【親子問題】ひきこもりの子が部屋から出ず、食事だけ要求してくるときは?
成人した子と同居していると、親が知らないうちに家の壁へ穴を開けて棚を付けられていた、間仕切りを取り払われていた、部屋に防音材を貼られていた、といったご相談をいただくことがあります。「自分の家なのに、元に戻せと言ってよいのか」「工事にかかったお金を逆に請求されないか」と迷われる親御さんは少なくありません。
この記事では、子が親の家を親の承諾なく改造した場面を想定し、改造された部分は誰のものになるのか、元に戻させることはできるのか、費用はどう整理されるのかを、民法の考え方に沿って順にご説明します。
この記事は、2020年4月に施行された改正後の民法の条文を前提にしています。実際の結論は、家の名義、同居に至った経緯、改造の内容などによって変わります。
子が親の家を勝手に改造する、とはどんな場面か
ご相談で多いのは、子が自分の使いやすさを優先して、親に断らないまま手を加えてしまう場面です。親が気づいたときには工事が終わっていることも珍しくありません。
- 壁に穴を開けて棚やモニターを取り付けられていた。
- 押し入れや間仕切りの壁を取り払われていた。
- 部屋の床や壁紙を勝手に張り替えられていた。
- 窓をふさいで防音材を貼られていた。
- 子が自室に鍵を取り付け、親が入れなくなった。
- 庭や車庫を作業場のように作り替えられていた。
どれも「家族だから」という感覚で始まりやすい一方、親にとっては自分の財産に手を加えられたことになります。まずは、法律上どのような関係として整理されるのかを確認しておくと、話し合いの足場ができます。
改造された部分は誰のものになるのか
最初に整理したいのは、子が取り付けたものの持ち主です。民法では、建物にしっかり固定されて切り離せなくなった部分は、建物の所有者のものになると考えられています(民法242条)。壁に埋め込んだ配線や、張り替えた床材などがこれにあたることが多く、その場合は親の家の一部として扱われます。
これに対して、ねじを外せば取り外せる棚や、置いてあるだけの家具・家電は、子のものとして残ります。この区別は、後でご説明する「元に戻させる」「親が自分で撤去する」という場面で意味を持ちます。
親の家に子が住む関係は「使用貸借」として整理されることが多い
子が家賃を払わずに親の家に住んでいる場合、法律上は、物を無償で貸し借りする「使用貸借」の関係として整理されることが多いです(民法593条)。家賃に近い金額を毎月受け取っている場合は賃貸借と評価される可能性もあるため、お金のやり取りの実態は確認しておく必要があります。
使用貸借の借主には、契約や物の性質に沿った使い方をする義務があります(民法594条1項)。壁を壊す、間取りを変えるといった大きな変更は、通常の住まい方を超えるものとして、貸主である親の承諾が必要と考えられることが多いでしょう。借主がこれに反した使い方をした場合、貸主は契約を解除できるとされています(民法594条3項)。
もっとも、親子の間では書面の契約がないのが普通で、「前に話したときに反対されなかった」と子が言い出すこともあります。承諾があったかどうかが争いになりやすい点は、あらかじめ意識しておきたいところです。
元に戻させることはできるのか
使用貸借が終わるときの収去と原状回復
使用貸借が終わるとき、借主は自分が取り付けた物を取り外す義務を負います(民法599条1項)。ただし、建物から切り離せない物や、切り離すのに過分の費用がかかる物は除かれます。また、借りた後に生じた損傷については、借主の責めに帰さない事由によるものを除き、元の状態に戻す義務があります(民法599条3項)。
つまり、子が家を出るときには、取り付けた設備を外し、壊した部分を直すよう求めるのが基本の考え方になります。
子が住み続けている間はどうか
子が住み続けている間でも、親は所有者として、承諾していない工事をやめるよう求めることができると考えられます。ただ、すでに終わった工事を住みながら元に戻させるのは、実際には話し合いで合意できるかどうかにかかってくる場面が多いでしょう。
改造の程度が大きく、話し合いでも改まらない場合は、用法違反を理由に使用貸借を解除し、退去とあわせて原状回復を求めるという流れが考えられます。家から出てもらうこと自体については、【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しで詳しくご説明しています。
費用をめぐる2つの方向の請求
親から子へ、元に戻す費用を求める
承諾のない改造で家の価値が下がった、修理に費用がかかった、という場合は、子に損害の賠償を求めることが考えられます。注意したいのは期間で、借主の契約に反する使い方によって生じた損害の賠償は、貸主が家の返還を受けた時から1年以内に請求しなければならないとされています(民法600条1項)。子が家を出た後に請求を考えている場合は、早めに見積もりや記録をそろえておくことが大切です。
子から親へ、工事代を払えと言われる
反対に、子から「家の価値を上げたのだから工事代を払え」と言われることもあります。使用貸借では、家を維持するための通常の費用は借主の負担です(民法595条1項)。それ以外の、家の価値を高める費用(有益費)については、返還の時点で価値の増加が残っている場合に限り、支出した額か増加した額のどちらかを、貸主である親が選んで支払う仕組みになっています(民法595条2項、583条2項、196条2項)。
