責められる」と受け止め、部屋に戻ってしまうことがあります。

 最初の一言は、「おはよう」「ご飯できているよ」「出かけてくるね」といった、返事を求めない日常のあいさつで十分です。返事がなくても、同じ調子で続けることに意味があります。声をかけるかどうか迷って黙っている時間が長くなると、子の側では「自分はいないほうがよいと思われている」と受け取ってしまうことがあるためです。

 30代になると、本人も自分の年齢や職歴の空白を意識し、焦りや親への申し訳なさを抱えている場合があります。最初の声かけの目的は、問題を解決することではなく、「家の中で言葉を交わしても大丈夫だ」という感覚を取り戻すことにあると考えると、話題を選びやすくなります。

最初の段階で避けたい話題


  • 就職・将来・結婚など、本人が答えに詰まりやすい話題。
  • 同級生やきょうだいと比べる言い方。
  • 「あのとき〜しなかったから」と過去をさかのぼって責める言い方。
  • 「このままでは家にいられなくなる」といった、期限や条件を突きつける言い方。


 これらの話題をずっと避け続けるという意味ではありません。後で触れるとおり、お金や今後の暮らしの話はいずれ避けて通れなくなります。大切なのは、関係が少し戻ってから順番に扱うことです。

声かけは段階を分けて進める

 声かけは、一度うまくいけば終わりというものではありません。次のように段階を分けて考えると、今どこにいるのかを親御さん自身が把握しやすくなります。

段階親からの声かけの例ねらい
日常のあいさつ「おはよう」「ご飯置いておくね」返事がなくても、言葉が行き交う状態に慣れてもらう
小さな頼みごと・相談「スマホの設定を見てくれる?」「電球を替えてもらえる?」家の中で役割を持ってもらい、感謝を伝える機会をつくる
家の中のルールやお金の話「家計の見通しを一度話しておきたい」親の収入や貯蓄の状況を、責める形ではなく事実として共有する
外部の支援の話「話を聞いてくれる人がいるらしい」家族以外の人とつながる選択肢を示す


 頼みごとは、本人が得意なこと、断っても角が立たないことを選ぶと受け入れられやすくなります。手伝ってくれたときは、出来の良し悪しではなく「助かった」と伝えることが、次の会話につながります。

 お金の話に進むときは、「いつまでに働け」と迫るのではなく、親の年金や貯蓄で、あと何年くらい今の暮らしを続けられるのかという事実を共有する形をとると、本人も自分のこととして考えやすくなります。見通しの立て方は【親子問題】「あと何年この状態が続くのか」を数字で見積もるで整理しています。

声をかける前に、親の側で決めておきたいこと

 声かけを始める前に、親御さんの側で方針をそろえておくと、話がぶれにくくなります。両親で考えが割れていると、子はどちらか一方の言葉だけを受け止め、もう一方を避けるようになることがあります。夫婦で意見が合わないときの整え方は【親子問題】夫婦で方針が割れる|一方の親が子をかばうときをご参照ください。

 また、親が子をどこまで支える義務を負うのかも、一度確認しておくと気持ちが整理しやすくなります。成人した子に対する親の扶養義務は、親自身の生活を維持したうえで余力がある範囲で求められるものと考えられており、親が自分の暮らしを削ってまで支え続けることまでは求められていません。詳しくは【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで解説しています。

最初から「家を出てほしい」と伝えないほうがよい理由

 親の持ち家に成人した子が住み続けている場合でも、親が鍵を替えたり荷物を外に出したりして、一方的に住まいを奪うことは、自力救済として問題になるおそれがあります。子に家を出てもらうことを考える場合も、話し合いを重ね、必要に応じて法的な手続をとるという順序が基本になります。

 そのため、最初の声かけで「出ていってほしい」と伝えると、関係がこじれるだけでなく、後の話し合いも進めにくくなることがあります。独立を目指す場合の流れは【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しと【親子問題】鍵を替える・締め出すことの可否|自力救済の限界で整理しています。

声かけが届かないときに、親が先にできること

 あいさつを続けても返事がない、部屋から出てこない状態が続くこともあります。その場合でも、本人が来なければ相談できないというわけではありません。ひきこもり地域支援センターや市区町村の窓口、保健所などでは、家族だけの相談を受け付けていることが多く、家族が相談先とつながることが最初の一歩になる場合もあります。