ただし、親の意向に反すると分かっていながら行った改造は、用法違反として扱われ、こうした費用の請求が認められにくい方向で考えられることがあります。承諾をしていなかったことを示すやり取りは、この点でも意味を持ちます。
改造が「壊された」に近い場合
改造というより、壁や建具を壊されたに近い状態であれば、器物損壊などの刑事上の問題として検討する余地もあります。親子の間でも、窃盗などとは異なり、物を壊す罪には刑を免除する特例は及ばないとされています。
一方で、被害届を出すかどうかは、その後の家族関係にも影響します。判断の目安は【親子問題】壁や家具を壊された|器物損壊として扱えるかと【親子問題】被害届を出すと家族関係はどうなるのか|出す前に考えることでご説明しています。改造をきっかけに暴力が出ている場合は、元に戻す話より先に、安全の確保を優先してください。
元に戻させる前に、親が整理しておきたいこと
話し合いを始める前に、次の点を整理しておくと、後の交渉や手続で迷いにくくなります。
| 確認すること | 見ておきたいポイント |
|---|---|
| 家の名義 | 親の単独名義か、配偶者や祖父母との共有か、ほかの家族の名義か |
| 承諾の有無 | 工事について話したことがあるか、反対したメッセージやメモが残っているか |
| 改造の内容 | どこを、いつ、どのように変えたか。工事前と工事後の写真 |
| 費用の出どころ | 子が自分で払ったのか、親のカードや口座が使われていないか |
| 建物の安全 | 構造にかかわる壁を抜いていないか、電気やガスの工事に資格のある業者が入っているか |
| 住まいの種類 | マンションの場合、管理規約で工事の届出や承認が求められていないか |
構造や設備にかかわる工事は、見た目では問題がなくても安全面の不安が残ることがあります。元に戻すかどうかとは別に、専門の業者に点検を依頼し、その見積もりや報告書を記録として残しておくとよいでしょう。マンションでは、規約に反した工事について管理組合から原状回復を求められる可能性もあるため、早めに確認しておくことをおすすめします。
話し合いの進め方と、まとまらないとき
親が直接「元に戻しなさい」と伝えると、子が強く反発して話が進まなくなることがあります。いきなり全部を元に戻すよう求めるのではなく、次のような選択肢を並べてみると、落としどころが見つかる場合もあります。
- 危険のある部分だけを先に直してもらうこと。
- 今は現状のままとし、家を出るときに元に戻す約束をすること。
- 元に戻す費用の負担割合を決めること。
- 取り外せる設備は子が持ち出し、それ以外は親が引き取ること。
まとまった内容は、口約束で終わらせず書面にしておくと、後で「言った・言わない」になりにくくなります。書き方の注意点は【親子問題】親子間で合意書を作る|約束を書面にする意味と限界をご覧ください。
話し合いが難しい場合は、家庭裁判所の調停で第三者を交えて話す方法や、原状回復や損害賠償、退去を求める訴訟といった法的手続も考えられます。なお、子のものとして残っている設備を親が勝手に外して処分すると、かえって親の側の責任が問われるおそれがあります。自分で動く前の注意点は【親子問題】鍵を替える・締め出すことの可否|自力救済の限界で触れています。
弁護士が親の代理人として子との窓口になると、親が直接やり取りする負担を減らしながら、話し合いを進められることがあります。詳しくは【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択をご覧ください。
よくあるご質問
子が自分のお金で改造した場合でも、元に戻させられますか
費用を誰が出したかと、家の持ち主が誰かは別の問題です。家が親の名義であれば、子が自分のお金で工事をしていても、承諾のない改造について元に戻すよう求めることは考えられます。ただし、親が工事を知りながら長く黙認していた場合などは、承諾があったと受け取られる可能性もあり、経緯によって判断が分かれます。
改造された部分を、親が自分で元に戻してもいいですか
建物と一体になって親のものになった部分を、親の費用で直すこと自体は、通常は問題になりにくいと考えられます。一方、取り外せる棚や機器など子のものとして残っている物を、親が勝手に外して捨てると、トラブルが大きくなるおそれがあります。外す前に、子に引き取りを求めるのが無難です。
子に工事代を払えと言われたら、払わなければいけませんか
すぐに応じる必要はありません。家の価値を高める費用であっても、請求できるのは返還の時点で価値の増加が残っている場合に限られ、承諾のない改造であれば認められにくい方向で考えられることがあります。請求の中身を確認したうえで、どう答えるかを検討してください。
関連する解説記事
子が親の家を勝手に改造した場合でも、家の名義、承諾の有無、改造の内容によって、元に戻させる方法や費用の整理は変わります。工事前後の写真やこれまでのやり取りを手元にそろえたうえで、どの順番で話を進めるかを一緒に考えることができます。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