第三者に任せるときに確かめたいこと

 声かけに行き詰まると、「子を家から連れ出して自立させる」とうたう民間の業者に頼りたくなることがあります。しかし、本人の同意がないまま連れ出したり施設に入れたりする方法は、裁判で違法と判断された例もあり、親が依頼したことで正当化されるものではありません。契約の前に、担い手や解約の条件、本人の意思をどう扱うのかを確認しておくことが大切です。

 確認のポイントは【親子問題】民間の自立支援施設を選ぶ前に確認すべきこと|契約・担い手・解約・本人の意思と【親子問題】本人の同意なく連れ出すことが違法とされる理由|親の依頼では代わりにならないで解説しています。

声かけより先に動いたほうがよい場面

 次のような事情があるときは、声かけを工夫して様子を見るよりも、安全の確保や専門の窓口への相談を優先したほうがよい場合があります。

  • 声をかけたことをきっかけに、怒鳴る、物を壊す、手を上げるといった行動が出ている。
  • 「死ぬ」「消えたい」といった言葉が出ている。
  • お金を繰り返し要求される、親の預金が無断で引き出されている。
  • 何日も食事に手をつけず、部屋の中から物音もしない。


 暴力がある場合は、まず親御さんの身の安全と記録の確保が先になります。対応の順序は【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録、命に関わる言葉が出ている場合は【親子問題】「金を出さないと死ぬ」と子に言われた|命の問題と金銭の問題を分けて考える、安否が気がかりな場合は【親子問題】子が自室から出てこない|安否確認はどこまで許されるかをご覧ください。

当事務所がお手伝いできること

 親子の間で長く会話が途絶えていると、親がどれだけ言葉を選んでも、親子という近い関係そのものが話を難しくしていることがあります。当事務所では、弁護士が親御さんの代理人として子と向き合い、民間の自立支援カウンセラーが子の生活面の相談に乗るという形で、役割を分けて関わっています。

 弁護士が窓口に立つことで、親御さんが直接言いにくかったお金や住まいの話を、第三者から落ち着いて伝えることができます。一方で、子を孤立させても自立にはつながりにくいため、カウンセラーが住まい探しや仕事探し、日々の金銭管理などを継続して支えます。話をしていく中で、自分から家を出て暮らすことを考え始める方もいます。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。

よくあるご質問


声をかけても返事がありません。続けたほうがよいですか?

 返事がないことだけを理由にやめる必要はないと考えられます。返事を求めず、同じ時間帯に同じ調子でかけ続けることで、少しずつ反応が出てくることがあります。ただし、声をかけるたびに強い拒否や怒りが返ってくる場合は、頻度を下げたり、外部の相談先に状況を伝えたりして、進め方を見直すことも検討してください。

直接話すのが難しいので、手紙やLINEで伝えてもよいですか?

 顔を合わせるのが難しい段階では、短い手紙やメッセージも一つの方法です。その場合も、最初は将来やお金の話を避け、近況を伝える程度の短い内容にとどめると受け取ってもらいやすくなります。長文で思いを一度に伝えると、本人の負担が大きくなることがあります。

父親と母親、どちらが声をかけるほうがよいですか?

 決まった正解はなく、これまで子と比較的落ち着いて話せていた側から始めるのが現実的です。どちらが話す場合も、事前に夫婦で伝える内容をそろえておくことで、「父はこう言った、母はこう言った」と食い違うことを避けられます。

まとめ


  • 30代のひきこもりの子への最初の声かけは、将来やお金の話ではなく、返事を求めない日常のあいさつから始めるのが基本です。
  • 声かけは、あいさつ、小さな頼みごと、家計やルールの話、外部の支援の話と、段階を分けて進めると状況を把握しやすくなります。
  • 最初から「家を出てほしい」と伝えたり、鍵を替えたりすることは、関係を損ねるうえ法的にも問題になるおそれがあります。
  • 本人が応じなくても、家族だけで相談窓口とつながることはできます。
  • 暴力や命に関わる言葉、金銭の無断使用がある場合は、声かけよりも安全の確保と相談を優先してください。


 最初の一言が見つからないまま時間が過ぎていても、今日からあいさつを一つ増やすことはできます。それでも状況が動かないとき、家の中だけで抱え続けずに、第三者を交えた進め方を検討することも選択肢の一つです。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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